購入検討者の6割が“壁”に直面。制度改善の裏で浮き彫りになる、同性カップル住宅購入のリアル
多様性の推進や人権意識の高まりから、行政や金融機関の対応が進み、同性カップルの住まいの選択肢の幅も年々広がりを見せている。住宅購入の観点でも、2024年以降は同性カップルもペアローンが組める商品が増え、各金融機関のみならず住宅金融支援機構の「フラット35」でも申し込み可能だ。
しかし、LIFULL HOME'Sが行った「LGBTQカップルの住まい購入の実態調査」では、住宅購入を検討した経験のあるLGBTQカップルの6割が住宅購入検討で不便、困った経験があるという調査結果が発表された。また同調査では、賃貸のみならず、「家を買う」という選択肢に不安を持つ層が存在していることが明らかになっている。
今回、LGBTQ当事者による同性カップルが家族になることをサポートするグループ「by for the rainbow」の代表 大関久美子氏、青木佐千子氏、井邊亮子氏に、同性カップルの住宅購入の今について尋ねた。本記事では、当事者が知っておくべき知識と、業界が抱える課題をお伝えする。
当事者による、当事者のための住まいと人生の伴走者たち
by for the rainbowは、同性婚の法制度がない現状において、LGBTQ当事者がパートナーや子どもと“かぞく”を築くために結成された、不動産・法務・財務などのプロフェッショナル集団だ。寄せられた相談や要望の実現を、各分野から多角的に考える。
代表の大関氏は自分たちのスタンスを「私たちは、単に住まいを紹介するだけでなく、その先にある暮らしや人生に寄り添いながら、安心して過ごしていくための選択を一緒に考えるチームです」と語る。
個別相談や勉強会などの活動を通じて、同性カップルが直面する「住宅購入の難しさ」は、単なる知識不足ではなく、社会システムやバイアスによるものだと指摘する。
1つ目に、金融機関・行政システムに「自分たちの居場所」がない点だ。
「同性カップルOK」と謳っているにもかかわらず、住宅ローンの事前審査の際、続柄に「パートナー」の選択肢がなく、やむを得ず当てはまらない項目を選ばざるを得ないケースが多いという。インターネット上で簡単に手続き可能と謳っているのに同性カップルだと窓口対応を求められたり、公正証書など必要書類が不明確だったりと、余計な手間と時間、コストを強いられることもあるそうだ。
2つ目に、不動産会社や担当者によるバイアスやリテラシー不足を挙げる。
大関氏「『いつか男性と結婚するかもしれないから、共有名義にしない方がいい』と自身のライフスタイルを否定するようなアドバイスをされたり、関係性を伝えた途端に態度が変わったり、ニヤニヤとした好奇の目で見られたりといったことは実際にあります」
特に女性のカップルでは、ローン審査時に間取りの用途を尋ねられるなど、男性にはおおよそ尋ねられないだろう質問もよく投げかけられるという。知識のなさからくる不必要な言動によって、当事者が傷つけられることがあるのだ。
3つ目に、制度の不備による「可視化(カミングアウト)」のリスクだ。
不動産では居住者のプライバシーに触れてしまうことが往々にあるがゆえ、取り扱いに慎重な配慮が重要となる。しかし、現行の法制度の下では、意図せず関係性が明らかになってしまう場面があり、実務上もこうした相談は少なくない。
たとえば、クローゼット(※)の人がペアローンを利用して住宅を購入した場合である。勤め先で住宅手当の申請を行う際に、登記簿の提出を求められるケースがあり、登記簿には所有者の氏名が並列で記載される。その記載内容からパートナーが同性であることが推測され、結果として意図しないカミングアウトにつながってしまうことがある。
大関氏「登記簿は誰でも閲覧できるものです。こうした情報のアクセスからプライバシーが漏洩するリスクがあるために、ペアローンで住宅購入をすることを悩む方が現実的にいらっしゃいます」
※クローゼット……LGBTQ当事者であることを秘匿している人や状態のこと。“閉じこもっているクローゼットから出て来る(come out of the closet)”の意から派生した言葉。
同性カップルが住宅購入で留意すべきこと。絆を形にするための備え
同性カップルの住宅購入は手間暇に加えて自己開示のリスクまではらむ。そうした難しさを乗り越えてなお「自分たちの家を持ちたい」という希望に、by for the rainbowでは、いきなり物件を探すのではなく、まずは個別相談を行い、「今どういう状況にあるか」「人生をどう歩みたいか」から共に考える。
