世界でも稀な香港の住宅事情

世界でも主要な金融センターであり、自由貿易港として多くの外資系企業を受け入れる香港。経済的な発展はもちろん知られていることだろう。また、世界でも稀な住宅事情であることはニュースなどで見聞きしたことがある人も多いのではないだろうか。

まず香港の住宅事情にかかわる要因として、世界有数の人口密集地であることがあげられる。香港の面積は1,104km2と、東京都(2,188km2)の約半分の面積である。人口は730万人(2015年8月)、人口密度はおおよそ6,600人/km2と、これは世界4位の密集率となる。そういった人口の密集も相まって発生しているのが、不動産価格の高騰である。
日本不動産研究所の2015年10月の調査結果によると、港区元麻布の高級住宅のマンション価格(1戸の専有面積あたりの分譲単価)を 100.0とし、価格水準を比較すると、香港は232.5と倍以上となる。他のアジアの価格指数が台北155.4、上海149.9、シンガポール135.6であることからも、アジア内でも高い価格水準であり、かつ、ニューヨークの173.3と比較しても、世界でもトップクラスの不動産価格水準であることがわかる。加えて超高層建築の集積率の高さもニューヨークを超えて世界一である。

日本から比較的近い距離にありながらも、あまり知られていない香港の住宅事情について調べてみた。

世界でもトップクラスの不動産価格、高い人口密集率、超高層ビルの密集など、香港は多くの特徴を持つ街である世界でもトップクラスの不動産価格、高い人口密集率、超高層ビルの密集など、香港は多くの特徴を持つ街である

香港初の公共住宅 美荷楼で見る香港の住まいの様子

不動産価格が高いこともあり、香港の住民は比較的価格の安い公共住宅に入居するケースが多い。
香港の公共住宅について知るにあたり、参考になる施設がある。1954年に建築された石硤尾にある香港初の公共住宅のうちの一棟、「美荷楼」が再開発の一環でリノベーションされ、ユースホステルと博物館になっている。同年代に建築された公共住宅は解体されてしまったものが多い中、この「美荷楼」は香港特区政府により、第2級の歴史的建造物に指定されている。ユースホテルに隣接する美荷楼生活館では、1950~1970年代に公共住宅に入居していた人たちの暮らしが再現されており、公共住宅の歴史を知ることができるのだ。

香港初の公共住宅は、1953年12月25日のクリスマスに石硤尾周辺で発生した大火事をきっかけに建築されることになった。火事により40人が死亡、住宅が密集していたこともあり瞬く間に被害が広がり、約6万人が家を失うという大参事であった。

当時、最先端とされていたのがH型の建築で、2棟を繋ぐように中央部に共有施設があった。(下写真参照)ここにトイレなどが設置され、当時は1棟に160世帯、300人以上が居住していたとされているが、各階には6つしか共同トイレがなかった。トイレが再現されていたが、ドアはない造り。50人で1つのトイレを利用していたことになるから、当時住んでいた人は相当苦労をしたのではないかと思われる。
居住スペースはというと、1戸あたり5人が居住し、部屋の広さはだいたい11平米程度。部屋を有効活用するため、ロフトを造って2段ベッドにしたり、子どもたちはベッドを勉強机替わりにして生活していた。
この香港初の公共住宅「美荷楼」は6階建ての造りであったが、この当時から比較すると現在の香港の建築は考えられないほどに超高層化している。香港の住宅事情の"今"は、どうなっているのだろうか。

(画像左上)団地は8棟あり、美荷楼のみが改装された(画像右上)1950年代の11平米の部屋が再現されていた。筒状のブリキの洋服入れを子供たちは椅子にして、2段ベッドを机にして勉強していた<br>(画像左下)美荷楼模型。当時最先端であったH型の形をしている。(画像右下)トイレ。戸がない造りになっている(画像左上)団地は8棟あり、美荷楼のみが改装された(画像右上)1950年代の11平米の部屋が再現されていた。筒状のブリキの洋服入れを子供たちは椅子にして、2段ベッドを机にして勉強していた
(画像左下)美荷楼模型。当時最先端であったH型の形をしている。(画像右下)トイレ。戸がない造りになっている

