「消滅」が意味することは何か

「2040年に豊島区が消滅する」
2014年5月8日に発表された推計がマスコミやネットを賑わせた。増田寛也元総務相を座長とする「日本創成会議」がまとめたものだ。20歳〜39歳の「若年女性人口」が、2010年から2040年までの30年間で半数以下になる自治体を「消滅可能性都市」として集計したところ、896市区町村(全体の49.8%)に達するという。この中に、東京23区では唯一「豊島区」が入ったことから大きな話題となった。

もちろん、2040年になったら自治体がいきなり消えてなくなるわけではない。出産全体のうち約95%を占める「20〜39歳の女性」の人口が50%以上減少すれば、出生率が上昇しても人口の維持は困難となり、そのまま人口減少が続いてやがては消滅の危機に直面する。その分かれ目となる「50%減」のラインを2040年までに超えるのが896市区町村ということだ。

ネットやマスコミ記事では見出しが目立つように「2040年に消滅」などと書かれたものが多くみられたが、決してそのような意味ではない。だが、この結果を真摯に受け止めなければならないことに変わりはないだろう。ちなみに大阪市中央区・大正区・浪速区・西成区・住之江区、神戸市須磨区などもこの「消滅可能性都市」に含まれている。

巨大ターミナル駅「池袋」のある豊島区が消滅するなんてことは……!?巨大ターミナル駅「池袋」のある豊島区が消滅するなんてことは……!?

「不都合な真実」に無関心ではいられない

日本創成会議による推計は「地方から大都市圏への流入がおおむね現在の水準(毎年6〜8万人程度)で続く」という仮定のもとで行われている。これに対して、国立社会保障・人口問題研究所が2013年3月に発表した将来推計人口は「人口移動率が将来的には一定程度に収束すること」を前提としている。したがって、人口が流入する側の大都市圏からみれば、国立社会保障・人口問題研究所の推計よりも日本創成会議の推計のほうが、人口減少のスピードは緩やかだ。

2010年から2040年にかけて、豊島区の若年女性人口変化率は国立社会保障・人口問題研究所の推計で55.8%減、日本創成会議の推計で50.8%減となっている。つまり、1年以上前にもっと厳しい数字が突きつけられていたわけだが、そのときはほとんど世間の話題にすらならなかった。今回の推計で「消滅」という言葉が使われたために「豊島区民の怒り爆発」というような報道もみられたが、住民や自治体の関心が高まったことは確かだろう。

これまで真剣に受け止める人の少なかった現実に、改めて目を向けさせたのが今回の日本創成会議による推計だ。その公表資料においても『眼前に迫っている「不都合な真実」とも言うべき事態を、国民が正確かつ冷静に認識することからすべては始まる』としている。

豊島区は消滅しないが……243市町村は「消滅可能性が極めて高い」

2040年時点における豊島区の総人口は、日本創成会議の推計によれば272,688人、国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば271,415人であり、もし仮に「消滅」するとしても来世紀のことだろう。巨大ターミナル駅の「池袋」を抱える自治体であり、これから人口流入が加速することも考えられる。推計の起点となっているのは2010年だが、さまざまなメディアが実施する「住みたい街ランキング」のようなアンケートでは、ここ1、2年で「池袋」が急上昇している。「文化・芸術」によるまちづくりの取り組みも功を奏しているようだ。しかし、問題とされているのは若年女性人口の減少であり、その流れを緩和するための対策はこれから強く推し進めていかなければならないだろう。

大都市圏の都心部に近い自治体であれば、さまざまな対策や住民活動によって将来像を大きく好転させることも可能である。しかし、それは反面で地方圏の市町村の衰退を加速させることにもなりかねない。「豊島区は消滅しない」としても、現実問題として消滅の危機に直面する市町村は全国に数多く存在するのだ。とくに、2040年時点で人口が1万人を切ると推計された243市町村は「消滅可能性が極めて高い」と考えられている。

政府は2014年秋の臨時国会に提出する「地方創生基本法案」に、「2060年の人口1億人」を維持するための長期ビジョンを盛り込むようだが、そのためには現在の出生率を大幅に引き上げることが必要であり、実現のハードルはかなり高いといえよう。

よほど実効性のある対策が打ち出されたり、子育て環境が格段に良くなったりしないかぎり、今後の日本において人口減少は避けがたい現実であり、市町村の生き残りを懸けた戦いが始まっているともいえるだろう。厳しい表現をすれば「市町村間における住民の奪い合い」だ。

住民の誘致に取り組む自治体は多い

当面は人口減少の影響が小さいと見込まれる大都市圏の自治体でも、子育て世帯を増やすことには熱心である。単身者が増えるだけなら、やがて深刻な超高齢化問題に直面しかねないためだ。賃貸住宅を対象として、東京都新宿区、豊島区、目黒区、北区が「子育てファミリー世帯家賃助成」を実施しているほか、「ひとり親家庭住宅費助成」(東京都武蔵野市)、「新婚、子育て世帯向け家賃補助」(大阪府堺市)などもある。

持ち家の取得支援策(利子補給や融資あっせんを含む)を実施している区市町村は比較的多く、たとえば東京都千代田区の「親元近居助成」や「子育て世帯向け区内転居助成」、東京都北区の「親元近居助成」や「3世代住宅建設助成」、大阪府高槻市の「3世代ファミリー定住支援」などのほか、大阪市には「新婚・子育て世帯向け分譲住宅購入融資利子補給」がある。

もちろん、大都市圏の郊外都市や地方都市でも積極的に取り組んでいるところは多い。神奈川県南足柄市の「空き家取得費助成制度」は、空き家バンクを利用して市外から転入する子育て世帯に最大50万円を助成するものだ。三重県鳥羽市の「定住応援事業」では新築住宅の取得に100万円、中古住宅の取得に50万円の助成をしている。また、岐阜県本巣市の「移住・定住促進制度」は市内の一定地域へ移住・定住する「転入者」に対して最高100万円を補助するものである。その他にも千葉県匝瑳市の「転入者マイホーム取得奨励金」制度や大阪府河内長野市の「子育て・若年夫婦マイホーム取得補助」制度、鳥取市の「UJIターン住宅支援事業」など、転入者や子育て世帯を対象とした制度を導入している市町村も多いだろう。

さらに、宇都宮市、富山市、金沢市、福井市、甲府市など、中心市街地(まちなか)への居住を促進するための助成・支援制度を設けている都市もある。住宅を購入する際には、それぞれの市区町村で適用を受けられる制度がないか、あらかじめしっかりと確認しておきたいものだ。

しかし、消滅の危機が深刻な自治体ほど財政面の余裕がなく、効果的な住民の誘致策が実施できないこともある。国がどのような対策を打ち出していくのか、さらに国民の意識をどう変えていくのか、これからの時代において大きな課題である。

2014年 09月15日 12時15分