消費者だけが知らない不動産市場の不都合な真実

もしあなたが、これから家を買おうと思っているなら、「中古を買ってリノベーションする」ことを、まずは検討の選択肢に入れるようお薦めしたい。もしもあなたが私のプライベートな友人だったら、私は断然それをプッシュするだろう。

一般的に、中古住宅は新築よりも値段が安いだけでなく、資産価値の下落幅が小さいので経済的に賢い買い物だ。平均的な新築住宅は入居後すぐに10〜15%程度値落ちして、築20年に達する頃には、木造戸建て住宅なら建物の評価額は限りなくゼロになり(下図参照)、分譲マンションなら半値程度まで資産価値が下落する。逆に言うと、築20年を過ぎるとほとんど土地値として取引されるため、それ以降の価格下落幅は小さくなる。
仮に築20年の中古住宅を買って20年後に売却した時に建物評価額が完全にゼロになったとしても、新築を買って20年後に売却するのとは比べようもないほど資産価値のロスは僅かなものに留まる。これは戸建てでもマンションでも変わらない。

このことは住宅業界のプロなら誰でも知っている事実だ。仕事では新築住宅を売っている不動産や建築に携わるプロでも、自分の家は実は「中古を買ってリノベーションした」という人は思いのほか多い。熟練の不動産投資家なら、よほど条件のよい物件でなければ積極的に新築には投資しない。

これが消費者だけが知らない不動産市場の不都合な真実なのだ。

戸建住宅の残存価値率曲線(資料:国土交通省)戸建住宅の残存価値率曲線(資料:国土交通省)

中古という、自由なエリア選び

「中古を買ってリノベーションする」を選択肢に入れることで、あなたの住まいの自由は大きく広がる。中古住宅を選択することで浮かせた予算で、エリア選択や空間づくりにコストを回すことが出来るからだ。

当然のことながら新築分譲住宅は、事業者が土地を仕入れることが出来たエリアにしか供給がされない。一方、過去何十年間、毎年毎年日本中に建てられた住宅の中から売りに出されるのが中古住宅である。中古を視野に入れることで、エリアの選択肢は格段に広くなる。新築物件の供給が少ない人気エリアにも物件を見つけることが出来るかもしれないし、新築に比べて値段も安いので新築では手が届かない都心にも住めるかもしれない。

エリアに関してそういう選択をすることは、何年か後にも自宅を売ったり貸したりすることが容易ということであり、それはすなわち住宅購入が資産価値の面で安全な投資になるということを意味する。欧米では、「住宅を買うときにもっとも大事な3つのことは、”Location, Location, Location”(1にロケーション、2にロケーション、3にロケーション)」と言われるほど、ロケーション選びの重要性が広く認識されている。

(参考記事 「負債の住宅ではなく、資産の住宅を持とう」)
http://www.homes.co.jp/cont/press/opinion/opinion_00004/

リノベーションという、自由な空間づくり

(画像提供:株式会社ブルースタジオ)(画像提供:株式会社ブルースタジオ)

空間づくりについて言えば、例えば、壁という壁に本棚を巡らせて、大好きな本のコレクションに囲まれた図書館のような家や、お気に入りのカフェのような、ちょっとラフでゆるい時間が流れるダイニング・キッチンなど、不特定多数に向けられた新築分譲住宅では望むべくもない空間づくりは、リノベーションが得意とするところだ。

もちろん好きなエリアに土地を買って建築家に依頼すれば、あなたの思い入れとこだわりを反映した自分だけの家を建てることは出来る。しかし、それには相応の予算と資産価値のロスを覚悟しなければならない。リノベーションは、いわば中古住宅を使ったオーダーメイドの注文住宅だ。それは、新築よりも少ない予算で、好きなエリアにあなただけの家づくりを実現できる住まい選びの新しいアイデアなのである。

