「観光客は増えている」のに「暮らす人が減っている」。長崎県が抱える課題

▲長崎県 企画振興部 地域づくり推進課 移住推進班の長崎屋伸州さん。「実は僕自身も大学進学のときに一度地元を離れて福岡へ出たので、県外へ出たいと考える若者たちの気持ちはわかります。でも“長崎屋”という名前を背負っていることもあって(笑)、僕は大学卒業後に地元・長崎へ戻る決断をしました。“長崎県人は道を聞いたら教えてくれるやさしい人が多い”とよく他県の方から言われます。鎖国時代に国の窓口だった歴史もあり、外から来る人やモノを受け入れやすい文化があると感じています」と長崎屋さん(昨年1月に新築移転した長崎県庁屋上にて撮影)▲長崎県 企画振興部 地域づくり推進課 移住推進班の長崎屋伸州さん。「実は僕自身も大学進学のときに一度地元を離れて福岡へ出たので、県外へ出たいと考える若者たちの気持ちはわかります。でも“長崎屋”という名前を背負っていることもあって(笑)、僕は大学卒業後に地元・長崎へ戻る決断をしました。“長崎県人は道を聞いたら教えてくれるやさしい人が多い”とよく他県の方から言われます。鎖国時代に国の窓口だった歴史もあり、外から来る人やモノを受け入れやすい文化があると感じています」と長崎屋さん(昨年1月に新築移転した長崎県庁屋上にて撮影)

2018年10月発表の『都道府別魅力度ランキング』(ブランド総合研究所発表)によると、『長崎県』は全国47都道府県の中で10位にランクイン。世界文化遺産の登録を受けた『長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産』をはじめ、軍艦島ツアーがブームになるなど、観光資源の豊かな長崎県らしく、地域の魅力が多くの人たちに認知されていることが窺える結果となった。

しかしその一方で、総務省が2019年1月に公表した『2018年の日本人の人口移動報告』によると、長崎市の転出超過数は前年比488人増の2376人で、初の全国ワースト1位という結果に。転出が著しい世代は18歳から25歳までで、多くの若者たちが福岡・東京・関西エリアへ進学・就職したことが主な転出理由となっている。

「観光客は増えている」のに「暮らす人が減っている」。長崎県ではこうした課題を払拭すべく、Uターン・Iターンを促進するための『ながさき移住倶楽部』を2015年に立ち上げた。移住促進に関する県の取り組みについて、長崎県企画振興部の長崎屋伸州さんにお話を聞いた。

移住特典を積極的にアピールすることで『移住決断』のハードルを下げる

▲『ながさき移住倶楽部』に入会するともれなく会員証が発行され、提携企業の窓口でカードを提示すると多彩な割引特典や優遇サービスが受けられる仕組みになっている。会員には年に一度情報誌が送付されるほか、移住に関する最新情報はフェイスブックで随時配信。『サ高住宿泊体験無料』や、『起業相談初回無料』などのサービスも受けられる。これらのサービスの多くは、地元企業などが“地域貢献の一環”として協力を申し出、各企業の厚意で実施されているという▲『ながさき移住倶楽部』に入会するともれなく会員証が発行され、提携企業の窓口でカードを提示すると多彩な割引特典や優遇サービスが受けられる仕組みになっている。会員には年に一度情報誌が送付されるほか、移住に関する最新情報はフェイスブックで随時配信。『サ高住宿泊体験無料』や、『起業相談初回無料』などのサービスも受けられる。これらのサービスの多くは、地元企業などが“地域貢献の一環”として協力を申し出、各企業の厚意で実施されているという

「もともと移住促進への取り組み自体は2006年から行っていましたが、『ながさき移住倶楽部』の発足が2015年、『ながさき移住サポートセンター』を開設したのが2016年で、近年はさらに取り組みを強化している段階です」(以下、「」内はすべて長崎屋さん談)

『ながさき移住倶楽部』は、県外在住者で長崎県への移住に関心がある人であれば誰でも入会できる無料会員制度だ。従来型の行政の取り組みであれば、“移住に関する情報を優先的に配信する”といった会員サポートが定番化しているイメージだが、『ながさき移住倶楽部』では地元企業と連携し、多彩な会員特典を用意。移住を決断するのに必要な“あともう一歩”を後押している。

