従来のイメージとは一線を画す、明るくて、おしゃれな高架下

平日の夜7時。カフェに集まった30人ほどが、前方のスクリーンに映し出された資料を見ながら、熱心に講師の話に耳を傾けている。スーツ姿の人もいて、仕事帰りの人が多いようだ。会場では時折、頭上からわずかに「ゴトン、ゴトン」と電車が走る音が聞こえてくる…。

ここは「TauT(トート)阪急洛西口」。阪急電鉄が京都市とともに開発を進めている新しい高架下エリアだ。

取材に訪れた日は、TauT阪急洛西口で営業しているカフェ・ダイニング「巣箱」で、「洛西高架下大学」というセミナーイベントが行われていて、冒頭、ご紹介したのはそのワンシーン。講師は「京都移住計画」代表の田村篤史さん。冗談を交えて参加者たちをほぐしながら「『住みたいまち』魅力の再発見と伝えるコツ」というテーマで話を進めていく。

高架下と言えば、繁華街ならサラリーマンが帰宅途中に立ち寄る飲み屋街、住宅地の駅なら駐輪場や駐車場。そんなイメージが強いかもしれない。だが、阪急「洛西口」駅周辺の高架下は、少しイメージが違う。ひとことで言うなら、「明るくておしゃれ」。高架下で営業するお店のガラス窓からは照明の光があふれ、中の賑わいが通路にも伝わってくるよう。“薄暗い高架下”なんて雰囲気はみじんもない。

まず、そんなTauT阪急洛西口が誕生した経緯から、説明しよう。

高架下に店舗が並ぶ「TauT阪急洛西口」。手前は「洛西高架下大学」が開催されたカフェ「巣箱」高架下に店舗が並ぶ「TauT阪急洛西口」。手前は「洛西高架下大学」が開催されたカフェ「巣箱」

総延長約1km、面積およそ1万1,200m2の新しい空間が誕生

(上)阪急「洛西口」駅 (下)駅の建物の1階から、「TauT阪急洛西口」の店舗が連なる(上)阪急「洛西口」駅 (下)駅の建物の1階から、「TauT阪急洛西口」の店舗が連なる

阪急「洛西口」駅は、京都市の中心部・河原町と大阪・キタの中心部梅田を結ぶ阪急京都線にあり、この路線では京都市の最も南に位置する駅だ。駅舎は京都市西京区にあるが、ホームの南側は向日市。京都市、向日市両方の市民が利用している。
特急が停車しない、いわゆる「中間駅」と呼ばれる小さな駅だが、河原町駅までは十数分。さらに、この阪急の駅から徒歩約10分の場所にJR京都線の桂川駅があり、駅前には巨大なショッピングモールがそびえる。通勤通学の便利がよく、そして暮らしやすそうなベッドタウンだ。

『阪急京都線(洛西口駅付近)連続立体交差化事業のあゆみ』(平成30年京都市発行)によると、洛西口駅周辺で渋滞解消などを目的に連続立体交差化(=鉄道高架化)に関する事業が進み始めたのは平成10年度(1998年)。この年、「連続立体交差化事業に向けた事前調査」に着手している。

鉄道の高架化や周辺の整備は、行政と鉄道事業者が連携して行われる。洛西口駅付近の鉄道高架化に際しても、2015年に京都市と阪急電鉄が「包括連携協定」を締結。高架化によって誕生する総延長およそ1km、面積約1万1,200m2の空間をどのように活用するか、市民参加のワークショップなどで広く意見を集め、「洛西口~桂駅間プロジェクト」が進められてきた。

そして2016年3月、鉄道の高架化と周辺の整備事業が完了。2018年10月にはTauT阪急洛西口の第1期エリアがオープンし、12区画13店舗が営業を始めた。

小さい駅だからこそ、住人目線の活用を

阪急電鉄株式会社都市交通事業本部えきまち事業部課長補佐の永田賢司さん(右)と、株式会社エキ・リテール・サービス阪急阪神、パートナー事業部マネージャーの加藤淳さん(左)阪急電鉄株式会社都市交通事業本部えきまち事業部課長補佐の永田賢司さん(右)と、株式会社エキ・リテール・サービス阪急阪神、パートナー事業部マネージャーの加藤淳さん(左)

