多くの人で賑わう全長400mのアーケード
“九州一の繁華街”といわれる福岡市の天神と中洲にほど近い「川端通商店街」。130年以上の歴史を誇り、かつては博多市街地として多くの人で賑わっていた。一時期は人通りが減少したが、1996年に大型商業施設「キャナルシティ博多」ができると、天神・中洲エリアからキャナルシティ博多への通り道となり、人の姿が戻ってきた。
今は全長400mのアーケードに、140店舗ほどが軒を連ねる。仏壇や提灯、呉服など昔ながらの物販店、博多祇園山笠を飾ったぜんざいの店やラーメン店などの飲食店に加えて、近年は全国チェーンのカフェやドラッグストアも目立つ。2018年2月には、外国人観光客の受け入れ環境を整備。通りを歩くと多言語表示の案内板やマップが設置され、外国人の姿をちらほら見かける。
長年交流がなかった2つの組合で取り組みを開始

川端通商店街は、1本のまっすぐなアーケード街だ。そのため福岡の人でさえひとつの商店街と思っているが、実は小さな横道を挟んで「川端中央」と「上川端」という独立した商店街から成り、それぞれに組合がある。2つの地区は博多祇園山笠では別の流れに属し、年に1度の山笠では真剣に競い合う。だからであろうか、長年にわたって商店街間の交流はほとんどなかったという。
転機は2010年の秋。1879(明治12)年から各商店街で続けてきた、毎年11月15~20日の「せいもん払い」というセールで、初めて共通のくじ引きをした。それから2年に1度、両商店街の若手を中心に飲み会を開くように。その場で「一緒に何かしよう」と盛り上がり、2015年には福岡ソフトバンクホークスの優勝決定戦を観るパブリックビューイングを開催した。
商店街で若手のリーダーとして活躍しているのが、川端中央商店街振興組合の吉川和毅さんと、上川端商店街振興組合の渡辺淳一郎さん。「若手といっても50代ですが…」と笑うおふたりは明るく温和で、ともに祖父の代から店を出している。
福岡市の主導によりインバウンド対策に着手
おふたりによると、商店街に海外からのお客さんが増えてきたのは5年ほど前。特に和小物や和紙、呉服、ラーメン店に多く訪れる。韓国の有名ブロガーに紹介されたことで、韓国人客が急増したカレー店もある。吉川さんが営む仏壇店には中国人が高価な線香を求めてやってくるほか、数珠や筆ペン、小さな仏像などが売れる。子ども服を販売する渡辺さんは「3年前、出張で福岡に来たアメリカ人男性が娘さん用の甚平を購入されて、翌年には甚平を着た娘さんの写真を持ってきてくれたんです。それから毎年立ち寄り3着5着と買ってくれて、年に1度の交流が楽しみ。甚平は夏だけ店頭に並べていましたが、外国人を意識して年中出すようになりました」と笑顔を見せる。
それまで各店任せだった外国人観光客の対応に川端通商店街全体で取り組むことにしたのは、福岡市から声をかけられたのがきっかけだった。2016年3月、おふたりを含む数人で「外国人観光客で地域を元気に」と題したセミナーに参加。「インバウンド対策協議会」を設置した。
Wi-Fiや多言語ホームページを整備し、案内板も設置
2016年12月に通行者の調査をしたところ、1日の通行者1万2,000人のうち約1割が外国人だった。さらに、商店街と外国人にアンケートを実施して、各店には外国人客の人数と国籍、今後外国人をもっと受け入れたいか、商店街全体で取り組みたいことなど、外国人には商店街に必要なものなどを質問した。「正直なところ、商店街でも意見が分かれました。積極的に対応したいという人がいれば、店の雰囲気を守るために今のままでいいという声も…」と打ち明ける。
11回の会合を重ねて、2018年2月、外国人観光客を受け入れるため4つの環境を整えた。ひとつは、福岡市の無料無線LANサービス「Fukuoka City Wi-Fi」を整備。そして商店街のホームページを新設し、日本語はもちろん、英語・韓国語・繁体字・簡体字でも詳しい情報を見られるようにした。3つ目として、商店街に4台の案内看板を設置し、現在地や周辺施設、商店街のルールなどを多言語で明記。さらに、商店街情報を掲載した紙のガイドマップを多言語で計4万4,000枚用意した。「ガイドでは各国の観光客の好みに合わせた特集を組み、英語版は和雑貨、韓国語版は飲食を中心として、繁体字・簡体字版はそれらを半々にしています」と吉川さん。総事業費約1,400万円のうち1,200万円は、国と県、市の補助金を活用した。
「川端夜祭」で賑わいを演出し、地域を活性化
川端通商店街では、ほかにも外国人客を意識した取り組みがある。2017年に始めた「川端夜祭」だ。「福岡市内で夜遅くまで楽しめる場所を作ろう」という試みで、通常は夜7~8時に閉店する商店街を10時までオープン。通りに出店が並び、ライブや太鼓などのパフォーマンスも行う。
2017年3月に1回目を開催すると、国内外の観光客や地元の人に「お祭りみたいで楽しかった」「昔のごたあ(昔みたいな)賑わいやね」と喜ばれた。商店街では毎回、趣向を凝らし、2018年11月2日には4回目を開催予定だ。
「運営側としてはお店にあまり負担をかけないようにスポンサーを探したり、バナー広告を募集したりと工夫しながら続けていきたい。のちのちは商店街だけでなくもっと広い地域で連携して、楽しく街歩きできるエリアになればと思っています」と楽しそうに話すおふたり。福岡にとって大切な博多市街地の未来を背負う若手として、これからもハードとソフトの両面を充実させていくつもりだ。
2018年 10月14日 11時05分