手すき和紙づくりが盛んな八女で創業

障子紙の生産量はピーク時から年に約3%ずつ減少の一途をたどっている障子紙の生産量はピーク時から年に約3%ずつ減少の一途をたどっている

福岡県の南西部に位置し、仏壇や提灯などの伝統工芸が受け継がれる八女市。

紙の原料となる楮(こうぞ)という木が自生し、矢部川の豊かな水に恵まれて、1590年代から手すき和紙づくりが盛んだった。全盛期は1,700戸ほどが紙づくりに関わっていたが、機械化の波におされて激減し、現在は2~3戸が残るのみ。そんな中、障子紙の全国トップシェアを誇る会社が八女市にある。1872年に創業した「中村嘉平商店」を前身とする、株式会社中村製紙所。同社の5代目社長であり、全国障子紙工業会会長も務める中村健一さんに、会社の歩みと障子業界について聞いた。

最後発からのシェア6割のトップメーカーへ

中村製紙所は現在、障子紙における全国シェアが約6割にのぼる。だが、意外なことに「うちの会社は、障子紙メーカーとしては最後発なんです」と中村さんは明かす。同社は地元の工芸品を扱う貿易商から製紙メーカーに転換。細々と手がけていた障子紙に力を入れるようになったのは、1970年代の後半から。当時は大手メーカーがティッシュやトイレットペーパーの大量生産を始めたため、ニッチな障子市場に着目した。

最後発でありながら、どのようにシェアを伸ばしたのだろうか。ポイントは3つあるという。1つは、販路を切り替えてきたこと。伝統ある製紙業界はいくつもの問屋が間に入る流通経路が確立しており、最後発の同社はなかなか取引してもらえなかった。ならば独自に販路を開こうとホームセンターなどに置いてみると、予想以上に売れた。3年前にはネット通販も始めた。取引先は今や北海道から沖縄まで47都道府県に広がっている。

2つ目は、価格競争に対応できる体制にしたこと。合理化のため機械を導入し、包装も簡素化した。そして3つ目は、障子紙に機能性を持たせたこと。破れにくい、変色しにくい、紫外線をカットする、アイロンで貼ってはがせるなど、付加価値の高い障子紙が支持を集めている。

左上:八女市にある中村製紙所の本社/左下:同社の破れにくい障子紙は、一般的な障子紙の5倍の強度を誇る/右:現社長の中村健一さんは、九州大学大学院を修了後、国家公務員一種試験に合格して通産省(現・経済産業省)に入省。2005年に父が経営する中村製紙所に入社し、39歳で社長に就任左上:八女市にある中村製紙所の本社/左下:同社の破れにくい障子紙は、一般的な障子紙の5倍の強度を誇る/右:現社長の中村健一さんは、九州大学大学院を修了後、国家公務員一種試験に合格して通産省(現・経済産業省)に入省。2005年に父が経営する中村製紙所に入社し、39歳で社長に就任

光が魅力の障子、市場は40年で4分の1に

中村製紙所の倉庫には、多種多様な紙が保管されている中村製紙所の倉庫には、多種多様な紙が保管されている

中村さんは、障子の一番の魅力を「光」という。「障子を通した光は、ふわりと柔らかくておぼろげ。天気や時間の移ろいを感じられて、凛としたり安らいだり…場の雰囲気や心のありようまで変わってきます」。カーテンやブラインドのように上からつるすタイプに比べて足元から冷気や暖気が入らず、湿気を逃すという利点もある。

かつての日本家屋には和室があり、障子が使われていた。しかし、生活様式の変化に伴い、和室のある家が減っている。日本における障子紙の生産量は1980年の約6,000tをピークとして、2002年に約3,000t、2014年には約1,850tまで縮小。今はピーク時のおよそ4分の1まで落ち込んだ。かつては数百あったであろう障子紙メーカーも次々と姿を消し、今は全国で10社にも満たない。

洋室が増えたことで、カーテンやブラインドの売れ行きがよくなっているのだろうか。そんな素朴な疑問を投げかけると、「実はどちらも減少しています。日本では住宅の窓が小さくなり、窓まわり業界はどこも厳しい状況なんです」という。

男性職人の世界、既成概念からの脱却

この厳しい状況をどう打開していくのか。「障子を窓周辺の建材と考えると、汎用性がありません。古くから和室を作るのは男性職人で、建築家やデザイナーにとっても障子の用途は限られているのではないでしょうか。障子はこうあるべきという既成概念を取り払い、もっと自由に使ってほしいし、女性の感性を生かした和室デザイナーという仕事があっても面白いと思います」と中村さんは力を込める。

中村製紙所は新商品の開発に意欲的で、現在は200種類ほどの商品をそろえ、オーダーメイドにも応じている。柄を入れたり、イラストを入れたり。マーケットが縮小する中、在庫を抱えたくない問屋などは新しい商品をなかなか受け入れてくれないという。「でも、冒険を恐れていては、障子業界に未来はない」。そこで自ら売るために、ネット通販を立ち上げた。

写真左・右上:紙縒(こより)をシート状にした紙布は、通常の障子紙に比べて通気性と透過性が優れている/右下:市松や桜などの模様を入れた障子紙もある写真左・右上:紙縒(こより)をシート状にした紙布は、通常の障子紙に比べて通気性と透過性が優れている/右下:市松や桜などの模様を入れた障子紙もある

もっと自由な発想で国内外を問わず活用を

北欧スタイルの家に障子を活用北欧スタイルの家に障子を活用

国内のマーケットが縮小する中、中村さんは海外にも目を向ける。ドイツのバイヤーから問合せが入ったり、ヨーロッパやアメリカ、中国、韓国などでも引き合いがある。ヨーロッパではクローゼットの仕切り、カーテンやファブリックなどとして利用されているという。日本文化に憧れる外国人が、家の一角に和室を作っているケースも多い。

中村さんが今、特に注目しているのは、障子と北欧デザインとの相性のよさだ。「北欧のインテリアは白っぽい木や白壁に、マリメッコに代表されるようなシンプルな繰り返しの柄が多い。障子は枠が白木で、紙に柄を入れることもできます」。そこで、実際に北欧テイストの家に大きな障子を取り入れてみたところ、しっくりなじんだ。

国内外の障子の活用事例を見せてくれる中村さんは、実に楽しそうだ。今後は切り絵作家とコラボしたり、全面障子の小部屋を作ってみようという構想もある。「これからもどんどん新しいことをやっていきたい」、笑顔で語る中村さんは障子の未来を切り拓いていく。

2019年 02月06日 11時05分