女性の視点を新しい手法で政策形成に取り入れる取り組み

上)講演会で「としまF1会議」の特色について語る萩原なつ子氏。下)講演会当日はF1会議のメンバーだった女性も出席。多くの気づきを得られた体験だったと語った。萩原氏によると、F1会議がきっかけになって地域活動に取り組むようになったり、区政に関する審議会のメンバーになった女性も少なくないという上)講演会で「としまF1会議」の特色について語る萩原なつ子氏。下)講演会当日はF1会議のメンバーだった女性も出席。多くの気づきを得られた体験だったと語った。萩原氏によると、F1会議がきっかけになって地域活動に取り組むようになったり、区政に関する審議会のメンバーになった女性も少なくないという

立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科教授・萩原なつ子氏による講演会『女性が暮らしやすいまちづくり-消滅可能性都市から持続発展都市へ-』のレポート記事2回目。

2014年5月、民間の有識者団体「日本創生会議」から東京23区で唯一、「消滅可能性都市」と指摘された豊島区。消滅阻止に向けて「女性が暮らしやすいまちづくり」をめざすために、2014年8月から2015年3月まで設置されたのが「としまF1会議(以下F1会議)」だった。F1会議とは前回記事でご紹介したように、子育て世代である20歳~30歳代の女性を中心にした区民で構成されたものだ。が、F1会議は単なる意見交換会ではなかった。メンバーが6チームに分かれて検討や調査・研究を重ね、「提案が施策に反映され、事業化されること」を目標としたことに特色がある。そのF1会議で座長を務めた萩原氏によると、「女性の視点を新しい手法で政策形成に取り入れる」取り組みだった。

今回は、F1会議の提案がどう区政に取り入れられたのかを中心に、講演会レポートをお伝えしたい。

F1会議の提案から区の事業として11事業が取り入れられた

2015年5月に開庁した豊島区役所新庁舎。F1会議の提案を取り入れ、新庁舎の1室を会議室から子育て相談・情報スペースに変更。妊娠・出産から子育てまで、相談に対応する子育てナビゲーターを配置している2015年5月に開庁した豊島区役所新庁舎。F1会議の提案を取り入れ、新庁舎の1室を会議室から子育て相談・情報スペースに変更。妊娠・出産から子育てまで、相談に対応する子育てナビゲーターを配置している

前回記事でも記述しているが、「F1」の「F1」のネーミングには「F1レースのようにスピード感をもって取り組む会議」という意味が込められている。それには理由があった。
「F1会議の目標は、提案が施策に反映され、事業化されること。それには豊島区の事業予算を決める秋に具体的な提案を行なわなければなりません。F1会議は8月スタートですから、予算策定の時期に間に合うよう、スピーディに検討を進める必要がありました」と、萩原氏は語った。

6チームが練り上げたプランは、2014年12月、「持続発展都市推進本部」の席で高野区長に提出。そうして2015年2月に開催された「としまF1会議報告会」で、11事業が2015年度の区の事業として行なわれると発表された。F1会議スタートからわずか半年後のことだった。計上された予算額は8800万円。

その11事業とは、子ども支援公園施設設備等モデル事業の創設、子どもスキップ事業(新一年生応援保育実施施設の増設)、としま100人社長会開催(ワーク・ライフ・バランス推進事業)、女性のための起業支援、広報としま(区報)の刷新、空き家の活用など。豊島区といえば、2015年5月に豊島区役所の新庁舎移転を行なっているが、F1会議からの提案を取り入れた11事業のなかには、新庁舎移転と関連するものもある。
「旧区役所の庁舎は、すぐ近くに池袋保健所がありました。ところが新庁舎に移転することで、保健所との距離が遠くなって困るという意見が、F1会議のメンバーから出たのです。女性は妊娠・出産で、さまざまな届け出が必要になったり、保健指導や健康診断などで、区役所と保健所に足を運ぶ機会が多くなるのです。そこでF1会議で出したのは、新庁舎でも母子手帳の交付が受けられるようにしたいという提案。それが反映され、新庁舎に保健所の出張窓口が設置されることになりました」と、萩原氏は言う。また、F1会議の提案によって、新庁舎には子育てナビゲーターも新設された。