TauT阪急洛西口のコンセプトは、『行きたい 住みたいKYOTO洛西口 ~ヒトとヒトをつなぐ エキはマチの縁側(えんがわ)~』。

「まちづくりとは、人が生活することそのもの。私たちは、ここを人と人がつながる縁側にしたいんです」とは、阪急電鉄株式会社都市交通事業本部えきまち事業部課長補佐の永田賢司さん。駅前のショッピングセンターやターミナル駅の駅ビルの開発なら、幾度も手掛けている同社。だが、阪急洛西口駅の一日の平均乗降者数はおよそ1万2,000人。特急電車も停車する隣の桂駅が一日の平均乗降者数は約4万5,000人であることを考えると、大きな利益を見込んで開発に乗り出す…というスタンスでないことは一目瞭然。しかし、ここを高架下開発のモデルケースにしたいと永田さんは言う。
「洛西口駅のような小さな駅の開発は、阪急電鉄にとってもチャレンジなんです。小さい駅だからこそ、住んでいる人に喜んでもらって、ここに住んで良かったと感じてもらいたい。縁側のような場所があることで、人と人がつながり、顔が見える関係を築くことができる。そうすれば、まちの課題が浮かび上がったとき、みんなで力を合わせてスムーズに解決できるんじゃないかと思います」

地域の人が集う場所はできた。と、なると次に鍵を握るのは、TauT阪急洛西口にテナントとして入ってもらう店舗だ。永田さんとともにこのプロジェクトに携わる、株式会社エキ・リテール・サービス阪急阪神、パートナー事業部マネージャーの加藤淳さんは、チームのメンバーで400以上の事業者に出店依頼をしたのだそう。「私たちのコンセプトを理解してくれて、共感してくれるお店を探しました。結果的には、この地域に思い入れのある方たちが営業してくれています」

現在、TauT阪急洛西口で営業しているのは、京都の老舗鮮魚店がプロデュースする鉄板海鮮丼・寿司の「uroco by 西浅」、長岡京市に本店がある天然酵母パンのベーカリー「BAKEHOUSE Mére」、京都市内に5店舗展開する人気の立ち飲み居酒屋「すいば」など。サイクルショップやクリーニング店、銀行のATMコーナーもある。便利に、そして楽しく暮らせるラインアップだ。そして、最初に紹介したイベント、洛西高架下大学には、特にTauT阪急洛西口らしさ、“縁側”を目指すコンセプトが垣間見られる。

丁寧に、緩やかに。人と人がつながるキャンパスに

洛西高架下大学は、“大学”と言っても、いわゆる常設のキャンパスがあるのではなく、カフェの一部分を臨時にキャンパスとして利用し、講師を迎えて行われるセミナーイベント。家庭や学校、職場といった日常の場所以外でも学びや出会いの機会をとスタートした。誰でも自由に参加でき、講師は、主催者であるTauT阪急洛西口が、まちづくりのヒントになりそうな人に依頼。1時間半ほど講演やディスカッションの後で、軽食を食べながらの交流会も行われる、アットホームなセミナーだ。参加費は軽食・1ドリンク付きで2000円。

「京都移住計画」代表の田村篤史さんが登場したのは同イベントの2回目の開催日。ちなみに1回目は、農業をテーマにしたセミナーで、農家や行政の職員などが多く参加。半数以上が地元の人だったそうだ。

「人が集まることで、まちを変えることができます。いろいろなまちのプレーヤーの話を聞いて、参加者同士もつながってほしいんです。私たちはゆるやかに、丁寧に人と人を繋げていきたい。それが、TauT阪急洛西口と周辺エリアが活性化することになるのでは」と永田さん。加藤さんも「回数を重ねて、私たちの想いに共感してくれる人が増えていくことで、まちの連携が進むといいと思います。いろいろなテーマで、2か月に1回程度のペースで洛西高架下大学が開催できれば」と、このエリアのまちづくりと、TauT阪急洛西口、そして洛西高架下大学の未来を重ね合わせる。

洛西口駅付近の高架下の開発は始まったばかり。まだまだTauT阪急洛西口は広がっていく予定だ。高架下を中心に、住人たちがまちづくりを気軽に語り合う、そんなシーンがあちこちで見られる日は、きっと遠くないだろう。

取材協力:TauT阪急洛西口 https://www.taut-rakusaiguchi.com/

2⽉18⽇に⾏われた「洛⻄⾼架下⼤学」の様⼦。前⽅で話をしているのが「京都移住計画」の⽥村篤史さん2⽉18⽇に⾏われた「洛⻄⾼架下⼤学」の様⼦。前⽅で話をしているのが「京都移住計画」の⽥村篤史さん

2019年 04月05日 11時05分