水不足の心配が少ない関西。その水源はどこから?

和歌山県の紀伊平野は、上流に日本で最も降雨量の多い大台ヶ原を集水域とする紀の川を水源としている和歌山県の紀伊平野は、上流に日本で最も降雨量の多い大台ヶ原を集水域とする紀の川を水源としている

関西に住む人間は、水不足の苦労をあまり知らない。日本一の面積と貯水量をほこる琵琶湖があるし、奈良県には日本有数の多雨地帯である大台ケ原があり、この地域から流れ出て紀の川に合流する吉野川は、平成6年の大渇水時も、満々たる水をたたえていた。
奈良県下の各地域では、紀の川(吉野川)水系にある津風呂ダムや大迫ダム、三重県の青山高原を水源とする木津川水系にある室生ダムなどの水が飲料水となっている。
また、和歌山県では紀の川の水が多く利用されているし、大阪でも、奈良県にある貝ヶ平山を水源とする大和川水系の水も重要な取水場所になっている。兵庫県、とくに神戸には大きな川や湖がないが、明治から大正にかけて作られた布引(ぬのびき)・烏原・千苅(せんがり)の貯水池が大きな水源となっている。そのほか、例えば藤井寺市では、近年住民の増加により府営水を受水するようになったものの、現在も伏流水や地下水を主な水源としている。

とはいえ、京都は水道水の原水のうち、約97%を琵琶湖疏水を通じて琵琶湖から、残りの3%を宇治川から取水している。しかし、宇治川は琵琶湖から流れ出ている河川であるため、原水全てが琵琶湖の水であるといえる。
また、平成26年の神戸における水資源確保量の内訳を見ると、前述の布引・烏原・千苅の貯水池などからの水源確保量は、神戸全体のうちの22.7%、呑吐ダム、青野ダムからが3.2%、残りの74.1%は琵琶湖・淀川水系を水源とする阪神水道企業団から購入しているのだ。

関西の水事情を考える上で、欠かせないのが琵琶湖の存在。琵琶湖について詳しく見てみよう。

琵琶湖の歴史

安土桃山時代、豊臣秀吉によって、諸物資の大集散地として発展した大津安土桃山時代、豊臣秀吉によって、諸物資の大集散地として発展した大津

古来琵琶湖は、水路として大切にされており、琵琶湖周辺には重要な史跡も少なくない。
そもそも琵琶湖は約400~600万年以前の地殻変動によって生まれた湖で、丸木船が出土していることから、縄文時代にはすでに交通路として利用されていたとわかる。都近くにある淡水の海(湖)なので、「近淡海(ちかつおうみ)」、あるいは「かいつぶりのいる海」の意味をもつ「鳰海(におのうみ)」と呼ばれてきた。ほかにも、万葉集を見れば、「淡海」「淡海乃海(あふみのうみ)」「近江海」などの呼称を発見できる。ちなみに静岡にある浜名湖は、都から遠くにある淡水の海として「遠江(とおとうみ)」と呼ばれ、近江の琵琶湖と一対のように扱われることもある。
若狭湾に近く、川が京都を通って大阪湾に流れ込むため、若狭湾にあがった物資を京都や大阪へ運ぶのに便利で、輸送の要とされてきたから、琵琶湖の周辺には、自然に大津や彦根など、主要都市が誕生している。
天智天皇は、琵琶湖西岸に近江宮(大津宮)を造営し、この地で即位しているし、湖の真ん中に浮かぶ竹生島には弁財天を祀る都久夫須麻神社や宝厳寺があり、戦国時代にあって「神も仏も恐れぬ」といわれた織田信長が、自ら参拝に訪れている。
測量技術が発達した江戸時代には、湖の形が琵琶に似ているとわかり、「琵琶湖」の呼称が定着した。

近畿圏の約1,400万人が利用する琵琶湖の存在

日本で最も大きい湖である琵琶湖。滋賀県を含め、瀬田川・淀川を通じて京都府、大阪府、兵庫県でも利用され、水道用水では近畿圏約1,400万人が利用する貴重な水資源となっている日本で最も大きい湖である琵琶湖。滋賀県を含め、瀬田川・淀川を通じて京都府、大阪府、兵庫県でも利用され、水道用水では近畿圏約1,400万人が利用する貴重な水資源となっている

琵琶湖の存在感は、現代になっても大きい。滋賀県を含め、瀬田川・淀川を通じて京都府、大阪府、兵庫県でも利用され、水道用水では近畿圏の約1,400万人が利用する貴重な水資源となっている。

琵琶湖は滋賀県の面積のおよそ6分の1を占め、貯水量は275億km3にもなる。琵琶湖から流れ出る唯一の河川の瀬田川から流出する水は、宇治川や淀川を流れ、京都や大阪、果ては流水域ではない兵庫県の上水道水源にもなっている。また、琵琶湖の水を京都に運ぶために1912年に完成した琵琶湖疎水からは、毎秒23.65m3の水が取水されている。
この状況を指して、琵琶湖は「近畿の水がめ」と表現されることが多いが、近年、滋賀県では、「水がめ」と表現するのを避けているという。これは、「琵琶湖はただ水を貯める機能しかもたない甕(かめ)ではない。琵琶湖の周りや流入河川域の人々の努力により水質や水量が保たれており、大勢の人々が琵琶湖に強い思い入れを持ち、琵琶湖に依って生活している」との思いからくるものだ。

実際、滋賀県では1977年5月に、合成洗剤に含まれるリンが悪臭を放つ赤褐色のプランクトンを発生させるとわかったときは、県民主体で、天然油脂を主原料とする粉せっけんを使おうという「石けん運動」がはじまった。また、琵琶湖の一斉清掃や、魚類や鳥類の生息場所となるヨシ群落の保全運動を官民一体で行うなど、さまざまな取り組みがされているのだ。また近年では、琵琶湖を水源とする上水道を使用する人々の間でも、琵琶湖保全の認識は高まってきている。

水源を守る意識をもつ

琵琶湖は水源として重要なだけでなく、日本古来のたたずまいを残す史跡でもあり、滋賀県民はもちろん、日本に住むすべての人々にとって、大切な湖だ。平成6年の大渇水時、取水制限は限定的だったが、琵琶湖面に浮かんでみえる満月寺の浮御堂では、水位が下がっても水面が確保されるよう、マイナス2メートルまでの浚渫が行われている。また、紀元前に創建したと伝わる白髭神社の、琵琶湖中にそびえる大鳥居も、琵琶湖の美しい景色として知られているが、渇水で鳥居の足が見えてしまっては台無しだろう。

日本有数の降水量をほこる大台ケ原を水源とする吉野川流域でも、天然林を保全する活動が行われているし、「吉野川・紀ノ川の源流まつり」などで、住人の意識向上を目指している。

琵琶湖があり、日本有数の降水地帯である大台ケ原のある関西は、比較的水の豊富な土地だといえる。しかし、限りある資源を無駄遣いすることなく、一人一人が水資源を守るという意識が必要なのだ。

白髭神社の鳥居は琵琶湖の景色の一つ白髭神社の鳥居は琵琶湖の景色の一つ

2016年 08月14日 11時00分