昭和20年代、日本で最初の店舗付き集合住宅(下駄履き住宅)として誕生

朝の堀川商店街。目の前には広々とした堀川通朝の堀川商店街。目の前には広々とした堀川通

京都市中心部。堀川通の西側に商店街がある。
シャッターが下りたままの店もあるにはあるが、昔からの商いと近年オープンした飲食店とが混在していて、地元民に愛されている小さな商店街だ。その店舗と店舗の間に、ところどころ上階への階段が見える。店舗の上、2階と3階は集合住宅になっている団地なのだ。
1階がテナントで上は住居という造り、現在では珍しいものではないが、この団地ができたのは、昭和20年代。全国初の「店舗付き集合住宅」(〝下駄履き住宅〟とも)だ。

堀川通に沿って南から北へ、椹木町団地、下立売団地、出水団地第1棟・第2棟・第3棟、そして平成29年度に解体された上長者町団地。〝堀川団地〟というのはこれらの総称である。

「堀川京極商店街」の繁栄、戦中の建物疎開、そして戦後復興のシンボル

まずは、堀川団地の歴史をおさらいしよう。
戦前、このあたりには「堀川京極商店街」という繁華街があった。だが、昭和20年、空襲に備えて火災の延焼を防ぐための建物疎開が行われ、商店街は立ち退きを余儀なくされる。堀川通が京都市のなかでも道路幅が格段に広いのはこのためだ。
そして、戦後、京都府住宅協会(現在の京都府住宅供給公社の前身)によって、この堀川団地が建てられた際には、1階の店舗部分にもとの堀川京極商店街の店主たちが多く入居し、商店街が再興された。6棟すべてが完成したのは昭和28年のこと。戦後復興のモデルとして各地から視察が訪れたほど、注目されたという。

しかし、誕生から30年ほどしたことから老朽化が指摘されるようになり、平成2年からは住居部分の新規入居をストップした。平成15年に行われた耐震診断調査では、阪神・淡路大震災クラスの地震では倒壊の危険性があることが指摘されていた。

この堀川団地をどのように再生するか―。
平成21年に京都府が「堀川団地まちづくり懇話会」を設置。その方向性が話し合われ、「アートと交流」をテーマにした再生計画がスタートする。

一番南に位置する椹木町団地と、北にある上長者町団地は建て替え、その2棟の間にある4棟(通称〝中4棟〟)を改修することとなり、段階的に改修工事が完了した棟から入居者が募集されてきたが、令和2年2月、下立売団地の改修が終わり、中4棟すべての工事が完了した。春から入居が始まり、内部を見せてもらうことができた。

東側から見た堀川団地。今回の改修で外壁も塗装し直された東側から見た堀川団地。今回の改修で外壁も塗装し直された

創作活動をしやすいように、“土間付き”住戸を設置。一部を美大が利用予定

「店舗も住宅部分も、新規で入居される場合は選考がありまして、『アートと交流』というテーマに合った方々に、入居いただいています」
と京都府住宅供給公社・堀川団地調整推進監の田中裕さん。芸術家や職人でなくても、何かしらアート的な活動や仕事に関わっている人というのが入居の条件となっている。

部屋にも創作活動をしやすいように工夫がなされている。それが“土間付き”住戸だ。見せてもらうと、なるほど、思い切ったリノベーションである。玄関から入ってすぐの空間とキッチンは、コンクリート打ちっぱなしの土間。団地時代から残されている和室には、従来の建具などが一部使用されていて、レトロな雰囲気も漂う。

今回見せてもらった下立売団地にできた土間付き住戸・3室は、京都市右京区にある嵯峨美術大学・同短期大学が利用することがすでに決まっている。
「創作活動をしていると、床が汚れたり、傷がついたりということもあるかと思いますので、作業スペースは土間になっているんです」と同公社業務部業務推進課主査の木原みどりさん。

全体を見ると、中4棟には、住居部分が90戸あり、全面改修や水廻り改修をした部屋が56戸。そのうち、こうした土間付き住戸は18戸あり、基本的に単身者向けだが、子育て世帯が住める少し広めの部屋もあるそうだ。

