戦災復興土地区画整理事業による整備が基盤になっている

「アニメイト池袋本店」界隈。写真奥に見える黄色の4階建ての建物が豊島区旧庁舎「アニメイト池袋本店」界隈。写真奥に見える黄色の4階建ての建物が豊島区旧庁舎

池袋駅(東京都豊島区)の東口、豊島区役所旧庁舎(以下、旧庁舎)跡地とその周辺の再開発事業をテーマにした記事の2回目。豊島区役所庁舎は2015年5月に南池袋2丁目へと移転し、東池袋1丁目の旧庁舎エリアでは再開発計画が進められている。前回記事でお伝えしたように、この再開発計画には2つの大きな目的がある。旧庁舎跡地に定期借地権を設定して民間事業者に貸し付けることで新庁舎整備の財源を確保するということ。そして、文化にぎわい拠点の創出をはかり、サンシャインシティ方面へと集中していた人の流れを広げることだ。

大きく変わろうとしている旧庁舎エリア。駅東口から歩いて5分ほどの交通アクセスの便利なところだが、このあたりは1950年代の戦災復興土地区画整理事業によって形作られた街並みが基盤になっているという。豊島区の資料によると、1981年(昭和56年)以前に建てられた建物が60%以上を占める区域は少なくない。そのことは旧庁舎界隈を歩いてみると、実感する。旧庁舎周辺には大型店舗や飲食店、アミューズメント施設がひしめき、「アニメイト池袋本店」などアニメファンが集う人気スポットもある。その一方で、古い木造住宅や個人商店が並ぶ一角がそこかしこで見られるのだ。

池袋の戦後はヤミ市から出発した

大勢の人が行き交うサンシャイン60通りから南の通りに入ったところには栄町通りと美久仁小路という横丁がある。サンシャイン60通りのにぎわいとは一転、狭い路地に小さな居酒屋などが軒を連ね、エアポケットに入り込んでしまったような感じだ。いわゆる飲み屋横丁なのだが、そのルーツは戦後のヤミ市と呼ばれる自由マーケットにあるという。ヤミ市とは、終戦後の日本で各地に出現した露店市場やバラック建ての長屋式の市場。戦後の混乱した社会の象徴として、ネガティブなイメージを持たれがちなのだが、近年では戦災で大きな打撃を受けた都市に活力を与えたと、見直されてきている。戦後、そんなヤミ市から出発した都市のひとつが池袋なのだ。

70年前、1945年4月、池袋を含む豊島区は、第2次世界大戦の空襲で大きな被害を受け、豊島区域全体の約7割を焼失してしまった。池袋駅周辺もほとんどが焦土と化す。そんななかで終戦後の1946年、池袋駅周辺にはヤミ市が形成された。駅東口前にもヤミ市がつくられ、最も多いときには1200軒もの長屋式市場が広がっていたといい、その半数以上が飲食店や飲み屋だったという。
そんな池袋駅東口のヤミ市だったが、1950年前後の時期になって経済復興が進み、物資が流通するようになると、戦災復興土地区画整理事業などによって撤去されていく。ヤミ市を営んでいた人たちは他の商店街などに移転していった。そうして東池袋1丁目に移ってきて誕生したのが人世横丁、ひかり町通り、栄町通り、美久仁小路の4つの飲み屋街だった。これらは戦後の池袋の復興とともに歳月を刻んできたのだが、現在、残っているのは栄町通りと美久仁小路となっている。ちなみに古い話題で恐縮ながら、美久仁小路と人世横丁は、昭和のムード歌謡の歌手・青江三奈がヒットさせた『池袋の夜』(1969年発表)にも登場しているので、一定以上の年代の方は地名だけはご存知かもしれない。人世横丁はグリーン大通り北東側の豊島岡女子学園に近接したところにあったが、2008年、再開発のために取り壊されてしまった。現在、跡地はニッセイ池袋ビルの敷地の一部になっており、「人世横丁の碑」が建ち、背面にはかつて人世横丁に存在した店の名が刻まれている。