「会員の方に対しては、単に最新情報を配信するだけではなく、会員ならではの割引・優遇サービスを手厚く揃えました。例えば、住まい探しをするためにレンタカーを借りたときは『基本料金から20%オフ』。住まい購入を決めて地元銀行の住宅ローンやリフォームローンを利用した場合は『ローン金利優遇』。不動産取引の仲介手数料は『20%割引』。住まいのリフォームや新築工事を地元工務店に依頼したら『工事費の10%割引』。提携の配送会社に引越しを依頼した場合は『基本料金から20%オフ』などなど、内容はかなり充実しています。

もちろん、こうした割引・優遇サービスが、即・移住決断に直結するとは考えてはいませんが、移住を検討している方にとって“決断のハードルを下げやすくするためのきっかけづくり”につながっているのではないかと思います」

ちなみに、同様の移住会員組織はすでに『高知』『鳥取』『島根』等の他県でも導入事例があるが、長崎県のように“優遇特典がある・割引が受けられる”ということを行政側から積極的にアピールしているケースは珍しく、ここが実にユニークな点だ。

県下全21市町が協働運営するサポートセンターの存在が“一丸”の連帯感に

▲年に一度会員向けに発行される情報誌『ながさき移住のススメ』。21市町のそれぞれのまちの特徴や、移住相談窓口の担当者の紹介、各市町のサポートメニュー、先輩移住者の声などが美しい写真と共に紹介されている。「都会からの移住者の方の多くは“家族の生活を維持できるだけの収入が得られるか?”について心配されている方が多いのですが、実は地方であれば生活コストが安く、都会ほど稼がなくても生活を維持できます。マルチワーカーとして副業をしながら、都会を離れ、環境の良い長崎の市町で暮らしている先輩移住者の方もたくさんいらっしゃいます。生活のバランスの良さについても強く発信しています」と長崎屋さん▲年に一度会員向けに発行される情報誌『ながさき移住のススメ』。21市町のそれぞれのまちの特徴や、移住相談窓口の担当者の紹介、各市町のサポートメニュー、先輩移住者の声などが美しい写真と共に紹介されている。「都会からの移住者の方の多くは“家族の生活を維持できるだけの収入が得られるか?”について心配されている方が多いのですが、実は地方であれば生活コストが安く、都会ほど稼がなくても生活を維持できます。マルチワーカーとして副業をしながら、都会を離れ、環境の良い長崎の市町で暮らしている先輩移住者の方もたくさんいらっしゃいます。生活のバランスの良さについても強く発信しています」と長崎屋さん

『ながさき移住倶楽部』の2019年5月末現在の会員数は2026人。20代~40代のファミリーが多く、単身者では男性のほうが多い傾向にあるという。

「移住者の方にアンケートを取ってみると、長崎への移住を決断した理由は『自然の美しさ』が一番でした。長崎県の場合は市街だけでなく離島もありますから、“一度旅行に訪れた長崎県の自然の風景が忘れられなくて…”と島暮らしを決断した方や、フラリと旅行で訪れてその日のうちに移住を決めたという方もいらっしゃいます。県としては、移住実績も上がっていますが、移住希望者についても着実に増えてきているという手ごたえを感じています」

しかし、いざ移住者が増えても、その後の課題になるのは『定住』だ。移住者にとってのいちばんの心配ごとは『職』、続いて『住まい』、そして『地元の人たちとの人間関係づくり』。移住したあとで「この3つの課題を解消できなければ長く定住することは難しい」と不安を抱えている人も少なくない。

「そこで誕生したのが『ながさき移住コンシェルジュ』です。それぞれの地元に詳しい方や、各地域の先輩移住者など62名の方にボランティアでお願いしており、コンシェルジュの皆さんには、移住の前段階から移住検討者の方々の相談などに対応してもらいながら、地域の中にスムーズに溶け込むためのお手伝いをしてもらっています」

『職』に関しては「大都市のように就職情報サイトが充実していないため、長崎には“仕事が無い”のではなく、“仕事を見つけにくい”という課題がある」と長崎屋さん。そこで、長崎県下の全21市町で協働運営している『ながさき移住サポートセンター』では、地元の各機関と連携して、求人情報と移住者の求職情報とをマッチングさせ、就業支援を積極的に行っている。こうした“県市町一丸”の取組みが功を奏し、移住者数は年々右肩上がりで増加傾向にあると言う。

「おかげさまで『ながさき移住倶楽部』発足当初の2015年度の移住者数は213人だったのですが、翌2016年度は454人、『ながさき移住サポートセンター』開設後の2017年度は782人、2018年度は1121人と、毎年目標数値を上回るペースで増え続けています。

