区内の女性の意見を区政に取り入れようと「としまF1会議」を設置

池袋駅東口駅前。池袋にある東京芸術劇場と立教大学では、「池袋学」と題して文化や都市研究などさまざまな視点で地元池袋にスポットを当てた連携講座を開催している。今回取材をしたのはその連携講座のひとつ池袋駅東口駅前。池袋にある東京芸術劇場と立教大学では、「池袋学」と題して文化や都市研究などさまざまな視点で地元池袋にスポットを当てた連携講座を開催している。今回取材をしたのはその連携講座のひとつ

2014年5月に民間の有識者団体「日本創生会議」が発表した「消滅可能性都市」。東京23区で唯一、豊島区の名前が挙がっていたのが大きな話題になったことは記憶に新しい。1日の利用客が約260万人という巨大ターミナル池袋駅をもつ豊島区が将来的に消滅の恐れがあるとは信じがたいのだが、2040年までに20歳~39歳の女性の転入が大幅に減ると予測されたことが「消滅可能性」と見なされた要因という。

そうした発表を受け、危機意識をもった豊島区。高野之夫区長を本部長として「消滅可能性都市緊急対策本部(現在は持続発展都市推進本部)」を立ち上げ、対応策を検討したのだった。その重要な柱となったのが、「女性が暮らしやすいまちづくり」を推し進めること。そして、子育て世代の女性の意見やニーズをまちづくりに取り入れるために2014年8月から2015年3月まで設置されたのが「としまF1会議(以下F1会議)」だった。区内の20歳~30歳代の女性を中心にした32人のメンバー構成によるもので、座長を務めたのは立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科教授・萩原なつ子氏。

その萩原氏による講演会『女性が暮らしやすいまちづくり-消滅可能性都市から持続発展都市へ-』が立教大学太刀川記念館3階ホール(東京都豊島区)で開催されたので、取材に出向いた。F1会議とはどういう取り組みで、消滅阻止をめざす豊島区にとってどのような成果が得られたのか? 講演会ではF1会議の設置からメンバーの意見が区政に反映されるまでのプロセスを振り返りながら、女性が暮らしやすいまちづくり、市民協働のまちづくりの可能性について語られた。

当事者意識をもって本気で取り組んでくれる女性を集めたい!

「としまF1会議」のキックオフイベントとして開催された「としま100人女子会」の様子は、このような冊子にまとめられている

「としまF1会議」のキックオフイベントとして開催された「としま100人女子会」の様子は、このような冊子にまとめられている

萩原氏は環境社会学、ジェンダー研究、市民活動論を専門とする社会学者で、立教大学の教授であるとともに、認定特定非営利活動法人日本NPOセンター副代表理事でもある。文部科学省、内閣府などの男女共同参画の取り組みや、多くの自治体の地域づくりイベントにも関わってきた。そんな萩原氏は座長としてF1会議に関わる際、「なによりこだわったのはプロセスデザインでした」と話した。プロセスデザイン、つまり、F1会議全体をどう進めていくかといったプログラムづくりである。「豊島区の担当者から座長のお声がけをいただいたとき、単なる審議会形式の会議にはしたくないと私は考えました。行政側が女性の意見を聞き置くというものではなく、めざしたのは豊島区の施策として具体的で実現可能な提案をする会議でした」と、萩原氏。ちなみにこの会議の名称となったF1とは、広告・放送業界のマーケティング用語で20歳から34歳までの女性のことを指す。さらに「消滅」とは異なる豊島区の未来「Future」のために、そして、F1レースのようにスピード感をもって取り組む会議にしたいという思いも込められていると萩原氏は語った。

では萩原氏がこだわり、萩原氏自身が手がけたプロセスデザインとはどのようなものだったのだろう。講演会では「まず、F1会議のメンバーの決定について、こだわりました」と、萩原氏。さらにこう続けた。「豊島区の住民として、当事者意識をもって取り組んでくれる女性たちを募りたいと思いました。豊島区を自分の力で変えたいと心から思っている女性たちです。そのためにまず、豊島区内から希望者100人を集め、彼女たちがどんなことに困っているのか、どんなニーズがあるのか、素直な声を聞いてみようということで、F1会議のキックオフイベントを開催しました。それが2014年7月に開かれた“としま100人女子会”です」。豊島区の区報やホームページを通じ、在住・在勤・在学の20歳以上の女性の参加者を募集したところ、予想以上に早いペースで応募が集まったという。

「としま100人女子会」はワールド・カフェ形式(※)で行われ、参加者たちは豊島区のイメージや現状、課題、どんなまちにしたいかなど自由に意見を出し合った。子育て事情、住まい、地域のつながりについてなど、さまざまな意見が挙がったという。そうしてF1会議は、「としま100人女子会」の参加者から19人、そして区内の子育て団体関係者やワーク・ライフ・バランス推進認定企業勤務者などを加えた合計32人のメンバー構成となった。

