身近な熊本地震の教訓を生かして防災冊子3部作を発行

2016年4月に発生した熊本地震から2年が経過した。地震の際、近隣の福岡市は髙島宗一郎市長を中心に「WITH THE KYUSHU プロジェクト」を立ち上げ、スピーディかつ的確に支援物資を提供。また、身近な熊本地震で得た教訓を生かして、福岡市の防災体制を大幅に見直すとともに、さまざまな取り組みを始めている。

そのひとつに、市が発行した防災関係冊子の3部作「避難生活ハンドブック」「マンション防災・減災マニュアル」「女性の視点を活かした防災ミニブック」がある。中でも、2018年2月に発行した「マンション防災・減災マニュアル」は大きな反響があったという。福岡市市民局 防災・危機管理課の小田素久係長に、背景や狙いなどを聞いた。

福岡市が2017年秋から発行した防災関連冊子の3部作福岡市が2017年秋から発行した防災関連冊子の3部作

政令都市で共同住宅の割合がトップ、市の重要課題に対応

福岡市市民局 防災・危機管理課の小田素久係長福岡市市民局 防災・危機管理課の小田素久係長

防災には「自助」「公助」「共助」という考え方がある。自助は自分の身を守ること、公助は行政による救助や支援、共助は家族や会社、地域などで互いに助け合うこと。公助には限りがあり、一人ひとりが自助と共助を高めていくことが大切だ。

「福岡市は、全居住世帯74万戸に占めるマンションなど共同住宅の割合が、全国の政令都市で最も高い78%にのぼります。特に、都心部を縦断する警固断層沿いにマンションなどの共同住宅が多く、災害発生時の対応が重要な課題です。そこで、マンションにおける日常生活での備えや災害時の対応などのポイントをマニュアルにまとめました」と小田さんは説明する。

被災された方々の声や実例を盛り込み、1冊で完結できる内容に

マニュアルはA4の全36ページ。「熊本地震でのマンションの被災状況」「マンション防災の心得」「自助の備え」「災害時の活動フロー」「参考」「防災マニュアルを作成しよう」の6項目で構成される。一番の特徴は、2005年の福岡県西方沖地震や熊本地震などの実例をふんだんに盛り込み、実用的な内容になっていることだ。市の職員が福岡県西方沖地震や熊本地震で被災したマンションの住民などを訪ねて、実際に体験談を聞いたという。
「この1冊をしっかり読みながらチェックするだけで、災害時の対策・対応がある程度完結できる内容になっています。個人はもちろん、マンションの管理組合などで活用していただきたい」(小田さん)

「マンション防災の心得」では、「入居者の皆さんがお住まいのマンションの震災対策の必要性について認識を一つにして(中略)できることから始めの一歩を踏み出しましょう」「近隣が自然にあいさつを交わし(中略)人間関係を作っていくことが、マンション防災の第一歩」など、共助のベースとなる入居者間の関係構築について強調。続く「自助の備え」では、日頃から食料品等を少し多めに購入して使ったら買い足すというローリングストック法を紹介。家具の固定については家具が倒れた現場の写真を入れ、通電火災を防ぐ感震ブレーカーも具体的に載せている。

「マンション防災・減災マニュアル」の中面。チェックシートやポイント、実例などが掲載されており、わかりやすい「マンション防災・減災マニュアル」の中面。チェックシートやポイント、実例などが掲載されており、わかりやすい

PDFや電子書籍をダウンロードして、多くの人に活用してほしい

災害時に福岡市の対策本部となる市庁舎内のスペース。各区とやり取りするコンピュータやテレビ画面などが並んでいる災害時に福岡市の対策本部となる市庁舎内のスペース。各区とやり取りするコンピュータやテレビ画面などが並んでいる

メインとなる「災害時の活動フロー」は、震災時にマンション居住者で協力して取り組みたいことを4段階で提示。地震発生直後、地震発生後2~3日目、4日目以降、余震安定期以降でそれぞれチェックシートがあり、一つずつ確認していけるところがポイントだ。「参考」では耐震診断や地震保険、マンションの標準管理規約の改正について説明している。

ラストの「防災マニュアルを作成しよう!」は、マンションの防災マニュアル作りを提案。メモとして、対策本部組織や本部の設置場所、電気・ガス・水道などの緊急連絡先、備蓄リストなどを書き込める。

マニュアルは2月半ばから市役所や区役所に設置したところ、マンションの管理組合やディベロッパー、町内会などから問い合わせが相次ぎ、当初1万部の予定を2万部まで増刷。2017年9月発行の「女性の視点を活かした防災ミニブック」、2018年4月に完成した「避難生活ハンドブック」の3部作はいずれも好評で、福岡市以外から「読みたい」という要望もあり、市のホームページや電子書籍でも無料でダウンロードできるようにした。

日本初、九州の市長会で「防災部会」を設置し、市内外の取り組みを強化

市民を対象とした出前講座のひとつ、避難所運営ワークショップの様子市民を対象とした出前講座のひとつ、避難所運営ワークショップの様子

福岡市の髙島市長は熊本地震から半年後の10月、九州・沖縄の118市で構成する九州市長会で「防災部会」の設置を提案し、自ら部会長に就任。九州内での大規模災害時における各市の相互支援の態勢の充実を図ってきた。

一方、市の組織体制も見直し、この2年で、防災・危機管理部の人員をおよそ2倍の30人に増員。市としての公的備蓄を大幅に拡充したほか、救援物資の受配送について運送会社などと協定を締結。市民向けには、アウトドアの知識を防災に生かしてもらおうと「防災キャンプ」というイベントを開いたり、「防災の日」の9月1日から1週間を「備蓄促進ウイーク」として呼びかけたり、熊本地震で課題となった災害時の指定外避難所を把握できるように防災アプリ「ツナガル+(プラス)」を開発するなど、さまざまな取り組みを展開している。市が行う防災関係の出前講座は、この2年で260件以上にのぼっているという。

「この2年で市の体制やハード面は整ってきました。これからは市民の皆さんの防災意識がさらに高まるような講座やイベント、仕掛けを考えていきたい」と意気込んでいる。

■大地震に備えよう!マンション防災・減災マニュアル
■避難生活ハンドブック ~大規模災害を生き抜くために~
■女性の視点を活かした防災ミニブック

2018年 05月17日 11時05分