市民からの通報を受ける専用窓口「民泊110番」

平成27年の京都への観光客数は5,684万人となっており、平成26年の5,564万人から120万人(2.2%)増えている。(平成27年 京都観光総合調査より)平成27年の京都への観光客数は5,684万人となっており、平成26年の5,564万人から120万人(2.2%)増えている。(平成27年 京都観光総合調査より)

観光客が多く、客室不足であり特区にも指定されている京都市において、民泊を推進、緩和するのとは逆方向の動きに見える民泊専用窓口「民泊110番」が設置されたことは全国でも話題となった。以下では、京都市における民泊の現状と課題を考えてみる。

米国の有名旅行雑誌「Travel+Leisure(トラベル・アンド・レジャー)」の世界人気観光都市ランキングで2014、2015年と連続1位だった京都。それはちょうど民泊仲介サイト「Airbnb」が日本で認知されはじめた時期とも重なっていた。観光客が急増し、宿泊施設が不足する状態となったこともあり、Web上で簡単に宿泊客を見つけることができる「Airbnb」は一気に普及し、民泊の物件数は増えた。当初は自宅の一室や留守宅で始める人が多かったが、次第にアパートの一室を民泊用に借りたり、自らが保有する賃貸住宅で始める人が現れ、そのうちに運営業者に委託し複数の住宅で始めるものも現れだした。そのようにして民泊の数が増加するとともに行政への苦情やトラブルも見られるようになった。行政も民泊の取り扱いをどのようにするかを問われるようになり、2015年12月から京都市は実態調査に乗り出すことになった。

実態調査で明るみになった、京都における民泊の実態

それまでは実態が明るみに出ていなかった京都市内での民泊。2015年12月1日から翌年3月31日まで行われた京都市民泊施設実態調査で、その「市場規模」がある程度明らかにされた。京都市内における民泊物件の掲載件数が10件以上確認された「Airbnb」他7サイトならびに日本法人による運営されている1サイトの計8サイトを調査対象とし、期間中に確認された施設数は2,702件。そのうち「旅館業法上は無許可と推測される施設数」は約7割弱の1,847件であった。

ところで民泊による「住民が被る被害」とはどのようなものか?例えば「ゴミ出しのルールを守らない」「深夜早朝の出入りが頻繁にありうるさい」のような実際に迷惑がかかっている事例もあるが、看過されがちなのが住民が感じる漠然とした不安だ。実際に何か不都合が起きていなくても、知らない人間が出入りすることや、運営者が不明であることに対する不安、特に運営者がわからないことについての不安感は大きい。看板を揚げて営業しているホテルや旅館であれば、フロントに行くなり電話をするなり、直接伝える術(すべ)がある。ところが民泊の場合は何か問題があっても誰に言えばいいのかがわからない。そこで開設されたのが「民泊通報・相談窓口」、いわゆる「民泊110番」だ。2016年7月のことだ。

そこではどのような相談が寄せられているか?市のWebサイトでは「よくあるご質問・ご相談Q&A」としていくつか紹介されており、その内容は大きく2つに分類される。一つは「京都市の「民泊」に対する考え方を教えてほしい」「近所で民泊が行われているようだが,許可があるのか知りたい。許可がなければ指導してほしい」「近隣で「民泊」が開業するようだが不安である。どうすればいいか」といった、民泊に指導や規制を期待する内容。そしてももう一つは「持っている空き家で民泊を営業したいと考えている。旅館業法の許可は必要ですか」「マンションの一室で民泊を営業したいと考えている。可能でしょうか」といった自ら民泊物件提供したい人からの質問だ。
双方にバランスをとった回答を記載しているとは考えられるが、規制してほしい人と自らが営業したい人の双方ともに関心が高いことは想像に難くない。実際に京都市内で宿泊事業を行いたい人は多く、大阪の会社がわざわざ運営しているケースもたくさんある。反対に京都にある事業者が大阪で宿泊事業を行いたいという話はあまり聞かない。京都の市場が魅力的だということは改めて理由をつける必要もないであろう。

それだけニーズがあって、空き家活用、空室対策にもなる一石二鳥の活用方法である民泊だが、今のところ京都市が後押しをしようとする動きは見られない。9月9日に特区民泊の最低宿泊日数が「6泊7日以上」から「2泊3日以上」に規制緩和されることが正式に発表されたが、京都市内では盛り上がりに欠けている。今月(10月)12日に事業者向けの説明会を開いた大阪市とは対照的だ。

