ワケあり物件の定義とは?

古い物件では高齢者が住んでいることも多く、一人で自室で亡くなるケースも増えている古い物件では高齢者が住んでいることも多く、一人で自室で亡くなるケースも増えている

最初にワケあり物件とはどのように定義されているかを見ていこう。分かりやすいのはURだ。住戸内で住んでいた人が亡くなった部屋を特別募集住宅としており、入居後1年間は家賃を半額にする例がある。URのホームページの中には特別募集住宅としてページが作られており、住戸の一覧表を見ることができる。URの場合、死因については一切記載されておらず、家賃が減額される一定期間が過ぎた後は他の住戸と変わりはなくなる。

では、事故物件情報サイト「大島てる」ではどうなっているか。同サイトでは「『殺人事件・自殺・火災による死亡事故等の嫌悪すべき歴史的事実があった土地・建物』を事故物件と定義します」としており、「など」の中には傷害致死事件なども含まれるという。

「たとえば、あるマンションで刺され心肺停止状態に陥り、救急車で病院に運び込まれたものの死亡が確認されたという場合があります。『そこで刺されなかったら今も生きていた』という意味で、死亡は当該マンションで刺されたことに間違いなく起因しているわけですから、当該マンションが事故物件扱いされることになるのです」。

ただ、実際にはこうした定義には当てはまらない、看取られることなく亡くなった人が住んでいた部屋も事故物件として掲載されている。「2年前、一人暮らしをしていた40代の男性が週末に脳溢血で亡くなりました。週明け、出社しないことを不審に思った会社から連絡があって発見されたのですが、警察の調べでも事件性はありませんでした。念のため、お祓い、リフォーム後、家賃を下げて告知の上、入居してもらったのですが、その後、他の部屋の募集時に建物が事故物件情報サイトに『心理的瑕疵あり』として、掲載されていることが分かりました。事故ではないと削除依頼をしましたが、そのままです」(PM工房社・久保田大介氏)。

自宅で亡くなることは事故なのか

ここに2つの疑問がある。ひとつは誰にも看取られずに亡くなることも事故として忌避すべきかという点である。一人で亡くなり、それが長らく放置されていた場合であれば、原因が事故かどうかとは別に心理的瑕疵になるだろう。だが、家族と暮らしていても、たまたま家人が留守で一人の時に亡くなるケースもあるはず。そうした、亡くなった時に一人だっただけで、すぐに発見されたケースまでを事故としてしまってよいのだろうか。

もちろん、どんな状況であっても人が死んだ場所は嫌という人もいることを考えると、告知は必要だが、それは事故なのか。これについては立場、人によって意見が異なるため、正解はない。だが、部屋探しをする際には自分なりの考えを持っておいたほうが良いかもしれない。

また、今後の高齢化に伴い、独居の単身高齢者の増加が予測される。室内で亡くなることを忌避することは高齢者に部屋を貸したくないという傾向を助長することになりはしないだろうか。これについて「大島てる」は「今の大島てるには『高齢者に貸したくない大家さん』を増やすほどの影響力はまだありません」とする。

だが、高齢者の入居を制限する理由は死亡に伴う原状回復や残置物処分等の費用への不安、空室期間が続くことに伴う家賃収入減少への不安、死亡そのものへの漠然とした不安などだという(三菱総合研究所「高齢者等の居室内での死亡事故等に対する賃貸人の不安解消に関する調査報告書」2013年)。そこに入居者の死がずっと言いたてられる状況が加わるとしたら、貸したくない人が増える可能性は否定できない。

告知はするが、条件は変えないという物件もある。「告知はするものの、それによって条件を変えることはしないという物件があり、その代わり、年齢で制限することもないので、高齢者ばかり8人が入居しています。この物件ではそもそも、当人たちが事故の有無等を気にしていません。若い人ほど死は遠いものと感じるため、気にするのかもしれませんね」(守屋商会・槇ヶ垰 俊一氏)。

ちなみに1950年代までの日本では約80%の人が自宅で亡くなっている。現在は逆で、80%が病院で亡くなる。自宅と死が切り離されたことで、病院以外で亡くなること自体が忌避されるようになったのだとすると、この問題は日本人の死生観の変化に繋がるものなのかもしれない。

「心理的瑕疵あり」「告知事項あり」は意外に範囲が広い

事故物件で多いのは火災によるもの。寝たばこ、不適切なストーブの利用など失火には気を付けたい事故物件で多いのは火災によるもの。寝たばこ、不適切なストーブの利用など失火には気を付けたい

次に心理的瑕疵という言葉について。きちんとした不動産会社であれば事故があった部屋を紹介する際には告知を行う。「心理的瑕疵あり」あるいは「告知事項あり」などはそうした部屋であることをイメージさせる言葉だが、必ずしも事件性のある物件をのみ指すものではないので注意が必要である。

