小さな村で立ち上がった「タイニーハウスデザインコンテスト」

豊富な水と森林資源に囲まれた小菅村。なんとこの大自然まで、東京都心から車でおよそ2時間!豊富な水と森林資源に囲まれた小菅村。なんとこの大自然まで、東京都心から車でおよそ2時間!

山梨県秩父多摩甲斐国立公園内にあり、多摩川の源流部にある小菅村は人口わずか730人という小さな村だ。森と水に恵まれた自然豊かな小菅村は、戦後木材の供給基地としてにぎわっていたという。しかし、現在は材木の供給先不足によって利用できる時期になっても伐採されず、材木を持て余し森林の維持が難しくなっている。

そこで、この木材の活用を目指すため「タイニーハウスデザインコンテスト」が2017年に立ち上がった。
タイニーハウスとは、おおむね20m2以内、1000万円以内で建てられるコンパクトな住まいのこと。省資源、省スペースのタイニーハウスを、村の木材を活用して建ててしまおうという計画だ。
今回はこの「タイニーハウスデザインコンテスト」を通して、住まいに求める豊かさについて考えてみたいと思う。

小菅村×YADOKARI。官民協働でスタートした“小さな家”の村おこし

23年前、小菅村の温泉施設の設計を手掛けたことがきっかけで村おこしに携わるようになった和田さん。「日本人が培ってきた木材活用の技術は日本の文化そのもの。アイデアを出して資源と技術を活用していかないと」と話していた。写真は和田さんが設計した小菅村村庁舎23年前、小菅村の温泉施設の設計を手掛けたことがきっかけで村おこしに携わるようになった和田さん。「日本人が培ってきた木材活用の技術は日本の文化そのもの。アイデアを出して資源と技術を活用していかないと」と話していた。写真は和田さんが設計した小菅村村庁舎

コンテストを主宰するのは、小菅村とYADOKARI株式会社。
YADOKARIは「ミニマルライフ」「タイニーハウス」「多拠点居住」など、暮らし方の選択肢を発信するメディアだ。
コンテストの発案者は、和田隆男さん。和田さんは建築設計の仕事を通じて小菅村のことを知り、2年前から地域おこし協力隊として村おこしに尽力してきた。現在は小菅村タイニーハウスプロジェクト事務局を立ち上げ、村の窓口役となっている。

「私自身が、4、5年前から小さな家というものに興味を持ち始めて、いろいろと調べていく中でタイニーハウスというコンパクトな住まいのことを知り、YADOKARIさんにたどり着きました。
最初は村内に自分の住まいとしてタイニーハウスを建てたいなぁという思いだったのですが、村の木材を活用するプロジェクトとして地域創生に役立てるのではないかと思いはじめたのが、コンテストのはじまりです」と和田さん。

タイミングよく地域創生交付金の申請が通り、木材を活用する村のプロジェクトとして採択されたことから、官民協働でのコンテストが実現した。

第2回の応募総数は400通!! コンテストの優秀作品は村内に建てられる

2017年の第1回は100通を超える応募があったという。
「驚いたのは、約半数が建築関係者以外の一般の方からの応募だったこと。建築業界でもまだタイニーハウスが認知されていない時代にも関わらず、業界以外の人たちがこれだけ応募してくれるというのが驚きでした」
と和田さんは振り返る。

コンテストでは最優秀賞、優秀賞、特別賞と3つの賞が用意されている。面白いのは優秀作品が村に実際に建築されるという点。すでに第1回最優秀作品と優秀作品2作の合計3棟が完成しつつある。さらに今後は、受賞作品を商品化し販売することも視野に入れているという。

作品の中には、実際に建築するうえで工夫が必要な場合も。たとえば耐震性や水道、ガスなどインフラの問題など、デザインだけではカバーしきれないハードルもある。そこは、建築設計の仕事が本職である和田さんがサポートし、コンテスト入賞作品の現実化を目指すのだという。

現在は第2回の応募が締め切られ、これから内容を審査する段階。コンテストは、事前に応募登録をした後、期限までに作品を提出するシステム。今回は1回目の約4倍となる400通のエントリーがあり、中には学生や外国人からの応募もあったそう。応募作品はおよそ150作品。今年はどんなアイデアが実現されるのか楽しみだ。

YADOKARIのTINYHOUSE ORCHESTRA事業部部長・相馬由季さんにもデザインコンテストについて伺った。

「タイニーハウスを実際に住まいとして実現できる場所をわれわれも探していて、コンテストのお話はやりがいがあると感じました。小菅村は村長さん自身も独自の村おこしを行っていて、新しいものを受け入れ挑戦するという意識が高い。ここにタイニーハウスを作るということには大きな意義があると感じています。
タイニーハウスというのは、既成概念にとらわれない住まいがコンセプト。省スペース、省資源のタイニーハウスだからこそできる暮らしの提案や、日本に根付いた住居観や概念を覆すような作品が出てくるのではないかと楽しみです」