上左)栄町通り。上右)美久仁小路の入口。下左)筆者はありし日の人世横丁を訪ねたことがある。写真は2006年秋の人世横丁。下右)高層ビルが建つ敷地内に佇む人世横丁の碑。碑には「あなたの心に横丁がありますか」と刻まれている上左)栄町通り。上右)美久仁小路の入口。下左)筆者はありし日の人世横丁を訪ねたことがある。写真は2006年秋の人世横丁。下右)高層ビルが建つ敷地内に佇む人世横丁の碑。碑には「あなたの心に横丁がありますか」と刻まれている

豊島公会堂に隣接する区民センターも改築される

上)明治通りに面して建つ旧庁舎。下)豊島公会堂。数々の演奏会やイベントに使用されてきたホールだが、2016年2月で閉館となる上)明治通りに面して建つ旧庁舎。下)豊島公会堂。数々の演奏会やイベントに使用されてきたホールだが、2016年2月で閉館となる

人世横丁のように社会の変化とともに姿を消してしまったものもあるが、昭和の面影を色濃く残す場所が残っていたり、旧庁舎エリアを散策していて感じるのは、混沌(カオス)、もしくは多様性をかもし出している街であるということ。それがこのエリアの特色であり、魅力でもあると思う。そんな旧庁舎エリアにはどんな文化にぎわい拠点が創り出されるのだろう? まず、旧庁舎跡地とその周辺の再開発事業の全体像をまとめてみる。前回記事でもふれているのだが、おさらいを兼ねて整理してみたい。

記事冒頭で記述した定期借地権設定による再開発の対象となるのは、旧庁舎とその南側にある豊島公会堂の敷地である。旧庁舎は1961年築。豊島公会堂は1952年築で東京都内では戦後、最初に建てられた公会堂だというから驚く。旧庁舎、豊島公会堂ともに建築年代から戦後の池袋、そして豊島区の復興を表わす象徴的な建築物だったと思われるが、その歴史に幕を閉じ、2016年4月から解体工事に入る。
旧庁舎跡地(約3637m2)と豊島公会堂跡地(約3050m2)の再開発事業者(優先交渉権者)は、公募型プロポーザルで選ばれた東京建物・サンケイビル・鹿島建設のグループ。現在、旧庁舎跡に建設されるオフィス棟と、公会堂跡地に建設される新ホールの基本設計が進められており、2020年春のグランドオープンをめざしている。

この旧庁舎跡地の再開発事業と同時に、豊島区では豊島公会堂南隣にある豊島区民センターの改築に着手する。区民センターも昭和の高度経済成長期の1969年の建築。地下1階・地上7階建ての建物で、築45年以上が経過し、老朽化や耐震性の不足により、早急な建て替えが必要な状況という。区民センター東側には区の生活産業プラザが隣接しているが、区民センター改築に合わせて生活産業プラザの大規模改修を実施し、一体的に整備する計画となっている。この新区民センターは2019年秋の完成予定で、現在、基本設計が検討されている。

つまり、旧庁舎エリアには、2020年春までにオフィス棟、新ホール、新区民センターの3つの新しい施設がオープンすることになり、街の姿は大きく様変わりする。それぞれの建物には劇場があり、3つの建物を合わせて8つの劇場が開設され、8劇場だけでも約5000人が集う文化にぎわい拠点が誕生する。

2020年までに旧庁舎エリアに8つの劇場が誕生

旧庁舎エリアに作られる3施設の完成イメージ図。左からオフィス棟、新ホール、新区民センター。(資料:豊島区が実施した「旧庁舎跡地・周辺まちづくりに関する説明会」にて配布の資料より抜粋)旧庁舎エリアに作られる3施設の完成イメージ図。左からオフィス棟、新ホール、新区民センター。(資料:豊島区が実施した「旧庁舎跡地・周辺まちづくりに関する説明会」にて配布の資料より抜粋)

