30年とか40年といった想定利用年数で、
かかる総費用が最も経済的になるように考える

住宅実務者が関与できるところは、経済性と健康・快適性であると思う住宅実務者が関与できるところは、経済性と健康・快適性であると思う

根本的な話になるが、住宅実務者はお施主様から受注を頂くことで生計を成り立たせている。ということは、そのお施主様を幸せにする、満足させる、ということが最優先であるはずだ。

その中で住宅実務者が関与できるところが、経済性と健康・快適性であると考えている。今までは経済性=工事費だと考えられていた。が、それはお施主様のためではなく自社のための言い訳であると断言したい。

本当にお施主様のことを考えるのであれば30年とか40年といった想定利用年数で、かかる総費用が最も経済的になるようにアドバイスしなければならない。しかしそうしようとすると、工事費の時点で他者に負けやすくなるか、もしくは手間のかかる説明が必要になる。これを避けるために工事費を安くしたがる、という理屈である。
健康・快適性に対して、適切な温度、湿度が重要なのは言うまでもないが、これを実現できている住宅会社、お施主様は日本では非常に少ない。

良質な住宅は、「賃貸か、購入か」より
「室内環境はどうなのか」が重要

金銭的なゆとりがある人だけが良質な住宅に住めば良い、というのは先進国日本においてはあるべき姿ではないと考えている。断熱に関する講演をしていると、「でもお金がなくても家が建てたい人は、たくさんいるんです」という声もよく聞く。
そこで私は次のように考えている。

1)その土地の次世代省エネ基準の天井、壁、床の断熱基準+実質U値1.7以下のサッシ
2)C値が最低でも2以下、理想的には1以下

という2項目を重視するというものである。キッチン等他の贅沢を全て我慢しても、この2項目が満たせないほど予算が厳しいのであれば、その方はそもそも戸建住宅には住むべきではない、というものである。

こう提唱するのには、理由がある。
今現在、ローコスト系の住宅会社でも次世代省エネ基準を謳う会社はかなり多くなっている。しかしながら、窓はU値4.65水準でおさえている会社が大半である。これをU値1.7(樹脂窓ペアガラス、アルゴンLow-E仕様)に変えるだけでQ値2.7から1.9くらいまで向上する。これで室内環境も健康の観点からも、大幅に改善する。
しかも120m2くらいの標準的な住宅であればそのコスト差は30万円程度に過ぎない。詳細は割愛するが、私の試算ではこの差は30年で270万の差につながる。現在ゆとりの無い方がさらに貧しくなっていくような、負の連鎖が続くような選択をするべきではない、ということである。

ということで、このわずか30万すら捻出するゆとりがないのであれば、南向きマンションの中間階中部屋、新築が難しいのであれば、中古を購入すれば良い。その際、可能であれば窓だけ内窓をつけるということも忘れないで欲しい。実際、最近のマンションデベロッパーの中には部屋の位置別による燃費表示をする会社も出てきている。

よく雑誌等でファイナンシャルプランナーによる「賃貸か、購入か」といった議論がなされている。
しかしながら、今回のような提案は未だ見たことがない。これは平均年収が下がり続けている日本においては非常に重要なことである。

統計元:国税庁 平成25年 民間給与実態統計調査結果統計元:国税庁 平成25年 民間給与実態統計調査結果

きちんとした断熱性をもった住宅が普及しなければ
“冷暖房のために働く人生になる”かもしれない

欧米であれば、戸建て、集合住宅、新築、既存住宅を問わず、きちんとした断熱性能を持った住宅がそれなりに普及している。しかし、日本では新築ですら、上記の条件を満たしている住宅は非常に少ない。ましてや既存住宅となればゼロに等しい。
しかしながら、南向きマンションの中間階中部屋だけは、断熱性能は低くても、隣家に囲まれていることで、窓さえ強化してあげれば、日本では珍しく良好な室内温度環境を維持できるのである。しかも、南側には必ずといっていいほどバルコニーがあり、これが夏の日射も遮蔽してくれる。

だが、この点に関しても問題はある。
非常に寒冷かつ平均年収が比較的低めの世帯が多い北東北以北ほど、マンション自体が非常に少ないという点である。このエリアでは何とか頑張って上記の項目を満たす住宅を建てる、それが不可能ならばそもそも温暖地に移住するなどしなければ“暖房のために働く人生になる”と言っても過言ではないと考えている。

