防災備蓄倉庫の中身すら知らない、は大問題

「ザ・パークハウス 津田沼奏の杜」では、2016年4月17日に第2回目となる大規模な防災訓練が実施された「ザ・パークハウス 津田沼奏の杜」では、2016年4月17日に第2回目となる大規模な防災訓練が実施された

万一の大地震に備え、集合住宅では建物の耐震はもちろんのこと、防災備蓄倉庫や設備の普及、防災マニュアルの整備が進められている。しかし、いかに設備やマニュアルを整えようとも、実際に設備の使い方を知らなかったり、住民間のコミュニケーションが取れなければ意味がない。

そんな中、三菱地所レジデンス株式会社とマンション管理を担う、三菱地所コミュニティ株式会社は自社物件の「ザ・パークハウス」を中心に、実効性の高い防災訓練のサポ-トを行っている。

この防災訓練がなぜ“実効性”が高いのかというと、従来の消防・避難訓練に留まらず「被災生活」まで想定した訓練を行っているからだ。「【マンションの防災対策①】グッドデザイン賞受賞! 東日本大震災の声を届ける“そなえるカルタ”とは?」で紹介した、被災地の生の声が反映された「そなえるカルタ」を活用し「被災生活」を想定。実際に情報の収集・共有方法を住民同士で議論したり、飲料水の調達を行うなど実践力の高い訓練を行っているという。本記事では、今年4月に実施された「ザ・パークハウス 津田沼奏の杜」での防災訓練の模様を紹介しよう。

被災時には避難所も不足する。その時どこに非難する?

三菱地所グループがサポートする防災訓練は、被災生活の訓練にまで踏み込み、その後の“気づき”の共有まで実施する三菱地所グループがサポートする防災訓練は、被災生活の訓練にまで踏み込み、その後の“気づき”の共有まで実施する

千葉県習志野市の「ザ・パークハウス 津田沼奏の杜」は、2013年6月に全体竣工した総戸数721戸の大規模マンションだ。ここで今年4月17日(日)に防災訓練が行われた。管理組合の17名の理事と13名の防災サポーター、三菱地所グループの有志社員約60名、そして入居者458世帯(全世帯の63.5%)が参加をする大規模な訓練だ。

主な訓練内容をまとめると以下の項目になる。

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①管理組合の「防災計画書」に基づく安否確認・避難訓練
②マンション設備や防災備蓄倉庫に備えられた備品の使用訓練
 ・マンホールトイレの組立訓練
 ・バルコニーのパーテーション蹴破り訓練
③街を意識した被災生活訓練
 ・参加者がチームになり、近隣の公園や施設をめぐる訓練
④ 防災セミナー
⑤ AED訓練
⑥ 訓練参加による「気づき」の共有、次回の目標設定
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項目だけを見ていてもよくある防災訓練とは異なる気がする。消防訓練や防災倉庫の見学はよく見かけるが、安否確認や被災生活に踏み込んだ訓練はあまり聞いたことがない。しかも、実際の訓練で生まれる“気づき”を全員で共有し、今後の改善に繋げているのだ。まさに防災という観点で、Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Action(改善)の「PDCAサイクル」が生きているのだ。

災害時には、基本的に小学校や指定の避難所で生活すると思っている人が多いが、実際には避難所のキャパシティにも限界があり、建物に危険がない場合は、自宅マンションで避難生活を送る必要が出てくる。こうした時に、マンションでの防災訓練が活きてくるのだ。

では具体的に、訓練がどのように進められているのかを見ていこう。

命を助けたいけれど、隣の部屋のバルコニー側に回り込んで呼びかける?

まずは参加者全員で同じ訓練をするのが、避難と安否確認だ。「ザ・パークハウス 津田沼奏の杜」のように、大規模マンションになると安否確認といえども大掛かりになる。全戸を18ブロックに分けて確認と情報整理が行われる。

「安否確認一つをとっても、実際に訓練をしてみると気づくことが沢山あります。玄関に安否サインがない場合はどうするのか? 玄関からのみ呼びかけるのか、バルコニー側に回り込んで呼びかけるのか? その際、鍵や窓を壊してもいいのか?

