年間約100名が移住する日本の離島

佐渡島と言えば、金銀山やトキなどが真っ先に思い浮かぶが、同時に争いに負けた天皇や宗教者の流刑地としての歴史を思う。ついつい「都心から遠く離れた最果ての地」をイメージしたくなる。新潟のその先の日本海に存在するわけだから、冬は豪雪に見舞われるに違いないと勝手な想像もする。

しかし、今の時代、佐渡島は離島でありながら意外と近い。東京からであれば、最短で3時間30分。東京駅まで1時間はかかる場所に住んでいる筆者でも、早朝に家を出ているが、新幹線とバスとフェリーを乗り継いで、朝の10時過ぎには佐渡島の両津港に立っていた。
高速艇を使えば本州まで約1時間。冬は強風で欠航することも多く、本州に毎日通勤となれば不便さもあるだろうが、たまの休日に本州に渡る程度であれば負担にならない移動時間だ。

しかも、島の周りを流れる対馬暖流のおかげで、東京との気温差は冬でも約3℃、雪も少ない。四季のはっきりした美しい景観、米どころとしても有名で農産物や果物、海産物も豊富と恵まれた環境にある。

実はこの佐渡島、近年では市が把握しているだけでも年間約100名、実際には約200名ほどの移住者が流入しているという。今回は、佐渡市役所 地域振興課の石塚 美好係長、森田 洋史主任と佐渡UIターンサポートセンターの熊野 礼美 移住コーディネーターに、佐渡島の魅力と移住者支援についてお話を聞いてきた。

「佐渡UIターンサポートセンター」。こちらも島の空き家(古民家)を活用している。もちろん敷地内には納屋と蔵がある 「佐渡UIターンサポートセンター」。こちらも島の空き家(古民家)を活用している。もちろん敷地内には納屋と蔵がある 

東京の1.4倍の面積にゆったりと人々が暮らす

佐渡島は、こちらの勝手なイメージを良い意味で色々と裏切ってくれる。広さもその一つだ。島を訪れた人々は「意外と広い」と驚くことが多いという。面積は伊豆大島の約7倍で、東京の1.4倍。そこに約5万5,209人(佐渡市人口 平成31年1月末日現在)の人々がゆったりと暮らす。
S字型をした島の一周は約280km。周りを海で囲まれているわけだから当然海水浴場や漁港が多く、釣れる魚ももちろん豊富だ。釣り人にとって佐渡は聖地と呼ばれている。魅力は海ばかりでなく、島の北側には標高1,000mを超える大佐渡山脈が広がる。

佐渡UIターンサポートセンターを立ち上げた熊野さんも元は旅行者として佐渡を訪れ、その魅力に取りつかれた。山ガールとして鳴らした熊野さんだったが、「離島の山ということで、それほど景色に期待してなかったんです。それがいざ登ってみたら見事な景観。私の中で離島には大した山はないだろうというイメージを見事に打ち砕きました」。佐渡は、日本の花の百名山に選ばれていて、本州側では、2,000m級の標高でないと見ることができない山野草が育つ独特な環境。
島の中央には穀倉地帯が広がり、田植え直前には鏡のように水面に空が映り、秋には黄金色の稲穂が波打つ、四季折々に美しい情景が見れる。

「この島ではトキの自然飼育をしているため、米づくりでも極力農薬を使いません。動物にやさしい営みをしているのであれば、人間にとっても優しい島なのではないか。当時そんなことを想った覚えがあります」(熊野さん)

(A)島の中央部に広がる国中平野では田んぼに水が張られるとこの美しさに(B)夏になれば、当然子どもたちは海に潜る(C)佐渡では伝統芸能も盛ん。春には各集落で「鬼太鼓」の祭りが行われる。仕事帰りに数週間の練習の末、本番に臨むとか(D)秋には、これまた各集落で「薪能」が催される。芸能が身近に残ることもこの島の魅力だろう(E)雪が降るといっても、積雪量はこの程度。「雪下ろし」をすることもまずないそうだ(A)島の中央部に広がる国中平野では田んぼに水が張られるとこの美しさに(B)夏になれば、当然子どもたちは海に潜る(C)佐渡では伝統芸能も盛ん。春には各集落で「鬼太鼓」の祭りが行われる。仕事帰りに数週間の練習の末、本番に臨むとか(D)秋には、これまた各集落で「薪能」が催される。芸能が身近に残ることもこの島の魅力だろう(E)雪が降るといっても、積雪量はこの程度。「雪下ろし」をすることもまずないそうだ

