「自宅を売却して資金を得ながら、そのまま住み続けられる」。老後の生活費や住み替え資金を確保する方法として紹介される、住宅のリースバック。しかし、住所が変わらなくても、所有者から借主になることで、住まいをめぐる権利と負担は大きく変わる。

国土交通省(以下、国交省)は2026年7月、住宅のリースバック取引に関するガイドラインを策定した。施行は同年10月1日である。買主が宅地建物取引業者であるか、同業者が売買を媒介・代理する取引を対象に、売買と賃貸借を一体の取引として捉え、宅地建物取引業者が守るべきルールを明確にしたものだ。

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相談は年間200件超。「住み続けられる」の条件が問題に

リースバックに関連する全国の消費生活センター等への相談件数は、2022年度116件、2023年度227件、2024年度242件、2025年度214件である。2023年度にほぼ倍増し、その後も年間200件を超える水準が続く。

リースバックでは、自宅の売却によってまとまった現金を得る一方、売却後は家賃を払い続ける。受け取る金額と、その後の負担を切り離して判断できない仕組みである。

国民生活センターが2026年8月に公表した資料には、約1,000万円で自宅を売り、月7万円で住んでいたところ、約10万円への値上げを求められたという相談がある。これは相談者の申告に基づく事例であり、値上げの法的な有効性が確定したものではない。それでも、契約時の家賃だけで将来の暮らしを考える危うさを示している。

売買と賃貸借を一体として宅建業法の適用を明確化

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制度を理解するうえで押さえたいのは、不動産会社が自ら所有する物件を貸す行為そのものは、宅地建物取引業法(以下、宅建業法)が定める宅地建物取引業に含まれない点だ。賃貸の仲介には宅建業法の規定が適用されるが、自ら貸主になる場合とは扱いが異なる。

ただし、この違いから「売買は保護されるが、賃貸は何をしてもよい」と理解するのは誤りである。賃貸借には借地借家法などのルールがあり、リースバックでは、そもそも売却後に住める条件が売却の判断を左右する。

今回のガイドライン(以下、指針)は、この関係を明確にした。家賃や契約期間などの賃貸条件も、売買の意思決定に重要な影響を与える事項として、故意に事実を告げない行為の禁止対象になる。

つまり、「貸主としての契約だから、売買時に説明しなくてよい」という扱いにはできない。国交省は、過失による告知漏れでも、宅建業法31条1項の信義誠実義務に抵触するおそれがあるとしている。

告げるべき事項と、望ましい対応には違いがある

指針では、以下のような内容を告知対象として具体化した。
● 売買契約の解除条件や違約金
● 買戻し特約の有無と内容
● 賃貸借の家賃、支払時期・方法
● 普通借家・定期借家の別、契約期間、更新に関する事項
● 修繕費用の負担区分
● 第三者への転売の可能性と、その場合の賃貸借関係への影響など

なお、これらは限定列挙ではなく、相手方から関心や質問が寄せられた事項についても、通常の注意を用いて可能な範囲で調査し、告知することが必要とされている。
反対に、売買価格や家賃の算定根拠、売却代金が家賃等の何ヶ月分に当たるかの説明は、指針では一律の法的義務とはしていない。可能な範囲で対応することが望ましい事項に位置付けている。売買の仲介会社による価格の根拠説明など、別途適用される義務は区別して考える必要がある。

今回の指針自体が、新たな刑罰を創設したわけではない。既存の宅建業法の適用を明確にしたもので、同法47条1号に違反すれば、監督処分に加え、拘禁刑や罰金刑の対象となる可能性がある。

「金額」「期間」「終了条件」は2つの契約書に分かれて書かれる

リースバックでは、売買契約書と賃貸借契約書が別々に作られる。手元に残る金額は売買契約書に、住める期間や家賃は賃貸借契約書に書かれ、一方だけを読んでも取引の全体像はつかめない。指針が、告知すべき事項を記載した書面の交付を望ましいとしたのは、分かれた情報を一覧できるようにする趣旨と読める。

もっとも、宅建業法のクーリング・オフは宅地建物取引業者が売主となる取引で買主を保護する制度で、消費者が事業者に自宅を売るリースバックには適用されない。売買契約が成立すると、無条件で解除することはできない。2つの契約書を横断して確認する項目を整理すると、次のようになる。

「金額」「期間」「終了条件」は2つの契約書に分かれて書かれる

買戻しについても、国交省が2022年に公表した消費者向けガイドブックは「当然の権利」ではないとし、「いつまでに」「いくらで」買い戻せるのかを契約書で確かめるよう促している。広告や説明で買戻しに触れられていても、契約書に条件が具体的に書かれていなければ、確定した約束とはいえない。

