新たな住宅セーフティネット制度の創設

空き家の存在が地域の課題になる一方で、高齢者や生活保護世帯など住宅の確保に困難を極める人がいる。
そこで、国は「新たな住宅セーフティネット制度」の創設等を内容とした、住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律を昨年10月25日に施行し、空き家と住宅確保要配慮者のマッチングがスムーズにできるようにした。主にその内容は、住宅確保要配慮者の入居を拒まない住宅を登録すると、その住宅の改修費や家賃、家賃債務保証料低廉化への補助を出すというものだ。

国交省は2020年度に17万5千戸の登録を目標にしているが、施行後約半年が経った時点での登録数は約1,000戸に過ぎず(セーフティネット情報提供システムによる)、大家も不動産会社も社会的弱者に対する住宅の提供についてはなかなか積極的になれていない状況がある。

物件を確保するのが難しい

そのなかで、住宅確保要配慮者への住宅斡旋に積極的に取り組む不動産会社がある。
しかし、彼らにヒアリングすると一様に返ってくることは、斡旋できる物件を確保するのがとても困難だということだ。そのための手段として、①室内センサーなどの機器と保険を活用して大家の心配事を解消したり ②自らのリスクで物件を借り上げたり、買い取って部屋を確保するという対応をしている。

東京都足立区のメイクホーム(株)(代表:石原幸一氏)は、年間で500人近くの高齢者や障がい者に住宅を提供しているが、高齢者には非常連絡用のボタンを持ってもらい、異常があった場合は本人がボタンを押すことで、緊急連絡先、同社、ホームヘルパーに連絡が入り、すぐに誰かがかけつけられる体制をとる。
また、入居者に身寄りがない方が多いことから、家賃保証会社や火災保険会社と交渉し、入居者が死亡した場合、家財の処分や状況に応じて特殊清掃費用や遺品整理費用が出る商品を開発している。さらに身内が全員他界されている方からの依頼もあり、賃貸契約時に必要な緊急連絡先になる団体(「緊急連絡先協会」)を立ち上げ、1人住まいの高齢者のサポートをしている。

緊急連絡先協会のホームページ緊急連絡先協会のホームページ

居住者のニーズはいくらでもある

神奈川県大和市の(有)MYJホーム(代表:宮路常幸氏)の場合は、トイレにセンサーを設置し、一定期間利用がなければ支援者に連絡が入るようにしている。さらに宮路社長は金融機関にいた強みを生かし、単身高齢者のために“入居から終活まで20のサービス”を提供している。公正遺言証書作成や家族信託、任意後見制度の紹介やエンディングノートの提供の他、葬儀生前契約支援や死後事務支援なども行うことで貸主、借主双方が安心できる仕組みにしている。

京都市中央区の上野不動産(代表:上野一郎氏)も、高齢者を中心に社会的な弱者に対して延べ1,000人以上に住宅を提供している。行政から依頼がある方を中心に入居先を探すが、物件確保が困難なために、大家の希望に応じて、“サブリース契約”や“専任で入居者募集を行った上に、その後の入居者管理まで行う契約”などを用意している。前者の場合は契約期間内の賃料下げ交渉は一切しない、賃料は一括前払いするなどを条件としてだし、後者の場合は2ヶ月内に成約できなければそれ以降は100%家賃保証をし、しかも入居期間中の家賃管理や入居者への対応も実施するなどの条件をだして大家の承諾を得る。

それだけ住宅を借りられずに困っている人が沢山いるという証左だ。

MYJホームが提供する20のサービスMYJホームが提供する20のサービス

投資家を集めて物件を確保する

このような仕組みや条件を用意しても様々な理由で住宅確保要配慮者に物件を貸してくれる大家はまだ少ない。

大阪市西成区の(有)トラックスホーム(代表:川田洋史氏)は逆転の発想で、物件を貸してくれる大家を見つけるのではなく、空き室だらけの古いアパートを改修し収益物件として投資家に買ってもらい、そこに生活保護者など社会的弱者を入居させる方法をとる。

この方法のおかげで、短期間で500室以上の部屋を確保することができた。ただこのようなやり方はともすれば貧困ビジネスと思われかねないので、同社ではサブリースをするのではなく客付仲介に徹している。

トラックスホームが管理を請け負っているホテル「HANARE」トラックスホームが管理を請け負っているホテル「HANARE」

高齢者の問題は大都市圏の課題だ

住宅確保要配慮者の中でも単身高齢者の住宅確保問題は、とかく地方の問題とされがちだが、実はこれからは三大都市圏の大きな課題となる。

国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、65歳以上の人口の増加率は、今から約20年後の2035年には2015年対比で、地方圏が△3%に対し、三大都市圏は+17%。さらに単身高齢者世帯数は、地方圏が+21%に対し、三大都市圏は+35%となる。しかも、三大都市圏の世帯数シェアは全体の59%を占めると推測されている。

住宅確保が困難な人に対して住宅を斡旋するということは、不動産会社にとって社会的な課題を解決するという使命を果たすことになると同時に、特に高齢者マーケットは今後ますます拡大する市場であり、そこには大きなビジネスチャンスがあるということを認識し、その視点からも積極的に取り組んでいくべきだと思う。


■紹介企業
・メイクホーム(株) http://makehome.jp/
・緊急連絡先協会 http://makenext.jp/
・(有)MYJホーム http://www.myj.co.jp/
・上野不動産 http://uenofudousan.jp.net/
・(有)トラックスホーム https://osakaguesthouse.jimdo.com/

高齢者の問題は大都市圏の課題だ

2018年 07月16日 11時00分