若い世代の飼い主は減少傾向、しかし70代のペット飼育率は変わらず

2018年12月、一般社団法人ペットフード協会が発表した『全国犬猫飼育実態調査』によると、犬の飼育頭数は890万3000頭、猫の飼育頭数は964万9000頭となっており、前回調査と比べて犬の飼育率が減少傾向にあることがわかった。

また、飼い主の年代別飼育状況を見てみると、20代から60代の飼い主がこの5年間で減少しているのに対し、70代の飼い主だけは飼育率が変わらず維持されているという。この点から、シニア世代とペットの「切り離し難い関係」が見えてくる。

では、シニア世代がペット飼育を継続する場合、または、やむをえず飼育を“卒業”しなくてはならなくなった場合、消費者としての視点ではどのようなことに気をつけたら良いのだろうか?

東京都消費生活総合センターで2019年2月に開催された講座『シニア世代に向けたペットと健やかに暮らすヒント』に参加し、講座終了後に講師の須黒真寿美さん(全国消費生活相談員協会 消費者問題研究所副所長)に近年目立つトラブル事例について話を聞いた。
※本記事は『シニア世代に向けたペットと健やかに暮らすヒント』講座の内容と講座終了後に須黒さんからお聞きしたインタビュー内容に基づいて構成したもので、講座内容について紹介するものではありません。

▲2019年2月に開催された消費生活講座『シニア世代に向けたペットと健やかに暮らすヒント~出会いから別れまで~』の会場。近年、消費生活センターに寄せられているペットに関するトラブル事例や訴訟に関する裁判例などが具体的に紹介され、参加者は熱心にメモを取っていた▲2019年2月に開催された消費生活講座『シニア世代に向けたペットと健やかに暮らすヒント~出会いから別れまで~』の会場。近年、消費生活センターに寄せられているペットに関するトラブル事例や訴訟に関する裁判例などが具体的に紹介され、参加者は熱心にメモを取っていた

強引なペット販売が目立つ。ペットは法律では「モノ」であるため解決が困難

▲公益社団法人 全国消費生活相談員協会会員で、消費生活専門相談員の須黒真寿美さん。相談員として動物愛護協会の「ペット110番」の仕事に携わったことをきっかけに、ペットに関わる消費者問題に詳しい消費生活相談員として省庁職員や動物取扱業者向けの講演活動を全国で行っている。<br />「私自身もペットを飼っていますから、相談を受けると飼い主さんの気持ちがよくわかるのですが、ペット販売に係るトラブルは、販売店側からの交換や解約など法律上は問題のない提案であっても、ペットへの愛情があるため解決が難しいトラブルです。また、飼い主さん側の問題として、多頭飼いやしつけ不足で近隣に迷惑をかけ裁判にまでなっているケースもあります」と須黒さん▲公益社団法人 全国消費生活相談員協会会員で、消費生活専門相談員の須黒真寿美さん。相談員として動物愛護協会の「ペット110番」の仕事に携わったことをきっかけに、ペットに関わる消費者問題に詳しい消費生活相談員として省庁職員や動物取扱業者向けの講演活動を全国で行っている。
「私自身もペットを飼っていますから、相談を受けると飼い主さんの気持ちがよくわかるのですが、ペット販売に係るトラブルは、販売店側からの交換や解約など法律上は問題のない提案であっても、ペットへの愛情があるため解決が難しいトラブルです。また、飼い主さん側の問題として、多頭飼いやしつけ不足で近隣に迷惑をかけ裁判にまでなっているケースもあります」と須黒さん

「今回の講座のタイトルは“シニア世代に向けたペットと健やかに暮らすヒント”としましたが、実はこれはシニア世代に限ったことではありません。ペットと関わるすべての方に共通して知っていただきたい内容を講座の中でご紹介します」と須黒さん。

須黒さんによると、最近のペット販売に関する相談の中で目立つのは「ペット販売業者(動物取扱業者)からの強引なセールスによるトラブル」だという。

「実はここ数年、ペットの飼育頭数は猫は横ばい、犬は減少傾向にあります(一般社団法人ペットフード協会『平成30年全国犬猫飼育実態調査結果』より)。日本国内の人口減少や飼い主の高齢化によってペットを飼える人の数が少なくなってきたこと。そして、医療技術の向上によりペットが長生きするようになったことが背景にあるのではないかと考えられます。

