“造船のまち”から“アートのまち”へ。新スポット誕生

西梅田駅から大阪メトロ四つ橋線で17分。終点の住之江公園駅のひとつ前が北加賀屋駅だ。堺市との境に近く、もう少し西へ行けば、大阪南港というロケーションである。

車通りの多い府道からわきにそれると、この地が歩んできた歴史がすぐに顔を見せた。路地に、住宅、商店、工場が立ち並ぶ下町の風情。歩いていて特に気になったのは、鉄工所のような会社と、こぢんまりした喫茶店が多いこと。それは、北加賀屋が造船業で栄えた時代の名残だ。

木津川の河口であるこのあたりには造船所がつくられ、関連した鉄工所などが集まり、大正時代から高度成長期にかけて賑わっていた。働く人たちが喫茶店でひと休み、なんて光景が日常だったのだろう。だが、産業構造は変化し、大手の造船所が移転すると、北加賀屋には空き家や空き工場が目立つようになった。それを、“アートのまち”として再生してきたのが、千島土地株式会社だ。

2004年、名村造船所大阪工場跡地の活用からスタートし、さまざまな遊休不動産を、アートをテーマに再生。以来、まちには多彩な壁画が登場してインスタ映えスポットとして人気を集めるなど、北加賀屋は“造船のまち”から“アートのまち”に変貌を遂げてきた。(※詳しくは、下記の記事でも紹介している「大阪市住之江区・北加賀屋が“造船のまち”から“アートのまち”に生まれ変わったわけ」

そして2020年、新たに誕生したのが大型アーティストスペース「Super Studio Kitakagaya」(以下SSK)だ(事業主:千島土地、企画運営:一般財団法人おおさか創造千島財団)。

建物はほとんど倉庫などとして利用されていた当時のままだ(写真提供:千島土地 撮影:増田好郎 )建物はほとんど倉庫などとして利用されていた当時のままだ(写真提供:千島土地 撮影:増田好郎 )

充実した個室スタジオと共用設備。すぐに創作活動が可能

SSKは、名村造船所で倉庫や設計図室として使われていた建物を活用したシェアスタジオ。
アーティストやクリエイターの創作活動を多面的にサポートする施設として4月から入居者の募集を開始し、5月からオープンする予定だった。新型コロナウイルスの影響で、予定は少しずれたが、6月からアーティストの入居が始まっている。

敷地面積は650m2、建物は1969年築。内部は倉庫として利用されていただけあり、天井が高く、広々とした空間だ。入って右側にあるのが、個室スタジオ。各部屋約25m2で、スポット照明やエアコン、wi-fiといった設備が付いている。

そして左手は、個室スタジオではできないような大きな立体作品をつくるアーティストのためのスペース「Large Studio area」。仕切りはないが4区画あり、各約50m2。ここには、デスクやコンセントが使えるモバイルスタジオが設置してある。

いずれも、作家は各自の必要なものを持ち込むだけですぐに創作活動が始められる。

そして、共用部分もアーティストにとって魅力的だ。スタジオ部分の一部はラボ兼ギャラリーとなっており、広い空間で作品展示をした場合、どのように見えるのかを実際に展示してみたり、映像作品を映し出したりと、自室でできないことを試せる。

さらに、中庭を隔てた離れには、電動のこぎりなどの器具が用意してある作業場「Workshop」がある。自室では行いにくい音や臭いが出る作業ができ、もちろんここもエアコン付きで快適だ。

左上)個室スタジオは2階建ての建物に9室 右上)立体作品制作用の「Large Studio area」 右下)共同で利用できるラボ兼ギャラリー 左下)「Large Studio area」のモバイルスタジオ(写真提供:千島土地 撮影:増田好郎 )左上)個室スタジオは2階建ての建物に9室 右上)立体作品制作用の「Large Studio area」 右下)共同で利用できるラボ兼ギャラリー 左下)「Large Studio area」のモバイルスタジオ(写真提供:千島土地 撮影:増田好郎 )

絵画、映像、グラフィックなどのアーティストが入居

個室スタジオを利用している野原万里絵さん。室内には机やイス、本棚のほか、ソファなども設置してリラックスした雰囲気個室スタジオを利用している野原万里絵さん。室内には机やイス、本棚のほか、ソファなども設置してリラックスした雰囲気

すでにSSKで創作活動を始めていた野原万里絵さんに感想を聞いた。
「スタジオの壁が白くて、作品をかけることができるのがいいですね。また床がフラットで継ぎ目がないのも、創作活動がしやすくて助かります」

壁には野原さんの絵画作品が掛けられ、床には制作中の作品も。SSKの各部屋が、作品誕生の場となるのだ。ここまで創作活動の環境を整えていることには、北加賀屋で長年アーティストを支援してきた千島土地ならではの配慮がある。

「アーティストたちにヒアリングしてみると、スタジオ用に部屋を借りても自分で環境を整えるには、時間もお金もかかります。DIYも得意な人と得意ではない人がいます。それで、基本的な設備を整えて制作に集中できるようにしました」と、おおさか創造千島財団事務局長で、千島土地 地域創生・社会貢献事業部の木坂葵さん。

アーティストたちはここを住居とすることはできないが、共用のキッチンやシャワー室もあり、長時間の作業も快適に行うことができる。現在、絵画、映像、グラフィックデザインなど、多彩なアーティストたちが入居を決めている。アーティスト同士の交流も、新しい刺激となり、創作意欲を掻き立てるだろう。

「スースーキッチン」など、地域住民との交流も

もうひとつ大きな特色がある。SSKは地域住民とアーティストとの交流の場として開かれるということだ。
中庭にある「スースーキッチン」は、フードクリエイターが活用することを想定したスペースで、炭火台やカウンターを備えた台所設備のほか、ピザ窯もある。

SSK内を通らずに、スースーキッチンを訪れられる入り口が設けてあり、スタジオの利用者だけではなく、飲食店として地域住民も気軽に利用できる。今後、週に2回ほどのスナック営業を予定しているという。新型コロナウイルス感染対策のためしばらくはオンラインでの開催となるが、ここから地域の人々とアーティストの交流が広がっていくのも楽しみだ。

「アーティストが創作活動をしている様子を一般の人に見てもらえるようなイベントも計画中です。北加賀屋はアートのまちとして知られるようになってきました。いろいろな人に遊びに来てもらって、北加賀屋の良さを感じてもらえると嬉しいです」と木坂さん。

SSKに通って創作活動ができるのが入居の条件となっており、大阪はもとより、神戸や京都のアーティストも利用している。現在入居者はすべて決まっているが、空きが出ればその都度募集を行う。

シェアスタジオとなることで地域に開かれた造船所施設の跡地。かつて、まちの賑わいを支えた場所で作品が生まれ、人が集う。アートのまち、北加賀屋に造船所時代の遺産が新たな活気をもたらしている。

左上)スースーキッチン 右上)おおさか創造千島財団事務局/千島土地 地域創生・社会貢献事業部の木坂葵さん 右下)スースーキッチン内部 左下)スースーキッチン専用の入り口。営業するようになればここから地域住民が直接訪れることができる(写真提供:千島土地 撮影:増田好郎 )左上)スースーキッチン 右上)おおさか創造千島財団事務局/千島土地 地域創生・社会貢献事業部の木坂葵さん 右下)スースーキッチン内部 左下)スースーキッチン専用の入り口。営業するようになればここから地域住民が直接訪れることができる(写真提供:千島土地 撮影:増田好郎 )

2020年 07月29日 11時05分