“住みたい田舎”にランクイン、若者移住者からの支持を集める武雄市

▲武雄市役所 まちづくり部 住まい支援課の松尾千春さん。自らも子育てママとして、若いファミリー世代に寄り添った移住促進の取り組みに力を注いでいる▲武雄市役所 まちづくり部 住まい支援課の松尾千春さん。自らも子育てママとして、若いファミリー世代に寄り添った移住促進の取り組みに力を注いでいる

佐賀県武雄市は佐賀西部にある人口約4万9000人のまちだ。2012年、市立図書館の運営を民間企業に委託し『新しい図書館のロールモデル』として内外から注目を集めた『武雄市図書館』のあるまち、と聞けばピンと来る方も多いだろう。

市の玄関口である『武雄温泉』駅から『博多』駅までは電車で約1時間で到着するため、福岡への通勤も可能。また、市内にある『武雄ジャンクション』は、西九州自動車道と長崎自動車道が分岐し九州の大動脈・九州自動車道へと接続するハブ地点となっており、カーアクセスの利便性も備えている。

こうした立地的な強みもあってか、『住みたい田舎ベストランキング(宝島社/田舎暮らしの本2016年版)』では兵庫・朝来市、鳥取・岩美町に次いで全国3位(若者世代では全国1位)に輝くなど、移住先としての注目を集め続けている武雄市。いったいどのようにして多くの若い移住者たちを惹きつけているのか?武雄市役所まちづくり部住まい支援課の取り組みを取材した。

「みんなの市役所」がコンセプト、お役所らしくないお洒落な市役所が広告塔

「佐賀への移住というと、近隣の鹿島や伊万里、唐津もそうですが、“海がある暮らし”をイメージされる方が多いようです。でも山に囲まれた武雄には海が無いので、そのコンプレックスを別の面で払拭しなくては…という想いがありますね(笑)」(以下「」内は担当者談)

昨年完成したばかりだという武雄市役所新庁舎を訪れて驚いた。木の温もりを感じる開放的なデザインで、館内にはお洒落なベーカリーや、佐賀県下初進出のチョップドサラダ専門店、親子連れや学生たちが集うコミュニティスペース、武雄のシンボル・御船山を眺めるビューテラスなどが設けられている。いわゆる“お役所のカタさ”は一切なく、まるで大型商業施設を訪れるような気分で立ち寄ることができる親しみやすい空間だ。

「もともと武雄市が移住支援に力を入れはじめたのは2007年からです。その後、2013年に『武雄市図書館』がリニューアルオープンし、武雄の知名度は一気にアップしました。“武雄の名前を多くの方に知っていただけた”という点は、移住促進を行う上でも大きな転機だったと思います。

しかし、武雄市全体の人口パワーとしては減少しつつあり、高齢化や若者の流出など、ほかの地方都市同様に課題を抱えていますから、西九州のハブ的ポジションと福岡通勤圏という立地特性を生かしながら『武雄に住んでみては?』という若い世代へ向けたPRを地道に続けてきました。

おかげさまで、ここ数年は武雄のまち部(中心街)に住む若いファミリーが急激に増えましたし、近隣の市町にお住まいの方が武雄に家を構えて転入する事例も増えています。昨年は8年ぶりに社会増となりましたから、これを維持しつつ、さらに向上していくような政策を打たなくてはいけないと考えています」

▲昨年完成した武雄市役所のコンセプトは『みんなの市役所』。業務フロアを見ても各課がオープンに配置された設計になっており、気軽に相談しやすい雰囲気が演出されている。「武雄市というと『武雄温泉』の観光業が中心かと思われがちですが、実は基幹産業は『農畜産業』です。そのため、農業に関心がある方はもちろん、福岡通勤圏というPRも含めて、今までに無い“仕事も遊びも自然も揃うベッドタウン”を目指しています」と森正文さん(写真左上/住まい支援課 移住相談係・空き家対策係)▲昨年完成した武雄市役所のコンセプトは『みんなの市役所』。業務フロアを見ても各課がオープンに配置された設計になっており、気軽に相談しやすい雰囲気が演出されている。「武雄市というと『武雄温泉』の観光業が中心かと思われがちですが、実は基幹産業は『農畜産業』です。そのため、農業に関心がある方はもちろん、福岡通勤圏というPRも含めて、今までに無い“仕事も遊びも自然も揃うベッドタウン”を目指しています」と森正文さん(写真左上/住まい支援課 移住相談係・空き家対策係)

