お洒落すぎるホームページの公開をきっかけに問い合わせが急増

インターネット検索で「広島」「移住」とキーワードを入力すると、洒落たデザインのホームページがヒットしてくる。
その名も、ひろしま移住サポートメディア『HIROBIRO.』。
実はこのサイト、広島県が広島移住を呼びかけるために制作したもので、(大変失礼ながら)お役所が作ったとは思えないスタイリッシュなビジュアルが注目を集め、デザイナーやカメラマンなどクリエイティブな職業に携わる人たちからの移住に関する問い合わせが増えているという。この移住サイトを制作したのはどんな部署なのか?“仕掛け人”ともいえる広島県の担当者を取材した。
『地方創生』が叫ばれるよりも一足早く発足していた地域力創造課

「行政が作ったホームページとは思えないですね、とはよく皆さんから言われます」と語るのは広島県地域政策局地域力創造課の兼田洋一さん。
昨年度からサイト運営のほか、広島移住プロジェクトのグループリーダーを務めている。
「このホームページは地元の会社に制作を委託し、広島出身・東京在住のプロデューサーさんにプロデュースして頂いております。
人材を求めている県内企業などに幅広くリンクを貼って頂き、多くの方に見て欲しいと考えていたところ、Webデザイナーのための美しいデザインのHPを集めたサイトで紹介されたことがきっかけで、それをご覧になった方がこちらのサイトに流入するようになったのです。
そのため、デザイナー、カメラマン、映像ディレクターなど、主に東京在住のクリエイティブ系の方からの問い合わせが増えているのだと思います」(兼田さん談)。
================================================
広島県の地域力創造課は、平成26年4月に開設された新しい部署だ。
開設の半年後、平成26年秋に安倍政権が掲げる成長戦略のひとつとしてローカル・アベノミクスが叫ばれるようになったが、広島県では地域力創造課の開設を受け、他府県が『地方創生』に取り組む半年前からすでにホームページの制作に着手していたという。
「当初は“広島移住の提案”を特に意識していたわけではなく、“広島の風土や暮らしについてライフスタイルを発信できるホームページが欲しいな”と思って制作に取り掛かりました。平成26年の春から準備をしてホームページが完成したのが翌年の3月。そういう意味では、他の県よりも半年ほどPR活動の出足が早かったのです。
また、広島は観光地としての一面も持ち合わせているため、“修学旅行で行ったことがあります”とか、“尾道に旅行をしたことがあります”とか、一度は訪れた経験のある方が多くいらっしゃいます。旅の想い出から街の雰囲気を連想しやすいという点で、広島は移住を促進するのに優位な県と言えるのかもしれません」(兼田さん談)。
広島移住をきっかけにして、仕事のキャリアアップにつながる人も