ちょっと想像してみて欲しい。
もしあなたが独身の一人暮らしかDINKSならば、むかしファミリー向けに建てられたマンションを広いワンルームに改造して、リゾートホテルのように贅沢なバスルームで東京タワー(スカイツリーでもいいです)を見ながら入浴するような都心ライフなんてどうだろう。もしファミリーなら、ほどよくエイジングされて味わいの出てきた庭付きの一戸建てを手に入れ、1階で小さな週末カフェを開いて庭の菜園で育てたハーブでハーブティを出すようなオーガニックな暮らしが出来れば、心も体も健康になりそうだ。
そんなふうに住まいの自由を広げることができるのが、中古住宅のリノベーションの魅力である。

リノベーションではもちろん、古くなったキッチンやバスルームなどの既存の設備機器は全て、世界中のメーカーから気に入ったモノを選んで刷新することができるし、トラブルが心配な配管などは全部取り替えできる。戸建てなら耐震補強をすれば新築と同じ安心を手に入れられるし、もしあなたがエコロジーな暮らしを望むなら、断熱性や気密性など省エネルギー性能を改善して、できるだけエネルギーを使わない家づくりをすることも出来る。

国も、住宅政策の柱として中古住宅市場の整備に力を入れてきていて、建物検査(インスペクション)やかし保険など、消費者が安心して中古住宅を選択できるための各種制度も充実してきている。

住まいの価値、リノベーションの本質

ところで、仕事柄か、「リノベーションとリフォームはどう違うの?」という質問をされることが多い。
専門的には「リフォームは原状回復のための修繕。リノベーションはその家の機能や価値の再生のための改修」と一応は区別できるものの、実はそこに厳密な境界線はない。私は「あまり気にすることはない」と答えるようにしている。例えば壁紙を1枚変えてみるだけでも、その家に対する気持ちが以前とはがらりと変わって、毎日の暮らしが楽しくなったり、その家のことが大好きになったりするのだったら、その人にとっては家の価値を再生したことになるだろう。

住宅の価値は、何も市場で取引される資産価値や、建築的性能や便利な最新設備ばかりではない。例えば、ボロボロになった古民家を家族みんなの手でコツコツと直して住めるようにすれば、その家は、たんに住むためのハコという以上に、家族の絆を象徴するかけがえのない存在、家族みんなが愛着を持つ場所になるに違いない。

今すでにそこにある住宅から、あなたにとっての価値を見出し再生させること。それがリノベーションの本質だ。

(画像提供:株式会社リビタ)(画像提供:株式会社リビタ)

ちゃんと住まい。家のハッピーを編集しよう。

大切なのは、本当にしたいのはどんな暮らしなのか、それを手に入れるために何にいくらお金をかけるのか、そういう大切なことをちゃんと考えることだ。自分にとって何は譲れなくて、何はそれほど重要でないか。あなたの住まい選びにおいて「新築であること」がどれほど重要な意味を持っているのか。先行きが不透明な時代に重い住宅ローンを組まなくても、中古住宅のリノベーションならあまり無理をすることなく夢のマイホームを手に入れることが出来る。「新築神話」という、いつの間にか誰かに信じ込まされた迷信のような既成概念を外してみれば、あなたの住まいはもっと自由になる。

街並みの一部としてそこに建っていた家が長い年月見守り続けてきた物語を読み解いてみよう。少し直せばまだ十分に使える家を安易に壊すのではなく、そのちょっと古ぼけた見た目の裏に眠っている可能性を見出してみよう。そうやって、より少ない予算でより多くのハッピーを引き出すように、家族みんなで知恵を出す、工夫をする、手を入れる。時には引き算の発想も必要だ。DIYで家づくりに参加してもよい。

言い換えるなら、家選び・家づくりはハッピーの編集作業だ。その家を自分にとってよりよい場所にするために、不動産の要素・建築の要素・インテリアの要素など、住まいに関わるあれやこれやの要素を、例えば洋服をコーディネートするようにひとつひとつ選んで、自分軸の暮らしと住まいを楽しんで欲しい。

そのプロセスは、不特定多数向けに作られた出来合いの家に暮らしを合わせるよりも、よっぽど知的でクリエイティブな協働作業で、あなたとあなたの家族をワクワクさせるに違いない。

2013年 09月19日 10時00分