「大介護時代」へ向けて制度が変わりつつある

これからの日本が直面する超高齢化社会では、年金だけでなく医療や介護でも大きな問題を抱え続けることになる。国立社会保障・人口問題研究所による将来推計人口(2013年3月推計)によれば、2025年時点の75歳以上人口は約2,179万人に達し、全国のおよそ5人に1人が75歳以上の高齢者なのだ。単に高齢化するだけではない。内閣府がまとめた高齢社会白書によれば、前期高齢者(65〜74歳)の要介護認定(要支援を含む)は4.2%にとどまるが、後期高齢者(75歳以上)はこれが29.4%に急増するのである。

約800万人とされる「団塊の世代」が後期高齢者となることから「2025年問題」などともいわれているが、介護保険の財政規模は年々増え続け、2000年度に約3兆6千億円だったものが、2025年には約20兆円に膨れあがる見込み(厚生労働省まとめ)とされている。その負担は国や自治体に重くのしかかるため、「大介護時代」を目前にして財政の改善が待ったなしの状況に置かれているのだ。

そのため、2014年6月に「医療介護総合確保推進法(地域における医療及び介護の総合的な確保を促進するための関係法律の整備等に関する法律)」が通常国会で成立し、このうち介護保険関係については2015年4月以降に順次施行されることとなっている。そこで、介護に関する制度や負担がこれからどう変わるのかをみていくことにしよう。

2025年時点では、全国のおよそ5人に1人が75歳以上の高齢者になると想定されている。</br>介護保険の負担も増えるなか、介護に関する制度や負担は今後どのようになっていくのだろうか?2025年時点では、全国のおよそ5人に1人が75歳以上の高齢者になると想定されている。
介護保険の負担も増えるなか、介護に関する制度や負担は今後どのようになっていくのだろうか?

介護保険の自己負担割合や毎月の保険料を引き上げへ

2000年に導入された介護保険制度だが、その財源は2分の1を国と自治体、残り2分の1を40歳以上の被保険者が支払う保険料で賄われている。現状では7段階の要介護度別に定められた基準額をもとに、その範囲内であれば90%が保険から支給され、残りの10%が自己負担となる。限度額を超えた分については全額が自己負担となる仕組みだ。しかし、高齢者人口の増加に伴って介護保険の給付が増え、制度の持続可能性が大きな課題となっている。

そのため、2015年8月からは自己負担割合を1割から2割へ引き上げることとなった。単純に考えれば2倍の負担増だ。ただし、負担の引き上げは所得が一定水準以上の世帯に限られ、高齢者の単身世帯であれば年金収入などの年収が280万円以上の場合となる。厚生労働省の推計では、在宅サービス利用者の約15%、特別養護老人ホーム入居者の約5%が2割負担になるとされ、全国では40万人以上が引き上げの対象になると見込まれている。これまでの利益に応じた「応益負担」から、所得の多寡による「応能負担」への移行であり、開始後15年を経た介護保険制度は、まさに転換期を迎えているといえるだろう。また、2015年8月からは一定所得以上の高齢者について、高額介護サービスの自己負担限度額も引き上げられる予定だ。

65歳以上の被保険者(第1号被保険者)が支払う介護保険料の全国平均額は、2000年度時点で2,911円だったが、3年ごとに引き上げが繰り返され、2012〜2014年度は4,972円にまで上昇した。厚生労働省の推計によれば、今後もさらに引き上げが続き、2025年度には8,200円程度まで上がるとされている。また、中小企業のための政府管掌健康保険である「協会けんぽ」(全国健康保険協会)でも、毎年介護保険料の引き上げが実施されており、2014年度は消費税率引き上げの影響もあって加入者の負担が大きく増えた。

その一方で、2015年4月からは所得が低い人に対する介護保険料の軽減措置が拡大する。保険料の基準額など具体的な内容は市町村によって異なるため一概にはいえないが、収入が多い世帯からより多く徴収することで、収入の少ない世帯の負担を緩和しようとする動きはこれからも続くだろう。

介護保険の財政は厳しい状況が続く中で、消費税率の再引き上げが先送りされ見込んでいた財源が得られなくなったため、その改革が急務になっている面もあるだろう。現在は40歳以上の人が負担している介護保険料を、もっと若い世代の人からも徴収しようとする案が検討されているようである。

