弘前市の移住施策とは?

東北最古の天守閣を誇る「弘前城」をシンボルに、毎年、桜の季節には200万人が訪れる弘前市。
国内外から多くの観光客が訪れているが、多くの地方都市と同じく、人口減少に歯止めをかけ、地域経済を維持しなければならない点は変わらない。そのため、UJIターンを含めた移住・定着政策には力を入れている。

市の運営するUJIターン向け情報サイト『弘前ぐらし』をみても、「仕事」「生活」「住まい」のカテゴリーで様々な補助や支援策を打ち出している。

住まいでいえば弘前圏域8市町村で「空き地・空き家バンク」なども行っているが、そこは雪国。人が住まなくなり手入れができなくなった空き家は、雪の影響もあり屋根などの老朽化が進み、人が住める環境から遠ざかっていく。それだけに、空き家の活用には頭を悩ませる。雪国という地域特性の中で、どのような移住・定着対策を行っているのだろうか?

今回は、弘前市の人口減少対策担当のお二人にお話しを伺ってきた。

UJIターン向け情報サイト『弘前ぐらし』。「仕事」「生活」「住まい」と情報が分かりやすく整理されているうえ、それぞれの施策の詳細や移住者の声なども充実しているUJIターン向け情報サイト『弘前ぐらし』。「仕事」「生活」「住まい」と情報が分かりやすく整理されているうえ、それぞれの施策の詳細や移住者の声なども充実している

東北屈指の学園都市、豊富な医療機関のメリット

全国一のりんごの生産地として名を馳せ、農業が盛んにおこなわれてきた弘前市。平成に入ってからは工業団地を形成するような企業誘致も進められ、平成7年(1995年)には人口19万4000人のピークを迎えた。しかし、この年以降人口は減少し続けており、2019年9月現在17万560人となっている。さらに厳しいことに、このままでいけば2040年には約13万人まで人口が減少するといった推計まである。

ただし悪いことばかりではない、弘前には強みもある。
「弘前市には、弘前大学をはじめ、大学5校と短期大学1校、そして高等学校9校があり、東北屈指の学園都市を誇っています。それに、医療機関も多く高齢化に関しても前向きな対策を打ち出せる環境にあります」と語るのは、市の人口減少対策担当 総括主査を務める佐々木 幸生氏だ。

市内に高等教育機関があるというのは、大きな利点の1つだろう。当然ながら学生時代を弘前で過ごす社会動態としての転入も見込める。
「問題は卒業後です。就職できる環境が少ないのが現状。大卒をカバーする初任給が払える企業は少ない」と佐々木氏は続ける。

そこで弘前市が力を入れている施策の1つがローカルベンチャーの育成事業だ。
「『Next Commons Lab 弘前』を展開し、新たな事業創出を目指している」と同じく人口減少対策担当 主事の肥後 義和氏は説明する。

地域おこし協力隊制度を活用したローカルベンチャースクール

「Next Commons Lab」は岩手県遠野市で始まった地域リソースに対する事業創出などを目的とした、マルチセクターによる活動モデルだ。自治体、企業、地域プレーヤーなどが集まり、ラボメンバー(起業家)を支援していく。

「弘前市では、地域おこし協力隊の制度を活用する形で、起業を志す方をラボメンバーとして募集しています。都市部の人材となるローカルベンチャーを育成するため、移住・起業のプラットホーム(環境基盤)となる受け入れ組織を拠点に、地域資源を活用した起業プロジェクトを展開していく形です」(肥後氏)

実際に、どんなプロジェクトが動いているかというと、例えば弘前ならではの「りんご産業プロジェクト」が進行している。就農支援ディレクターとして募集・着任したラボメンバーが、弘前でりんご農園とシードル工房を営む事業パートナーの支援を受け、技術習得をしながら、新たな就農者のためのマッチングの仕組みづくりに取り組んでいる。また、りんごによる加工品を新たに開発することで6次化を目指すシードル醸造家/商品開発ディレクターも現在募集中だ。

このほか、地域に根ざしたワイン産業の創造として、ワインを作り、学び楽しめる「ワイン産業プロジェクト」や、地元の企業とインターン生のマッチング事業に取り組む「教育プロジェクト」なども進行する。

