山村とまちをつなぐ中間支援組織『おいでん・さんそんセンター』が活躍

上/「平日はトヨタ自動車の社員、休日は間伐のボランティア」。実際の市民を取り上げたこのポスターで『おいでん・さんそんセンター』の取り組みを明確に表現。下/豊田市では人口42万人のうち、40万人が都市部に集中上/「平日はトヨタ自動車の社員、休日は間伐のボランティア」。実際の市民を取り上げたこのポスターで『おいでん・さんそんセンター』の取り組みを明確に表現。下/豊田市では人口42万人のうち、40万人が都市部に集中

愛知県豊田市は、言わずと知れたトヨタ自動車のおひざ元。クルマ産業のまちというイメージが強いが、2005年の大合併で足助町や小原村といった町村が加わり、森林が約68%を占めている。

「森林が約7割というのは、日本の国土とほぼ同じ割合。都市部に人口が集中し、山村部の過疎化が進む図式は、まさに日本の縮図です」と話すのは、豊田市『おいでん・さんそんセンター』のセンター長、鈴木辰吉さん。

豊田市では合併後、山村部の森林や河川の整備、コミュニティバスの運行、空き家情報バンクの立ち上げといった社会基盤整備に努めたが、その後も山村部の人口は減り続けた。

「行政の力業だけでは人口減少に歯止めがかからなかったため、2013年、いなかとまちをつなぐプラットフォーム『おいでん・さんそんセンター』が誕生しました。縦割り行政の枠にとらわれず、個人や企業をマッチングできるのが中間支援組織の強みです」(鈴木さん)

センターの役割は主に3つ。①いなかとまちの交流コーディネート、②いなか暮らし総合窓口、これらは豊田市の委託事業だ。加えて③支え合い社会の研究・実践として、都市と山村がお互いに支え合うための研究を専門部会ごとに行っている。
鈴木さんが「山村の人が驚くほど元気になりました」と話す活動内容とは?全国の過疎化を解決するヒントを聞いてみた。

都会ではなく、山村に向けて「移住誘致」をPR

「空き家にあかりを!プロジェクト」のポスター。5年かけて隣の空き家の持ち主を説得し、若い家族の移住を後押しした住民の声を採用。真っ暗だった隣の家から光がこぼれ、子どもの声が聞こえた時は感無量だったそう「空き家にあかりを!プロジェクト」のポスター。5年かけて隣の空き家の持ち主を説得し、若い家族の移住を後押しした住民の声を採用。真っ暗だった隣の家から光がこぼれ、子どもの声が聞こえた時は感無量だったそう

『隣の家に明かりが灯った、何年ぶりだろう。』
住民が実際につぶやいた言葉が名コピーとして光るこのポスター。実は豊田市山村部の住民に移住受け入れをPRする目的でつくられた。

「私たちの移住誘致PRは、都会ではなくいなかに向いているのが特徴です。というのも山村部の住民はよそ者を受け入れるのが苦手なので、その苦手意識を変えることが大切なのです。移住者と『多文化共生』ができるかどうかで、その地区の明暗は180度分かれると思いますね」(鈴木さん)

そこでセンターが総合相談窓口となって住民の理解を進めるほか、「空き家にあかりを!プロジェクト」を立ち上げてイベントも実施。例えば「空き家片付け大作戦」は、山村部で物置になっている空き家をボランティアの力で片付け、話題化を図って、空き家に関心を集めようというイベント。片付いた空き家を流通できる上、移住したい人・受け入れる側の交流もできて一石二鳥だ。

豊田市山村部で生まれ育った鈴木さん自身の危機感もあり、センターの活動は地域内外に浸透。空き家バンクを利用した移住者は、8年間で176世帯、しかも20~40代の子育て世代が7割弱というから驚く。

「空き家への移住希望者は、大家さんと地域の代表などが面談した上で受け入れています。山村の人は『子育てをする移住者を応援したい』という気持ちが強いため若い世代の移住が増え、ある小学校は4年後、全校生徒数が30人から50人台になるんですよ。またIターンがUターンも誘引して、新築移住や実家に戻る若い世帯も増えました!」

企業コラボのおかげで「89歳でも現役でトウモロコシづくり」

移住誘致と並ぶもう一つの役割、「いなかとまちの交流コーディネート」の事例は234事業にものぼる。こちらは、都市・企業の要望と山村の要望をマッチングしてサポートするもの。代表例を紹介しよう。

最初の企業マッチング事例は、2013年からスタートした「トヨタ生協」の組合員向け農業体験ツアー。稲武・旭地区の畑で、トウモロコシや原木しいたけの収穫を行う人気のプログラムだ。
「80歳を過ぎたトウモロコシ農家の方から『収穫作業がしんどいから生産をやめる』と聞き、収穫をイベントにしようと発想。農業体験の開催日に一斉に収穫できることが条件ですが『50年の経験があるから大丈夫だ』と明言してくれたので、この企画を実施できました」(鈴木さん)