しかし、ペットショップによっては、飼い続けることが困難と思われる一人暮らしの若い人に“抱かせる”などして販売しているケースがあります」(以下、「」内は須黒さん談)

ペットというのは法律上では「有体物」つまり「モノ」として扱われている。しかし、実際には命ある個体であるため、家電製品等を購入・交換・返品するのとは違って一度個体に接してしまうと「愛情」が湧いてしまう。ペットが“家族以上に家族的な存在”となれば、トラブルに巻き込まれてしまったときのダメージも大きい。

「例えば“このコはおとなしいからペット飼育不可の集合住宅でもバレませんよ”などのセールストークに押されて断りきれずマンションの管理組合や家主とトラブルになったり、ペットを購入した後に先天的または後天的な異常が見つかったとしても、その頃にはすでにわが子同然にペットへの愛情が深まっているため返品できず、莫大な治療費を抱えてしまう等の相談があります。

購入したペットに病気などがあった場合、販売店側からは解約・交換などが提案がされることがありますが、飼い主にとっては一度飼ってしまうと“うちの子”になるため、解決が難しいのです。消費生活センターでは両者から話を聞き、相談者(消費者)には法律上の説明をして、話し合いで合意点を見つけるよう促します。相談はそれぞれに事情が異なるので、合意点もそれぞれに異なります」

新規参入が増えているペットサービス業に関する相談は増加傾向

▲犬の平均寿命は14.29歳、猫の平均寿命は15.32歳。「シニア世代の飼い主がペットを飼い続ける場合は、ペットの寿命までちゃんと責任を持って飼育することができるかどうか?について、飼い主本人だけでなくご家族も一緒に考え、話し合ってほしい」と須黒さん。※写真はイメージ▲犬の平均寿命は14.29歳、猫の平均寿命は15.32歳。「シニア世代の飼い主がペットを飼い続ける場合は、ペットの寿命までちゃんと責任を持って飼育することができるかどうか?について、飼い主本人だけでなくご家族も一緒に考え、話し合ってほしい」と須黒さん。※写真はイメージ

また、比較的新しい事業形態であることからここ数年で相談件数が増加しているのが、ペットホテルやペットシッターをはじめとする『ペットサービス業』に関するトラブルだという。

「特にシニア世代の飼い主さんの場合は“脚が痛くて散歩に行けない。入院することになったのでペットを預けなくてはいけない。ペットの介護が必要になったが自分も体調が悪くて介護に対応できない”などの困りごとに直面するケースが出てきます。そういうときには、ペットシッターやペットホテル、老犬老猫ホームなどのサービスを利用すると良いでしょう。

ただ、この分野はまだ未成熟なので、事前に施設を見学する、サービス内容や価格を確認するなどして、納得できる事業者を選択することが大切です。

ペットサービス業自体が増加傾向にあるため相談も増加傾向となっており、具体的には『トリミング中の事故でペットが死んでしまった』『ホテルに預けたら他の犬に噛まれて大ケガを負ってしまった』『ペットトレーナーの訓練中に事故が起きてしまった』『老犬ホームに愛犬を預けたが契約金の内容がよくわからない』『ペットの治療費として高額を請求された』などの相談が寄せられています」

ペットサービス業は発展途上、契約前でも良いので相談を

前述のようなサービス提供に関するトラブルというのは飼い主側では防ぎにくいものではあるが、最低限の予防策としてまずは『ペットサービス事業者の登録の有無を確認し、信頼できる事業者を選ぶこと(ペット事業者には販売も含めて動物取扱業の登録・掲示が義務付けられているほか、購入者に対しては対面で18項目の事前説明を行うことになっている)』。『契約書には安易にサインをせずに、万一のトラブル時の責任の所在や料金・サービス内容を確認してから契約を行うこと』など、消費契約における基本事項を徹底することが大原則だという。

ブリーダー紹介サイトがあるが、ペットは必ず現物を見て購入すること。また、ペットのためのスイーツショップ、ファッションブティック、マッサージ店など新規業態も登場しているため、新しいジャンルが増えればその分想定外のトラブルが発生することも予測しておかなくてはいけない。

