広島最大の繁華街の一角で進む再開発事業計画

広島市の中心市街地である「紙屋町(かみやちょう)・八丁堀(はっちょうぼり)」エリア。広島の行政・経済の中枢として、江戸時代から長きにわたり地域を支えてきた地域だ。現在、紙屋町・八丁堀エリアでは複数の再開発事業が計画されている。その中でも注目なのが「本通3丁目地区市街地再開発事業」だろう。

紙屋町・八丁堀エリアは、江戸時代に広島城の城下町だった。本通は同エリアの南部に位置し、城下町の中で商業の中心として繁栄した場所。東西に西国街道が通り、街道周辺に商人が集まり、商売を始めたのが起源である。

明治時代以降も広島の商業の中心になり、西国街道は「広島本通商店街」として、広島を代表する繁華街となった。広島本通商店街は東西に約577mの規模で、1日平均約10万人の人通りがあるという。この、多くの人が行き交う一大商業地帯の一角で、大規模な再開発が予定されている。

事業計画地 位置図(出典:広島市公式ウェブサイト)事業計画地 位置図(出典:広島市公式ウェブサイト)

広島市は「楕円形の都心づくり」を目指している。広島駅周辺を「東の核」とし、一方で、再開発予定地がある紙屋町・八丁堀エリアは「西の核」として位置づけられている。

紙屋町・八丁堀エリアは西側を南北に太田川が流れ、平和記念公園もある。エリアの北側には広島城があり、周辺は県庁や警察本部などの官公庁、サッカースタジアムや体育館・美術館などの文教施設が多い。そして南側は前述した広島本通商店街のほか、百貨店などの商業施設、企業などが多い一大商業エリアだ。

紙屋町・八丁堀エリアは、江戸時代から現代まで、広島の行政・経済の中心を担っている地域と言えよう。

広島市では、紙屋町・八丁堀エリアの更なる民間開発を誘発・促進するため、広島県・広島商工会議所とともに、内閣府へ同エリアを「都市再生緊急整備地域」として新規指定するよう申請。2018年に、紙屋町・八丁堀を含むエリアが「都市再生緊急整備地域」に指定された。

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事業計画地 位置図(出典:広島市公式ウェブサイト)都市再生緊急整備地域に指定されている紙屋町・八丁堀エリアの区域(出典:広島市公式ウェブサイト)

工事は2028年度〜2032年度を予定し、2033年度の供用開始を見込む

本通3丁目地区市街地再開発事業では、2021年3月に「本通3丁目地区市街地再開発準備組合」が設立され、計画が進められている。事業協力者は野村不動産株式会社(東京都新宿区)だ。同年4月に準備組合と野村不動産がプレスリリースを発表し、2023年3月に準備組合は「本通3丁目地区市街地再開発事業 環境影響評価実施計画書」をまとめている。それらによると、 本通3丁目地区市街地再開発事業の内容は以下のとおりだ。

本通3丁目地区市街地再開発事業は、2016年度に広島県と広島市が策定した「ひろしま都心活性化プラン」に基づき、広島本通商店街の玄関口になるエリアを再開発するもの。細分化した敷地を一体的に再開発し、既存建築物を解体、超高層複合建築物に建て替える。

人口減少・少子高齢化の時代を見据え、都市機能・都市空間の魅力を向上させ、来街者の回遊を促進することで、「ひろしま都心活性化プラン」にある「誰もが集える、にぎわいと交流の都心(まち)"ひろしま"」の実現に寄与することを目指している。

再開発事業のスケジュールは、2028年度〜2032年度を予定。うち解体工事は全体で約21か月、新築工事は全体で約41か月を見込んでいる。建物の供用開始は、2033年度の予定だ。

計画地および実施予定区域 位置図(出典:広島市公式ウェブサイト)計画地および実施予定区域 位置図(出典:広島市公式ウェブサイト)
計画地および実施予定区域 位置図(出典:広島市公式ウェブサイト)計画建築物の概要(出典:広島市公式ウェブサイト)

再開発の具体的な予定対象エリアは、広島本通商店街の西寄りで、同商店街と市街を南北に走る「鯉城通り(国道54号線)」が交差する本通交差点の東側一帯。鯉城通りには「本通」電停もあり、まさに広島本通商店街の「西の玄関口」といえるエリアだろう。

再開発の対象エリアは、住所でいえば本通6番などにあたる。対象エリア全体の敷地面積は、約1万1,500m2(本通の道路部分約1,100m2を含む)。再開発の事業実施予定区域は、計画地および事業に伴い工事を実施する可能性がある範囲になり、区域面積は隣接する道路の一部を含めて約1万5,000m2を予定しているという。

本通3丁目地区市街地再開発事業で計画されている建物は、北棟南棟低層棟の3棟からなる。北棟は高さ約185mで、地上34階建て、塔屋は2階。南棟は高さ約185mで、地上46階・塔屋2階。低層棟は高さ21mで、地上3階・地下2階という構造だ。予定では、商店街を挟んで南北に、2棟の高層ビルが建つ「ツインタワー」が誕生することになる。

