震災復興、まちづくり、建物再生、子どもたちの生きる力…
数々のキーワードをもつMORIUMIUS(モリウミアス)

東北新幹線で、東京から仙台、さらに在来線で石巻…ここからの公共交通機関はなく、車で石巻から北上川を北上し、釜谷トンネルをぬけて約1時間ほどかかる場所が宮城県石巻市雄勝町である。雄勝町は、緑が生い茂る山と、入り組んだリアス式の海の対比が美しい風光明媚なまちだ。

宮城県石巻市という場所を聞けば、誰もが2011年3月11日のその地で起こった東日本大震災の地震と津波の被害を思わずにいられない。石巻市の中心街は高台を除くほぼ全域が津波に襲われ、死亡者2038名、行方不明者377名もの被害を受けた。中心地区以外でも、雄勝、牡鹿、河北、北上の被害は大きく、全体で死者数:3282名、行方不明者:699名(2012年11月データ)という被害となっている。

石巻市雄勝町桑浜…高台の山の中腹に1923年に設立された旧桑浜小学校はある。雄勝町の名産品である硯石のスレートが屋根材としてあしらわれた築93年の木造の小学校である。残念ながら少子化により2002年3月に閉校となっていた。

この場所に複合体験施設、MORIUMIUS(※以下、モリウミアス)はある。
今回、モリウミアスのフィールドディレクターである油井 元太郎さんに設立の背景とその理念をお聞きしてきた。

緑が生い茂る裏山に映えるモリウミアスの建物。築93年の木造の校舎がリノベーションして使われている緑が生い茂る裏山に映えるモリウミアスの建物。築93年の木造の校舎がリノベーションして使われている

復興支援をきっかけに始まった「新たな再生」

モリウミアス フィールドディレクターの油井元太郎さん。2011年の震災直後から石巻市にボランティアとして通い、2013年にキッザニアを離れ、2015年7月にモリウミアスをオープンさせたモリウミアス フィールドディレクターの油井元太郎さん。2011年の震災直後から石巻市にボランティアとして通い、2013年にキッザニアを離れ、2015年7月にモリウミアスをオープンさせた

東日本大震災で被害を受けた地域は、一様に震災からの復興と新たなまちづくりをせまられていた。油井さんに伺うと、モリウミアス設立のきっかけも復興支援から始まったようだ。

「実は、友達だった立花(立花 貴氏:公益社団法人MORIUMIUS代表理事)が仙台の出身で、震災後“なんとかしなくては”と各地の避難所を回り物資を運んだり炊き出しをしていました。僕たちもその手伝いをしていたんです。その中でも雄勝町は石巻からも遠く、なかなか手がまわらない避難所の一つでした。手伝いをしているうちに雄勝中学校の校長と出会い、震災後パンと牛乳のみだった学校給食を“子供たちにちゃんとした食事をさせてあげたい”という思いを受け取り、仙台から100食分の学校給食を届けることから地元の方々との関係がはじまりました。行き来するうちに地域の住民の方から、廃校となった小学校があることを聞いたんです。

実は僕は、アメリカの大学を卒業後マスコミを経て2004年にキッザニアを導入する会社の設立に関わりました。キッザニアでは、仕事を体験することで楽しく社会や生きる力を学んでいく教育に力を入れていました。しかし、その中でも第一次産業である農業や漁業の体験学習は、つくられた空間の中で行うには限界があるな、と感じていました。また、一方で自然の厳しさや豊かさを本当の環境で体験する必要性も強く感じました。

また、僕は2001年、ニューヨークで起こった同時多発テロの経験をしています。当時はテレビ局に勤めていたので、毎日のように不安を抱えながらニューヨークの人々の状況を報道していました。"生きること"に向き合うようになったきっかけだったと思います。

代表理事の立花がちょうど、地元の方々と新しい漁師たちの会社を起ち上げたところでしたし、ここには豊かな海も山も森もある…。廃校になった小学校を見て、ここを拠点に子供たちのための複合体験施設をつくり、子どもたちが集まる拠点にするべきだ、と思ったんです」(油井さん)。

こうして、復興支援がきっかけとなり、廃校の再生と活用に取り組むことになったという。

「自然と共生し、生きる力を育む場所へ…」
建物の再生にも活かされているコンセプト

“自然と共生し、生きる力を育む場所へ”というコンセプトは、多くの支援者を動かし、建物再生と施設設立に係る費用や、企業ボランティアを含む多くの人達の手も借りられた。校舎のリノベーションには、カタールフレンド基金からも支援を受けられている。