広島県では、地元のほか東京・有楽町の東京交通会館にあるNPO法人ふるさと回帰支援センター内にも『ひろしま暮らしサポートセンター』という移住に関する相談窓口を開設し、地域力創造課の県職員を1名派遣している。
同センター内には37の府県の窓口があるものの、ほとんどが委託業務となっており、職員をわざわざ派遣しているのは広島県と和歌山県のみだという。
「平成26年10月に窓口を開設してから現在までに約1400人の方から相談があり、そのうち2回以上相談に訪れた人が26%。このリピーターの多さは想定以上の成果でした」と語るのは地域力創造課の秋田智宏さん。
「そもそも、東京一極集中の是正が国の目標であり、県の目標でもありますから、東京に窓口を開設し職員を派遣するということは大きな意義があります。また、東京には多彩なスキルをもった方が数多くいらっしゃるので、東京で様々な経験を積んだ方に広島県で活躍をしてもらうことが広島県の活性化につながると考えています。ある意味、メインターゲットを“東京の若者”に絞っている点も、広島県の移住プロジェクトの特徴です」(秋田さん談)。
移住プロジェクトの発足以降、東京の相談窓口を訪れた1400人のデータを分析してみると、本人または配偶者が広島出身という地縁者は33%。残る67%はまったく広島に地縁のない人たちで、しかも30代以下の若者世代が半数を占めるというから驚きだ。
「移住を決めた多くの方が、“広島で住みたい”というよりも、“広島で新しく何かを始めたい”と考えています。例えば、東京で人気の『ふくろうカフェ』はこれまで広島にはひとつもありませんでしたが、東京から移住して広島初の『ふくろうカフェ』をオープンさせた方は、広島でのこの業界のフロンティアになりました。また、あるカメラマンの方は東京から持ってきた仕事と、移住してここで新たに生まれた仕事のどちらも増えて、とても忙しい毎日を送っています。
つまり、広島に移住してこの場所で仕事をすることが、その方にとってキャリアアップにつながっているのです」(秋田さん談)。
移住者が新しいアイディアを持ち込むことで、新しい価値観に気付く
順風満帆のように見える広島県の移住プロジェクト『HIROBIRO.』だが、「まだまだ課題は山積です」と兼田さん。
「移住の促進というのは、人と人とのつながりで結ばれていくようなものですから、行政が単独でがんばろうとしても絶対に成り立ちません。その点、地元の方たちが移住促進に対して協力的になってくれているのはとてもありがたいことです。
しかし、もうひとつ必要になるのが、移住してきた人たちの中でリーダー的な存在となる人物です。実際に、移住検討者の方の中にはリーダー的な先輩移住者の方からの呼びかけをきっかけにして移住を決めた方もいらっしゃいます。そういったリーダー的移住者の方をどんどん増やして行きたいというのが、我々の今後の取り組みの柱となっています。よそから来た人たちを受け入れて一緒に盛り上げることができる“良い意味でおせっかいな人”こそが、移住促進のキーパーソンとなるのです」(兼田さん談)。
広島県では移住促進と同時に空き家活用についても取り組みを行っているが、この空き家問題においても「おじいさん、そろそろあの家、何とかしんさい!」と地元のお年寄りにおせっかいをやくことができる若いリーダーがいる地域は、改善しやすい傾向にあるという。
「そういう点でも、外からの風を取り込むことは必要です。移り住んできた若い人が新しいアイディアを持ち込こんでくれることで、閉鎖的な地元の方たちも新しい感覚や価値観に気付くことができる。行政がそこに頼りすぎてはいけないとは思いますが、その循環を大切にしたいと思います」(兼田さん談)。
移住から定住へ…今後の目標は、移住者と仕事のマッチング

移住促進に全力で取り組む広島県が、最終的に目指すところはどこにあるのだろうか?
「移住を促進しても仕事が無ければ生活は長続きしませんから、移住から定住へつなげるステップのひとつとして、“人材と仕事のスムーズなマッチング”を目標にしています。
広島への移住を希望している人は、『起業をしたい人』と『企業で働きたい人』に分かれるのですが、幸い広島県は地元企業数が多いため受け皿がたくさんあります。
平成28年8月からは、広島経済同友会の協力を仰ぎながら、企業で働きたい人材と人材を求める同友会会員企業とのマッチングをスタートさせました。現在、協力企業は100社以上にのぼっており、今後はこれを軌道にのせていきたいと考えています」(兼田さん談)。
「これから深刻な高齢化社会の到来に伴って生産年齢人口が年々減り続ける中で、企業間でも“働くチカラ”の取り合いになっていきます。そこの取り合いに勝っていかないと、県全体の産業の危機を招きかねないため、県としてサポートしたいという思いがあります。
50年、60年先の未来を見越したときに、人も、企業も大切に育んでいくことが県全体のパワーにつながりますので、先手を打っておく意味でも移住・定住の促進は全力で取り組むべきプロジェクトです」(秋田さん談)。
広島県では、今後定住者の年間目標を100世帯に掲げ、『HIROBIRO.』プロジェクトを進めていく。
■取材協力/広島県
http://www.pref.hiroshima.lg.jp/
■ひろしま移住サポートメディア『HIROBIRO.』
http://www.hiroshima-hirobiro.jp/
2016年 10月23日 11時00分