若い世代と高齢者をつなぐ「だんだんテラス」

京都府南部に位置する八幡(やわた)市。京都市や大阪市への通勤・通学者も多いこの市にある「男山団地」は、A~D地区に分けられた全約4,600戸という大規模団地である。

入居が始まったのは1972年。それから約40年後の2013年、建物の老朽化、入居者の高齢化という課題を持つ男山団地を舞台に、京都府、八幡市、関西大学、UR都市機構が組んで「男山地域まちづくり連携」がスタートした。若者から子育て世代、シニア世代まで、さまざまな人にとって住みやすいコミュニティであり続けることを目指す取り組みだ。

この取り組みにはいくつかのプロジェクトがあるが、「だんだんテラス」もそのひとつ。2013年11月、団地内にある商店街の空き店舗を利用して作られた、地域住民の交流の場である。
「名前には『団地で談話する』という意味と、『だんだんと団地を良くしていこう』という願いが込められています」とは、UR都市機構西日本支社京奈エリア経営部主幹の山本俊夫さん。

「だんだんテラス」は原則的に365日オープンしており、関西大学の学生が常駐している。住人がいつでも気軽に立ち寄れる居場所でありたいという思いからだ。また、地元農家の野菜を販売する「だんだん朝市」や、ラジオ体操・サークル活動も行われるなど、団地内の若い世代と高齢者をつなぐ、コミュニティ活性化の重要な役割も担っている。

(上)取材に訪れた日、「だんだんテラス」には「はがき絵サークル」のメンバーが集合。お菓子とお茶を楽しみながら、思い思いに作品制作を楽しんでいた (下)UR都市機構西日本支社京奈エリア経営部主幹の山本俊夫さん(右)と、関西大学大学院の学生・東浦隆介さん(上)取材に訪れた日、「だんだんテラス」には「はがき絵サークル」のメンバーが集合。お菓子とお茶を楽しみながら、思い思いに作品制作を楽しんでいた (下)UR都市機構西日本支社京奈エリア経営部主幹の山本俊夫さん(右)と、関西大学大学院の学生・東浦隆介さん

リノベーションには、学生が集めた住人の声を反映

「だんだんテラス」にはもうひとつ、大切な役割がある。それが関西大学の学生による「リノベーション住戸プロジェクト」のための情報収集の場ということだ。

今年で5回目を迎えるこのプロジェクトのコンセプトは、“団地の新しい暮らし方をつくる”。
男山団地は50年近く前にできたので、今の暮らしでは住みづらい部分がある。そこで、若い人も含め、いろいろな世代の人が暮らしやすい団地にしようと、毎年1つのテーマを設けてリノベーションを行うことになったのだ。設計を担当するのはMKSDP(関西大学戦略的研究基盤団地再生プロジェクト)チームの学生たち。その設計を元に空き住戸のリノベーションをし、入居者を募っている。

山本さんは、
「学生が『だんだんテラス』で実際に住人と関わることで、『今、みんなはこんなことで困っているんだな』『こういう住まいなら便利』といった課題が見えてきます。それをリノベーションの参考にしているんです」と言う。
学生と住民の密な関係があってこそのプロジェクトだということがよく分かる。

工具が置かれ、作業スペースもある「だんだんラボ」が登場

(上)C地区の入り口に掲げられた「ココロミタウン」の看板 (下)「だんだんラボ」。左側の壁にかけられた工具は使用自由(有料)。奥には電動のこぎりなどもあるので、棚など“大物”の作業も可能(上)C地区の入り口に掲げられた「ココロミタウン」の看板 (下)「だんだんラボ」。左側の壁にかけられた工具は使用自由(有料)。奥には電動のこぎりなどもあるので、棚など“大物”の作業も可能

5回目となる今年のリノベーションのテーマは「DIY」。
男山団地C地区を中心に3つの住戸で行われた。同団地C地区は2016年、居住者自らが自分好みの住宅に改修可能な男山団地初のセルフリノベーション特区に指定され、「ココロミタウン」と名付けられたエリアである。

「ココロミタウンは、原状回復義務が一部免除される地区。居住している方々がDIYやリノベーションにチャレンジしやすいようにするためです。ご自身の手で住まいを変化させることで愛着を感じ、住み続けたい家、住み続けたい街と思っていただけたら」(山本さん)