住宅の質を左右する重要な6項目

1)その土地の次世代省エネ基準の天井、壁、床の断熱基準+実質U値1.7以下のサッシ
2)C値が最低でも2以下、理想的には1以下

の他に残りの4項目も示しておきたい。

3)冬の日射取得(南面からの日射取得)
4)夏の日射遮蔽(南面の庇、東西北面の窓の極小化、Low-E化)
5)給湯器の選択(太陽熱温水器+エコジョーズorエコキュート)
6)エアコンで冷暖房(エアコンが効く家にする。エアコンだけで冷暖房、除湿が完結)

である。

家計が苦しい世帯が住む住宅であればあるほど、これらの6項目は全て満たすようにすべきである。それが出来なければ、イニシャルが安くなっても結局、月々の支払は多くなってしまうからだ。

例えば、「エアコンは嫌いだから輻射型の暖房器具を使いたい」という要望もよく聞く。しかしながら、エアコン以外の器具を選択するということは、エアコンしか選択肢がない冷房器具にプラスして他の暖房器具を設置するということで設備の二重投資となる。また暖房器具は何を選んでもエアコンより光熱費が高くなるということも注意が必要である(※薪ストーブに関してのみ、薪が無料もしくは格安で入手できるのであればこの限りではない)
なお、輻射型暖房の上質な心地よさは筆者も十分に理解している。しかしながら、これらは6項目全て満たした上の次の段階の話であり、これは一種の贅沢というか嗜好といってもいいと考えている。参考のため、下図に暖房器具別単価を示す。

最初に示した「C値が最低でも2以下、理想的には1以下」という項目はこの「エアコンが効く住宅」ということにも密接に絡んでくる。C値が悪い住宅では、空気で冷暖房するエアコンは極めて効きが悪い。またそれ以前にC値が2を切っている住宅では、大半の住宅で採用されている3種換気で清浄な空気質を維持することが不可能である。これは健康リスクにも関わってくる項目なので、その意味でも重ねて重要な事項である。

一般的な住宅では給湯エネルギーが一番多くのエネルギーを使う。これは設計者による一瞬の選択ではあるが、機器が壊れるまでの10年から15年間の光熱費に大きく関わってくる超重要事項である。

暖房器具別単価暖房器具別単価

幸せに暮らすためのマイホームが負担にならないようにするために…

次に、どの住宅会社でも最もないがしろにされるのが、冬の日射取得・夏の日射遮蔽である。
筆者の感覚では暖かさの5割、涼しさの7割を占める最重要項目である。再三申し上げているが、南面の1間幅、高さ2m(3.3m2)の掃出しサッシ一箇所につき、晴れていれば、夏冬ともコタツ1台分の熱が出入りする。冬はこれを取り入れること=お金であり、夏は遮ること=お金である。

世帯年収が多くなればなるほど、これらを無視した住宅を設計してもお金(エネルギー)で補填することが可能となってくる。が、最低でも世帯年収が1,000万を超えない限りはこの6項目をひとつでも捨てるべきではないと筆者は考えている。ファイナンシャルプランに関する書籍を読むと、車関連費用、保険関連費用、携帯関連費用…こういった項目ばかりが、削減項目として出てくる。だが、今回ここに紹介した6項目の重要性を書いてあるメディアは今までどこにもなかったように思う。

平均的な家庭の車の走行は、13km/Lの車で年間1万kmくらいである。一次エネルギー換算だと27GJ消費していることになる。対して住宅は平均で75GJと約3倍も消費している。しかも、保険、車、携帯はどれも変更しようと思えば極めて短い期間で変更することができる。また、変更する度に確実に競争や技術革新によりコストが下がっていく項目でもある。しかし住宅は、前述した6項目を考えずに一度採用すると簡単には変えられない。ほとんどの人はその結果を40年以上引っ張ってしまう。
さらに例えば、断熱補強を後から施そうとした場合、新築時に行うよりも数倍のコストがかかってしまう。やはり新築時にきちんと行うことが望ましい。そう考えると、住宅関連経費を節約せずしてまともなファイナンシャルプランなど存在するはずがないことが分かる。更に追加すると、住宅購入に際して3世代で1回のローン負担の欧米に対して、日本では毎世代建替えによるローンを抱えている。

幸せに暮らすためのマイホームが負担にならないようにするためにも、住宅実務者も施主側もこれらの6項目のことを肝に命じておかなければならない。

「世帯当たりのエネルギー消費原単位と用途別エネルギー消費」</br>出典:経済産業省 資源エネルギー庁「「平成25年度エネルギーに関する年次報告」(エネルギー白書2014)より「世帯当たりのエネルギー消費原単位と用途別エネルギー消費」
出典:経済産業省 資源エネルギー庁「「平成25年度エネルギーに関する年次報告」(エネルギー白書2014)より

2015年 08月19日 11時03分