巨大地震の場合は人を助けるために建物の一部を壊すことも躊躇しないと思います。しかし、そこまでではない場合は戸惑うものです。今、定義を決められないものは、被災時にはさらに決められません。訓練で気づいたことはその都度ルール化していくように理事の方に提案しています」(三菱地所レジデンス 岡崎新太郎氏)

この日の訓練では、管理組合の理事と防災サポーターが主体となり安否確認を実施。458世帯の確認を迅速に行った。

そして、全員が避難できたところで行われるのが、マンション設備や防災備蓄倉庫に備えられた備品の使用訓練になる。最初に防災倉庫に備えられているという「マンホールトイレ」の組立を体験する。前回の記事でも書いたように、東日本大震災で困ったのがトイレだという。参加者には、まずは「そなえるカルタ」を使って被災地でのトイレ問題の実態が伝えられる。

・被災地では、生理現象として食事よりも真っ先にトイレが必要とされたこと。
・マンホールトイレを備えていても数が足りなくなるため、各家庭でトイレを使用する工夫(ゴミ袋と凝固剤の準備)が必要なこと
などが説明された。

こうしたレクチャーを受けて、参加者からは「普段備えているのは、トイレットペーパーと水だった。凝固剤などが必要ということが分かったので買いにいこうと思います」そんなコメントも聞こえてきた。

その後は実際のマンホールトイレの組立訓練に入るのだが、単に組み立てることを目的としておらず、住民同士のコミュニケーションも重要視されているという。

「組立訓練はグループごとに分かれて行われますが、あえて始めに組み立て方は説明しません。参加者同士で相談しながらつくった方が参加者同士で親密になれます。ゲーム性も取り入れていて、タイムを他のチームと競いあうことで“チーム意識”を高める工夫もしています」(三菱地所レジデンス 澤野由佳氏)

このほか、バルコニーのパーテーション蹴破り訓練では、あえて女性や子どもに実践してもらい、どのくらいの力が必要か体験してもらう。実際には、女性や子どもの力では素手で破るのは難しく、鍋や水を入れたペットボトルを使ってパーテーションを壊すことになっていた。

マンホールトイレの組立訓練はチームごとに競争しながら行う(写真左上)。トイレ設置に適した下水道本管に近いマンホール位置の確認(写真右上)・排水管が使えないことを想定した凝固剤の使用体験(写真左下)。蹴破り訓練では、子どもにも積極的に参加してもらう(写真右下)マンホールトイレの組立訓練はチームごとに競争しながら行う(写真左上)。トイレ設置に適した下水道本管に近いマンホール位置の確認(写真右上)・排水管が使えないことを想定した凝固剤の使用体験(写真左下)。蹴破り訓練では、子どもにも積極的に参加してもらう(写真右下)

インターネットもSNSも使わない、情報共有はどうする!?

設備の訓練を終えると、いよいよ「被災生活」を想定した訓練になる。この日は「生活班」「情報班」「救助救護班」といった班分けがなされ「そなえるカルタ」を使っての協議が始まる。そして実際に行動を起こすところまで訓練として実施された。

いったいどのような訓練かというと、例えば生活班では、水や食料の調達方法を協議し、実践することになる。非常時だからといって非常食から食べるのではなく、冷蔵庫の食材から使うことなどを「そなえるカルタ」で学び、調達と共有の仕組みを考える。水の調達ではマンション内の給水栓を探して、実際に10ℓのタンクで運ぶこともした。

情報班では、マンション内の情報をどのようにまとめ、本部にどのように伝達するかシミュレーションが行われた。想定としては、テレビなどのメディアから断絶され、インターネットも通じずSNSにも頼れないという究極の状況だ。

「使える手段が増える分には対応も容易く変えられます。しかし、手段がなくなるのは厳しい。そのため、より原始的な手段を想定しています」(岡崎氏)

東日本大震災の際には、インターネットも繋がらない地域もあったという。こうした場所には、情報発信ができないことから必要な物資も当初は届かなかったそうだ。そこで、テレビ局にアポなしで出かけ、ニュースにしてもらってやっと必要な物資の支援を受けられたケースもあった。訓練ではこうした事例なども学び、外部から情報を得る体制と共有・発信の仕組みについても話し合われていた。