チャレンジの結果、農家の方は子どもたちの「おいしい~」という笑顔が励みになり、89歳の今になっても現役でトウモロコシを育てている。広大な農地が荒れ果てるのを防げた上、「毎年ちゃんと実るかドキドキする(笑)」と、生きがいにもなっているという。

つづいてのコラボ事例は、名古屋市の人材サービス企業「Man to Man株式会社」の社員研修。農業の担い手不足に悩む伊熊町と若手社員の育成を目指す同社がつながり、2015年耕作放棄地を自社ファームとして活用することになった。「若手社員が毎月足を運び、農作物づくりを通してリーダーシップやチームワークを育む研修です。町民が先生になって農業を指導。町民と地域に張り合いができ、移住者も増えました」

このような企業と山村部のマッチングは「面白そう」という判断基準で、柔軟に進めているのもポイント。
「行政から離れた中間支援組織だから自由にできることと言えます。でも熟慮・検討しなくても、『困っている』という声を素直につなげてみると化学反応が起き、お互いに新たな価値が生まれることが多いんですよ」

上/トヨタ生協の農業体験ツアー(左)、Man to Man株式会社の若手社員研修の様子(右)。
下/カレーハウスCoCo壱番屋のFCを運営する株式会社ワイズ、足助高校、獣肉処理加工施設の株式会社山恵がタッグを組み、捕獲した猪肉を活用したオリジナルカレーを発売(左)。明るくのどかな豊田市の山村。道路もしっかり整備されている(右)
上/トヨタ生協の農業体験ツアー(左)、Man to Man株式会社の若手社員研修の様子(右)。 下/カレーハウスCoCo壱番屋のFCを運営する株式会社ワイズ、足助高校、獣肉処理加工施設の株式会社山恵がタッグを組み、捕獲した猪肉を活用したオリジナルカレーを発売(左)。明るくのどかな豊田市の山村。道路もしっかり整備されている(右)

山村で「スモールビジネス」が生まれ、移住者の雇用も進む

最後に「市街地まで約40分で車通勤できる山村だから、移住が進むのでは?」と尋ねてみた。「確かに空き家バンクで移住した方の半数は豊田市民なので、市単位で見ると移住とは言えません。でも移住者数よりも、移住者が起業してスモールビジネスが生まれている点に注目してほしいです」と鈴木さんは話す。

例えば、2011年に移住した横江さんは、空き家と農地を借りて「てくてく農園」を経営。平飼い名古屋コーチンの卵や有機野菜を育てている。「市場価格に左右されては、山村の農ビジネスは成り立ちません。同農園では野菜を再生産可能な価格でおすそわけして、時には消費者が農作業をお手伝いするという新しいカタチの農業『CSA(Community Supported Agriculture)』が進んでいます」(鈴木さん)。

また前出のMan to Man株式会社は、今年2月から廃校した旧小学校を生かした人材創造拠点「つくラッセル」で、テレワーク業務をスタート。1人分の仕事を、地元で子育てをする女性たちがワークシェアリングする画期的な取り組みだ。また『おいでん・さんそんセンター』も豊田市の出先機関から民間団体となり、雑誌の制作や、トヨタ自動車がCSRとして始めた人材育成事業『豊森なりわい塾』の事務局を担うなど、新たな雇用を生み出している。

持続可能な山村暮らしを目指す『おいでん・さんそんセンター』。おいでん(=いらっしゃいという三河弁)という名が表すように、人や企業をしなやかに受け入れ、適材適所へつないでいく仕組みが広がれば、日本のいなかがもっと元気になるだろう。

取材協力/『おいでん・さんそんセンター』
http://www.oiden-sanson.com/

上/足助町にある紅葉の名所「香嵐渓」(左)。すぐ近くの豊田市足助支所内にある『おいでん・さんそんセンター』センター長の鈴木辰吉さん(右)。
下/旧築羽小学校の校舎を再利用した人材創造拠点「つくラッセル」(左)。シェアオフィスやコワーキングスペース、近所の高齢者や親子が集うカフェなどが集結(右)
上/足助町にある紅葉の名所「香嵐渓」(左)。すぐ近くの豊田市足助支所内にある『おいでん・さんそんセンター』センター長の鈴木辰吉さん(右)。 下/旧築羽小学校の校舎を再利用した人材創造拠点「つくラッセル」(左)。シェアオフィスやコワーキングスペース、近所の高齢者や親子が集うカフェなどが集結(右)

2019年 05月26日 11時00分