香港特有の土地事情と慢性化する住宅問題

スターツ香港は日本語対応が可能な現地スタッフが5名、日本人2名が駐在し、香港での事業をはじめて11年となる。顧客の好みに合わせたエリアの提案や、ウォーターサーバーの手配、新聞購読やインターネット接続のサポート、水道・ガス・電気などのインフラまで幅広いサポートもしてくれると言う。これまで取引のあった会社は約530社と香港の住宅事情にも詳しいスターツ香港は日本語対応が可能な現地スタッフが5名、日本人2名が駐在し、香港での事業をはじめて11年となる。顧客の好みに合わせたエリアの提案や、ウォーターサーバーの手配、新聞購読やインターネット接続のサポート、水道・ガス・電気などのインフラまで幅広いサポートもしてくれると言う。これまで取引のあった会社は約530社と香港の住宅事情にも詳しい

香港の住宅事情について、香港で2005年から不動産の売買仲介・マンションやオフィスの賃貸仲介などを事業としているスターツ香港有限公司の桜木竜二氏に伺った。

香港の不動産価格の高騰や住宅の高層化はどうして発生したのだろうか?
「背景として、政府が土地を所有し管理するため、土地がなかなか放出されないという点があります。建築の許可が下りても、もともと供給不足の状態である事もあり、結果的に高層建築になります。加えて、土地が狭く山が多いため不動産開発が安易でないという点もあります。また、日本から見て香港は、世界でも主要な金融センターであり、広東語が出来なくとも第二公用語である英語が通じるので言語の面でのハードルも低い。法人税が16.5%と安いこともメリットとしてあります。また、時差が1時間と、会議などコミュニケーションもとりやすく日系企業が進出がしやすい環境にあります。様々な分野で進出している企業があり、そういったことも商業ビルの高層化、密集の要因になっているかもしれません」
日本との距離は4時間30分、東南アジアとの距離は2~4時間とアクセスが良好である香港。香港進出する日本企業は多いようだ。

不動産価格の高騰により、香港は持ち家を持てない人が多い。香港の持ち家率は53%程度であるが、政府は80%を提唱している。住宅難は社会問題にもなっているが、今後この状況を改善するため何らかの施策は実施されるのだろうか?
「現状、賃貸型公共住宅の累積入居申請は28万超、平均の待ち期間は3年を超えています。政府は2026年までの間に公共住宅を28万戸供給目標としており、その為に29カ所の住宅用地を放出するとしています。持ち家率の向上のため、住宅ローンの支援もするようです。
公共住宅とは別に、デベロッパーが建築するマンションの場合、購入に必要な頭金は購入価格の4割程度とされています。2LDKのマンションでも日本円で1億円を超えるため、頭金だけでも4千万円は必要です。主にそういったマンションは現地富裕層、シンガポールや中国などの富裕層が購入することが多いですね」

富裕層は投資用やセカンドハウスとして購入することが多いのだろう。では、一般的に香港に住む人は、いったいどういった暮らしをしているのだろうか?
「親が購入した住宅がある場合は子どもも同居し、2LDK~3LDK程度の間取りに2段ベッドで生活します。香港は相続税がかからないこともあり、そのまま居住し続けるケースもあります。賃貸する場合はワンルーム(1ベッドルーム)で1万~1万2千ドル、日本円で家賃は18万円程度。ですがこの家賃では借りられる人はあまりおらず、ルームシェアをする人が多いですね。その場合は2ベッドルームの家賃1万6千ドルを一人あたり8千ドル、日本円で12万円程度で借ります。香港の手取りが25万円くらいなので給料の半分は家賃で消えてしまうようです」

日本人から見た香港の住宅

香港に進出する海外企業数は、2013年以降、日本が2年連続で1位と最も多い。2014年の調査によると、香港に進出している日本企業は1388社。もし、自身が働いている会社が香港に進出することになったとしたら…いったいどういった暮らしになるのだろうか?日本人駐在員に人気のエリアについて聞いてみた。
「ファミリー層から人気なのはスクールバスが通り、日系スーパーがある付近のエリアです。香港島では太古、西灣、九龍半島の九龍駅周辺も人気で、高級マンションが多いエリアです。紅ハムは日系スーパーがあり、深センや広州へのアクセスが良く中国への出張が多い駐在員の方から人気です。単身であれば、灣仔、銅鑼灣など繁華街に近いところが人気ですね。家賃は太古を例に挙げると、3ベッドルーム80平米、プールやジムなどの設備が充実した高級マンションに子供2人の4人家族で住むとして、家賃は4~5万香港ドル。日本円で60万円から75万円ほどです」

