横川商店街は「わざわざ行きたい」商店街

広島市のはずれにある横川商店街が盛り上がっている。近隣の住民はもちろん、広島市外からも多くの人が訪れるというのだ。

一般的な商店街は、近隣の住民が日常の買い物に訪れる場所。しかし横川商店街では多彩なイベントを実施しており、それを目的に人が集まっている。
代表的なイベントは5つ。4月の第4日曜日に開催される横川最大の市民交流イベント「横川ふしぎ市」、8月初旬には水上スポーツ体験や野外音楽祭を行う「ガワフェス」、9月には「横川商店街劇場」というアートイベント、10月最後の金・土曜日にはハロウィン・イベントと映画祭を掛け合わせた「横川ゾンビナイト」、そして2月14日には冬の花火大会「横川バレンタイン花火」だ。その他にも小さなイベントがいくつもあり、こうしたイベントを裏方で支えるボランティアスタッフの中には、県外からやって来る人もいるそうだ。2018年には「横川カンパイ!王国」と名乗り、独立宣言。もはや商店街の枠には収まりきらないほど、活動の幅が広がっているという。

横川商店街振興組合の村上正理事長に、これほど活発な取組みに至った経緯をうかがった。

横川を代表するイベント「横川ふしぎ市」。商店街全域で展開され、多くの人でにぎわう。催し物の内容が毎回変わってしまうので、「ふしぎ」と名付けたそうだ。1996年から開催され、横川最大の市民交流イベントだ。多彩なパフォーマーが集まり、町のあちらこちらで歌や踊りなどで盛り上がる横川を代表するイベント「横川ふしぎ市」。商店街全域で展開され、多くの人でにぎわう。催し物の内容が毎回変わってしまうので、「ふしぎ」と名付けたそうだ。1996年から開催され、横川最大の市民交流イベントだ。多彩なパフォーマーが集まり、町のあちらこちらで歌や踊りなどで盛り上がる

シャッター街が復活した2つのターニングポイント

上:横川駅は路面電車の終点になっていて、屋根伝いにJR横川駅に乗り継げる/下:路面電車の駅の脇から延びるアーケードの商店街には、数十年変わらない店もある上:横川駅は路面電車の終点になっていて、屋根伝いにJR横川駅に乗り継げる/下:路面電車の駅の脇から延びるアーケードの商店街には、数十年変わらない店もある

商店街の組合活動にこれまで30年間も関わってきた村上氏は、10年前に理事長に就任した。「当時は、これほど活発なエリアになるとは、誰も思っていませんでした」と言う。

シャッター通りと化す商店街が全国で増えているが、横川商店街も同じ悩みを抱えていた。郊外に大型商業施設ができ、商店街の売上が減少していたのだ。さらに大打撃となったのが、1994年に広島で開催されたアジア競技大会の際、アストラムラインという市街地と郊外を結ぶモノレールが開業したこと。それに伴いJR横川駅経由の路線バスの系統が激減し、横川駅、ひいては商店街を利用する人が減少していった。

そんなとき、村上氏が苦肉の策として思いついたのが、1日3,000円で空き店舗をレンタルする企画だ。気軽にお店体験ができるとあって、アクセサリーショップや産直の野菜販売等、いくつも引き合いがきた。これがターニングポイントとなり、不思議と他の空いていた店舗にも借り手がつくようになったそうだ。「横川が、面白いことができるエリアとして認識された第一歩だったかもしれませんね」と村上氏は当時を振り返る。

次のターニングポイントは、2004年の横川駅再開発だ。

路面電車のプラットホームとJRの駅を接近させ、乗り換えしやすくする広島市の計画が持ち上がったのだ。しかし商店街としては、大反対だった。当時、駅前の広い国道に路面電車のプラットホームがあり、そこから商店街を抜けてJR横川駅にたどり着くようになっていたので、再開発によって乗降客が商店街を通らなくなり、お店に足を運ばなくなることを危惧したのだ。
しかしある日、商店街役員たちは、住民の「路面電車のプラットホームを渡るのに、大きな国道をまたぐため、命がけだ」という声を聞いた。確かに、歩くのが遅い年配者は、乗り換えに難儀するだろう。ハッとした商店街役員たちは、商店街のエゴばかりを主張してはいけないと思い直し、市の申し出を受け入れることにしたという。

結果として、路面電車とJRの駅が屋根でつながり、雨の日は濡れずに乗り継げるようになった。「商店街からの要望で、屋根はデザイン性の高いものにしてもらいました」と村上氏。同じタイミングで、中心市街地に行く路面電車の路線を設けてほしいと行政に依頼したところ快諾され、横川駅はターミナルとなった。「おかげで、JR横川駅の乗降客数は、中国地方では上位になりました」と村上氏は胸を張る。乗降客の増加により、商店街の店舗の賃貸需要もV字回復したそうだ。

地域を巻き込み、自由にアイディアを出し合える場をつくる

上:ゾンビナイトを盛り上げる生演奏では、プレイヤーも怖い恰好をしている/下:駅前では、フェイスペイントをするコーナーが設けられ、大勢の人が順番を待っていた上:ゾンビナイトを盛り上げる生演奏では、プレイヤーも怖い恰好をしている/下:駅前では、フェイスペイントをするコーナーが設けられ、大勢の人が順番を待っていた