定期借家の「再契約」と貸主の変更が、住み続けられるかを左右する

定期借家は期間満了で更新されずに終了する契約で、再契約には貸主と借主双方の合意が必要である。「再契約の可能性がある」ことと「希望する限り住める」ことは同じではない。

ガイドブックは、事業者が再契約の予定を表明しているに過ぎない場合、再契約前に住宅が第三者へ売却され、新たな貸主から再契約を拒まれる可能性を指摘する。

期間満了が近づいて再契約を拒否され、退去することになった相談例も掲載されている。長期の居住を前提にするなら、普通借家か、再契約の条件と貸主が変わった場合の扱いが書面で定められているかが分かれ目になる。

なお、更新がなく期間満了で終了する旨を契約前に説明する制度は、定期借家にもともと設けられている。2022年5月に施行された借地借家法改正で契約や事前説明の電子化が可能になり、国交省の「定期賃貸住宅標準契約書」も対応した。

修繕や原状回復も、通常の使用による損耗や経年変化まで当然に借主負担となるわけではない。特約があるなら、その内容と有効性が問われる。

価格と家賃は「相場との差」と「支払総額」で評価される

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リースバックの売却価格は、買主である事業者が物件を保有・再販する前提で決まるため、購入希望者を広く募る通常の売却とは価格の決まり方が異なる。家賃は買取価格を基に設定されることが多く、国交省が2021年に公表した検討会資料(2020年の事業者調査)には「買取価格×(6〜8%÷12ヶ月)」で賃料を査定するという事業者の回答がある。この6〜8%で計算すると、12年から17年ほどで家賃の合計が受け取った代金を上回る計算になる。

ガイドブックには、自宅を約2,000万円で売却し、家賃が月約20万円のため10年住めば売却代金を上回ることに契約後に気付いた事例が載っている。売却で受け取る金額と賃料として支払う総額の関係は、住む年数によって大きく変わる。

指針は、価格と家賃の算定根拠や、売却代金が家賃等の何ヶ月分に当たるかの説明を「対応することが望ましい事項」に位置付けた。義務ではないが、相場との差と住む予定の年数ごとの家賃総額が示されるかどうかは、取引の透明性を測る目安の1つになる。

生活費を補う目的の利用は「資金が続くかどうか」で結果が分かれる

筆者も、高齢者に限らず50代・60代から相談を受けたことがある。

50代の男性は早期退職後に再就職先が決まらず、生活費の不足を補ううちに貯蓄がほぼ底をついた。住宅ローンは完済しており、資産は築20年超の自宅マンションのみ。事業者の査定では約1,800万円で買い取れるといい、売却代金を生活費に充てながら住み続けることを検討していた。

年間賃料を買取価格の6〜8%とすると、家賃は月9万〜12万円になる。売却に伴う費用などを差し引いた手元資金を1,550万円、家賃以外の生活費を月20万円と仮定する。

収入がなく家賃と生活費が変わらない場合、年間支出は348万〜384万円となり、約4.0〜4.5年で資金が尽きる。50代から60代前半で利用を始めるなら、この条件では公的年金の受給が始まるまで資金が持たない。家賃の負担はその後も続く。

試算が示すのは、リースバックでまとまった資金を得ても、家賃という新たな固定費が生まれ、収入の回復がなければ資金が枯渇する構造である。生活資金の確保が目的なら、通常の売却でより住居費の安い住まいへ移る方法や、自宅を担保に借り入れるリバースモーゲージといった選択肢もある。どの方法が適するかは、収入の見通しと住む予定の年数によって変わる。

需要が高まる中で指針は取引の透明性を高める一歩となる

国交省のガイドライン概要は、リースバックが住み替えの円滑化や老後の資金需要で注目される一方、賃料・契約期間・違約金などの相談が高水準で推移し、高齢者を狙った「押し買い」も発生していると整理している。ガイドブックにも、断っても繰り返された電話勧誘の末に契約し、解約を申し出たら約400万円の違約金を求められた事例がある。

国交省は、違反した不動産会社への監督処分に加え、消費生活センター等に寄せられた個社名を含む相談情報を免許行政庁へ共有する方針も示した。

もっとも、指針だけで市場の縮小や事業者の淘汰が進むと断定することはできない。自宅に住み続けながら資金を確保したいという需要は国交省も「注目される」と整理しており、高齢者施設への入居までの短期利用、普通借家による長期の居住、買戻し条件を明確にした契約など、取引の形も多様化している。

10月1日の施行後は、売買と賃貸借を一体として説明したかどうかが、宅建業法上の評価の対象になる。指針が実際にトラブルの減少につながるかは、説明の実態と相談件数の推移で検証されていくことになるだろう。

ホームズ君

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