空き家の活用については、2014年7月から始まっているリノベーションまちづくり事業を拡充する形で約2900万円が充当された。ちなみに豊島区のリノベーションまちづくり事業の一環には、リノベーションスクールの開催がある。空き家のオーナーから提供された空き家を対象に、リノベーション業界で活躍するユニットマスター(講師)と、全国から集まる受講生が一緒になって具体的なリノベーションの事業プランを作成し、事業化につなげていくという試みだ。2015年3月に都内初のリノベーションスクールが開催され、9月には第2回リノベーションスクールが実施された。

F1会議のメンバーと豊島区職員とが連携・協力

F1会議からの提案を受け、試行的に雑誌スタイルで発行された広報紙(2015年10月1日号)。A4サイズでオールカラー計16ページ。誌面の文字は大きめで、写真やイラストがふんだんに使われているF1会議からの提案を受け、試行的に雑誌スタイルで発行された広報紙(2015年10月1日号)。A4サイズでオールカラー計16ページ。誌面の文字は大きめで、写真やイラストがふんだんに使われている

このように地域に住む若い女性の意見が直接、区の予算に反映されたのは、全国的にも画期的なことだ。そうした“結果”もさることながら、萩原氏自身、事業化までのプロセスで大きな手応えを感じていたという。
「若い女性たちといっても多様な人がいて、多様な考え方、多様な視点があることを私自身、あらためて学ばせていただきました。そして、彼女たちは私が予想していた以上に豊島区に対する想いを熱心に語ってくれました。驚いたのは、F1会議の開始1時間ほど前から集まってチーム内でディスカッションをしたり、終わった後も残ってディスカッションを続けていたことです。“私たちの力で豊島区をよくしたい!”という強い意気込みを感じました」と、萩原氏。それと同時に「行政側が女性にやさしいまちづくりを掲げていても、当事者である若い女性たちが自由に意見を交換できる場がなかったんだなと実感しました」とも打ち明けた。

もうひとつ、萩原氏がF1会議の大きな収穫としていることは行政と一般市民が協働してまちづくりに取り組めるという道を拓いたこと。このF1会議には豊島区役所の職員もメンバーやアドバイザー委員として関わっていたことで、F1会議で出た意見がすぐに区役所の業務に反映されたケースがあったという。例えば、豊島区の広報メディアである区報やホームページ。F1会議のメンバーから「もっと読みやすく、見る気が起きる区報やホームページを」との意見に対応し、見直しがされたという。萩原氏は、「区の職員もいい意味で緊張感をもち、メンバーたちと本気になって議論し、意見交換を重ねました。行政は地域住民にサービスを提供し、地域住民はサービスの受け手ということではなく、行政も地域住民も一緒にまちづくりをしていける。そういう可能性を感じました」と、語った。

F1会議は先進的な事例として他の自治体からも注目されているというが、「豊島区が消滅可能性都市から脱却するためのスタートにすぎません。F1会議のような取り組みを継続させていくために市民、企業、行政などさまざまな主体が協働していくことが重要です。また、2015年度にF1会議からの提言を取り入れた事業に関しては豊島区としてチェックを行ない、評価する必要があると思うし、F1会議のメンバー自身も事業のその後をみていく必要があると思います」と、萩原氏は締めくくった。

豊島区はこれからどう変わっていくのか? 実は筆者は豊島区民である。区民としてどんなことができるのか? 自分自身も考えてみなければと感じたとともに、市民協働のまちづくりとはどういうことなのか、体系的にわかりやすく知ることができた講演会だった。

☆取材協力
立教大学 教学連携課(「池袋学」事務局)
http://www.rikkyo.ac.jp/

2016年 01月15日 11時07分