モリウミアスのコンセプトは建物そのものの再生にも反映されている。築93年の木造建築ではあったが、それでも旧桑浜小学校は雄勝の職人の技が感じられる魅力ある建物であった。小学校の屋根は、復元された東京駅の丸の内駅舎の屋根にも使用された雄勝町特産の雄勝石の硯スレート材が使われており、微妙な色合いと光沢をもつ瓦は絵本に出てきそうな魚の鱗のような屋根に見える。この建物を複合体験施設として使用するため、大規模な改修作業を行った。

「2013年4月にこの学校を取得してから、ワークショップなどを行い大規模な改修を始めました。大規模…とはいっても、建物の歪みをジャッキアップをして立て直し、梁は活かしながら耐震補強を施し、もともと使われていた屋根の硯スレートや基礎の木材はなるべく活かしたリノベーションを施しています。新しく建替えた方が、手間もコストもかからなかったのかもしれません…が、それではモリウミアスの施設としてふさわしいものでなくなる、と思いました。

デザインワークショップには、建築家・隈研吾氏や手塚貴晴氏をはじめ東大やスタンフォード大など多くの建築学生にも参加してもらいました。話し合いの中から、"自然と共生する"コンセプトにふさわしく裏山と一体となるように廊下側の壁を取り払い開放的な設計にしています。これによって、壁で閉ざされていた廊下は、裏山からの陽の光と緑の陰が感じられる廊下となっています」。

廊下側の壁は取り払われ、裏山からの光と風を感じられるリノベーションに。明るく開放的な雰囲気となった廊下側の壁は取り払われ、裏山からの光と風を感じられるリノベーションに。明るく開放的な雰囲気となった

“サスティナブル”な施設の仕組み

モリウミアスは「サステナビリティ(持続可能性)」を大切にしている。施設の運営にもその考え方が取り入れられている。

例えば、施設で使われるエネルギー。建物の床暖房やお風呂のお湯などは、裏山などで採取した木片や枝を薪として使い、ウッドボイラーで燃やすことで賄っている。また、今後は電気なども自家発電を検討しており、施設で使われるエネルギーについては、ほぼすべてを施設内での仕組みで賄うことを考えているという。

また、校庭には体験でも教材で使われる池(ビオトープ)と田んぼがあるが、ここに使われる水はモリウミアスの施設で出た生活排水を再利用している。微生物の働きによって有機物を分解し、水をきれいにするバイオジオフィルターを使って生活排水を浄化し、池の生き物と田んぼの植物を育てているのだ。

モリウミアスの裏山には豚小屋があり、そこで有難豚という豚を育てて、出荷もしている。この豚は宮城県名取市で津波の被害に遭い、養豚場の多くの豚が流されてしまったが、その中で奇跡的に生き延びた豚の血を引いている。この豚の餌はモリウミアスの施設から出た食事の残飯や生ゴミ、裏山の植物だという。ゆったりとした環境で、ストレス無く育った豚は脂がのり、肉質がきめ細かく、“おいしい”と好評なようだ。また、暮らしの中で出る生ゴミはコンポストで分解され、野菜や米を育てるための堆肥として使用されている。

自家エネルギー、生活排水の再利用、生ごみの再生による堆肥と豚の餌、それがまた食べ物をつくる…建物や施設の運営に、自然を活かしながら循環する仕組みが取り入れられている。

今回は、モリウミアスの建物にフォーカスしてお届けした。
次回は、子どもたちのための複合体験施設のプログラムを紹介するとともに4月16日17日に行われた実際の体験プログラムの様子をお伝えしたい。

取材協力:モリウミアス http://www.moriumius.jp/

建物の端には新しくお風呂が作られた。煙突から煙が上がるのどかな光景(写真左上)</br>地域やボランティアの方々と一緒に作られた露天風呂。晴れた日の夜には星を見ながらの入浴が可能に(写真右上)</br>お風呂や暖房につかわれる薪の薪割は子ども達も参加するという(写真右中)</br>校庭に作られた田んぼと池のまわりには、生活排水を浄化するバイオフィルターが敷かれている(写真左下)</br>モリウミアスで飼われている「有難豚」。育てられた豚は出荷され、今は母親になる豚だけが飼育されている(写真右下)建物の端には新しくお風呂が作られた。煙突から煙が上がるのどかな光景(写真左上)
地域やボランティアの方々と一緒に作られた露天風呂。晴れた日の夜には星を見ながらの入浴が可能に(写真右上)
お風呂や暖房につかわれる薪の薪割は子ども達も参加するという(写真右中)
校庭に作られた田んぼと池のまわりには、生活排水を浄化するバイオフィルターが敷かれている(写真左下)
モリウミアスで飼われている「有難豚」。育てられた豚は出荷され、今は母親になる豚だけが飼育されている(写真右下)

2016年 05月30日 11時05分