民間のノウハウを積極的に取り入れ、若いファミリー世代のハートを掴む

武雄市が移住促進のメインターゲットとしているのは、ズバリ“子育てファミリー”だ。中でも特に“ママの目線”を意識しながら住環境整備に努めている点も特徴となっている。

「若いママさんたちが武雄へ関心を持ってくださるきっかけのひとつは『独自の教育体制』にあると思います。実は、武雄市では2015年度から民営学習塾『花まる学習会』と連携した取り組みである『官民一体型学校』を創設し、2020年度までに市内すべての小学校への導入が予定されています。また、タブレット端末を児童生徒に貸与して授業を受ける前に動画で予習を行う『武雄式反転授業』を導入するなど、公教育の一層の充実を図っています。地方の小さなまちでありながら全国屈指の教育環境を整え、“主体的・対話的で深いまなび”の教育が受けられる点は武雄の強みです。

『武雄市図書館』の件も同様ですが、まちの暮らしをより良くしようと考えたとき、税収の範囲内ですべてがまかなえるわけではありません。そこで、民間のノウハウを活用しながら、官民バランスよく先進の改革にチャレンジしていきたいというのが“武雄流”なのです」

ちなみに、武雄市には24時間体制の夜間診療やドクターヘリなどの救急医療にも対応できる民間の『新武雄病院』があり、佐賀県南部地域の医療拠点としての機能も備えている。単なる“田舎暮らし”ではなく、交通利便・教育・医療が整っているとなれば、やはり子育て世代のファミリーが移住を検討する際にもハードルがぐっと低くなるのだろう。

▲武雄市の知名度を一気に全国区に高めた『武雄市図書館』と『こども図書館』。蔦屋書店やスターバックスが併設されており、館内に佇んでいると「ここは東京・代官山では?」と錯覚してしまいそうなほどのスタイリッシュな空間が広がる。「この『武雄市図書館』も民間のノウハウを取り入れたもの。利用者は顕著に増えており、2019年2月には入館者数が500万人を突破しました。図書館開設直後は首都圏からの移住者も増えましたし、“ああ、あの武雄ね?”と言われるようになりましたから、図書館は武雄のアイコン的存在です。こうした存在を今後もひとつひとつ作っていきたいですね」▲武雄市の知名度を一気に全国区に高めた『武雄市図書館』と『こども図書館』。蔦屋書店やスターバックスが併設されており、館内に佇んでいると「ここは東京・代官山では?」と錯覚してしまいそうなほどのスタイリッシュな空間が広がる。「この『武雄市図書館』も民間のノウハウを取り入れたもの。利用者は顕著に増えており、2019年2月には入館者数が500万人を突破しました。図書館開設直後は首都圏からの移住者も増えましたし、“ああ、あの武雄ね?”と言われるようになりましたから、図書館は武雄のアイコン的存在です。こうした存在を今後もひとつひとつ作っていきたいですね」

若い世代の人気は『まち部』に集中、課題は『周辺部』との市内格差

▲2019年6月にリニューアルしたばかりの移住支援サイト『たけおグッドライフ』。サイト内では市内各地域ごとの空き家情報を掲載。単なる空き家バンクのデータ提供を行うのではなく、地域の暮らしにフォーカスした発信を行っている。「いきなり“定住”を最初から求めるのではなく、まずはまちの良さ、ひとの良さを知ってほしいという想いでサイトをつくっています」▲2019年6月にリニューアルしたばかりの移住支援サイト『たけおグッドライフ』。サイト内では市内各地域ごとの空き家情報を掲載。単なる空き家バンクのデータ提供を行うのではなく、地域の暮らしにフォーカスした発信を行っている。「いきなり“定住”を最初から求めるのではなく、まずはまちの良さ、ひとの良さを知ってほしいという想いでサイトをつくっています」

2019年6月からは移住支援サイト『たけおグッドライフ』をリニューアル。順風満帆のように感じられる武雄市の移住促進だが、担当者の中では新たな課題も見えてきたようだ。

「市役所周辺のまち部だけを見ると移住者数は増加しているのですが、どうしても周辺部との格差が出てきます。周辺部は、昭和の経済発展の時期に住宅地として開拓されたエリア。しかし、現在は高齢化し人口減少の一途にあります。その状況をなんとかしようと、もともとの住民の皆さんが頑張ってくださっているので、そこへ少しでも多くの若い移住者さんたちに住んでもらい、地域を活性化したいという狙いがあります」