家賃が75万円とすると、1年間駐在して年間の費用は家賃だけでも900万円となる。香港に住みはじめて、日本人が戸惑う日本の住宅との違いはあるのだろうか。

「配管が鉄で出来ている住宅があって、経年によって腐食しサビが出たり漏水したりと、水周りのトラブルは多いですね。河川、地下水などの水資源が少ないため水を広東省から運んでいます。下水は一般的に海水を利用しているなど、独特の水事情もあり水周りのトラブルは絶えません。また、香港は高温多湿の気候のため、夏は湿度が95%を超える時期も多くあります。エアコンを酷使し、エアコンから水が噴き出してくるトラブルも多発します」

また、契約に関しても日本とは慣習が異なるようだ。
「一般的な契約期間は2年間です。1年目を解約不可(FIX期間)とし、13~14か月目で解約が可能で、途中解約の場合でも契約通りの期間の賃料を全額支払う義務があります。またオーナーが契約解除権を持っている契約も多く、オーナーから退去通知があった場合は早ければ1か月程度で退去させられてしまうケースもあるようです。そういった解約に関する慣習の違いもあり、日本人の駐在員には1か月単位で契約が可能なサービスアパートメントが人気です。サービスアパートメントはホテルと同じようなサービスが受けられる賃貸マンションで、家具・家電も付いており、リネンの交換や部屋の掃除もしてくれます」

なお、契約方法は小切手が主流だそうで、早く支払った人が入居者になれるのだそうだ。じっくり物件を見て決める日本では想像もつかないスピードで契約が決まることもあると言う。

香港に行ったことがある人が驚くのが、建築中の建物の足場が香港に行ったことがある人が驚くのが、建築中の建物の足場が"竹"であることだ。鉄などの金属では亜熱帯の香港では足場が非常に暑くなったり錆びたりしてしまうこともあるため竹で作られている。高層ビルでも足場は竹。危険も伴う仕事ではあるが足場職人は給料が高く人気の職業(との噂も)

今後の香港の不動産はどうなる?

高騰を続ける香港の不動産。だが最近、この傾向に変化が見えてきた。特区政府差餉物業估価署による2015年12月4日の発表では10月の住宅価格指数は約1年半ぶりに9月の306から1.1%下落に転じたと報じられた。(『香港ポスト』2015年12月18日号により)
「高騰を続ける不動産価格に歯止めをかけるために実施された2012年の印紙税の負担増加により住宅取引は大幅に減少、中国人観光客の訪問減少による小売業の低下などもあり景気は悪化傾向にあります。経済的な見通しが悲観されていることもあり、不動産価格は今後も下落が予想されます。現時点では、郊外の物件、築年数が古い物件の賃料下落が見られており、日本人が住む場所は、非常に人気があり需要と供給とのバランスがまだ崩れてないため、下落には転じていません。今後、駐在員の減少等が顕著に進むと下落の傾向になっていくと推測できます」と、桜木氏。

下落したと言えど、まだまだ高い香港の不動産。だが進出する日本企業は依然多く、ビジネスチャンスに溢れた都市でもある。不動産価格の下落傾向は今後、経済にも影響を与えるのだろうか。経済的な関連のある企業を多く有する日本にとっても、今後の動向は気になるところである。

取材協力/スターツ香港有限公司
https://www.starts.co.jp/hongkong/

政府関係のオフィスや一流企業が入居する高層ビルが立ち並ぶ灣仔。<br>都市開発計画のもと香港の行政や文化の中心的都市になっている政府関係のオフィスや一流企業が入居する高層ビルが立ち並ぶ灣仔。
都市開発計画のもと香港の行政や文化の中心的都市になっている

2016年 04月15日 11時05分