前年割れが続く新築住宅市場の背景は?

2014年4月に実施された消費税率引き上げの前に住宅市場でも駆け込み需要が起き、その後は新築を中心に低迷が続いている。不動産経済研究所が毎月発表している新築マンション市場動向によれば、首都圏では2014年2月から9月まで8ケ月連続で前年割れが続き、とくに8月と9月は4割を超える大幅な落ち込みとなった。マイナス幅としては、リーマン・ショック直後以来の大きさとなるようだ。

また、東日本不動産流通機構(東日本レインズ)のまとめによれば、消費税率引き上げの影響が少ない中古マンションや中古一戸建て住宅でも、成約件数のマイナスが続いている。

新築住宅の着工戸数はどうだろうか。国土交通省のまとめ(8月末時点)によれば、総数で6ケ月連続の減少、持家は7ケ月連続の減少、分譲マンションも同じく7ケ月連続の減少となっている。比較的落ち込みが少ない分譲一戸建て住宅は4月に増加が見られたものの、1〜3月、5〜8月は前年割れである。相続税増税を見据えた個人の節税対策や、生保・REITなど投資マネーの流入による「特需」が続いていた貸家も7月以降は前年割れとなり、さすがに息切れしてきたようだ。

しかし、この状況を単に「増税前の駆け込み需要とその反動減」として捉えることはできない。現在の住宅市場におけるいくつかの背景を考えてみることにしよう。

国土交通省発表資料をもとに作成国土交通省発表資料をもとに作成

想定より大きかった増税前の駆け込み需要

2014年4月の消費税率引き上げにあたり、国は住宅ローン減税の拡充と「すまい給付金」制度の導入によって駆け込み需要の発生を抑えようとした。これらにより消費税の実質的な負担増を緩和するとともに、条件によっては増税後のほうが負担は少なくなることも期待されたのだ。しかし、一定割合を占める現金取得者にとっては単純な負担増となるほか、物件価格の低い地方圏、あるいは既に土地を所有していて住宅を建てるだけのケースでは、住宅ローン減税の拡充や「すまい給付金」の効果が薄い。

これらの制度について事前周知が足りなかった面もあるようだ。オールアバウト「生活トレンド研究所」が2014年3月に実施したアンケート調査では、実際に住宅を購入した人のうち「住宅ローンを借りて新築住宅を購入した」が88.2%なのに対し、住宅ローン減税の認知度は69.4%、「すまい給付金」の認知度は39.6%にとどまっている。調査対象者の一部に「すまい給付金」制度の具体的な内容が明らかになる前に購入した人も含まれているが、半数以上はその仕組みを理解していなかったと考えてよいだろう。

また、同調査では新築住宅購入者が「購入した理由」として「消費税が上がるから」が61.3%にのぼり、「価格が上がりそうだから」の38.7%や「金利が上がりそうだから」の29.7%を大きく上回っている。中古住宅購入者の購入理由でも、24.0%の人が「消費税が上がるから」を挙げている。個人が売主となる中古住宅では建物本体に消費税は課税されないが、リフォーム費用や家具購入費用、引っ越し費用、各種の手数料などには課税されるため、これらを考慮したものだと考えられる。

さらに、一般社団法人不動産流通経営協会が2014年9月に実施した「不動産流通業に関する消費者動向調査」でも、2014年4月の消費税率引き上げによって「住宅の購入時期を早めた」という人が新築住宅購入者の57.3%に達している。とくに「29歳以下」では73.7%、「30〜39歳」では66.3%となっており、若い世代ほど増税の心理的な影響を大きく受けていることに留意しなければならないだろう。

消費税増税の反動減だけではない、現在の住宅市場の背景にあるもの

事前の想定よりも駆け込み需要が大きくなり、その結果として2014年は「前年同月比」でマイナスとなる指標が多く見られるのは当然の流れだ。しかし、「反動減」だけの視点で現在の住宅市場を考えるべきではない。「反動減」以外の主な要因として、新築マンションであればデベロッパー自身による供給の抑制、住宅市場全体では消費者の購入意欲の減退、さらに新築中心から中古へといった住宅市場の構造変化が挙げられるだろう。

2013年あたりからの地価上昇、建設コストの上昇、人件費のアップなどにより、現在はリーマン・ショック前の価格上昇期に似た環境となっている。だが、リーマン・ショック前はそれぞれのマンションデベロッパーが「新価格」「新々価格」などと強気で売り出し、あるとき急に売れ行きが落ち込んで多くの在庫を抱えることとなった。多くの新興デベロッパーが倒産に追い込まれたことは記憶に新しいだろう。その二の舞いを避けたいデベロッパーが、慎重に市場を見極めていることは想像に難くない。

