賃貸の契約時から退去後までの注意点を解説したガイドライン
賃貸住宅の契約内容に関するトラブルが後を絶たない。
PIO-NET(全国消費生活情報ネットワーク)に寄せられた相談件数は、ここ数年、1万4,000件前後で推移している。特に人口が集中する東京都では、居住する600万世帯のうち、4割弱にあたる220万世帯が民間の賃貸住宅で暮らしており、賃貸契約のトラブルが問題となっていた。その対策の一つとして、東京都が作成しているのが『賃貸住宅トラブルガイドライン』である。
前回は、このガイドラインのうち、賃貸契約から入居までの注意点を紹介した。簡単に内容を振り返ってみよう。
賃貸住宅を借りる際は、まずは、原状回復等の原則をきちんと理解しておくことが重要だ。原則とは「建物や設備の価値は、経年や使用によって減少していく」ということだ。そのため、原状回復に対する貸主・借主の負担は次のようになる。
・経年変化や通常の使用による損耗等の復旧は貸主の負担
・借主の故意・過失や通常の使用方法に反するなど、借主の責任によって生じた住宅の損耗やキズ等の復旧は借主の負担
ただし、個別の契約では、貸主と借主の合意によって原則と異なる特約を定めることができ、たとえ借主に不利なものでも基本的には有効となってしまうので注意が必要だ。
こうした原状回復の原則を理解したは良いものの、いざ実際に入居してから、どのような点に気をつけなければいけないのだろうか。今回は続きとして、入居から退去後までの注意点を解説しよう。
これは貸主負担?借主負担?原状回復の負担区分例
原状回復の原則を読んだだけでは、具体的にどのような部分が貸主、もしくは借主の負担になるか分からないという人も多いだろう。入居中の修繕の考え方において押さえておきたいポイントは以下の2点だ。
1)貸主には、借主がその住宅を使用し居住していくうえで、必要となる修繕を行う義務がある。ただし、借主の故意・過失、通常の使用方法に反する使用など、借主の責任によって必要になった修繕は、借主の負担になる。
2)小規模な修繕については、貸主の修繕義務を免除するとともに、貸主が自らの費用負担で行うことができるという特約を定めることができる。
なお、東京都の賃貸住宅紛争防止条例では、修繕に関して、宅地建物取引業者に、
・特約がある場合、当該契約における小規模な修繕の特約内容
・修繕等の連絡先
の2点を説明するように求めている。
これに照らし合わせた場合、貸主負担、借主負担の主な例としては以下のようになる。
※これらの負担区分は、一般的な例示であり、損耗の程度によっては異なる場合に注意したい。
■貸主の負担となるケース(通常損耗や経年劣化、自然災害などによるもの)
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【居室全体】
・専門事業者によるハウスクリーニング(借主が通常の清掃を実施している場合)
【壁(クロス)】
・日照など自然現象による変色
・冷蔵庫やテレビなど後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)
・下地ボードの張り替えが必要ない程度の画びょうやピンの穴
【床】
・日照等による変色
・家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡
・フローリングのワックスがけ
■借主の負担となるケース(借主の故意・過失、通常の使用方法に反する使用など)
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【壁(クロス)】
・クリーニングできない程度のタバコのヤニ
・下地ボードの張り替えが必要な程度のくぎやネジ穴
・結露を放置したことによるカビやシミ
【床】
・借主の不注意による雨の吹き込みなどによる色落ち
・引越し作業等で生じた引っかきキズ
・冷蔵庫下のサビ跡(サビを放置したことによるもの)
【水回り】
・風呂、トイレ、洗面台の水垢、カビ等(使用期間中の清掃や手入れを怠りにより生じた汚損)
・ガスコンロ置き場、換気扇の油汚れ
その他の箇所についての詳細は、ガイドラインで確認してほしい。
不具合や修繕が必要な際の連絡は速やかに!その他、入居中に注意すべきこと
入居中は上記のような原状回復の負担区分をしっかり理解したうえで日常生活を送るべきだ。しかし、それだけでは十分とはいえない。他にも以下のような点に気をつけたい。
ペットの飼育
ペット禁止の部屋で犬や猫を飼うのは明らかな契約違反だ。この場合は退去を求められると同時に、においの除去や消毒のために多額の原状回復費用を請求されることもある。
汚れの放置
家賃を支払っているとはいえ賃貸住宅は他人の財産だ。掃除や手入れを怠ると「善良なる管理者の注意義務違反」に問われ、原状回復費が多額になることもある。
音への配慮
夜中に大音量で音楽を聴いたり、朝早い時間から洗濯機を使用するなど、音の問題は近隣トラブルを招きかねない。
設備の取り付けやグレードアップは貸主の承諾を得てから
「壁の色が気に入らないから塗り替えた」といった行為は、貸主の承諾を得ていなければ明らかに契約違反だ。このような設備のグレードアップなどをしたい場合は必ず事前に貸主または管理会社へ連絡をしなければならない。
そして何よりも、入居中の修繕等の連絡はこまめに速やかに行いたい。上記のように賃貸住宅は他人の財産だ。時間が経ってからだと、修繕が必要となった原因が経年劣化や通常使用によるものなのかの判断が難しくなってしまうため、不具合等が発生した際や、修繕等が必要な部分が見つかったときは、速やかに貸主や管理会社に連絡して対応策を相談すべきである。
最後まで気持ちよく部屋を借りるために!退去時に注意すべきこと
「今までマメに掃除をして問題なく住んできた。だから退去時は適当でいいだろう」。
賃貸住宅の退去時にそんな考え方は禁物だ。賃貸住宅は退去時にも以下のようなマナーを守りたい。
持ち込んだ荷物はすべて出す
退去時は自分の荷物をすべて運び出すことが原則。「もう使わないから」と粗大ごみなどを置いていくと撤去費用を請求されることもある。
きれいに清掃する
当然ながら退去した部屋は、専門のクリーニングスタッフが掃除をする。だからといって何もしないで出ていくのは得策ではない。床に掃除機をかける、雑巾がけをする、水まわりの掃除をする。このような普段行うのと同様の掃除をしておくことが、退去後の追加費用を抑えることにつながる。特に、換気扇や水回り、エアコンのフィルターの清掃は念入りにやっておきたい。
荷物を運び出し、清掃を終えたら、貸主または管理会社と物件状況の確認をすることになる。この際に前回紹介したガイドラインの「入居時の物件状況確認書」などの書面を用意しておくと役に立つ。劣化やキズが目立つ部分などがあった場合、原状回復費はどちらの負担になるのかをしっかり確認したい。具体的な原状回復費が明らかになるのは、ほとんどの場合で数日後になる。その際、納得できなければしっかり説明を求めるべきだ。
それでも話し合いが平行線になる場合は、東京都では賃貸ホットラインなどの相談窓口がある。また、ガイドラインではそれでも解決しない場合の司法手続きの選択肢なども紹介しているの参考にして欲しい。
とはいえ、そこまで話を重大化したい人はほとんどいないだろう。ならばやはり原状回復等の原則を理解したうえで契約し、入居中は常識的に暮らすことがトラブル防止策になるはずだ。そのことを理解するためにも『賃貸住宅トラブルガイドライン』はぜひ一読しておきたい。
賃貸住宅トラブル防止ガイドライン(改訂版)〜概要〜
2018年 01月04日 11時05分