「ここではりんごが一大産業ですが、当然高齢化による耕作放棄地も問題になっています。ただ、弘前の場合は人口規模もありますので、Uターン希望者も少なくありません。そこで、ただりんご農家を募集しますという形ではなく、その先の広がりを考えて新たなローカルビジネスを創出し、小さな単位を広げていけたらという視点で動いています。県内でも地域おこし協力隊の数は一番多いのが特徴。大企業を誘致するという時代ではなかなかありませんので、小規模ながら新たな芽を数多く育てたいというのがその根底にあります」(佐々木氏)

単に起業という面だけでなく、起業によりまちに変化がおきることにも期待を寄せているという。

東北屈指の学園都市だけに、学生をインターンとして起用。起業家、パートナー、インターンがひとつのチームで地域リソースに対する事業創出を目指す東北屈指の学園都市だけに、学生をインターンとして起用。起業家、パートナー、インターンがひとつのチームで地域リソースに対する事業創出を目指す

生涯活躍のまちとして、アクティブシニアの移住促進策

「サンタハウス弘前公園」(観光地隣接型)(多世代交流型)「サンタハウス弘前公園」(観光地隣接型)(多世代交流型)

一方、医療機関が充実し、「生涯活躍のまち」を標榜していることから、県外から地域貢献意欲の高いアクティブシニアの移住も積極的に受け入れている。

アクティブシニアの移住受け入れにあたっては、居住環境や活躍の場などが異なる2つのモデルを設定している。多世代交流型では、夏休みなど地域の子どもたちに工作や社会教育のボランティアの機会をサポート。観光地隣接型では、観光ボランティアとしての活躍の場を提供することとしている。もちろんどちらも就業に向けた各種情報の提供なども行っている。

事業実施主体である民間事業者と連携して事業を進めており、サービス付高齢者向け住宅等の住まいの提供や、活躍の場の提供などに取り組んでいるほか、お試し居住として短期の受け入れも行っている。お試し居住は、原則2泊3日の短期型で、滞在中のプログラムは個人の希望に合わせ組み立ててもらうことも可能だ。

「地域が必要とする人材を誘致し、アクティブシニアの経験を生かす場を提供することをきっかけとして、人口減少に伴う課題を解決するとともに、より住みやすい地域づくりの実現を目指す取り組みです」(肥後氏)

2017年1月に開始されて以来、現在まで20組がお試し居住を体験し、うち1人が体験後実際にサ高住へ入居しているという。サ高住の月額利用料は、多世代交流型の一番安価な施設で共益費・サービス費込みで7万円程度、食事を付加すると2~3万円が追加される。観光地隣接型になると立地が良いため、共益費・サービス費込みの11万円程度からとなり食事がつくと16万円前後になる。施設料金は結構な金額になる。この辺りは、月額利用料を下げていくか、雇用のサポートを強化するなど収入を増やす仕組みづくりが必要かもしれない。

東京事務所を活用した移住相談・情報発信

左から、弘前市 企画部 企画課 人口減少対策担当 総括主査の佐々木 幸生氏。同じく人口減少対策担当 主事 肥後 義和氏左から、弘前市 企画部 企画課 人口減少対策担当 総括主査の佐々木 幸生氏。同じく人口減少対策担当 主事 肥後 義和氏

そのほか、空き家・空き地利活用事業費補助金では、賃貸の場合、通常3年間分の賃借料として補助限度額25万円のところ、子育て世代には10万円の上乗せがある。公共住宅であれば、上限2万円として子ども1人につき1万円/月の家賃減額もある。

弘前市では、2015年から移住検討者に対する相談対応や、情報発信を目的とした「ひろさき移住サポートセンター」を立ち上げたほか、2017年には「ひろさき移住サポートセンター東京事務所」も開設。相談件数は2016年には61件であったものが、2017年には161件、2018年には255件と大きく増加している。

「やはり、東京で事務所を立ち上げたことは大きく、特にUターンのニーズは多くあります。ただ、Uターンを希望していても大学卒業後すぐに東京に就職した場合などは、地元の企業を知らないことが多い。そこで、合同説明会はもちろんですが、スカイプなどで東京から弘前の企業の面接を行えるようにもしています。移住というのは実行までに時間のかかるもの。実施していく施策は中長期的な取り組みの中で継続していくことが重要だと考えています」(肥後氏)

また、佐々木氏は「自治体も人口とともに規模が縮小されていきますので、今後は広域で様々な施策に取り組んでいくことを念頭においています」と語った。

ローカルベンチャーの育成事業などは、始まりは小さなものかもしれないが、継続することで点が線になり面となるもの。東京事務所を効果的に活用し、そのほかの施策と併せることで相乗効果も期待できるのではないだろうか。

2019年 11月14日 11時05分