高齢者などに部屋を貸したくない要因のひとつが孤独死

令和元年度 「住宅確保要配慮者等の居住支援に関する調査研究報告書。誰でもダウンロードして読めるのでぜひ、ご一読を令和元年度 「住宅確保要配慮者等の居住支援に関する調査研究報告書。誰でもダウンロードして読めるのでぜひ、ご一読を

2015年11月に「『ワケあり物件』はどのように定義されている?諸説を考えてみた」という記事を書いた。この時点で2つの疑問を提示した。ひとつは誰にも看取られずに亡くなることも事故として忌避すべきかという点、そしてもうひとつは今後の高齢化で独居の高齢単身者の増加が予測され、室内で亡くなることを忌避した場合、それが高齢者に部屋を貸したくないという傾向を助長することになりはしないかという点である。

そして実際、この5年ほどの状況はその時の懸念通りに進んできた。2017年に「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法)の一部を改正する法律」が成立、高齢者や障がい者、子育て世帯などの住宅の確保に配慮が必要な人たちに対して入居を拒まないセーフティネット住宅が登録されるようになったが、「入れてあげてもいい住宅」は登録されているものの、「当然に入れる住宅」の登録は遅々として進んでいないのである。その背景には改修費の補助額が非現実的なほどの低額であることその他の事情もあるが、孤独死の問題も大きな要因のひとつである。

これについて公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会(以下全宅連)は住宅確保要配慮者の居住の確保には不動産会社の果たす役割は大きいと意識、一昨年度から研究会を設置、検討をしてきた。昨年度の成果がまとまり、2020年春に「住宅確保要配慮者等の居住支援に関する調査研究報告書」として発表されたのだが、この考え方が潔く、画期的。人の死の意味をも根本的に考え直すきっかけになるのではないかと思うほどである。

孤独死については原則「説明・告知の必要はない」とした

研究会で座長を務めた佐藤弁護士研究会で座長を務めた佐藤弁護士

最初に、同報告書がまとめた孤独死の説明・告知のあり方に関する考え方についてご紹介しよう。以下の4点である。

① 孤独死については、原則として説明・告知の必要はないものとする。
② ただし、臭気等によって近隣から居住者に異変が生じている可能性が指摘された後に孤独死の事実が発覚した場合には、説明・告知をする必要があるものとする。
③ ②の場合であっても、次の借主が、通常想定される契約期間の満了まで当該物件の利用を継続した場合には、貸主はその次の借主に対し説明告知する必要はないものとする。
④ 媒介業者は、業者として通常の注意に基づき②の事実を知った場合に限り、上記②③と同等の取り扱いをするものとする。

この結論に至るまで研究会ではさまざまな意見が交わされたという。最初のテーマは「住宅と死」だったと座長を務めた佐藤貴美弁護士。「住宅とは生活の場です。生活の中には死もあり、死は住宅内で起こり得る、普通の出来事と考えるところからスタートしました」。

「高齢者と暮らさなくなったことで死は遠いもの、分からないものになっていますが、誰の上にも起こりうること。年をとること、老衰は過失でないと考えれば、同様に年を取って足腰が弱り、転んで亡くなること、病死するなども責められることではないことが分かります」と研究会委員の一人、株式会社ハウスメイトマネジメントの伊部尚子氏。

事故物件の「事故」とは何か

住宅の中での死があり得ることであり、老衰などでの死が責められるものでないとすれば孤独死は過失ではない。ましてや事故でもないと佐藤弁護士。

「いわゆる『事故物件』とは何かの定義はありません。仮に関係者に法的責任が生じるような死が発生した部屋を指すのであれば、自殺は遺族、連帯保証人に賠償責任を認めた判例もあり、事故物件といえるでしょう。また、殺人などの事件がおきた物件も同様です。しかしながら、高齢による病死、老衰などは事故ではない。亡くなった時に一人でいたというだけです。事故物件という言葉とは相いれません」

次に出てくるのは心理的瑕疵という言葉だ。事故物件は心理的瑕疵(裁判では『嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的欠陥』とされる)が生じる物件であるとし、人が亡くなったことを心理的瑕疵として、だから告知すべしという論理のもとで「事故物件」という言葉が使われることがある。しかし、これについても佐藤弁護士は「法律的には何が心理的瑕疵に当たり、何を言いなさいとは具体的に定めていません。その部屋を借りるという、あるいはどのような条件で借りるかという意思形成に資する情報を提供しましょうとなっているだけであり、どんな情報が必要かは人によってさまざま。個別事情の中で判断されるべきものです」と話す。