利用者が復活した横川商店街だが、現在のように様々なイベントを打つようになった背景には、商店街の体質改善も影響したと村上氏は言う。

これまでは商店主だけが組合活動に参加していたが、近隣住民や地元企業、さらに学校等まで巻き込んだ取組みに舵を切ったのだ。商店街の会合には外からの参加者も多く、市役所の職員や市外に住む人も参加している。前半は真面目に話し合うが、後半は飲み会で自由なアイディアが飛び交う。会合には毎回30名を超える参加者が出席し、テーマごとに多い時は月に20回もの会合が開かれているそうだ。

この会合から、ユニークな企画が生まれる。例えば「横川バレンタイン花火」は、参加メンバーの中に花火職人がいて、ハートの花火をバレンタインデーに打ち上げたら感動するのではないか、という話から始まった。
1万人以上を集客する大きなイベントである「横川ゾンビナイト」も、2015年に横川シネマを中心にアニメーションフェスティバルが行われることとなり、その一環として地域全体で何かやろうと商店街の会合で盛り上がったのがきっかけ。第一回は、駅前でフェイスペイントを行ったところ、長蛇の列ができるほど好評だった。時期もハロウィンと重なり、自主的にゾンビの恰好をして参加する人たちがいた。それがニュースとなり、ますます参加者が増えたそうだ。

このように「企画を持ち込むと、まずは本気で聞いてくれるんです」と、商店街活動に参加している通訳案内士の堀泰子さんは言う。やる気次第で企画が動きだし、街を巻き込むイベントに発展していくのだそうだ。堀さんは、横川の飲食店の国際化を目指している。「ここは個人の小さい飲食店が多いから、海外の旅行者にもっと来てもらえれば、例えば店主や住人との交流等、ローカルな体験がたくさん生まれます。それが口コミによって拡散されれば、外国人旅行者の間で横川の認知度が高まるでしょう」と堀さん。そのためのきっかけになるような、外国人が気軽に飲み歩けるバーホッピング企画を温めているという。

こうした色々な企画は、もはや横川商店街だけではなく、広域にわたる取組みになりつつある。それらを集約してより強力に打ち出していくために、昨年、「横川カンパイ!王国」としてブランド化したのだそうだ。

横川商店街が取組む、3つのテーマ

5大イベント以外に横川商店街で行われている活動は、大きく3つのテーマに分けられる。バス、サッカー、そしてアートだ。

1つ目の「バス」だが、横川駅前には「かよこバス」というバスが展示され、まちのシンボルとなっている。これは日本最古の路線バスを復元したもので、1905年に可部と横川を結んで走っていたことから名付けられた。
日本最古の路線バスがあったまちということで、以前から訪ねて来る人がおり、記念碑などはないのかという問合せが度々あった。そこで、「かよこバス」の復元プロジェクトが立ち上がったのだ。唯一残っていた写真を参考に、広島市立大学の先生が模型のデザインをつくり、それをCGで再現。車両も広島市立大学で作るという申し出があり、2004年に完成した。現在では、大きなイベントのたびに街をゆっくりと走る姿が見られる。

2つ目の「サッカー」。もともと横川は、Jリーグのサンフレッチェ広島の試合を観戦に行くためのシャトルバスの発着場だ。商店街の会合で、サッカーと絡めて何かできないかと専門家を招いて意見を聞いたところ、広島に女子トップリーグで戦うチームを作りたいので、横川でそれをサポートして欲しいとの申し出があった。そこで、地域でできるサポートとして、職場の紹介や住居の紹介をしたところ、チームづくりにも関わって欲しいという話に発展し、別法人をつくり、「アンジュビオレ広島」という女子サッカーチームを立ち上げることになったのだ。現在は3部のチャレンジリーグで、トップリーグ入りを目指して頑張っている。

最後に「アート」について。商店街組合のビルには「横川シネマ」という映画館があり、昔から地域のシンボル的存在となっている。一般的な映画館とはラインナップが異なり、アート系の作品を中心に上映していたため、そうした映画を好む人たちがこの界隈に集まるなど、横川はもともとアートと親和性の高いエリアだった。
村上氏はあるとき、広島市立大学芸術学部の卒業生が、500kgもある版画の機材を貰い受け、アトリエ探しに困っていると聞いた。たまたま商店街ビル内に30坪の空室があり、そこなら広くて重い機材を置けるとのことで紹介したところ、すぐに入居が決まった。現在は「横川創荘」というシェアアトリエとして展開している。
その後、他の空き店舗を家主の好意によりレンタルギャラリーとして活用できることにもなった。おかげで、この界隈は多くのアーティスト達の活動拠点となっている。
中には建物の壁面にスプレーで絵を描くアーティストもいて、商店街組合ビルの壁面にも大きな壁画を描いてもらったそうだ。すると、それを見る目的で人が訪ねて来るようになり、他のビルオーナーたちも壁画を依頼するようになった。現在も、壁画は増加を続けているという。

横川は、江戸時代から自由で開放的な庶民の集まる一角で、このまちから広島県を代表する企業がいくつも生まれている。その気風が、新しいムーブメントを生み出しているのかもしれない。横川商店街、そして「横川カンパイ!王国」の今後の展開から、目が離せない。

「横川商店街劇場」では、アート関連のイベントや展示のほか、ワークショップも開催される「横川商店街劇場」では、アート関連のイベントや展示のほか、ワークショップも開催される

2019年 07月05日 11時05分