保育園数も充実。待機児童ゼロの島

地域振興課で調べた「佐渡島の生活データ」(2016年 8月現在)地域振興課で調べた「佐渡島の生活データ」(2016年 8月現在)

そんな佐渡では、地道な移住・定住支援を行っている。まずは、平成27年度に全島の空き家現況調査を行い、入居可能と思われる空き家の数を洗い出した。その数2,936件。市では、空き家バンクへの登録を促し、空き家情報を積極的に開示している。

市では、こうした空き家の活用も含め、体験住宅を整備した。森田主任によれば、平成27年度
からIターン希望者に特化する形で、里山地域にある単身者向けの1DK「かわも」、住宅地物件の家族向け3DKの「はたの」、そして海山に近く、古民家暮らしを体験できる4DKの「とよおか」住宅の3件を提供している。いずれも最長6カ月まで利用でき、光熱費込みで1~2万円とギリギリまで価格をおさえている。それもあってか近年では、ほぼ100%の稼働率を実現している。

「特に、『かわも』や『とよおか』では、地域住民の皆さんに移住希望者との交流をお願いしていることもあって、畑で採れたお野菜のおすそ分けや地域のイベントに積極的に誘っていただいています。もちろん、その集落に移住・定住されるケースばかりではありませんが、この体験を通して、その後移住に踏み切る方も多くみられます」(森田主任)

実際に、移住を決めた後のサポートには、民間住宅などの家賃を1年間、最大月額2万円まで提供する「家賃補助」、最大で50万円となる「リフォーム補助」なども活用できる。

また、石塚係長によれば、移住者に限ったサポートではないが、子育て支援も「離島としては充実している」という。
「目立ったところでは、通院・入院ともに、18歳になるまでは無料。第2子からは保育料・幼稚園授業料が無料になります。保育園・幼稚園の数も島内には29カ所あり、待機児童という言葉には無縁です。活発とは言えないかもしれませんが、育児相談を行う『子育て支援センター』や子育てに関する有償のボランティアネットワークの『ファミリーサポートセンター』なども存在しています」(石塚係長)

こうした、移住に向けた入り口の支援は、市が中心に行っている。そこで、さらにアフターフォローまでサポートしていこうというのが「佐渡UIターンサポートセンター」の役割だ。

移住者の定着化を促すアフターフォローに力を入れる

「佐渡UIターンサポートセンター」のホームページ。求人情報や物件情報をはじめ、移住者へのインタビューなどコラム形式で親しみやすく移住に役立つ情報を提供している。キャラクターは、たらい舟を住処にしている「スイスイ」「佐渡UIターンサポートセンター」のホームページ。求人情報や物件情報をはじめ、移住者へのインタビューなどコラム形式で親しみやすく移住に役立つ情報を提供している。キャラクターは、たらい舟を住処にしている「スイスイ」

熊野さんは2014年から地域おこし協力隊として3年間、空き家対策・移住者支援を行ってきた。その後2017年には市の中に「佐渡UIターンサポートセンター」を置く形で業務に携わってきたが、2018年4月より合同会社の形態をとり、市から独立する形に変えた。

「移住相談でいらっしゃる方というのは、土日にいらっしゃることが多いのですが、市役所の機能となると対応ができません。また、移住相談の中には10年先の定年後を見据えて相談にこられる長期戦のケースもあります。職員の場合どうしても配属替えがありますから、腰を据えて対応できる体制が必要だと感じました。そこで、サポートセンターを民間企業として切り出していただいたのです」(熊野さん)

