七夕まつりでコスプレパレード

一宮で生産される繊維は「尾州織物」といわれ、ヨーロッパのテキスタイル(織物)見本市に日本代表として出展するほど品質が高い。「一宮の織物産業や歴史文化を紹介する歴史民俗資料館には、戦前につくられたモーニングが展示してあるんですが、まったく型崩れしていません。ご覧いただければ、一宮の織物技術が戦前からいかに高かったかということを確認いただけると思います」と坂川さん一宮で生産される繊維は「尾州織物」といわれ、ヨーロッパのテキスタイル(織物)見本市に日本代表として出展するほど品質が高い。「一宮の織物産業や歴史文化を紹介する歴史民俗資料館には、戦前につくられたモーニングが展示してあるんですが、まったく型崩れしていません。ご覧いただければ、一宮の織物技術が戦前からいかに高かったかということを確認いただけると思います」と坂川さん

濃尾平野の北西に位置する愛知県一宮市は、古くから「毛織物王国・一宮」と称され繊維産業で栄えてきたまちだ。

高度経済成長期の頃には、戦後の衣料不足を補うため毛織物の需要が増え、はた織り機をガチャンと動かせば万のお金が入る「ガチャ万景気」という言葉が一宮市で生まれた。

また一宮市といえば、1956(昭和31)年にスタートした“一宮七夕まつり”でもよく知られ、地方から機織りの仕事にやってくる季節労働者を楽しませた。

以来、七夕まつりは続いており、現在では毎年7月下旬に“おりもの感謝祭一宮七夕まつり”として開催されている。その第57回目となる2012(平成24)年の七夕まつりでは、一宮商工会議所が取り組む「コスチュームタウン構想」の一環として、七夕まつりでは初となるコスプレパレードが行われた。

伝統を誇る繊維のまちに、コスプレという今どきのポップカルチャーがなぜ導入されることになったのか。その経緯とこれからの「コスチュームタウン構想」の展望について、コスチュームタウン推進委員会の窓口業務を担当する一宮商工会議所の宮田さんと坂川さんに話を伺った。

90周年記念事業から始まった「コスチュームタウン構想」

お話いただいた一宮商工会議所企画事業部課長の宮田京さん(左)と、一宮出身で地元をこよなく愛する若手の坂川和繁(右)さんお話いただいた一宮商工会議所企画事業部課長の宮田京さん(左)と、一宮出身で地元をこよなく愛する若手の坂川和繁(右)さん

「コスチュームタウン構想」の始まりは2011(平成23)年までさかのぼる。宮田さんに当時の話をお聞きした。

「この年、一宮商工会議所が創立90周年を迎え、記念事業として“100周年を迎える平成33年までの10年間に一宮市がどんなまちになっているか”のアイデアを募る『未来の一宮創造プランコンテスト』を開催しました。133件の応募のなかに『繊維の町からコスチュームタウンへ』という案があり、審査員の方々の注目が集まったんです。皆さんコスプレが応募されるとは思っていなかったので、とても印象的で面白い! ということで最優秀賞に選ばれました」

最優秀賞受賞者は一宮出身で一宮在住の女性。一宮が繊維のまちであることをよく知り、誇りに思い、もともとコスプレに興味があることから「繊維の町からコスチュームタウンへ」という発想が生まれたという。

商工会議所ではこのアイデアを何とか具現化しようと、まずは名古屋発祥の世界コスプレサミット(WCS)とタイアップして「一宮七夕まつりコスプレパレード with WCS」を実施した。これが先に紹介した、2012(平成24)年に開催された “第57回おりもの感謝祭一宮七夕まつり”初のコスプレイベントである。世界20カ国から集まった代表コスプレイヤー40名と、一般から応募したコスプレイヤー約240名の参加によるコスプレパレードは盛況を博した。この際、商工会議所は取り組みを次の段階に進めるため、参加したコスプレイヤーへのニーズ調査を行った。

市民のアイデアが具現化に向けて動き出す

ニーズ調査等の結果を踏まえ、地元の繊維業関係者で構成するコスチュームタウン研究会を立ち上げ、下記のような調査・研究を実施することになった。

●コスチューム衣装の作成支援
●発表の場を提供する機能
●繊維のまち一宮市を全国にPRする構想が実現可能かどうか

委員会のメンバーがコスプレショップや撮影スタジオなどを視察。サブカルチャーの現状把握とコスチュームタウンの可能性を検討した結果、2013(平成25)年にはコスチュームタウン推進委員会が発足し、「繊維の町からコスチュームタウンへ」のアイデアは「コスチュームタウンプロジェクト」として実現に向けて動き出した。

同年7月の“第58回おりもの感謝祭一宮七夕まつり”では、コスプレパレードだけでなく尾州テキスタイル市の開催や一宮モーニングとのコラボレーション、仮装コスチューム製作セミナー、一宮市内の名所旧跡を巡るコスプレ観光モニターツアーなど多彩なイベントが行われた。