やはり、サポートセンターによる就職・住まい支援の効果は大きいようで、2017年度から急激に人数が倍増しましたから、一定の成果が数字に表れています。各市町同士や関係団体も含めて、ヨコの連携がとても密であることがこのセンターの強み。センターがあるからこそ、“県市町一丸”となって頑張れているんだと思いますね」

2日から半年まで滞在できる、家具・家電付き(※1)『お試し住宅』を提供

住まい支援といえば『お試し暮らし』を推奨している点もおもしろい。各市町の空き家や、自治体の管理物件、県の職員住宅の空き住戸などを家具・家電付き(※1)の『お試し住宅』として移住希望者へ提供し、何と無料(光熱費のみ負担要の場合あり)または格安で滞在できるサービスも行っている。しかも、滞在期間は最短で2日から最長1年まで。「とにかく一度“長崎の暮らし”を実体験してみてほしい」というのが狙いだ。

「お試し住宅での暮らしを魅力に感じていただけたら、そこを仮住まいとしながら、実際に移住する場所を探してもらいたい。県では『住宅支援員』という住まい探しの専任スタッフを配置し、主に都市部での賃貸物件の情報提供を行う予定になっています。先ほどの割引・優待サービスも含めて民間企業の方にもご協力をいただくことでサポート体制を万全にして、“移住者を温かく迎える長崎県”というアピールを積極的に続けていきたいと考えています」

一度体験してもらったらきっと気に入ってもらえるはず…どこか地元に対する自信が垣間見えるのは、『魅力度ランキング10位』の長崎ならではの強みと言えるのかもしれない。
※1:一部家具・家電が付いていない住宅あり。

▲昨年度の移住者で最も多かったのは福岡県からのUターン組だそう。「都市部は住まいも物価も高いので、生活バランスを求めて長崎へ戻ることにしたという方が多いですね。また、移住者の転入が最も多いのは『佐世保』です。佐世保は市の相談体制も充実しており、Uターンの数が多いというのもありますが、何より豊かな自然とコンパクトな街機能の両方が揃っている点が人気の理由のようです」(写真は『お試し住宅』検索画面)▲昨年度の移住者で最も多かったのは福岡県からのUターン組だそう。「都市部は住まいも物価も高いので、生活バランスを求めて長崎へ戻ることにしたという方が多いですね。また、移住者の転入が最も多いのは『佐世保』です。佐世保は市の相談体制も充実しており、Uターンの数が多いというのもありますが、何より豊かな自然とコンパクトな街機能の両方が揃っている点が人気の理由のようです」(写真は『お試し住宅』検索画面)

『移住』を『定住』へとつなげるために、最も大切なのは“人のつながり”

▲観光業中心のイメージがあるが、実は長崎県は全国2位の漁獲量を誇る水産県。漁業就業のための支援制度として、市町や県漁連などによる研修制度を設け、“長崎で漁業にチャレンジしたい移住者”の育成にも取り組んでいる(写真は長崎県庁)▲観光業中心のイメージがあるが、実は長崎県は全国2位の漁獲量を誇る水産県。漁業就業のための支援制度として、市町や県漁連などによる研修制度を設け、“長崎で漁業にチャレンジしたい移住者”の育成にも取り組んでいる(写真は長崎県庁)

この『ながさき移住倶楽部』は、単に移住希望者を募る会員制度ではなく、会員制とすることで“どんな属性の人が移住に対して関心を持っているか”というパイを分析できる点も、県にとってはメリットのひとつだという。

「人口減少対策というのは、早い段階からやっておかないと10年後、20年後の集落の維持が難しくなったり、地域の担い手不足等が生じてきます。だからこそ、県としても最重要課題として移住促進への取り組みを行っています。

ただし、我々行政としては『仕事』や『住まい』に関してはある程度のサポートを行うことができるものの、その先の『定住』へとつなげることを考えた場合、やっぱり『地域の人たちとのつながり』が最も大事なものとなります。その部分については『ながさき移住コンシェルジュ』の皆さんのお力を借りながら、今後も『ながさき移住倶楽部』と『ながさき移住サポートセンター』を中心にして丁寧な支援を行っていきたいと思っています」

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県下21市町が一丸となって進めている長崎県の移住促進。今後、10年後、20年後の『人口移動報告』でどのような成果が表れるのか、注目しつづけたい。

■取材協力/長崎県 企画振興部 地域づくり推進課
ながさき移住倶楽部
https://nagasaki-iju.jp/support/ijuclub
ながさき移住サポートセンター
https://nagasaki-iju.jp/job/support

2019年 08月12日 11時00分