これらの建物の中には、商業施設や業務施設、ホテル、住宅のほか、駐車場や駐輪場も設けられる予定。建築面積は約1万700m2で、延べ床面積は約15万3,000m2になる。

なお、スケジュールや計画の内容は今後の状況や協議などにより、変更になる可能性がある。

計画地および実施予定区域 位置図(出典:広島市公式ウェブサイト)本通交差点から見た本通商店街の再開発対象エリアの様子(2025年12月撮影)

現在も多くの人が行き交う再開発予定地の本通商店街

2025年12月に再開発の対象エリアを訪れてみると、商店街北側の鯉城通り沿いには、北から順に三井住友銀行 広島支店などが入る「銀泉広島ビル」、明治安田生命 広島支社やセブン-イレブン 広島本通西店などが入る「明治安田生命広島本通ビル」が建っていた。

一方、商店街南側の鯉城通り沿いには、1947年(昭和22年)創業の老舗呉服店「叶や」があったが、すでに2024年に約500m南東の並木通りへ移転している。このほか、北から順にチケットショップなどが入る「セブンビル」、三菱UFJ銀行 広島中央支店などが入る「広島ダイヤモンドビル」などがある。

本通商店街周辺の再開発対象エリアには、マクドナルドやドトールコーヒー、珈琲館、大戸屋、ABC-MART、ジャンカラといった人気の飲食チェーンや小売チェーン・サービス業等が立地している。これらに混じり、地元の個人店も多く営業しており、多くの人でにぎわっている。

本通交差点から見た本通商店街の再開発対象エリア北側の様子。手前のガラス張り建物が「明治安田生命広島本通ビル」、その左側の灰色の建物が銀泉広島ビル」(2025年12月撮影)本通交差点から見た本通商店街の再開発対象エリア北側の様子。手前のガラス張り建物が「明治安田生命広島本通ビル」、その左側の灰色の建物が銀泉広島ビル」(2025年12月撮影)
本通交差点から見た本通商店街の再開発対象エリア北側の様子。手前のガラス張り建物が「明治安田生命広島本通ビル」、その左側の灰色の建物が銀泉広島ビル」(2025年12月撮影)本通交差点から見た本通商店街の再開発対象エリア南側の様子。手前の黄土色の建物が旧「叶や」、その右側が「セブンビル」、さらにその右が「広島ダイヤモンドビル」(2025年12月撮影)

対象エリアの東側は、商店街の北では「Tamaya BLD」が東端になる。人気のカフェチェーン「タリーズコーヒー &TEA 広島本通店」が入り、ガラス張りで大きな白い格子状のデザインが施された、スタイリッシュな外観が印象的だ。2012年の完成で、まだ新しい建物だが再開発の対象になっている。

Tamaya BLDの北隣には「本通交番」があったが、本通交番は老朽化による建て替えのため、近隣に場所を借り、仮移転して運営している。その後、交番は解体されているが、本通3丁目地区市街地再開発準備組合が設立されたため、交番建設はまだ着工せずに当面は仮移転先での交番運営を継続することとしている。なお、交番の仮移転先も再開発対象エリア内だ。またTamaya BLD・本通交番の北には、紳士服卸企業やピアノ店がある。

Tamaya BLDの反対側、商店街の南には老舗のパン・レストラン「広島アンデルセン」があるが、同店は再開発の対象エリアではない。広島アンデルセンの西隣、靴チェーン「ABC-MART 広島本通7番店」が入る建物までが対象エリアだ。

本通交差点から見た本通商店街の再開発対象エリア北側の様子。手前のガラス張り建物が「明治安田生命広島本通ビル」、その左側の灰色の建物が銀泉広島ビル」(2025年12月撮影)本通商店街の再開発対象エリアの西寄り部分(2025年12月撮影)
本通交差点から見た本通商店街の再開発対象エリア北側の様子。手前のガラス張り建物が「明治安田生命広島本通ビル」、その左側の灰色の建物が銀泉広島ビル」(2025年12月撮影)本通商店街の再開発対象エリアの東寄り部分。右のタリーズコーヒーが入るビルは対象エリア内だが、右の「広島アンデルセン」は対象エリア外(2025年12月撮影)

高層ツインタワー建設により懸念される街の眺望景観への影響

広島を代表する繁華街で進む「本通3丁目地区市街地再開発事業」は、街のにぎわいの起爆剤としての期待が大きい。その一方、再開発によって考えられる懸念点も指摘されている。

再開発の対象エリアの約400m西方には、原爆ドーム平和記念公園がある。広島市では両施設を原爆犠牲者を慰霊・鎮魂し、被爆の惨禍を後世に伝える場、平和について学び考える場としており、その場所にふさわしい景観を維持するため、景観形成の方針やルールなどを示した「広島市景観計画」や「景観法に基づく届出等に係る事前協議に関する取扱要綱」を策定している。