具体的に、公正証書の作成やパートナーシップ宣誓制度の⼿続きをどうするか。税制や財産分与を考慮し、養子縁組までも視野に入れて、カップルが自分たちらしい暮らしと家族関係を安心して実現できるよう、下地を整えるのだ。
ただし、養子縁組をするうえでは、相続が複雑になるなどのデメリットがあることも青木氏は補足する。
青木氏「養⼦縁組をする場合は、子側は親が3人いるような形になるので、誰に何を遺すのか、遺⾔書をしっかりと残すことをお勧めしています。また、⼀度養⼦縁組をしてしまうと、離縁したとしても現行法では婚姻ができないので、同性婚が実現したとしても、同時に他の法制度がすぐに変わらないかもしれない、ということまで考える必要があります」
予算面においても、ペアローンを組むのか、単身ローンとするのか、それぞれの財務状況も判断材料とする必要がある。
井邊氏「貯金のない人ほど、家を買ったほうがいいです。『貯めてからにします』とよく言われますが、すでに貯められていないのにどう貯めるのか、ということなのです。何歳まで働くか、パートナーとどう老後を迎えるか、人生の最期はどうしていたいかまでのライフプランとともに資産設計を一緒に考えます」
さまざまな思いを抱える同性カップルにとって、その先の備えまで含めて住宅購入を一緒に考えてくれる存在がいること自体が、大きな安心だ。
青木氏「カップルの区切りとして家を購入することは、お金をかけ、ペアローン審査で必要になれば公正証書を作って準婚姻契約を結び、2人で大きな財産を所有すること。住宅購入は2人の関係を強固にする鎹(かすがい)になる、大きなイベントだと思います」
井邊氏「家を購入する過程では、2人で意思決定を重ねていきます。その中で価値観や将来のイメージを共有する時間が生まれ、関係性も自然と深まっていく。そうした変化を実感される方も多いように感じます」
大関氏「特に同性カップルの場合、共有資産を持つことや、将来の相続対策まで見据えて住宅購入という選択をされる方も少なくありません。私たちは当事者目線を大切にしながら、一人ひとりの希望や状況に寄り添い、丁寧に相談を重ねながら対応しています」
住宅購入を権利獲得の一助に。by for the rainbowが描く次世代のスタンダード
「養子縁組を希望する同性カップルが、ある自治体の窓口で『将来的に同性婚が制度化された場合、婚姻ができなくなる可能性がありますが、それでもよろしいですか?』と確認を受けたことがあったと聞き、当事者への理解や配慮の広がりを感じた」と話す場面もあったLGBTQ当事者が家族を築くにあたって、最善で最も安心できる策をともに考えるby for the rainbowのメンバーたち。今後の展望を尋ねると、不動産・金融業界全体のアップデートに期待を寄せた。
大関氏「金融や不動産は古くから続く業界ゆえに、経験が長いほど思考や体制が古いままになりがちです。一部のメガバンクでは関連企業に向けたLGBTQ講習などを行っていますが、参加者の中に『そんな人いないだろう』『研修を受けたって意味がない』と言う人もいました。LGBTQに対する知識があることは、別に弊害になることはありません。どの窓口に行っても当事者が差別を受けることなく、満足のいく情報を得られる状態にするには、全国的に不動産会社や金融機関、ひいては公的窓口の意識が上がることが一番だと思っています。そのためにも、私たちから変えていきたいですね」
青木氏からは、公正証書作成に関する実務上の課題についても話があった。
住宅購入時には、登記費用や仲介手数料など、さまざまな諸費用を住宅ローンに組み込めるケースがある。一方で、同性カップルがペアローンを利用する際に求められることのある「公正証書作成費用」については、現状、諸費用として住宅ローンに組み込むことはできない。
青木氏「証書の作成時、コストカットのために、自分たちで公証役場に直接問合せて作成する方や、安いけれどどれだけコンサルティングに入ってくれるのか不明瞭な士業事務所にサポートを頼む方もいます。もちろん、皆様それぞれご事情もありますし、安いパッケージでも問題なく作成が済んでいる方もいらっしゃることは事実としてあります。ですが、せっかく作成するのですから、できれば少々お金がかかっても確実にコンサルティングをしてくれる専門家を交えて話し合いながら、自分たちの希望が反映されているものを作成することをお勧めしています。ただ、公正証書の作成には、そのような専門家を交えると実費と併せてトータルで何十万単位で費用がかかってきます。この費用も住宅ローンに組み込めたら負担が軽くなりますよね」