と、今後続いていくであろうこのコンテストに期待を寄せる。

コンテストの優秀賞に選ばれたデザインをもとに、村内に建設されたタイニーハウスコンテストの優秀賞に選ばれたデザインをもとに、村内に建設されたタイニーハウス

村の暮らしとタイニーハウスでの暮らしを両方体験できる施設として稼働

源流体験など、小菅村ならではの体験授業も豊富。和田さんによると、都内から約2時間という立地のため、父親が都内に残り母と子が山村へ出向き、週末は東京に帰るという“逆単身赴任”のような選択も生まれているそう源流体験など、小菅村ならではの体験授業も豊富。和田さんによると、都内から約2時間という立地のため、父親が都内に残り母と子が山村へ出向き、週末は東京に帰るという“逆単身赴任”のような選択も生まれているそう

実は、和田さんによると小菅村は、近年移住希望者が増えきているのだそう。
その理由は、山村留学。東京都心から約2時間という距離にありながら大自然に囲まれたこの村では、里山の暮らしを体験したいという親子を期間限定で受け入れているのだ。
単学年制を維持しているため、1クラス5人ほどの少人数で目の行き届いた教育が受けられるというメリットがあり、田舎でのびのびと子育てがしたいという人たちからの問合わせが増えているのだとか。

留学後そのまま移住したいという家族が増えていく一方で、村にある空き家は核家族世帯にとっては大きすぎたり、老朽化が激しいといった理由でなかなか活用の道は険しい。
そこで新たな道としてあがってきたのがタイニーハウスだ。

「大きくて古い空き家を修繕して住むのではなく、コンパクトなタイニーハウスを新たに作って移住者の村営住宅のようにできればと考えています。また、移住にいたる前段階として村の生活を体験するための宿泊施設としても活用する予定です」(和田さん)。

まずはデザインコンテストの入賞作品を村に建て、村の暮らしとタイニーハウスでの暮らしを両方体験できる施設として稼働させていくそうだ。

本当の豊かさと向き合う、自分が満足するシンプルな生活。それがタイニーハウス

タイニーハウスとは、アメリカではリーマンショック後に大きなムーブメントが起こり、日本では東日本大震災をきっかけに注目が集まるようになった住まいの形。

「天災や社会の大きな変化によって、モノも壊れお金の価値も崩れたとき、自分にとって必要なものは何なのか、暮らしや住まいについて向き合う人が増えたと思います。
住まいに関していうと、ローンを抱えて大きな家を買うことってどうなんだろう? ローンを組まない、もしくは少ないローンで建てられる家という選択肢があってもいいのでは? という疑問が生まれました。そこで、海外ですでに認知されていたタイニーハウスの例を集めて検証してみようとスタートしたのがYADOKARIというメディアです。
小さな家に住むという選択は、お金に縛られるストレスがなくなりますよね。住まいが変われば、働き方も変わり人との関係性も変わってきます。自由な時間が増えれば、本当にやりたいことに向き合う時間もできてきます。

とはいっても、タイニーハウスは暮らし方の選択肢のひとつ。けっして押し付けるわけではなく、賃貸やシェアハウスに暮らす、大きな家に暮らすという結果でもそれは人それぞれで構わないと思います。
ただ、自分が本当に望んでいる暮らしとは何なのか。本当の豊かさとは何か、タイニーハウスはそれに気づかせてくれるきっかけになるのではないかと考えています」。(相馬さん)

また、いわゆる団塊の世代の和田さんは

「僕らの世代は、自分の幸せを犠牲にして必死に働いて家を建てるという価値観が根付いていました。土地は財産だという考え方もありましたしね。でも、今は人口も減ったし、都会の一等地でもない限り大きな家や土地は資産価値を維持するのが難しいと聞きます。仕事や家のローンに縛られてやりたいことができずに苦労したけれど、今はもうそんな時代ではなくなってきていると感じています」
という。

自ら設計を手掛け、8畳一間のタイニーハウスに暮らした経験もある和田さんは、実践者としてこう話す。

「トイレ、キッチン、ロフト付きで不自由はまったく感じませんでした。ただ、感じ方はひとそれぞれですからね。小さくないとダメというわけではないんです。自分が満足する生活、それが送れるシンプルな住まい、そういったマインドこそがタイニーハウスなんだと思います」

相馬さん、和田さんの言葉が琴線にふれた人は一度タイニーハウスを体感してみてはいかがだろう。

次回は、タイニーハウスでの宿泊を体験できる「高架下タイニーハウスホステル」(横浜市)を紹介しようと思う。

【取材協力、写真提供】
小菅村タイニーハウスプロジェクト
https://tinyhouse-kosuge.jimdo.com/

多摩源流小菅村
http://www.vill.kosuge.yamanashi.jp/

YADOKARI株式会社
http://yadokari.net/

和田さんが設計したタイニーハウスも村内に建てられている。村の資源である杉を使用。建物は3.6m×3.6mの四角形、室内は8畳とコンパクトな建物のなかに、断熱、二重サッシュ、キッチン、ロフトなど、小さくても快適に住める工夫が詰まっている。東側に造られたデッキと大開口部からは、雄大な山々を見渡すことができる和田さんが設計したタイニーハウスも村内に建てられている。村の資源である杉を使用。建物は3.6m×3.6mの四角形、室内は8畳とコンパクトな建物のなかに、断熱、二重サッシュ、キッチン、ロフトなど、小さくても快適に住める工夫が詰まっている。東側に造られたデッキと大開口部からは、雄大な山々を見渡すことができる

2018年 05月04日 11時00分