貸せない、売れない、不便な古い空家はどうすれば良い?

周辺の風景。畑と一戸建て、低層のアパートなどが入り混じる。車はほとんど通らない静かな場所である周辺の風景。畑と一戸建て、低層のアパートなどが入り混じる。車はほとんど通らない静かな場所である

京王線橋本駅からのバスを降りて通りから住宅街に入る。少し行くと風景は畑と住宅が入り混じるのどかなものに。その中にところどころ、長年雨戸を閉めっきりにしているであろう家、放置され、緑に覆われた家が点在している。一方で少し離れた場所にある真新しい一戸建てからは子どもの声。

今、日本のあちこちでこうした風景を見かけることが増えている。ここ、神奈川県相模原だけが特殊というわけではなく、バス便を利用しない場所でも、人気と言われる街でも、主を失った家は日々生まれ、増殖を続けている。「その全てを残す必要があるとは思わないものの、残せるものは残したい」と、幅広くDIYに参加してくれる人を募り、再生を試みる相模原ハウスプロジェクトを主催する木賃デベロップメントの内山章さんは語る。

今回、舞台となる家は1981年に竣工した木造の平屋。ここ20年ほど賃貸住宅として、当初は夫婦と子ども世帯に、最近10年ほどは高齢者世帯に貸していたそうだが、昨年夏に空家となった。相続でこの家を受け継いだオーナーは悩んだ。「近くに相模川もあり、環境はいいのだが、利便性は今ひとつ。普通にリフォームして貸すとすると、家賃が高くないため、リフォーム代が回収できない。借りる人がいるかどうかも不安。また、取り壊して売るとしても、立地的に難しい。旧知の仲だったオーナーからそんな相談を受け、これまでとは違うやり方での活用を考えることになったのです」(木賃デベロップメント・田中歩さん)

建築を学ぶ学生を中心に空家に関心がある人が参加

6畳、8畳の和室に4畳半の洋室、壁いっぱいの収納に広縁というゆったりした間取り。風が吹き抜ける気持ちいい空間でもあった6畳、8畳の和室に4畳半の洋室、壁いっぱいの収納に広縁というゆったりした間取り。風が吹き抜ける気持ちいい空間でもあった

そこで木賃デベロップメントがとったのがフェイスブック上で幅広く参加者を募り、借りる人を探しながら、それに合わせたDIYでリノベを行っていくという方法。「マンションでのDIYは多いものの、平屋で木造という例は珍しい。この周辺には大学も多く、解体からリノベまでのすべての工程に関わることは建築を学んでいる学生には勉強になるだろうと思いました」(前出・内山さん)。

実際、初日に集まった10数人の中には建築を学ぶ学生が半数近く。「古い木造住宅に手を入れることでどのように変化していくかを体感したい」という声があったことを思うと、内山さんの目論見はうまく行ったようである。

だが、参加者は学生ばかりではなく、地元で同様の物件を所有しているため、自分がやる時の参考になるかと思ったというサラリーマン大家さんや、家に求める価値観の変化に関心を持っているという女性など、地域、年齢、性別、興味はそれぞれバラバラ。しかし、どの人も空家に関心があること、自分たちで何かをしてみたい、体験してみたいという気持ちは共通のように思えた。

立場、年齢、興味の違う人が関わることで新しいアイディアが生まれる

どうして参加したのか、この家をどうしていきたい、いろいろな意見が出たどうして参加したのか、この家をどうしていきたい、いろいろな意見が出た

プロジェクト初日は建物周囲の草刈り、プロジェクトの概要説明と意見交換の後、参加者全員でバーベキューというスケジュール。意見交換、バーベキューではこの家の今後についていろいろなアイディアが出た。一戸建ての活用ではシェアハウスが一般的になりつつあるが、加えて「どうせなら、学生3~4人で住み、それを受け継いでいく形にできれば」(内山さん)。「相模川、キャンプ場が近いことを考えると、週末だけ別荘としてシェアというやり方もあるのでは。数人集まれば、安く使える」(田中さん)。

また、シェア以外では「家族に住んでもらい、いずれは買い取ってもらうという考えはどうだろう」「広さが必要な作品を作っている人のアトリエ兼住居という方法も考えられますね」「DIYしたい入居者を募って、みんなで一緒に作り上げていくと面白い」などなど。普通に不動産会社やハウスメーカーに相談したのでは出てこないだろうアイディアがあちこちで話し合われていたのが印象的だった。

そう、このプロジェクトの面白いところは、普通に相談したのではダメと思われる案件が最終的に上記のいずれのアイディアになるかは別として、こうしたいろいろなアイディアの積み重ねでなんとかなりそうだという点。普通に不動産会社に相談したら売りましょう、貸しましょうだろうし、ハウスメーカーはアパートを建てなさい、リフォーム会社ならリフォームしましょうで話は終わる。だが、今、日本で増えつつある空家はこの物件同様、売るでも、貸す、建て替える、リフォームするでもにっちもさっちも行かないケースが多い。そこで「普通なら」の解決法が役立つわけはない。何か新しい発想が必要なのである。

専門の違う人たちがタッグを組むことで空家問題に光明を

最後はオーナーさんも混じってのバーベキュー。アルコールも入って本音でやりとり最後はオーナーさんも混じってのバーベキュー。アルコールも入って本音でやりとり

木賃デベロップメントは街づくりにも関わる建築家の内山さん、信託銀行出身でお金に強い不動産会社の田中さん、提案型の、設計から含めた施工ができる工務店の福井信行さんの3人が共同で木造の空家再生に取り組むチーム。これまで木造アパートや一戸建ての再生などを手がけ、それぞれに話題になった。しかも、ケースごとに手法は異なる。一口に空家問題といっても、立地、建物、大家さんが異なる以上、解決策がそれぞれ違うのは当然だが、これまではそこまで個別に対応できる人、会社がなかったように思う。専門の違う人たちが協働することでそれを可能とするやり方は、今後、もっと模索されても良いのではないだろうか。

最後にこれからのプロジェクトだが、今後1カ月ほどで住み手を探し、それに合わせてどう作るかを考えていく予定。「自分たちで探すことに加え、改装可物件だけを集めたサイトを利用、両方で探していきます。DIYについては解体、塗装、床貼りなど作業工程ごとに希望者を募って進めます。スケジュールはフェイスブックで告知しますので、興味のあるところに参加していただけると嬉しいですね。また、情報を発信したり、活動を記録したりをお手伝いしていただける人も募集しています」(内山さん)とのこと。DIYをやってみたいけれど、チャンスがないという人なら、専門家もいての作業なので良い経験になるだろう。長期に渡るプロジェクトになりそうだが、結果についてはまた記事でお伝えしたいと思う。



■取材協力■
木賃デベロップメント   https://www.facebook.com/mokuchindevelopment?ref=ts&fref=ts
スタジオA建築設計事務所(内山章さん)   http://saa-jp.com/
あゆみリアルティーサービス(田中歩さん)  http://www.ayumi-ltd.com/
ルーヴィス(福井信行さん)            http://www.roovice.com/

2014年 07月31日 12時03分