さらに、翌年の2014(平成26)年には内容の見直しを行ってプロジェクトを「コスチュームタウン構想事業」とし、恒例の七夕まつりでは、愛知県が主催する“愛知ポプカル聖地化計画”とのコラボレーションによるコスプレパレード、仮装コスチューム製作セミナーなどを行った。

コスチュームタウン研究会の活動。<br />〈左上〉第1回研究会の様子〈左下〉第2回研究会では委員会のメンバーがコスプレショップを視察した〈右〉第2回研究会の様子コスチュームタウン研究会の活動。
〈左上〉第1回研究会の様子〈左下〉第2回研究会では委員会のメンバーがコスプレショップを視察した〈右〉第2回研究会の様子

“現状維持でいい”から“変えていかなきゃ!”へ

2012年には約280名だったコスプレパレードの参加者は年々増え続け、2013年は約350名、2014年は約450名、そして2015(平成27)年は最多となる約600名のコスプレイヤーが参加して一宮のまちに賑わいをもたらした。

近年、経済情勢や輸入製品の流入などの影響を受けて繊維産業は斜陽産業といわれるほど勢いを失い、毛織物王国・一宮もどこか精彩を欠くようだった。だが、コスプレという新たな文化に可能性を見出し、伝統産業との共存によるまちの活性化に向けて進み始めている。子どもの頃から一宮で育ってきた坂川さんは、まちの変化についてこう話す。

「以前は先行きが見通せないというか、特に新しいイベントもなく、行事はずっと前年踏襲でどうなるのかな…と思っていました。でも、4、5年前からコスプレなど新しい方向性を模索し始め、まちに活気が出てきたように思います。私たち市民の意識も“現状維持でいい”から“変えていかなきゃ!”に変化していますし、コスチュームタウン構想をもっと全国にPRして、“毛織物王国・一宮”の頃の活気をもう一度取り戻したいですね」

2015(平成27)年の「第60回おりもの感謝祭一宮七夕まつり」でのイベントの様子。<br />〈左側〉ステージイベント〈右側〉コスプレパレード2015(平成27)年の「第60回おりもの感謝祭一宮七夕まつり」でのイベントの様子。
〈左側〉ステージイベント〈右側〉コスプレパレード

課題を克服しながら新たな取り組みを

事業を着々と推進するコスチュームタウン推進委員会では、現在、課題の克服と新たなプランの実現に向けて取り組んでいる。

課題というのは、一宮産の高品質な生地が、コスプレイヤーが求める生地と一致していないということだ。2013(平成25)年・2014(平成26)年の七夕まつりの際に実施した仮装コスチューム製作セミナーで、その課題が浮き彫りになった。

「コスプレイヤーの方たちが着る衣装というのは、薄手で光沢のある扱いやすい生地です。でも一宮産の生地は毛織物なので、しっかりしていてコスプレイヤー向けではなかったんですね。コスチュームを一から作る“仮装コスチューム製作セミナー”への意見も二極化していて、2年連続で参加するほど関心を示す人もいれば、一から作るのは大変だから…と参加されない方もいました」(宮田さん)

コスプレイヤーに一宮産の生地の魅力を知ってもらうため、七夕まつりで見本市を開くなど地道にPR活動を行っているものの、今のところ課題克服の対策を模索中だという。

一方、新たなプランのほうは2016(平成28)年に実現する予定だ。一宮市内には名所旧跡やモーニングで評判の飲食店などが数多くあるので、コスプレ姿のまま入店や撮影ができる店を調査し、それを記した散策マップを作成中だという。

毛織物王国・一宮には、幾度となく時代の荒波を乗り越えてきた底力がある。ポップカルチャーを取り入れたまちが10年後にどんな姿になっているのか、一宮市民でなくてもとても楽しみだ。

【取材協力】
◆コスチュームタウン推進委員会



◆一宮商工会議所




【関連リンク】

◆第61回おりもの感謝祭一宮七夕まつり[2016年7月28日(木)~31日(日)]




◆愛知ぽぷかる聖地化計画


〈左上〉衣装セミナーでの制作風景。完成後、制作者が手づくりの衣装を身につけてステージで披露した<br />〈左下〉尾州テキスタイル市の様子<br />〈右上〉観光モニターツアーの様子。コスプレイヤーたちが個性的なスポットでポーズを決めて撮影〈左上〉衣装セミナーでの制作風景。完成後、制作者が手づくりの衣装を身につけてステージで披露した
〈左下〉尾州テキスタイル市の様子
〈右上〉観光モニターツアーの様子。コスプレイヤーたちが個性的なスポットでポーズを決めて撮影

2016年 06月09日 11時05分