「自宅で過ごすこと」「自宅に帰ること」が、リスクになる人もいる

2020年、新型コロナウイルスが世界中で猛威をふるっている現在、感染拡大防止策のキーワードの一つが“ステイホーム”。不要不急の外出を避け、家にいようという呼びかけである。

ここで、一つの疑問を抱いた人がいる。「果たして、すべての人にとって“ステイホーム”がベストな選択肢なのだろうか」と考えたのが、龍崎翔子さん。宿泊・不動産のスタートアップ企業「L&Gグローバルビジネス」関連会社「CHILLNN(チルン)」の代表取締役である。「もちろん、多くの人にとって自宅にいることが最も安全ではありますが、逆にリスクとなる人も少なからず存在していると思うんです」

この思いのもと、2020年4月中旬に、CHILLNNが発表したのが「ホテルシェルター」の開始だ。
家にいられない、家に帰りたくない、家以外の拠点がほしいという人に対して、感染対策を前提とした運営を行っているホテルの客室を1週間単位で低料金で貸し出す取組みである。家が安全ではない人とホテルをマッチングさせる「ホテルシェルター」に込めた思いを聞いてみた。

龍崎翔子さん
※「ホテルシェルター」利用希望者とプロジェクト参加ホテルの仮登録を実施中。加盟ホテルでの予約開始時期などは公式サイト(https://www.hotel-shelter.net/)で確認を
龍崎翔子さん ※「ホテルシェルター」利用希望者とプロジェクト参加ホテルの仮登録を実施中。加盟ホテルでの予約開始時期などは公式サイト(https://www.hotel-shelter.net/)で確認を

医療従事者や高齢の家族と暮らす人たちにも安全な空間を提供したい

自宅にいることがリスクになるとは、どのような人が想定されるのだろうか。
「例えば、家庭内に問題がある人。家族からのモラハラや虐待によってストレスを抱え、家から離れたいという人もいるでしょう。親が働きに出ていて、夜遅くまで留守番をしなくてはいけない子どもたちもそうかもしれません」

そして、もう一つ。龍崎さんは、自宅にいられる人ばかりではないということにも問題を見いだしている。
「生活を維持するため、あるいは社会の要請に応えるために出勤を余儀なくされている人もいらっしゃいます。そうした方は、仕事の後に自宅に帰ることがリスクになる場合もあるのではないでしょうか」

医療従事者であれば、家族に感染させてしまうのではと不安に思うこともあるだろう。通勤時の電車や職場で不特定多数の人と接触せざるを得ないサラリーマン、サービス業従事者や、高齢だったり基礎疾患のある家族と暮らす人も常にリスクと隣り合わせである。

そんな人々に安全な空間を提供したい。これが「ホテルシェルター」の大きな目的であり、使命なのだ。

※このプロジェクトは、新型コロナウイルス陽性患者の受け入れを行うものではありません※このプロジェクトは、新型コロナウイルス陽性患者の受け入れを行うものではありません

非対面チェックイン、事前決済、防護アイテムを着用した客室清掃など。感染対策を徹底したガイドラインに沿って運営

本格的な実施の前に、CHILLNN関連会社が運営する「HOTEL SHE,KYOTO」(写真上)と「HOTEL SHE,OSAKA」で実験的運用が行われている本格的な実施の前に、CHILLNN関連会社が運営する「HOTEL SHE,KYOTO」(写真上)と「HOTEL SHE,OSAKA」で実験的運用が行われている

ここで、龍崎さんに2点質問してみた。
まず、1つ目。「ホテルシェルター」加盟施設が近くにない場合、必要な人がこのサービスを受けられない。解決策はあるのだろうか。
「この取組みは、一つの企業でできることではありません。大切なのは、ホテルの連帯。プロジェクトを全国に広げるために、主旨に賛同していただける加盟ホテルを募集中です」

背景には、新型コロナウイルス感染拡大で甚大な影響を受けたホテル業界を盛り上げたいという思いもあるという。
「感染拡大以前の売り上げには及ばないかもしれませんが、利用者が増えることで、施設や雇用の維持が可能なラインの収益化を図ることができる、新たなビジネスモデルにしたいと考えています。業界が団結することで新しい需要をとらえ、ホテルというサービスを新しい時代に適応させていくことができると思うんです」

では、もう1点。クラスター(小規模な集団感染)対策はどのように行っているのだろう。
「『ホテルシェルター』加盟ホテルでは、感染対策のための専用ガイドラインに基づいて運営を行い、感染リスクを抑えられるよう徹底していきます」

ガイドラインは医療関係者の指導のもと作成され、ゾーニング、非対面チェックアウト、事前決済、防護アイテムを着用しての客室清掃などが盛り込まれている。これは、ゲストだけではなく従業員の安全確保のためにも重要。今後、ホテル運営のノウハウを掛け合わせつつ、加盟ホテルと共有していく予定である。

誰かにとっての良い選択肢となるために

「どんなに万全を期しても、ウイルスを100%コントロールすることは不可能です。従業員やゲストが感染する可能性がゼロであることも保証できません」

最後に、龍崎さんはこのプロジェクトに込めた思いを次のように話してくれた。
「ですが、『ホテルシェルター』のサービスを提供することで、生活の安全を守れる方が増えるとしたら。企業が従業員に会社で寝泊りさせずに、満員電車に乗らせずにすむなら。ホテル事業者が資金繰りを少しでもできて、ホテルの従業員が自分の健康を守りながらサービスに従事できるようになれば。そして、この取組みに協賛してくださる企業があれば、意義あるCSR活動をしていただける。私たちは、このプロジェクトを行う意義は大いにあると信じています」

「ホテルシェルター」が、誰かにとって、良い選択肢となるように。龍崎さんはそう願い、プロジェクトを大きく育てようとしている。

誰かにとっての良い選択肢となるために

2020年 05月02日 11時00分