大学と連携、高齢者がアクティブに暮らす住まい、CCRC

会場となったのは桜美林大学の施設内にある会議室。その時点で大学との連携であることを強く感じた会場となったのは桜美林大学の施設内にある会議室。その時点で大学との連携であることを強く感じた

CCRCという単語をご存知だろうか。これはContinuing Care Retirement Communityの頭文字を並べたもので、高齢者が移住し、健康時から終末期まで継続的なケアや生活サービスなどを受けながら生涯学習や社会活動などに参加する共同体を意味する。アメリカでは2000カ所ほどのCCRCが存在し、推定居住者は75万人に及ぶという。中でも知的刺激や多世代交流を図れると大学と連携したタイプが増加、70カ所ほどになっているそうだ。

日本でこの仕組みが注目されるようになったのは2014年12月に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」で導入に向けての道筋が示されたことから。官邸の資料によると東京都在住者のうち、50代男性の半数以上、また、50代女性及び60代男女の3割以上は地方移住の意向があるという。また、都会では高齢者の住まいが加速度的に不足することが予測される、東京一極集中が様々な弊害を生んでいるとされるなどといった事情がある。そこで地方に住みたいというニーズと、都会でいずれ発生するであろう問題を解決する方途としてCCRCが検討されているというわけだ。

政府の計画では2015年度中に導入にあたっての課題を整理や論点を整理、2016年度以降はモデル事業実施などを経て、全国展開へ繋げる方針というが、実はすでに日本でもCCRC類似の施設は存在しており、新たな建設計画も。今回は平成28年度竣工を目指して桜美林大学が出資するナルドと自立型高齢者住宅を手掛けるコミュニティネットが進めるプロジェクト(平成26年度東京都一般住宅を併設したサービス付き高齢者向け住宅整備事業)の取り組みをご紹介しよう。

参加者の声を反映させる住まい作りが進行中

敷地内に予定されている建物、施設、緑地などについての解説が行われた敷地内に予定されている建物、施設、緑地などについての解説が行われた

計画地は町田市小山ヶ丘にある桜美林大学の敷地内にあり、広さは約2,300坪(約7,300m2)。周囲は緑も多い高台の住宅地で、そこに31~50m2のサービス付き高齢者向け住宅60戸、25~60m2の一般、学生向け住宅40戸が作られる予定となっている。住宅以外にはコミュニティレストラン、学生住民交流センター、クラブハウス、介護事務所、訪問看護ステーションなど、入居者だけでなく、地域の人も利用できるような施設、家庭菜園のように緑のある空間などが配される計画とも。

また、住戸には玄関と共有廊下の間に縁側や土間のような、室内と室外を緩やかに繋ぐ空間を作り、他の入居者とのコミュニケーションを促進する仕組みが検討されていたり、素材の地産地消を考え、地元の多摩産材の活用も課題に上がっているなど、地域や交流その他について様々な配慮が盛り込まれている。

とはいえ、それらは今のところ、まだ最終的な決定事項ではない。今回のプロジェクトではみんなでつくりあげていくという考え方を大事にしている。具体的には大学、設計者、施工に携わる事業者のみならず、入居希望者、地域住民、そして可能であれば行政などとも話し合いの機会を持ち、多くの人の意見を取り入れながら詳細を詰めて行くというやり方が取られているのである。企画調査を一般社団法人コミュニティネットワーク協会が担い、「町田小山ヶ丘で暮らし続けるしくみをつくる会」を立ち上げ、2015年2月から定期的に説明会、現地見学会などのイベントを開催してきた。私が取材に訪れたのはその4回目。事業主体となる桜美林大学が出資する会社のほか、設計、企画に携わる会社の人たちなどに加え、このプロジェクトに関心のある周辺エリアに住む人たちが集まった。

大学との連携で生まれる新しい人間関係「知縁」

高齢者施設関係の専門紙取材なども入っており、関心の高さが伺えた高齢者施設関係の専門紙取材なども入っており、関心の高さが伺えた

説明会は参加者の自己紹介から始まった。この日、関係者、取材陣以外で参加したシニアは9人。聞いていると、本当は今の住まいに住み続けたいものの、そうもいかないだろうという不安があり、早いうちから情報を収集しておきたい、様々な選択肢を知っておきたいという考えの人が多いようだった。印象に残ったのは横浜市から参加した転勤族だったという一人暮らしの男性のコメント。これまでずっと仕事の都合であちこちで暮らしてきたものの、最後くらいは自分の住むところを決めたいと言う。リタイア後の人生が長い現代である。終の棲家をベストなものにできれば幸いだろうと思う。

続いて事業者側からプロジェクトの説明が行われたのだが、そこで参加者が非常に関心を持って聞いていた言葉が「カレッジリンクはナレッジリンクである」というもの。大学との提携(カレッジリンク)から生まれるコミュニティは知縁(ナレッジリンク)によるものであり、職縁、血縁と違い、自然には生まれない、自ら知ろうとすること、能動的に他人と触れ合おうとすることで生まれるというのである。

高齢者向けの住まいと聞くと、高齢者が一方的に面倒を見てもらうものというイメージを抱く人が少なくないと思うが、それからすると、このプロジェクトが目指すものは旧来のイメージとはかなり異なる。世話をしてもらわなければならない状態になって移り住むのではなく、元気な時からここに暮らし、学んだり、他人を手助けしたり、社会と関わり続けることで、高齢期の人生の質を高める、そんな住まいなのである。高齢だからといって過度に保護されることなく、最後まで自分らしくあり続けられる住まいともいえよう。

さまざまな年代の人の声、知恵がこれからの高齢者住宅を作る

ワークショップ後の発表風景。頷きながら聞く人も多く、どの人も真剣だったワークショップ後の発表風景。頷きながら聞く人も多く、どの人も真剣だった

プロジェクト説明の後は3つのグループに別れてワークショップが行われた。その3つとはこのプロジェクトが提案する暮らしの3本柱「学び、交流、安心」である。私は学びグループに参加させてもらったのだが、意欲的な意見が頻発し、時間が足りなく思ったほど。
たとえば、事業者側の、大学側が出張してきてゼミを開催する、図書館の本が本棚に並ぶ、大学サークルとの交流などという案に対し、できれば学生証を出してもらって自分の好きに図書館を利用したい、他大学の図書館も使えるようにしてもらえればベストなどという声が出た。また、教えてもらうだけではなく、教える立場として参加することもあり得るのではないかという声もあった。就職にあたっての心構え、仕事の進め方その他、ベテランからは学ぶことも多いだろう。さらにどのような学生が住みたいと思うだろう、学生にとって役立つ情報、知りたいことをリサーチしておくことも必要ではないかという意見も出た。

他のグループでも同様に、さまざまな意見が出たようで、それらの声を参考に今後、具体的な案が練り上げられていくことになる。同プロジェクトでは今後も着工までの毎月、こうしたワークショップを開催、多くの人の意見を聞いていく計画とのこと。自分が住んでみたいと考える人はもちろん、学生も含めた若い人たちにもぜひ、参加してほしいと担当者。現時点で様々な課題が表出しつつある高齢者向けの住まい。今、変わっていかなければ自分が高齢者になった時もそこに住むしかなくなるのだと思うと、若い人にとっても高齢者の住まいは他人事ではないはずだ。

日本版CCRC構想を巡る状況(官邸ホームページより)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/ccrc/dai1/siryou2.pdf#search=%27%EF%BC%A3%EF%BC%A3%EF%BC%B2%EF%BC%A3%27

町田小山ヶ丘で暮らし続けるしくみをつくる会
http://www.conet.or.jp/

2015年 06月05日 11時06分