厳しい条件だからこそ、ここでしか建てられない家がある

蛍庵-別邸-の外観。「京都のミニマル」を意識して、和の落ち着いた雰囲気だ。設計・施工は「株式会社ゆずデザイン」(写真提供:きづき屋)蛍庵-別邸-の外観。「京都のミニマル」を意識して、和の落ち着いた雰囲気だ。設計・施工は「株式会社ゆずデザイン」(写真提供:きづき屋)

どのくらいの大きさの家が自分にちょうどいいのか、考えたことがあるだろうか。
家族構成、趣味、資金面……。住まいを決める時、考慮すべきことはいろいろとある。だが、“今”の自分にではなく、〝将来にわたって〟自分にちょうどいいのは?と思うと、どうだろう。子どもが成長して家を出て行った後、夫婦2人の暮らし。高齢になって車の運転をしなくなったときのこと。今でさえ、家の掃除や庭の草刈りに手を焼いているかもしれない。果たして、どのくらいが自分サイズなのか。ひょっとしたら、そんなに大きな家は必要ないかもしれない。そのことへの“気付き”を与えてくれるのが、「きづき屋」のモデルハウス「蛍庵-別邸-」だ。

敷地16坪、建蔽率50%、容積率80%。
家族で住む一戸建てを建てるには厳しい条件。ここに、蛍庵-別邸-は立つ。

この条件だからこそできることがあると、きづき屋の浅井一樹さんはこの土地を選んだ。「小さすぎて誰も買わなかったような土地です。だけど、この場所にもこんなに利用価値がある。その〝気付き〟を世の中へ発信しようと思いました」。浅井さんがここから発信しているのは「小さくて豊かな暮らし」だ。

小さいからこそ、細部を贅沢な仕様にできる

蛍庵-別邸-について、紹介しよう。

京都市東部に位置し、京都の中心部や大阪へもアクセスが良い山科区。近くの安祥寺川には夏になると蛍が飛び交う自然も残るエリアだ。どこのまちにもあるような、駅近くの住宅密集地に、蛍庵はある。

和風の門構えの引き戸を開けると、灯籠が置かれた坪庭とアプローチ。大きなガラスの向こうに、テーブルセットが配置された土間と畳敷きの居間が見える。いわゆる「玄関」はない。ガラス戸から中に入り、土間のソファに座ると、今度は庭やアプローチが窓の向こうの景色となる。見上げれば2階の一部は、吹き抜け。ガラスやフロアを隔ててはいるけれど、全体が1つの空間としてつながっている。小さな家だが、窮屈さや圧迫感は感じない。門の格子の隙間から通りの様子がほどよくうかがえて、地域ともつながっていられる。

そして、居間の奥にはキッチン、土間には庭を眺められる浴室が隣接していて、2階にも和室がひとつ。松や杉の無垢材といった自然素材を用いており、アイシネンという吹き付け断熱を採用。過ごしやすさにも配慮されて、心地よく、そして贅沢な空間だ。

「規模が小さいので、そこまでこだわれるんです。これが、30坪や40坪の家なら、そんなにこだわっていると、かなりお金がかかります。小さいからと言って、ここに人を招くのが恥ずかしいような造りではないでしょう。それに駅近の広い土地が経済的に無理でも、このくらいなら手が届くかもしれません」

右上から時計回りに、居間、エントランスから見た室内(ソファがあるのが土間)、土間とその隣にある浴室、2階の和室(写真提供:きづき屋)右上から時計回りに、居間、エントランスから見た室内(ソファがあるのが土間)、土間とその隣にある浴室、2階の和室(写真提供:きづき屋)

団塊ジュニアの心に響いた、自分にとっての〝ミニマル〟

「大きい家を建てることがステータスだった時代がありましたよね。ですが、時間が経って、使っていない部屋があったり、物があふれてしまっていたり。日々の生活が忙しくて、掃除や手入れが追いつかない。憧れだったはずなのに、大きな家に縛られて暮らしている……。そんなとき、本当はもっと小さな家でもいいんじゃないかと気付けば、もっと楽に、豊かに暮らせると思います」(浅井さん)。

家は人生と共にある。時間が経てば、住む人数が変わったり、状況が変化する。だが、家族全員で住むことを考えて広い家を購入する。そして、人数が減ってもそのまま住み続けることになる。これは自然の流れだろう。そこに一石を投じているのが蛍庵-別邸-の、「小さくて、豊かな暮らし」なのだ。この発想は大きな反響を呼んでいる。2018年4月下旬に完成し、5月のゴールデンウィークから告知をはじめたところ、およそ2カ月で、200人もが見学に訪れた。

「多いのは団塊ジュニア世代の方たちです。今はわりと大きい家に、1人もしくは2人で住んでいるけれど、駅からは遠い。今後のことを考えると、駅の近くに引っ越したいと思うが、マンションはちょっと抵抗があるという方。若い世代でも、子どもが出て行ったあとを考えながら家を探している夫婦もいらっしゃいますよ」

蛍庵-別邸-を見学に来て、同じような小さな家を建てる必要はない。蛍庵-別邸-は、あくまでひとつの例であって、「ちょうどいいサイズ」について考える気付きになればいいのだ。蛍庵-別邸-を出発点にすることで、〝ミニマル〟、自分にとっての必要最小限ということに目が向き、家の大きさを決める手助けになるだろう。実際に成約に至ったケースでは、蛍庵-別邸-の間取りにもう1部屋追加をしたり、もっと大きな家を建てることになったりもしているそうだ。

蛍庵‐別邸-の間取り図(画像提供:きづき屋)蛍庵‐別邸-の間取り図(画像提供:きづき屋)

〝当たり前〟をリセットすれば、新しい発想が生まれる

きづき屋の浅井さん。今後も自由な発想で、豊かな暮らしの提案を続ける〝きづき人〟でありたいというきづき屋の浅井さん。今後も自由な発想で、豊かな暮らしの提案を続ける〝きづき人〟でありたいという

きづき屋を運営しているのは「株式会社アド・リビング」という不動産関係の販促ツールを手掛ける広告会社だ。浅井さんもデザイナーとして、たくさんの不動産会社、設計事務所、工務店などの仕事を担当してきた。そうして不動産関係の情報に触れてきたことが、このきづき屋を立ち上げるきっかけになっているのだが、外側から業界を見てきたことが、いい発想を生んでいるともいう。

「この不動産をどうやって利益につなげるか、と考えたら、蛍庵-別邸-の土地は確かに厳しい条件なんです。だけど、いろいろな会社のいろいろな価値観に触れてきたことで、発想の転換ができたと思います。ネガティブをポジティブに変えるにはどうしたらいいか。今は、〝断捨離〟や〝ミニマリスト〟といったような、モノを持たないことが注目される時代。人間ってそんなにモノを持たなくてもいいんじゃないかって考えたら、そもそも、そんなに大きな家に暮らす必要があるのかなって。そうしたら狭い土地でもこんなふうに利用することができると気づいたんです。掃除も楽ですし、モノを置きたくないので、何かを買うにしてもかなり厳選しますよ(笑)」

今後はこの蛍庵-別邸-のような狭小地を利用した小さな家以外にも、〝ネガティブをポジティブ変える〟さまざまな暮らしの提案を企画しているという。「万人に受けるものでなくてもいい。誰かに届いてくれたら。いろいろな気付きを発信して、不動産流通を変えていきたい」。今まで敬遠されがちだった条件の土地が、自由な発想で活用され、新しい価値を生む。当たり前を大胆に見直す、〝気付き〟が、暮らしを豊かにしてくれるのだ。

2018年 08月31日 11時05分