右上)右下)左下)これらは同一の土間付き住戸内の様子。左上)別の土間付き住戸の一部。団地時代から残してある柱には、以前の住人が付けたキズも。身長を記録していたのだろうか、こういった部分もあたたかみを感じさせる右上)右下)左下)これらは同一の土間付き住戸内の様子。左上)別の土間付き住戸の一部。団地時代から残してある柱には、以前の住人が付けたキズも。身長を記録していたのだろうか、こういった部分もあたたかみを感じさせる

アートを軸に交流を進めることが、団地の活性化に-「堀川会議室」を設置

「アートと交流」とテーマが決まったのには、堀川団地のロケーションが関係していると田中さん。
「堀川団地がある上京区は京都でも文化的なゾーンです。そしてここは西陣地区で職人のまちでもある。ですから、アートを軸に交流できる街づくりをすることとなりました」

すでに改修が済んだ棟には、カバン職人、音楽関係者、陶芸家などが住んでいるそう。もちろん従来からの入居者もそのまま継続して住んでいる。“アート系”の住人と、“非アート系”の住人の交流も進めていきたいところだという。

「出水1棟の1階に『堀川会議室』という空間を設けています。アーティストの方がパフォーマンスやワークショップなど、イベントをしていただけたらと思います。団地住民同士、あるいは近隣の方との交流の場として活用してほしいですね」(田中さん)

上)左側のガラス戸が堀川会議室。右側にあるのは住居階への階段。下)京都府住宅供給公社、堀川団地調整推進監の田中裕さん(右)と、同公社業務部業務推進課主査の木原みどりさん(左)上)左側のガラス戸が堀川会議室。右側にあるのは住居階への階段。下)京都府住宅供給公社、堀川団地調整推進監の田中裕さん(右)と、同公社業務部業務推進課主査の木原みどりさん(左)

エレベータ―設置、耐震補強、子育て世帯向けの住戸など、幅広い人に居心地良い場所に

この堀川団地の改修にあたっては、説明会を開催し、住民と意見交換を重ねた。
中4棟については、従来のままの住戸、一部水廻りを改修する住戸、そして全面改修をする住戸の3通りで工事が行われた。各戸の改修のほか、全体としては、外壁塗装、耐震補強、バリアフリー化なども行われている。

「長く住んでおられる方も多く、住民の高齢化が進んでいますので、建物に外付けでエレベーターを設置しました。また、耐震補強のために、1階店舗の一部には、耐震壁や耐震ブレースを入れています」(木原さん)

また、若い家族にも入居を促したいと、全面改修するなかには、子育て中の世帯を対象にした住戸も設けた。
従来の団地の2戸を合わせて1戸にしたり、3戸分で2戸にするなどして、スペースを広く取り、ダイニングキッチンや子ども部屋も設計。間取りは部屋により異なるが、見学した部屋には、ウォークインクローゼットや室内洗濯物干しも設置されていた。

ちょうど取材日には、引越し中の家族も。堀川団地に興味を持ったきっかけをたずねると、
「もともとこのあたりに住んでいて、商店街に貼り紙がしてあったのを見て応募しました。ちょっと古い部分が残っているなとは思いますが、ここから堀川の桜が見えていいなと」と、窓の外に目をやった。

戦後、復興のシンボルとして誕生し、築60年を超えた団地がこうして新たな住人を迎えた春。「アートと交流」というテーマのもとに、一層賑やかになるだろう。
「この堀川団地をはじめ、地域が活性化してほしいと思います。人が増えて、商店街に活気が出て、住民の方、店舗の方、交流して盛り上がっていけたらと思います」(木原さん)

中4棟の店舗や住戸の入居については随時受け付けている。詳しく知りたい方は、京都府住宅供給公社075(431)4151へ問合せをしてほしい。

右上)子育て世帯を対象にした住戸。右下)店舗改修の際に入れられた耐震ブレース。左)建物の外側に設置されたエレベーター右上)子育て世帯を対象にした住戸。右下)店舗改修の際に入れられた耐震ブレース。左)建物の外側に設置されたエレベーター

2020年 05月22日 11時05分