京都市内の民泊施設の旅館業法の許可の有無
参照:京都市「京都市民泊施設実態調査について」より一部抜粋京都市内の民泊施設の旅館業法の許可の有無 参照:京都市「京都市民泊施設実態調査について」より一部抜粋

合法に行う民泊には、旅館業法、用途変更など様々なハードルが

旅館業法の規制があるため「合法な民泊」を行うのはとてもハードルが高い。旅館業法をクリアするためには保健所、消防署、建築審査課の指導等をクリアする必要があり、既存の建物で許可を取るにはプロであっても煩雑な作業が必要であり、かつコストもかかる。京都市内においても約9割の施設が「違法の疑いがある」と発表されているが、届け出がなく実際の状況が把握できていないから「疑い」としているだけで、おそらくはほぼ違法である可能性が高い。届け出なしに「帳場(宿泊客の受付などを行う場所)を設ける」といったことを行っている人がどれだけいるか、という話だ。

帳場を設置することも手間がかかるが、旅館業の許可を取るために最も手間とコストがかかるのが「用途変更」だ。「用途」とは建築基準法で定められた建築物の用途のこと。建物には住宅、共同住宅、事務所といった用途が定められている。元から旅館だった建物は用途変更は不要だが、住宅として使われていた建物で旅館業を営むには用途変更が必要となる。用途変更するには多くの書類や図面を作成する必要があり、一般的には設計事務所などへの外注となる。用途変更のための工事も含めると建物によっては数百万円の費用がかかったり用途変更ができない場合もある。

ただこれには抜け道がある。旅館業を営む面積を100m2未満にすることで、用途変更の建築確認申請が不要となる。このルールを利用し、100m2以上の広さあるにもかかわらず、100m2を超える部分を利用せずに旅館業の許可を得ている例や旅館業の運営を断念せざるをえない建物もある。宿泊施設を運営するのに、99m2と101m2でどれだけの差があるものでもないが、まあ、これもルールだ。

「合法な民泊」を行うにはハードルが高いと書いたが、帳場にしろ用途変更にしろ、全て開業前のことだ。開口部の面積、トイレの数、客室面積から標識の設置に至るまでクリアしなければならないことは全て開業までの建物スペックの話と言ってもよい。これに対して近隣住民などからのクレーム、騒音やゴミ出しルールの違反などは開業後の運営の話だ。騒々しく周囲から快く思われていない施設であっても建物として要件を満たし旅館業の許可を取得していれば営業を続けることができ、特段に周辺住民に迷惑をかけずに運営できている施設であっても無許可営業であれば営業の中止を勧告される。これは事業者、住民、双方にとって不幸なことだ。

用途地域による建築物の用途制限の概要(参照:東京都都市整備局)用途地域による建築物の用途制限の概要(参照:東京都都市整備局)

民泊に対する地域住民の不満、その本質とは?

確かに建物のスペックに基準を設け、質を維持することは大切だが、周囲に住む人の民泊に関する不満は建物のスペックではない。極端に言えば、建物のスペックなどはどうでもよい。住民が気になるのは、そこに宿泊する人の行動やマナーだ。そして、その行動やマナーをうまく宿泊客に伝え、守らせ、何かあった時にフォローをするのが運営事業者だ。本来旅館業の許可は、建物に厳しい基準を設けるよりも運営事業者の質を上げる基準・ルールを作る方が周辺住民の生活を守ることになる。いくら旅館業許可の取得促進を促しても、それは宿泊客と周辺住民との調和を図る根本的な解決策とはならない。民泊の要件の緩和は、運営事業者の質の向上とセットで進められるべきだ。

宿泊客の多さ、民泊の数、それにまつわる様々な問題。どれをとってみても京都は日本における民泊先進エリアだ。マイナス面ばかりが取り上げられる民泊だが、質の高い運営事業者もたくさん存在する。この経験値を利用して運営事業者の質を上げるための施策を確立できれば、「旅館業の許可を取得する」「宿泊日数を引き下げる」といった表層的な議論の先に進み、質のいい民泊が増え、さらなる観光の盛り上がりや空き家の活用につながるだろう。

2016年 11月25日 11時00分