一般的に気になるとされているポイントのほか、Aさんは気にするが、Bさんは気にしないというように、人にはそれぞれ固有の瑕疵とでもいうべき、気になるポイントがある。それに応じて必要な情報を提供すべきだというのである。もちろん、②にある通り、周囲も含め、広く知られている情報である場合については伝えるべきであるとしている。

もうひとつ、心理的瑕疵については時間の経過によって希釈されるという考え方がある。それが③である。最近はインターネットの情報がいつまでも削除されないため、数年前の事実も今の出来事のように錯覚されるが、日常生活の中では事実は確実に時間で希釈されている。そうでなければ、過去に誰かが死んでいるはずの古民家カフェを忌避する人がいるだろうし、京都や鎌倉などの古都、関東大震災や戦災で多くの人が死んだ東京などにも住めないと考える人がいるはずだ。

墓地同様、気にしない人も増えている

議論に当たってはさまざまな事例研究が行われており、報告書にはそうした内容も資料として添付されているのだが、そのうちから考え方の参考になるものをご紹介しよう。

まずはUR都市機構の「特別募集住戸」について。これは入居者が物件内等で亡くなった物件のことで、以前は入居から一律2年間の家賃を半額にしていたそうだが、現在は割引率は原則半額にしているが期間は柔軟に決めている。また、需給関係から見て人気が高く、入居者が決まりやすい物件については割引を行わないこともあるとか。

これについてはかつてより気にしない人が増えていると佐藤弁護士は指摘する。
「昔は墓地が見える物件は敬遠されていましたが、今はリビングから墓地だけが見えるなどよほどのことがない限り、気にしない人もいます。URの場合は過去に何があったかではなく、物件の価値そのもので選択されている、であれば物件内で人の死があったからといって直ちに家賃に反映させる必要はないと判断しているものと思われます」

(一社)日本少額短期保険協会孤独死対策委員会の作成した「孤独死現状レポート」からは高齢者ばかりが孤独死するわけではない現状が分かる。男女別の年齢構成比を見ると男性では60代が32.9%と最も多いものの、20代~40代も18.8%と2割近く。女性では20代~40代が27.7%と3割近くになっており、若い人でも亡くなる時には亡くなる。また、よく言われることだが、男女で大きく異なるのはそもそもの発生比率。85%が男性なのである。また、発見までに時間がかかる傾向にあるのも男性。社会性、人間関係の問題からなのか、この点に関してはもっと広く注意を喚起したいところである。

これからの課題は契約終了と残置物処理

さて、この報告書だが、不動産業界からは好意的な反応が寄せられていると伊部氏。これまで基準、ルールがないため、たとえば「2週間以内に発見できれば通知する必要はない」など自社独自のルールをつくるところがあったり、担当者ごとに違うやり方をしていたりなどてんでんばらばらだった。ところが、今回、法的な根拠があるものではないが、業界の公的な団体が提言したことでそれを参考にしようという気運が出てきたのである。また、国土交通省が検討を始めているという話もある。

いずれにしても高齢化が進み、独居が増えれば孤独死は避けては通れない問題。厚生労働省が推進している地域包括ケアシステムは高齢者が可能な限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるようにしようというものだが、これは同時にわが家で亡くなる人が増えることを意味する。そんな時代に住まいと死はどうあるべきか、今回の報告書からはそうした問題意識も読み取れる。

最後に同研究会の今後について。高齢者などの居住確保を考えた場合、孤独死は大きなハードルではあるが、問題はそれだけではない。たとえば契約者が亡くなった後の契約を誰がどうやって終了させるか、残置物をどう処理するか。これらの問題が今後の研究会でのテーマとなる予定で、今年度以降も検討は続く。いずれも現行の法律が古すぎて実態に追いついていないことで齟齬を生じているのだが、法律改正には時間がかかる。それよりは今回の考え方提示のように、実勢にあった提言を続けることで解釈を変えて実態に合わせていくことが大事なのかもしれない。

令和元年度 住宅確保要配慮者等の居住支援に関する調査研究報告書
https://www.zentaku.or.jp/wp-content/themes/zentaku/pdf/research/estate/research_project/archive2019/housing-support.pdf

2020年 09月01日 11時05分