また、今後は、公正証書の作成を前提としなくても、パートナーシップ制度のみでペアローンを利用できる金融機関が、少しずつ増えていくことを期待したい。
東京都パートナーシップ制度の充実や公正証書の費用助成などに取り組んでもらえるよう、メンバーの議員を通じて行政への働きかけを進めているという。
by for the rainbowのこれからのビジョンについては、全国への活動拡大も進めているとのこと。オンラインも視野に入れつつ、オフライン実施でのつながりも重視しながら、地方の当事者にも情報を届けていきたいと、3名ともに意気込んでいた。
誰もが安心して「未来への約束」を叶えられる社会へ。私たちが選べる選択肢を、ここから
長く歩む人生の礎となる、新居の購入。将来への期待に胸が躍ることは同じだが、婚姻関係にある夫婦と同性カップルとでは、工程・時間・費用・財産分与等の配慮と重みが異なる。
そこには、家庭を築く自分たちの居場所であることに加えて「未来への約束」や「権利の獲得」の側面もあることがうかがえた。さらに、そうした権利を守り、自分らしい暮らしを叶えるために支えてくれる人たちがいる。
心理的な負荷がなく、当事者の住宅購入の選択肢が増えることに期待を寄せたい。
2026年5月16日(土)、17日(日)に、LIFULL HOME'S主催でリアルイベント「LGBTQのためのマイホーム相談会 -FRIENDLY DOOR FES-」が東京・半蔵門にて開催される(要予約)。
ゲストセミナーとして、by for the rainbowの大関氏が16日(土)に登壇予定だ。住宅購入のメリットやローン、相続について、“もしも”に備えるためのポイントをわかりやすく解説。物件探しや購入に関して関心のある当事者はぜひ足を運んでみてほしい。
今回お話を伺った方
写真左から
青木佐千子(あおき・さちこ)
神奈川県出身。2018年、司法書士資格を取得し、その後およそ3年にわたり資格予備校に勤める。2021年に都内の司法書士法人にて勤務し研鑽を積んだのち、2025年「ブルーツリー司法書士事務所」を開設。2025年7月から「by for the rainbow」に参画し、LGBTQ当事者の法的備えに尽力する。
大関久美子(おおぜき・くみこ)
神奈川県出身。介護業界を経て、2016年に宅地建物取引士免許を取得したことを機に、大手デベロッパーでマンション販売を担当。その後相続を専門に取り扱う不動産会社へ転職し、仲介・仕入れ・再販事業に携わり相続相談窓口の責任者を務める。2024年5月にLGBTQ+当事者による当事者のための士業&議員のグループ「by for the rainbow」を立ち上げる。2025年、ユクエテラス株式会社を設立し、代表として当事者に寄り添う。
井邊亮子(いべ・りょうこ)
神奈川県出身。東京農業大学を卒業後、英エセックス大学にて生物学修士を修め、国内製薬会社にて勤務。医薬情報担当者を4年、マーケティング職に7年勤務する傍ら、2021年個人・企業のコンサルティングを行う「株式会社Wealth Hatch」を設立。「by for the rainbow」立ち上げより参画し、ファイナンシャルプランナーの見識を活かしてLGBTQ当事者のライフプランニングなどの相談やセミナーを担う。
■by for the rainbow
https://www.yukueterasu.com/lp/by-for-the-rainbow/
■LGBTQのためのマイホーム相談会 -FRIENDLY DOOR FES-
https://e-ve.event-form.jp/cv/C4A69eeac28a87f3
※ LGBTQ=セクシュアルマイノリティの総称の一つ。L(レズビアン:女性同性愛者)・G(ゲイ:男性同性愛者)・B(バイセクシュアル:両性愛者)・T(トランスジェンダー:体の性と心の性が一致しない人)・Q(クエスチョニング:性自認や性的指向が定まっていない人、その他のセクシュアルマイノリティ)を表す。本記事では、あらゆるセクシュアルマイノリティの方が含まれる総称を「LGBTQ」とし、便宜上表記を統一している。
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