「ココロミタウン」に続いてできたのが、「だんだんラボ」。山本さんは、「DIYができる住居ですよと言っても、工具もないし、場所もない。それでは困りますよね。そこで作ったのが、自由に使える工具などを置いている『だんだんラボ』です。もちろん、この場所で作業をしていただけます」と話す。

「だんだんラボ」ができたことで、5回目のリノベーションテーマは“DIY”に決まったのだ。

5階からの眺望を生かした“空と暮らす住まい”を設計

では、今年、3つの住戸でどのようなリノベーションが行われたのだろう。
ひとつ目に紹介するのは、関西大学大学院修士の2年生(取材当時)の東浦隆介さんのチームが設計した、“空と暮らす住まい”。5階の空室を “空”をキーワードに作り変えた。

「団地の高齢化が進むと、空室になりがちなのが4階や5階。高齢者は階段を上がるのがつらいですからね。その一方で眺望が良いのが魅力。その点を生かして室内にいても空を感じられるよう、もともとはめられていたすりガラスの大部分を透明のガラスに変えました。また、室内の南側と北側を分断していた間仕切りを取って、“抜け感”のある設計にしました」

間仕切りがない分、広い空間を確保できる。住人はこの空間を自由な発想で、自分らしくDIYで変化させていく。住人が手を加えて初めて、この部屋は完成するのである。

窓の外を見下ろすと目に入る、緑の存在も意識したと言う。

「男山団地の特徴の1つが緑が多いこと。団地の真ん中を緑道が通っていて、そこに約50年かけて大きく育った木々が生えているんです。空と緑の風景が楽しめる住空間です」

ふたつ目の物件は“自分でつくっていく住まい”。
水回りが北側に集まっている点を生かし、間仕切りや押し入れを取り外すことで自由に使える空間が広くなったのだという。ワンルームのどこをどう仕切って寝室スペースにするか、リビングにするかは、住人次第。自由に暮らしを作れる、これがこの住戸の大きなポイントだ。

(上)“空と暮らす住まい”。真ん中にあった間仕切りを取り払うことで窓が一直線につながり、風が通るようになった (下)可動式の壁や本棚を設置することで、空間を仕切ることもできる。それも“自分でつくっていく住まい”の楽しさだ(上)“空と暮らす住まい”。真ん中にあった間仕切りを取り払うことで窓が一直線につながり、風が通るようになった (下)可動式の壁や本棚を設置することで、空間を仕切ることもできる。それも“自分でつくっていく住まい”の楽しさだ

人が集う“土間”を暮らしの中に

3つ目のプラン“土間から広がる多様な住まい”は、実際に住戸を見せてもらった。

玄関扉を開けて、室内をのぞくとバルコニーまで続くフラットなスペースが。早速、最大の特徴である“土間”の登場である。ここは土足OK。靴を履いたまま室内に入るというのに少し戸惑ってしまったが、「団地の玄関は小さいので、来客があると靴でいっぱいになってしまいます。そこで靴のままお客さんが上がれるようにしたんです」と設計者に代わり、東浦さんが教えてくれた。

この空間をどう使うか……。ポイントは土間のすぐ横がキッチンということ。設計者は、土間にテーブルを置いてキッチンでいれたお茶で来客をもてなす場という提案をしているそうだ。そのときに囲むテーブルや飾り棚は、もちろんDIYだろう。

靴を脱いでLDKと寝室にも上がってみた。LDKは、もともとあった間仕切りが取り除かれてできた空間で、大きな窓とあいまって開放感がある。寝室に移動して窓の外をのぞくと、そこには高台にある男山団地ならではの景色が。新しい住人もこの眺めを存分に楽しむに違いない。

今回の3プランの共通項は、仕切りをなくして大きな空間にすることで、自由度の高い暮らしができるスペースを生み出した点。この点が大きな魅力となり、3戸ともすでに入居者が決まっているという。こういった住まいが増えれば、若い世代が住宅選びをする際の選択肢に男山団地が上がりやすくなるはずだ。多世代が住まうであろう男山団地の今後がますます楽しみである。

“土間から広がる多様な住まい”。右側が、人を迎えたり、食事が楽しめる土間“土間から広がる多様な住まい”。右側が、人を迎えたり、食事が楽しめる土間

2019年 05月26日 11時05分