救助救護班では、負傷者の救護から医療機関への搬送が訓練されていた。実際に行ってみると、ここでも課題が沢山見えてくる。

「負傷者がいる場合、医療従事者を呼ぶべきなのか? 診療施設へ搬送すべきなのか? その判断が難しいことも課題として見えてきました。大規模マンションなので、その中には医師や医療従事者もいらっしゃいます。しかし、そういった方は実際の被災時には職場へ行かなければいけません。こうした方たちの力を借りずに救護するときにはどうしたらよいか。そんなことも実際の被災状況に近い形で訓練を行っています」(澤野氏)

こうした被災生活に踏み込んだ訓練を経験し、参加者からは「リアルな被災生活を想定し、実際に触れることができたので現実味があってやりがいがあった」「被災生活は、小学校や避難所で過ごすものと思っていた。漠然と想像していたことを具体的に知ることができた」との感想があがってきた。

安否確認や今後の目標設定は、防災担当理事や防災サポーターが主体となり実施(写真右上・左上)。実際に近隣公園での給水訓練も行う(写真右下)。情報班では、インターネットなどが使えない状況を想定して情報収集と共有方法を検討した(写真左下)安否確認や今後の目標設定は、防災担当理事や防災サポーターが主体となり実施(写真右上・左上)。実際に近隣公園での給水訓練も行う(写真右下)。情報班では、インターネットなどが使えない状況を想定して情報収集と共有方法を検討した(写真左下)

重要なのは、住民を巻き込む仕組み

お話をうかがった三菱地所レジデンス 岡崎新太郎氏(右)と同じく澤野由佳氏(左)。お二人とも、有志で組織される「防災倶楽部」の一員。「こうした活動をしているうちに、家族の防災意識も自然と高まりました。自宅では、被災時トイレ用の凝固剤を100セット準備しています」(澤野氏)お話をうかがった三菱地所レジデンス 岡崎新太郎氏(右)と同じく澤野由佳氏(左)。お二人とも、有志で組織される「防災倶楽部」の一員。「こうした活動をしているうちに、家族の防災意識も自然と高まりました。自宅では、被災時トイレ用の凝固剤を100セット準備しています」(澤野氏)

参加者からの評価が高い防災訓練だが、そもそも参加率や防災意識を高めるにはそれなりの工夫が必要だろう。

どのような工夫がされているかというと、まずは情報発信を効果的に行っているそうだ。例えば、住民の関心が高い“修繕積立”の会合の後に続けて、防災関連の説明会を行うなどしているという。マンションのエレベーターに「そなえるカルタ」を掲示し注意を喚起。また、昨年行われた第1回目の防災訓練時後には、参加者たちの間で「毎日3人住民に声がけし、コミュニケーションをとる」という運動も行われたという。

その結果、初回の防災訓練の参加者が721世帯中340世帯(47%)に対し、今回は458世帯(63.5%)にまで向上した。

防災訓練はマンションの管理組合の防災担当理事が中心になって進めるが、1回目の訓練時に理事だけでは災害時は対応できないことを訴え、さらなる住民の参加を呼びかけたそうだ。初回時に2名だった防災担当も、サポーターが増えて30名体制を実現したという。

防災担当理事の安部さんと竹内さんは、今後の対策について次のように語っている。
「マンション内の防災意識はかなり向上したと思います。今回初めてブロックごとの自己紹介を行いましたが好評でした。今後はミクロの部分でブロックごとのコミュニケーション力を強化し、マクロ的視点で、近隣マンションや住戸を含めて“共助”の体制強化に取り組めればと思います」

「ザ・パークハウス 津田沼奏の杜」の防災訓練への注目度は高く、今回の訓練には隣のマンションの理事長も参加していたそうだ。

「現在のところ、我々が防災訓練をサポートしているのは、『ザ・パークハウス』をはじめ、三菱地所グループで管理をしている物件に限られています。ですが、既に防災訓練にマンション外の方が参加されるなど近隣へ伝播しています。きっと、いざという時に津田沼奏の杜の方々は自分たちの体制を整えたら地域の方々を助けに行かれるのではないかと思います」(岡崎氏)

災害時には「想定外」のことが続出するのは当然である。マニュアルでは対応できないことが多いだろう。しかし、三菱地所グループがサポートする防災訓練は単純な作業訓練ではなく、住民のコミュニケーションづくり、さらにそこから生まれる人々の知恵を大切にしている。しかも自分だけでなく周りも助けようとする動きだ。災害が頻発する現在、こうした取り組みに学び、多くの場所で取り入れられればと思う。

2016年 07月05日 11時07分