消費者に値上げが受け入れられるかどうかといった様子見をしているのと同時に、販売価格をなるべく上げたくないデベロッパー側と、受注額を上げたいゼネコン側とのせめぎ合いもあるようだ。発注価格が折り合わず着工が先延ばしになる、あるいは着工そのものができないケースも少なからずあるだろう。人手不足による人件費の高止まり、建設コストの上昇、さらに用地不足は慢性化しつつあり、震災復興や2020年の五輪開催によるインフラ整備などを考えれば、この傾向が長期化することも考えられる。

その一方で、好立地物件や高価格帯物件の販売は好調に推移しているという。タワーマンションは相続税対策として購入される例も多いほか、条件の良い物件には国内だけでなく海外の投資マネーも流れ込んでいる。また、一戸建て住宅でも高額な注文住宅は堅調のようだ。建設コストの上昇分が価格に反映されやすい郊外のファミリー向け物件などは供給が絞られ、都心や駅近物件に重点が移る「二極化」の進行もあるだろう。

景気の回復がもたついている!?

消費税率引き上げ後の景気落ち込みは想定内だっただろうが、その後の回復が当初の予想よりも遅れ、全体的にもたついている印象だ。直近のさまざまな指標を見ても、足踏み状態のものが多い。増税後も個人の所得は思うように伸びず、実質賃金の低下により個人消費が落ち込んでいる状態だ。今後も所得の伸びが期待できる状況にはなっておらず、とくに地方圏では、賃金水準が低くても物価上昇の度合いは大都市圏とさほど変わらない。車の使用頻度が高い地域では、ガソリンの高騰も家計を直撃しているようだ。

税込みの総額表示義務が一時的に解除され、大半のスーパーが税別表示に切り替えた。そのためレジで支払いをするときに消費税が付加され、かえって重税感を味わうことになった人も多いだろう。なかなか好転しない家計は消費者の買い控えを招き、生活全般にわたって購入意欲が高まらない。高額な住宅を後回しにせざるを得ないケースも多いはずだ。増税による「反動減」は時間の経過によって解消するものだが、増税によってモノが値上がりしたために落ち込んだ分は、所得が増えなければ元の水準に戻ることは期待できないだろう。

住宅金融支援機構が一般消費者向けに行ったアンケート調査(2014年8月実施)では、「これから半年以内(2014年10月〜2015年3月)は住宅の買い時だと思いますか?」との問いに対して「買い時だと思う」との回答が72.3%にのぼった。これだけ多くの人が買い時だと感じながら、最後の一歩をなかなか踏み出せずにいる状態だ。その一方で、高額所得者による住宅取得、相続対策による賃貸住宅建設やマンション購入などは依然として堅調であり、住宅取得をためらう一般消費者との間で大きな隔たりもあるようだ。

消費税率の再引き上げで住宅市場はどうなる?

2015年10月に消費税率10%への再引き上げをするかどうか、政府は12月中に決める方針だ。現時点ではどうなるか分からないが、予定どおりに実施される可能性は高いだろう。そのとき、増税を前に再び住宅の駆け込み需要が盛り上がることは十分に考えられる。消費税率が10%になれば「すまい給付金」の支給額は少し増額されることになっているが、増税分をカバーできる規模ではない。それ以外に再増税時における駆け込み需要の抑制策は何も検討されていないのだ。

オールアバウト「生活トレンド研究所」によるアンケート調査(2014年3月実施)によれば、調査の時点で「住宅購入意欲はあるが見送った」という人のうち、「消費税が10%になる前に購入したいと思っている」との回答は50.7%にのぼる。また、住宅金融支援機構による一般消費者向けのアンケート調査(2014年8月実施)でも、「これから半年以内が買い時だと思う」と回答した人のうち49.4%が、その理由として「今後消費税率が10%に引き上げられる予定だから」を挙げている。

一戸建て住宅では、次の増税をにらんで既に消費者が動き始めている様子も見られるようだが、駆け込み需要が起こった後に景気の回復を伴わなければ、再増税後の住宅市場は長期的な低迷期に入ることも予想されるだろう。

消費税率8%への増税時には5.5兆円の経済対策が実施され、公共事業を増やすことで景気を刺激しようとしたが、結果的に建設労働者の不足で実効性を伴わない状況になっている。公共事業をこれ以上増やしても景気全体への寄与は期待できないのであり、何らかの有効な対策がとられなければ住宅市場だけでなく社会全体が収縮していくことになりかねない。

また、人口や世帯数の減少によって住宅需要そのものが減退する傾向と同時に、新築中心の住宅市場から、中古活用を中心にした住宅市場への転換も進みつつある。次の消費税率引き上げを前にした駆け込み需要が、新築住宅市場にとって最後の盛り上がりになることもあるだろう。

2014年 10月31日 10時33分