「近隣の住民に文句をつける、いわゆるクレーマーが住んでいる物件があり、それを『告知事項』として記載したところ、事故物件情報サイトに掲載されてしまいました。すぐに理由を明記した削除依頼をし、削除してもらいました」(永幸不動産・森下智樹氏)。

「大島てる」では「心理的瑕疵あり、告知事項あり」には事故物件が含まれるとしており、もし、事故ではないケースがあれば削除に応ずるとしている。削除依頼については「事実無根、虚偽、謝りといった文言が含まれているコメント投稿、上申書などがあれば、少なくともいったんは削除します。だからといって、そのような指摘さえすれば消してもらえるといったことではありません」とする。実際に削除されている例もあることからも分かるように、情報の精度を高めようとする努力は推察される。最近も死亡の理由に事件性があることが分かった例があり、記載はすぐに変更されている。

ただ、といっても情報の信頼度が本当に担保されているかについては考え方次第。そもそも、情報自体は投稿によって収集されている。誰が投稿したかは分からないにようになっており、間違いやいたずら投稿もあり得るが、これについて「大島てる」では「サイトの知名度が上昇しましたので、間違いやいたずら投稿があれば、すぐにその旨の指摘が寄せられるようになりました。そして、そのような指摘に対しては誠意を以て対応しております。ですから、嘘や間違いが長期間放置されるということは考えられません」とする。また、投稿日から時間が経っていることはイコール真実である可能性が高いという。物件所有者等の利害関係人からの削除依頼がないのだから、それは真実であるというのである。

事故物件情報は鵜呑みにせず、確認を

だが、すべての関係者が「大島てる」を見ているかと言えば、必ずしもそうではない。自分の物件が事故物件情報サイトに載っていることに気づかないままという人もいるはずだ。

「大島てる」では「大家さん、不動産業者さんには、毎日、朝・昼・晩の少なくとも計3回は大島てるにアクセスして、保有物件等が勝手に自殺現場とされていないかなどをチェックすることを強くおススメします。『権利の上に眠る者は保護されない』という法諺(ほうげん)があります。利害関係人の皆さんには覚えておいてほしいものです」とするが、事故がないのに「勝手に自殺現場とされる」のはおかしな話である。そこから考えると、部屋探し時に事故物件となっている物件に遭遇した場合には、それだけを鵜呑みにするのではなく、事実をきちんと確認する必要があるだろう。

その際に気になるのは、不動産会社はちゃんと告知してくれるかという点だろう。「大島てる」はよく「不動産屋さんは全員法令に精通しており、それを遵守するという意識が高く、事故物件の告知を常にきちんと行っている。コンプライアンスはしっかりしているのだから『大島てる』など無意味。実際に部屋探しをしているわけではない人にまで公開することの弊害が大きい」という批判を受けるという。

難しいのはこれが半分真実で、半分は疑問だという点だ。30年前に比べ、きちんと告知する会社は確実に増えており、情報開示は進んでいる。だが、一方で相変わらず、できることなら知らん顔したいという会社があるのも事実だ。そして困ったことに、どの会社がきちんとしているかは会社ホームページを見たくらいでは分かりにくい。

事故情報の告知年限には決まりはない

事故後、建物が取り壊され、建て直されても事故情報が消えず、苦戦している例もある事故後、建物が取り壊され、建て直されても事故情報が消えず、苦戦している例もある

加えて、こうした心理的瑕疵の告知年限には決まりがない。10年以上前に都庁に取材に行った折には「何年後であっても、入居後に知らなかったと訴えられたら不動産会社の非とされることが多いでしょうね」と聞いたが、現在も状況はほとんど変わっていない。ただ、実際にはURが1年と決めているように、会社によって2年、4年などと自社独自のルールを作り、それに応じて告知を行っている例が多い。問題は人によってどのくらい前ならいいのかが異なること。だが、誠実に仕事をしている会社であれば、その年限が過ぎていても聞けば教えてくれるはずだ。

以上、ワケあり物件について取材したが、そうした物件でもいいという人にも、絶対に借りたくないという人にも、大事なことはその条件をきちんと最初に不動産会社に伝えておくことだろう。「こういう物件を借りたい」は必ず伝えるだろうが、逆に「こういう物件は借りたくない」も大きな条件。これはワケありに限らず、騒音その他の問題を避けるためにも有効である。また、不動産会社は玉石混淆であることを意識し、信頼できる不動産会社を選ぶようにすることもポイントだ。

最後にひとつ、付け加えておきたいのは物件で事故が起きた場合、大家さんもまた被害者であるということ。事故の噂が広まり、空室が続くことを苦にして心労で倒れた例も少なからずあり、情報を開示することは大事だが、それを面白おかしい話にするのは、気の毒である。節度を持って情報と接したいところである。

2015年 11月04日 11時08分