「実際にトラブルになった場合はもちろんのこと、実際にトラブルになる前であっても、契約に関わることであれば地元の消費生活センターへ気軽に相談してください。消費生活センターで受けた相談は、情報として市民の方々への注意喚起に活用し、中には法の改正につながることもあります。また、環境省や事業者団体へもデータとして伝えることで改善につながります。ぜひ、消費生活センターを利用してください。守秘義務がありますので周囲に知られることはなく、無料で相談できます」(講座終了後のインタビューにて、須黒さん談)

▲相談窓口となるのは、各自治体の『消費生活センター』や『動物愛護相談センター』など。消費生活センターでは契約トラブルに関する相談の受付。動物愛護相談センターではペット飼育に関する悩み事へのアドバイスのほか、飼い主の高齢化等の事情によりどうしてもペット飼育が困難になった場合に、協力を依頼できるボランティア団体の紹介も行っている▲相談窓口となるのは、各自治体の『消費生活センター』や『動物愛護相談センター』など。消費生活センターでは契約トラブルに関する相談の受付。動物愛護相談センターではペット飼育に関する悩み事へのアドバイスのほか、飼い主の高齢化等の事情によりどうしてもペット飼育が困難になった場合に、協力を依頼できるボランティア団体の紹介も行っている

高齢者のペット飼育の継続については『家族の理解』が不可欠

▲飯田橋にある『東京都消費生活総合センター』。毎週月曜から土曜の午前9時~午後5時まで(祝日・年末年始はお休み)相談受付を行っている 。※消費者ホットラインは局番なしの『188』で受付▲飯田橋にある『東京都消費生活総合センター』。毎週月曜から土曜の午前9時~午後5時まで(祝日・年末年始はお休み)相談受付を行っている 。※消費者ホットラインは局番なしの『188』で受付

最後に今回の講座のまとめとして参加者へ伝えられた『飼い主に必要な10の条件』をご紹介しよう。

①家族全員が動物好きであること
②世話をする時間と体力があること
③ペットを飼える住宅に住んでいること
④動物アレルギーがないこと
⑤引越しや転勤の予定がないこと
⑥毎日の世話を10年以上継続できること
⑦経済的な負担をまかなえること
⑧基本的なしつけと周囲への配慮ができること
⑨ペットが高齢になっても最後まで介護する気持ちがあること
⑩やむなく飼えなくなった場合の引き受け先があること
※『飼い主に必要な10の条件』は(財)日本動物愛護協会が作成したもの。

いかがだろう?シニア世代の飼い主でなくても、この10か条をすべてクリアした上でペット飼育を行っているご家庭は意外に少ないのではないだろうか。

「今の高齢者は“ペットのいる暮らし”に慣れている世代。ペットの存在そのものが生きがいであり、ペットのお世話をすることで頑張ろうという気持ちも生まれてきます。そのため、飼うと決めたら最後まで飼うために家族や周囲の理解を得ることと、もしもの場合に引き取ってくれる人へ依頼をしておくなどの準備が必要と考えています。

また、自宅での飼育にこだわるのではなく、猫カフェなどのコミュニティスペースを利用したり、アニマルセラピーを活用することで動物と触れ合う時間を作ることもできますから、様々な選択肢を検討した上で『ペットの飼育』と向き合ってほしいと思います」(講座終了後のインタビューにて、須黒さん談)

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実は筆者の実家でも、80歳の父が長年飼っていた愛猫を亡くしてペットロス状態になり、先代猫にそっくりな子猫を新たに迎え入れたばかり。幸い父は元気を取り戻したが、猫の平均寿命を考えるとこの先約15年、父自身がすべての面倒を見るのは難しいと思われるため、万一のときには“引き取り”を覚悟している。

ペットの存在が私たちの日々の暮らしに与えてくれる幸福感はとてつもなく大きい。同時に、終世飼養という“ペット自身の幸せな生涯”を考えながら飼育を行うことは、飼い主としての責務でもある。この機会に5年後・10年後を見据えた『ペットとの暮らし方』について家族で話し合ってみたい。

■取材協力/東京都消費生活総合センター
https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.jp/sodan/sodan.html

2019年 05月07日 11時05分