豊島区作成の資料をもとに、現時点で計画されている施設の概要をお伝えする。
旧庁舎跡地には30階建て(高さ約146m)のオフィス棟が建設される。8階から30階はオフィスだが、1階にシネマプラザ(イベントスペース)や飲食店、2~6階は10スクリーンを持つシネマコンプレックス、7階にカンファレンスホールが計画されている。豊島公会堂跡地に建つ新ホールの建物は7階建て。新ホールは1300席を備え、バレエや歌舞伎、オペラ、伝統芸能から成人式や学校行事などの使用にも対応できるホールとして計画されている。このほか、館内にはパークプラザ(イベントスペース)やライブ劇場が設けられる。新区民センターは9階建てに建て替えられる。館内は貸会議室のほか、小ホール、多目的ホール、展望ラウンジなどが開設される。

オフィス棟、新ホール、新区民センターは、新ホールを中心にして路上デッキで接続され、外観と低層部に統一性をもたせたデザインとなるという。また、現在の豊島公会堂と区民センターの向かいに位置する中池袋公園も整備が計画されており、園内にオープンカフェを設置するなど多くの人が交流できるような公園に生まれ変わる予定。

新区民センターには大規模パブリックトイレを導入!

写真左手前は旧庁舎。その奥に豊島公会堂と豊島区民センターが建つ。この一帯が再開発で大きく変わっていく写真左手前は旧庁舎。その奥に豊島公会堂と豊島区民センターが建つ。この一帯が再開発で大きく変わっていく

現在は基本設計段階で今後計画変更の可能性もあるというが、興味をそそられるのが新区民センターの大規模なパブリックトイレ構想。資料に記されたキャッチフレーズは「トイレから広がる女性にやさしいまちづくり」なのだ! 2階の全フロアと3階の半分をトイレにする予定で、女性用ブースを約30、男性用には約10のブースを設置するという。また、子連れの女性のために親子トイレや子ども用トイレのほか、授乳室やおむつ替えスペース、温水器のある調乳スペースなども計画されている。

これほどまでにトイレ整備や子連れ女性が外出しやすい環境づくりにこだわるのには、民間の有識者団体「日本創生会議」から東京23区で唯一、豊島区が消滅可能性都市とされたことが背景にある。豊島区が消滅可能性都市とされたのは、20歳から39歳の女性の転入が大幅に減ると予測されたからなのだ。豊島区では女性が暮らしやすい街づくりを進めることが急務となり、区内に住む20代、30代の女性たちから意見を聞くといった取り組みを開始。そうしたなかで「外出時に安心して使えるトイレがほしい」という声が多数挙がり、新区民センターの基本設計に反映させたという。

また、新区民センターの2階、3階には化粧直し専用のパウダーコーナーや、着替えに使用できるフィッティングコーナーも計画されている。「なぜフィッティングコーナーが必要なのか?」と思う方もいるかもしれないが、旧庁舎のすぐ近くには「アニメイト池袋本店」があるし、周辺には女性向けアニメグッズやアニメキャラクターのコスプレ衣裳などの店が集まる乙女ロードがある。そう、池袋駅東口の旧庁舎エリアはコスプレイヤーが集まる街という顔もあるのだ。この界隈を舞台にして、昨年からコスプレイベント「池袋ハロウィンコスプレフェス」も開催され、盛り上がりを見せている。

池袋の旧庁舎エリア再開発で誕生する施設も、街がもつ混沌(カオス)、もしくは多様性を感じさせてくれるものになりそうだ。

☆主な参考資料(※印を除き、豊島区作成)
『新庁舎整備推進計画』
『現庁舎周辺まちづくりビジョン』
※『戦後池袋 ヤミ市から自由文化都市へ』(「池袋=自由文化都市プロジェクト」実行委員会)
※『目で見る 豊島区の100年』(株式会社郷土出版社)
『豊島区民センター改築基本計画』
『豊島区の街づくり2015』
『旧庁舎跡地・周辺まちづくりに関する説明会』

2015年 11月17日 11時05分