(※)ワールド・カフェ
カフェのようにリラックスした雰囲気で、テーマに沿った対話を行う。メンバーの組み合わせを変えながら、4~5人のグループで話し合いを続けることにより、参加者全員が話し合っているような効果が得られるという対話の手法。ビジネスの場や、市民活動、政治、教育などさまざまな分野で活用されている。

区の施策として実現可能な提案をするために調査・研究を行なう

萩原なつ子氏はトヨタ財団アソシエイト・プログラム・オフィサー、宮城県環境生活次長などを経て、2006年より現職。幅広いネットワークを活かし、さまざまな分野で斬新なイベントを手がけている萩原なつ子氏はトヨタ財団アソシエイト・プログラム・オフィサー、宮城県環境生活次長などを経て、2006年より現職。幅広いネットワークを活かし、さまざまな分野で斬新なイベントを手がけている

プロセスデザインで2点目に注力したことは、「議論するテーマはF1会議のメンバー自身が決定すること」だった。「としま100人女子会」では合計643件もの意見が集まり、それらを踏まえて子育て、まちづくり、ワーク・ライフ・バランス、広報、都市ブランディングなどの分野別にチーム編成を行い、6つのチームに分かれて施策案の検討を重ねることになった。が、ただ単にメンバーが会議に出て意見交換をするだけではなく、「調査・研究を実施すること」としたことも、F1会議のプロセスデザインの特色だ。
「F1会議は2014年8月から11月まで5回に渡って実施されましたが、区の予算を獲得できるような施策案を出すには、裏づけのある当事者目線の提案をする必要があります。そのためにメンバーのみなさんには検討分野について、調査・研究をしていただきました」と、萩原氏。各チームで調査・研究を重ね、その報告をF1会議の場で行ない、他のチームのメンバーとも意見を闘わせながら具体的で精度の高い提案を生み出していくことをめざした。

「空き家・空き店舗の活用」について調査・研究したチームも

F1会議で「としまの街づくり」を検討テーマに設定したチームは、区内の公園の調査も実施。写真の池袋西口公園は、F1会議メンバーの公園調査では5段階評価の3だったF1会議で「としまの街づくり」を検討テーマに設定したチームは、区内の公園の調査も実施。写真の池袋西口公園は、F1会議メンバーの公園調査では5段階評価の3だった

調査・研究の内容はさまざまだ。例えば子育て分野を検討するチームでは「親が働いている小学生の居場所」を研究テーマに、他の複数の自治体の子育て支援制度を調べて現地に足を運び、担当者の話を聞くといった活動を行なった。加えて、当事者の生の声を聞くために自らワールド・カフェを開催したという。また、「としまの街づくり」を検討するチームでは、「住む・育てる・働くができる街のコミュニケーションの場としての公園」を研究テーマに区内の公園の現地調査をしてランク付けをしたり、「空き家・空き店舗を活用して女性が住みやすい街に!」をテーマにした調査も実施した。総務省統計局の「2013年住宅・土地統計調査」によると、豊島区の空き家率は15.8%と東京23区内で最も高いという結果が出ていて、空き家問題は「としま100人女子会」でも多くの女性が関心を寄せていた課題だった。F1会議のメンバーたちは、空き家を活用した店舗開業事例や、カスタマイズ賃貸住宅に改修した事例のヒアリング調査、さらには地域ぐるみでリノベーションに取り組む北九州市まで出向いて関係者へのインタビューを行なったという(費用は自費とのことだった)。

調査・研究の一環では豊島区の現状や課題を知るために、区役所の関係部署へのヒアリングも行なったという。「これまでにない施策を提案するためには、今現在豊島区ではどういう施策を行なっているのかを知る必要がありました。そうした調査はF1会議のメンバーにとっては“豊島区って案外、いろいろなことをやっているんだ”という発見にもなっただろうし、区役所の職員にとっては住民のニーズを直接聞くよい機会になったと思います。そうした行政との連携・協力があって初めて、本当の意味で豊島区のためになる提案ができるのです」と、萩原氏は話した。そして、この「行政との連携・協力」も、F1会議におけるプロセスデザインの核になっているという。それは、「区役所の職員もF1会議メンバーとして参加すること」。「区の職員も豊島区在勤の人たちですから、この区をよくするために考えて行動する“主体”になっていただきたいと考えました」との萩原氏の発案により、区の職員2人がF1会議のメンバーになり、また6人の職員がアドバイザー委員として加わった。

それではこのF1会議からどのような提案が生まれ、豊島区の施策にどう反映されたのだろう?
次回も引き続き、萩原氏の講演会レポートをお届けしたい。


☆取材協力
立教大学 教学連携課(「池袋学」事務局)
http://www.rikkyo.ac.jp/

2016年 01月08日 11時00分