2002年グッドデザイン賞 金賞を受賞した実力

建築家 故増沢洵氏の「最小限住宅」をリメイクした9坪ハウス。写真は小泉誠氏がデザインを手がけたもの建築家 故増沢洵氏の「最小限住宅」をリメイクした9坪ハウス。写真は小泉誠氏がデザインを手がけたもの

「9坪ハウス」なるものをご存知だろうか? 読んで字のごとし、建坪9坪のコンパクトな家のことだ。「家具のようにもっと気軽に家を買おう――」そんなコンセプトの元登場し、2002年にはグッドデザイン賞の金賞を受賞している。

しかしこの「9坪ハウス」、実は狭小住宅ではあるが、狭小地向けの住宅ではないという。どういうことだろうか?

今回は、9坪ハウスを展開するブーフーウー株式会社さんにお邪魔をし、9坪ハウスのコンセプトや魅力を伺うと同時に、9坪ハウスの思想を活かし同社が展開する狭小地向けの住宅について紹介しよう。

戦後の「最小限住宅」を現代版にリメイク

吹き抜けで明るい印象の室内。個室も創れるが、9坪ハウスの施主さんはあまり個室を創られないという吹き抜けで明るい印象の室内。個室も創れるが、9坪ハウスの施主さんはあまり個室を創られないという

そもそも、9坪ハウスとは何か? その原型を探ると、1952年に建築家の故増沢洵氏に建てられた「最小限住宅」に行き着くとブーフーウー株式会社 代表取締役 岡崎泰之氏は説明する。

「9坪ハウスが誕生したのは2002年なのですが、当時はまだデザイナーが建てる家というのは今のように一般的ではない時代でした。そこで、コストとのバランスを取りながらデザイン住宅を広められないかと考えた時に、“最小限住宅”のリメイクとして小泉誠さんがデザインしていた住宅を9坪ハウスとして展開したのです」

そもそも増沢洵氏の「最小限住居」は、戦後まもない高度経済成長期における実験的小住宅だ。建築面積29.75m2(9坪)、延べ床面積49.58m2(15坪)のコンパクトな中にも最低限の必要な機能が加えられている。これを現代的な住居としてリメイクしたのが9坪ハウスであり、以下の5原則から3つ以上を採用するのが鉄則だという。

◆9坪ハウスデザインの5原則
①平面は正方形(3間×3間 1間=約1.8m)のプラン
②3坪の吹き抜けを儲ける
③外形は14.8尺(約4.5mの切妻屋根)
④丸柱を使う
⑤メインファサードには開口部を設ける

つまり、上記の5原則を引き継ぎながら、現在のデザイナーの方々がリメイクデザインをしているのが9坪ハウスだ。大きな開口部がポイントで吹き抜けと共に明るい空間を創る。基本、個室をあまり創ることはないが1LDK+2部屋の広さが確保でき、デザイナーや選択する部材にもよるが工事費1千万円代後半から可能になる。

禅の思想を感じられる家!?

敷地全体の空間性で「9坪ハウス」は完成する。木々も敷石もその連続性がすべて含まれて9坪ハウスの世界観になる敷地全体の空間性で「9坪ハウス」は完成する。木々も敷石もその連続性がすべて含まれて9坪ハウスの世界観になる

ただし、この9坪ハウス。実は狭小住宅ではあるが、狭小地向けの住宅ではないという。

「建地9坪というと狭小地向けの住宅と思われるかもしれませんが、9坪ハウスは実際に周囲に0.6mずつの空間が必要で、全体で6.6m×6.6m以上の空間が必要になってきます。20数坪の広さです。
9坪ハウスは実は狭小住宅というよりも“思想”を体現したコンセプト住宅。9坪で暮らすということは当然余計な物を持てない暮らしになるわけですよね。必然的にシンプルな暮らしにならざるを得ません。そうした狭小の中で、周りは余裕のある土地が広がる。“物をもたなくても豊かにくらす”その思想やライフスタイルに共感される方向けの住宅だと思います」

実際の9坪ハウスを見てみると、建物単体で存在しているというよりも、周りの空間を含めて住まいであることを主張している。例えば、9坪ハウスシリーズには9坪の母屋に4.5坪ほどの離れを建設するモデルもあるが、ここでは母屋と離れの間に木々が立ち並び、敷石のリズムが2つの建家のバランスを整える。まさに敷地全体が9坪ハウスを表現している。

他の事例でも、敷地内の木々にはハンモックが吊るされ、大きく開口した窓からは、庭の様子が一つの絵画のようにも見える。

「9坪ハウスは、禅の思想にもつながるのかもしれません。住む者を律してしまう住宅ですから。しかしシンプルだからこそ豊かになれることもある。それを体現する住まいだと考えています」

9坪ハウスのエッセンスを都市部の狭小住宅に生かす

都内で建てられたわずか8坪の狭小住宅。ここにも9坪ハウスの思想は取り入れられ、それぞれの空間が緩やかにつながっている都内で建てられたわずか8坪の狭小住宅。ここにも9坪ハウスの思想は取り入れられ、それぞれの空間が緩やかにつながっている

とはいえ、都市部では20坪以上の土地を確保するとなると金額的に手軽に手が出せないこともある。そういった場合に、同社では狭小住宅としての9坪ハウスのノウハウやエッセンスを詰め込んだデザイン狭小住宅を展開しているそうだ。

「例えば細長い敷地で正方形の9坪ハウスの様式に当てはまらないところでも、9坪ハウスのエッセンスを入れて狭小住宅を造っています。シンプルな間取りを意識したり、大きな開口部などで明るさを確保する。先日も裏側に大きな小学校が建つという明るさを期待できない立地でも、施主の方が驚くほどの明るい家を提供できました」

こちらでデザインされる住宅をみてみると、ほとんどが四角形の組み合わせだ。これも9坪ハウスのエッセンスを取り込みながら創る結果だという。

「ほかにも、自然素材にもこだわっています。木のぬくもり。シンプルだからこそ飽きのこない空間にする。それも9坪ハウスの思想から学んでいることです」

余計な物を持たない暮らし

ブーフーウー株式会社 代表取締役 岡崎泰之氏。「私たちがしているのは、“著名な建築家の建てる家”と“建売住宅”の間にあるデザイン住宅。著名じゃなくても良質のデザイン性のある住まいをコストを抑えながら提供しています」ブーフーウー株式会社 代表取締役 岡崎泰之氏。「私たちがしているのは、“著名な建築家の建てる家”と“建売住宅”の間にあるデザイン住宅。著名じゃなくても良質のデザイン性のある住まいをコストを抑えながら提供しています」

わずか9坪でシンプルだが豊かな暮らしを提唱する「9坪ハウス」。余裕のある空間にわざわざポツンと家屋を建て、余計な物を持たない暮らしを宣言する家だ。まさに思想とも言うべき世界観。郊外の土地に余裕がある場所で自然と一体になりながら、こうした暮らしをするのも面白い。

ただし、都心ではなかなか敷地の余裕が持てないのも事実。限られた敷地を最大限活用しながらシンプルな生活を目指す。9坪ハウスのエッセンスを入れた都市部の狭小住宅も興味深い提案だ。

2015年 06月30日 11時06分