移住者に対しては市から補助金が交付されるが、同じ武雄市内でも『定住特区』を定め、なるべく周辺部にも関心が集まるように、地域ごとに金額設定を変えているという。例えば、武雄町、朝日町、北方町、山内町の一部などのまち部への移住の場合は『定住支援金』として一世帯あたり20万円。それ以外の周辺部への移住の場合は『定住特区補助金』として一世帯あたり20万円に加え、子育て支援加算金、住宅新築補助費、改修補助金、土地購入補助金、新婚世帯加算金など、諸条件に応じてプラスの補助金が用意されているのだ。

「この金額だけを見ると、実は近隣の自治体のほうが額は大きいですし、補助金がきっかけとなって移住を決める方はほんの数パーセントなのですが、それでも武雄を選んでくださる若い世代が増えていることは率直に嬉しいですね」

盛り過ぎないリアルな武雄を発信、“孫がえり”ができる環境づくりを目指す

▲「税金をかけずに上手に移住促進を進めていく」という方針のため、ホームページ制作は広告代理店へ依頼することなくすべて手作り。武雄のちょっとした日常を描いたマンガも住まい支援課職員の作品だ。「今後の課題は地域のプレイヤーを掘り起こしていくこと。市役所だけが頑張ってもいけないので、観光協会とのタイアップ、民間企業との連携を図りながら、武雄らしい取り組みを続けていきます」▲「税金をかけずに上手に移住促進を進めていく」という方針のため、ホームページ制作は広告代理店へ依頼することなくすべて手作り。武雄のちょっとした日常を描いたマンガも住まい支援課職員の作品だ。「今後の課題は地域のプレイヤーを掘り起こしていくこと。市役所だけが頑張ってもいけないので、観光協会とのタイアップ、民間企業との連携を図りながら、武雄らしい取り組みを続けていきます」

移住検討中の若いファミリーからは「武雄の周辺部の空き家は、家が大きすぎる」「地域行事が多すぎるのが心配」という意見があるものの、その一方で農業をはじめとする地元産業に関心を示す若いママたちも増えつつあるそうだ。

「家を取得される前に、市民農園を使って“農業お試し体験”の機会を設けたり、観光協会と連携して“窯元ろくろ体験”を行ったり、今後は民間のホームセンターと提携して取り壊し予定の空き家を使った“初心者向けDIY体験会”を開催しようと考えています。武雄の魅力と実際の生活体験を組み合わせたイベントにして、まずは地産地消のおもしろさを感じていただきたいですね。

大都会とは違って、地方のまちに住んでいる人たちが引越しをする機会というのは人生で1回・2回程度。ましてや“移住”となれば人生の一大事です。マスコミでクローズアップされた良い話だけに惹かれて移住し、あとから“こんなはずじゃなかった”と言われるのは一番悲しいので、移住検討者の方には定住支援員や先輩移住者の話を聞いていただき、武雄のまちの現状を知ってもらえればと思っています」

まちの知名度を高め、情報発信を続けて『移住先の選択肢に挙がること』は移住促進の重要なステップだが、「盛り過ぎないリアルな武雄」の発信に努めている市役所の“ゆるやかな移住支援”の姿勢こそが、若い世代のファミリーを惹きつける最大の理由なのかもしれない。

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実は、武雄市役所には『お結び課』という部署があり、結婚を希望する独身男女の出会いを2010年からサポートしている。一対一のお見合いを毎月20組前後実施しつつ、少人数グループでのお見合いをひと月2回程度開催しているというのだから、なかなかの“出会い頻度”だ。登録中に成婚した男女はこの9年で164名(2019年7月1日時点)。武雄市内で新たに家庭生活をスタートさせたカップルも少なくないという。

「大学進学などで一度ふるさとを離れたとしても、自分や子どもたちだけでなく、孫の世代が武雄に帰りたくなるような、“孫がえり”ができる環境づくりを目指したい」と語る担当者。今後どのような新しい秘策を打ち出してくるのか、武雄市の移住促進の取り組みから目が離せない。

■取材協力/武雄市役所まちづくり部住まい支援課
佐賀県武雄市移住支援サイト『たけおグッドライフ』
https://www.city.takeo.lg.jp/goodlife/

2019年 08月07日 11時05分