軽度の要支援者は介護保険の給付対象外に

要支援1または2といった軽度の人については、2015年度から訪問介護や通所介護が保険の給付(予防給付)対象から外され、市区町村が取り組む地域支援事業に移される予定だ。ただし、全国一斉に移管されるのではなく、自治体の準備状況に応じて2015年4月から3年間をめどに再編成が進められる。ちなみに、介護予防利用者の全国平均は全体の約27%であり、そのうち約57%が訪問介護と通所介護利用者となっている。
 
これまでは全国一律のサービス内容だったものが市区町村ごとに異なる内容となるため、その格差が新たな社会問題として浮上する可能性もあるだろう。将来的に自治体の財政が破綻すれば、介護サービスが手薄になる地域も現れることになる。介護面において市区町村の役割が強化されるわけだが、その一方でNPOやボランティアによる多様なサービスを受けられる機会が増えることにより、選択の幅が広がるケースも期待できるようだ。

介護保険などの収入を増やし、介護保険サービスなどの支出を減らすことが課題とされている中で、国の仕組みによる介護制度から、住民参加型の地域包括ケアシステムへの移行といったテーマも示されているのである。

ちなみに、2014年1月11日に行われた2015年度予算案に関する財務相と厚生労働相の大臣折衝では、介護事業者に支払われる介護報酬を全体で2.27%減額することに合意した。介護報酬の引き下げは2006年度以来、9年ぶりのことになる。国の支出削減と収入増の施策が両輪で進められているのだ。

「第52回社会保障審議会介護保険部会資料2」より引用「第52回社会保障審議会介護保険部会資料2」より引用

特別養護老人ホームの入所要件は厳しく、負担は大きくなる

高齢者施設の中でも他に比べて費用負担が少ない特別養護老人ホームは、入居待ちが約52万人以上に上るとされ、現在でも狭き門だ。この特別養護老人ホームについて2015年4月より入所要件が厳しくされ、原則として新規の入所は要介護3以上の人に限られることとなる。ただし、すでに入居中の要介護1、2の人はそのまま住み続けられるほか、認知症や家族による虐待、一定の障がいなどの「やむを得ない事情」があれば要介護1、2の人でも新規の入所が認められるようだ。

また、特別養護老人ホームや介護老人保健施設での食費や部屋代は原則として自己負担だが、所得が低い人はその負担が軽減されている。しかし、今後はその認定基準が厳しくなるようだ。これまでは年間の所得のみで判定されていたが、これからは預貯金もチェックされるようになり、単身で1,000万円、夫婦で2,000万円を超える預貯金があれば補助対象から外される見込みである。従来は収入に加算されなかった遺族年金や障害年金も収入とみなされることになるようだ。なお、その判定対象から不動産は除外される見込みとなっている。

特別養護老人ホームでは現在、個室の部屋代は原則として全額が利用者負担であるものの、相部屋は居住環境が劣るとして介護保険から給付され、利用者の負担はない。しかし、この相部屋について2015年4月から月額1万5千円程度を徴収する方向で検討が進められている。負担増となるのは夫婦2人世帯で本人の年金収入が211万円を超える人、単身世帯で155万円を超える人などであり、6万人ほどが対象となる見込みだ。さらに相部屋へ入居する人の光熱費負担の値上げも検討されているようである。

老後の住まい対策が欠かせない時代になった

2005年12月に「高齢者専用賃貸住宅(高専賃)」の制度が始まり、2011年10月には有料老人ホームと高専賃の性格を併せ持った「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」の制度も始まった。しかし、急増する高齢者の数には対応できない見込みであり、全体的にみれば将来的にも自分の持ち家や賃貸住宅へ住み続けることになるケースが大半だ。

2012年時点において、要支援・要介護認定者でも高齢者施設などへ入所できる人は17%にとどまり、残りの83%は在宅でのケアを余儀なくされている状況である。そのため、より多くの高齢者が「自助努力」で住まいを確保することは社会的要請であり、高齢者の住まいの場の確保(施設から在宅へ)といった指針も冒頭の法改正で示されている。老後の暮らしを想定した住まい選びを、若いうちから考えておくことが欠かせないのであり、住宅のバリアフリー化など取り組むべき課題も多い。

多くの年金収入は見込めない中で、介護や医療の負担水準はこれからも上がり続けるだろう。高齢になって年金暮らしをするようになれば、民間の賃貸住宅では家賃の負担が重くのしかかることも考えなければならない。収入が大きく減る前に住宅ローンの返済が終わるように住宅取得の計画を考えること、また、賃貸住宅に暮らし続けるのであればその負担ができるようにお金を蓄えておくことも必要だ。

2015年 02月07日 10時59分