広島市景観計画では、景観に関する基本的な方針や、形態・色彩の具体的な基準を定めた。また、原爆ドームの背景に建築物等の眺望景観を阻害するものが何も見えないような環境を「目指すべき姿」としている。そのため、平和記念資料館本館下から原爆死没者慰霊碑越しに原爆ドームを望む「南北軸線上の眺望景観」が形成されるように、原爆ドームや平和記念公園周辺地区については、景観計画重点地区として特に厳しい基準を設けている。

さらに「景観法に基づく届出等に係る事前協議に関する取扱要綱」は、建築物等の高さの基準を設けて、良好な景観の形成を目指すものだ。

原爆ドーム・平和記念公園と景観計画重点地区およびバッファーゾーン (出典:広島市公式ウェブサイト)原爆ドーム・平和記念公園と景観計画重点地区およびバッファーゾーン (出典:広島市公式ウェブサイト)
原爆ドーム・平和記念公園と景観計画重点地区およびバッファーゾーン (出典:広島市公式ウェブサイト)再開発の対象エリア内の西部分はバッファーゾーンにギリギリかかる(出典:広島市公式ウェブサイト)

広島市は、原爆ドームや平和記念公園周辺の眺望景観のうち、前述の「南北軸線上の眺望景観」以外については、「望ましい景観の方向性について市民や関係者などとの共通認識が十分に持てていないのが現状であることから、共通認識を十分に醸成した上で、今後の景観誘導策のあり方を検討する」としている。

また広島市では、原爆ドーム・平和記念公園の周辺に「バッファーゾーン」を設けている。東は鯉城通りと、その道路端から50メートル以内の区域、西は河岸から2番目の街区まで。北はNTTクレド基町ビルを含む街区までの区域を基本にしている。そして、原爆ドーム・平和記念公園とバッファゾーン内は、A〜Eの地区に分かれる。

本通3丁目地区市街地再開発事業の対象エリアは、原爆ドームを望む「南北軸線上の眺望景観」からは外れている。しかし、再開発対象エリアは「E地区」にあり、再開発対象エリア内の西寄りの部分が、バッファーゾーンの東端にギリギリ当たるのだ。

広島市の景観審議会眺望景観検討部会は、平和記念公園をはじめとした「主要な眺望点からの眺望との関係を整理しておくことも必要になる」としている。そして「適切な景観誘導を行うため、環境影響評価準備書の段階で示される計画の内容に関して、当該地にふさわしい景観形成の観点から事業者に求めることについて、調査・検討」を2024年に行った。

その結果、「準備書(2024年5月に準備組合が提出した「本通3丁目地区市街地再開発事業 環境影響評価準備書」)に示された予測結果及び環境保全措置は概ね妥当なものと考えられる」としながらも、景観形成の観点から準備組合へ求めることについてまとめた。主な内容を抜粋すると、 以下のとおりである。

● 原爆ドーム正面をはじめ、それ以外の市内の複数の眺望点(視点場)からの景観についても検討すること
● 景観計画の基準の遵守及び同計画の景観形成の方針に沿うとともに、原爆ドームの視認性の確保など、形態及び色彩に特に留意すること
● 夕景、夜景における見え方を検討すること。その際、計画建物自体の内部照明のデザインを併せて検討することが望ましい
●計画建物による反射光については、原爆ドーム・平和記念公園側への影響、周辺地域への影響及びツインタワー相互への影響が懸念されることから、それぞれについて検討すること。原爆ドーム及び原爆死没者慰霊碑と重なって見える場合の対策について検討すること

街の雰囲気が変わり、人の流れが変わる一大プロジェクト

広島を象徴する一大商業エリアで計画が進む、本通3丁目地区市街地再開発事業。計画が実現すれば広島の街の新たなランドマークになり、街の雰囲気が大きく変わり、人の流れが大きく変わりそうな大規模プロジェクトと言えるだろう。広島市や広島県が目指す「楕円形の都心づくり」や「誰もが集える、にぎわいと交流の都心(まち)"ひろしま"」を実現に関わる、非常に重要な再開発事業ではないだろうか。

なお広島本通商店街の鯉城通り西側エリアの紙屋町2丁目2番地区でも、再開発の計画がある。複数の再開発プロジェクトが進んでいる広島市の中心市街地。再開発によって、「西の核」である紙屋町・八丁堀エリアの更なるにぎわいが創出され、「東の核」の広島駅周辺エリアとの相乗効果によって、街の魅力向上につながることを期待したい。

スタイリッシュな外観が印象的な「Tamaya BLD」は2012年に完成し、まだ約13年しか経っていないが、再開発の対象になっている(2025年12月撮影)スタイリッシュな外観が印象的な「Tamaya BLD」は2012年に完成し、まだ約13年しか経っていないが、再開発の対象になっている(2025年12月撮影)
スタイリッシュな外観が印象的な「Tamaya BLD」は2012年に完成し、まだ約13年しか経っていないが、再開発の対象になっている(2025年12月撮影)Tamaya BLD北側の北側の様子。右側がピアノ店、その左が紳士服卸企業、さらにその東が本通交番があった空地。交番が今後どうなるのかは、再開発計画の進展を見ながら判断されると思われる(2025年12月撮影)