1日3500人以上でにぎわう北九州の台所

「寒かねー」「今日はなんがいると?」「これ、おいしかよ」
ひときわ冷え込んだ真冬の木曜日。昼過ぎに北九州の旦過市場を訪ねると、多くの人たちでにぎわう通路は方言が飛び交い、活気が満ちあふれていた。

「北九州の台所」と称される旦過市場。福岡県北九州市の小倉駅から歩いて7分ほどの都心部にありながら、ここだけタイムトリップしたような昭和レトロな雰囲気が漂っている。メインの通りから細い路地がいくつものびて、地元の鮮魚を中心に肉や野菜、総菜など120店が所狭しと並ぶ。代々受け継がれる店が多い中、若者がオープンしたスイーツ店、地元の大学生が運営する店などもある。市場を歩いてみると、買い物客に交じって、地元の名物を探す関西弁の女性グループや、カメラ片手にめぐる外国人観光客の姿もちらほら。日本各地の商店街が下火になる中、旦過市場には今も1日に3000~4000人ほどが訪れる。そんな旦過市場は今、再整備に向けて大きく動き出している。

旦過市場のメインの入り口。全長180メートルの通りから、横に小道がのびている旦過市場のメインの入り口。全長180メートルの通りから、横に小道がのびている

大正時代から続く市場は浸水や老朽化などが課題に

市場のメイン通りと平行に流れる神獄川。川の上に2階建ての建物が張り出している市場のメイン通りと平行に流れる神獄川。川の上に2階建ての建物が張り出している

旦過市場の歴史は、今からおよそ100年前、大正時代の初めまでさかのぼる。隣接する神獄川を行き来する船がこの地で荷をあげ、商売をしたのが始まりとされる。幹線道が近く、周囲に住宅街があったことから繁盛し、近郊から野菜や果物なども集まり、自然に市場としてにぎわうようになった。
昭和に入ると、卸と小売の機能を持つ市場として成長する一方で、小倉湾の潮が引き、船が出入りできないように。それでも魚や青果をメインに小売市場が拡大し、神獄川の上に張り出して木造店舗が建てられていった。このような店舗は、今では河川法によって新築は許可されず、大変珍しい光景となっている。

100年にわたり、多くの人に愛されてきた旦過市場。しかし、神獄川の浸水に幾度となく見舞われ、2009年と2010年は2年連続で浸水被害により営業を一時中止。老朽化した木造建築物の密集は防災上の課題があり、古くなった護岸も崩落のリスクを抱えている。

「お客さまに安心してお買い物をしていただくためには、建て替えが必要です。建て替えに関して、実は20年ほど前から市場関係者の間で話が出ていたのですが、立ち消えになって…。旦過市場には大きく3つの組合があり、店主と土地・建物の所有者など185人ほどの関係者がいて、それぞれの立場や考えがあるので。しかし2012年から市場関係者がまとまって、市場の整備に向けて本格的に活動してきました」と、旦過地区まちづくり整備委員会委員長の黒瀬善裕さんは話す。

2012年から勉強会を始め、4年後に基本計画を策定

旦過市場の再整備は、単に市場だけの問題ではない。建物が張り出している神嶽川の整備と一体的に行い、小倉都心部のにぎわいを創出し、地域の活性化を図るという大きなミッションがある。そのため、市場関係者とまちづくり関係者、北九州市で委員会を設立して、これまで5年半にわたって議論を重ねてきた。

旦過地区まちづくり勉強会が始まったのは、2012年9月のこと。10回の議論をもとに、6つの方向性を示した「旦過地区まちづくり構想案」をまとめた。2014年からは11回にわたって議論を交わしつつ、実態調査や視察などを行い、5つの施設計画を盛り込んだ「旦過まちづくり整備計画」を策定。そして2015年から16回の会議を行い、2016年6月に案を絞り込んだ「旦過地区まちづくり基本計画」を公表した。その後、市場関係者を対象に個別意向調査を行って方針を取りまとめ、2017年7月に権利者主体の「旦過地区土地建物委員会」と営業者主体の「新市場管理運営委員会」を設立。現在はこの2つの組織が中心となり、計画の実現に向けて動いている。

左上/全長180mほどのメイン通りから、横に小道がのびている 左下/2008年から北九州市立大学の学生が運営する「大學堂」。お店をしたいという学生の声に応じて、市場関係者がサポートしている 右/看板を掲げた入口が3つある左上/全長180mほどのメイン通りから、横に小道がのびている 左下/2008年から北九州市立大学の学生が運営する「大學堂」。お店をしたいという学生の声に応じて、市場関係者がサポートしている 右/看板を掲げた入口が3つある

市場関係者が真剣に話し合いを重ねて少しずつ前進

旦過地区まちづくり整備委員会委員長の黒瀬善裕さん旦過地区まちづくり整備委員会委員長の黒瀬善裕さん

2012年のまちづくり勉強会から一貫して関わってきた黒瀬さんは「この5年半、これからの旦過市場をどうしたらいいのか、市場関係者の代表が一つひとつ議論を重ね、ようやく形が見えてきました」と振り返る。この長い道のりは、まちづくりの専門家や行政がリードしたのではなく、市場関係者が仕事の都合をつけて集まり議論を繰り返し、専門家はサポートに徹してきたのだという。建物は何階建てにするか、高層住宅を上に作るか、駐車場はどうするといったハード面から、フードコートを作ってはどうか、旦過市場らしさって何か、新しい建物に昭和の雰囲気をどうやって残すのかというソフト面まで、議題は実に多岐にわたる。

2017年に実施した市場関係者185人への意向調査では、計画に賛成82%、反対4%で、どちらとも言えないが14%という結果だった。老朽化に伴う再整備は必要だが、現在の雰囲気が失われることを不安視する意見が多い。また、高齢や後継者不在を理由に、商店主の2割が再整備を機に営業をやめたいという意向をもらす。工事期間中に別の場所で営業することで、客が減ることを心配する声も根強い。

今の雰囲気を残しつつ、新しい旦過市場へ

新市場のイメージ。川の両岸に通路を整備して、メインの通路は現状の幅4mから6mに広げる予定だ新市場のイメージ。川の両岸に通路を整備して、メインの通路は現状の幅4mから6mに広げる予定だ

計画によると、現在の建物は全て取り壊し、2、3階建ての集合店舗5棟を新築。店舗面積は現在の1.2倍の6100平方メートルとなり、商店主は建て替え時に設立する事業組織から各店舗を賃借する。総事業費は約28.6億円。早ければ2018年度中の事業着手を目指し、工期は4年半を見込んでいる。

「今は一昨年に公表した基本計画に沿って動いていますが、思わぬ課題が出てきたり、さらにいいものができないかと検討したりしている最中です。食の博物館のようなものを作ろうとか、みんなで後継者を探そうとか、新たな動きもあり、これからもどんどん変わっていくでしょう。正直なところ、ここまでこぎつけるのが本当に大変でしたし、今後も難しい局面がたくさんあると思います。でも、旦過市場の関係者はみんなここが大好きで、少しでもいい形で進めたくて、ものすごく一生懸命にやっています。それに、お客さんを大切にしたい、小倉のまちに少しでも貢献できればという思いが強いんです。皆さんに新しくなって良かったねと言ってもらえるように、これからも関係者一丸となって全力を尽くしていきます。どうか再整備を見守りつつ、新しい旦過市場にご期待いただけるとうれしいです」(黒瀬さん)

2018年 03月05日 11時05分