サポートセンターを開設するにあたり、アピールしたい移住者のペルソナを設定したという。大まかにいえば、都市部に住む30代前半の単身女性。
「なぜかと言ったら、数年前の自分に近い人物を想定した方が、細かな部分までサポートができるというのが1つ。また島内は男性人口が圧倒的に多い。ならば、自分に近い女性目線でのアプローチをしていこうと考えました」(熊野さん)

佐渡UIターンサポートセンターでは、HPでも求人情報や物件情報などを提供するが、単なる情報ではなく、コラム形式で読み物としても楽しめるつくりだ。デザインも女性が見ても親近感の沸くもので、サポートセンターのキャラクターをつくり、そのLINEスタンプまで発売している。想定したペルソナにがんじがらめになるわけではないが、その層が見て楽しんでもらえる情報発信を心掛けているという。

その成果かどうかは定かではないというが、2019年の年明けから3月までの間には、まさにペルソナ設定に合致する30代の女性の移住相談が相次いだという。

「センターで重要視しているのは、アフターフォローです。例えば移住の際、みなさん古民家に住みたいという夢を持たれてくるんですが、私の方ではお勧めしていないんですね。古民家は、かなり手を入れなければ心地よく住むことはできません。移住の際には職場も変えて、住環境も変えてなんらかのストレスを抱えるわけですから、まずは住むところは水回りや断熱もしっかりした住空間を勧めています。なので、その後、落ち着いてから古民家への夢がどうなったか、など、その方々にあった人脈や地域に溶け込むために役立つ、人と人のつなぎなどを意識して行っています」(熊野さん)

プラスアルファの暮らしが実現する

佐渡移住者12組へインタビューをまとめた冊子があるのだが、これを見ると東京から移住をし、農業をしながら持っていた合気道のスキルを活かし合気道道場を開いた方。釣りが好きで船舶免許を活かし観光船の仕事につきながら、ガラス工芸作家としても活動をしている方、と仕事のほかにプラスアルファの暮らしを楽しむ人が多い。熊野さんは、「佐渡は自分らしくプラスアルファな生き方がしやすい場所。そのためにも、移住者の方々の夢を叶えるその後のフォローにも力を入れてゆきたい」と話す。

「最近では、移住希望者という枠にこだわらずに、佐渡出身者や佐渡在住者を広く集めるコミュニティ『LINE@佐渡部!』を立ち上げました。ここでは、島内に暮らす若い世代の方々にも焦点を当てています。自分の住むところは自分たちでつくっていった方が絶対に良い。そのためのお手伝いをしていくのが、このサポートセンターの役割であるとも思っています」(熊野さん)

佐渡は、離島ゆえに都会に比べたら地域の人とのつながりは濃い。ただし、佐渡金銀山の発展などにより、島外の人々が多く流入した歴史を持つ。文化にしても、都や島外文化を受け入れながら発展している。それだけに、島外の人間を受け入れる懐の深さも持つという。それも、この島に自然と人々が集まる理由の1つなのだろう。

特異となる移住者支援があるわけではないが、ベースとなる支援を市でしっかりと整備し、アフターフォローを含めた人と人がつながるサポートを「佐渡UIターンサポートセンター」が担う。バランスのとれた支援体制なのだろう。『LINE@佐渡部!』のように島内の若者を巻き込んでいく取り組みも始まっている。島内外の人や文化が混じりながら暮らしてきた島だけに、今後もどのような融合が生まれるか、可能性が広がる島なのだと思う。

■取材協力
佐渡UIターンサポートセンター https://sadouiturn.com/

左から佐渡UIターンサポートセンターの熊野礼美 移住コーディネーター、佐渡市役所 地域振興課 移住交流推進係の石塚美好 係長、同じく森田洋史 主任左から佐渡UIターンサポートセンターの熊野礼美 移住コーディネーター、佐渡市役所 地域振興課 移住交流推進係の石塚美好 係長、同じく森田洋史 主任

2019年 07月14日 11時00分