「狩猟がしたい」の思いで北海道へ

ゲストハウス「ぎまんち」を経営する儀間雅真さん(右)と芙沙子さんゲストハウス「ぎまんち」を経営する儀間雅真さん(右)と芙沙子さん

数が増え多様性も増し、身近になりつつあるゲストハウス。手ごろな値段で宿泊でき、ゲスト同士で交流できるなど利用者側にとって魅力が大きいが、ホストや地域にとっても多くの可能性をもたらす存在だ。

帯広市から北東へ約65kmの北海道足寄町に移住した儀間雅真さん、芙沙子さん夫妻は「狩猟がしたい」という一心で関東から移住し、日本家屋を借りて狩猟に同行できるゲストハウス「ぎまんち」を経営。自分たちらしい暮らしや働き方を実践している。

儀間さん夫妻は横浜市で暮らしていたが、肉料理好きが高じて「自分で獲れるようになれば」と狩猟に興味を持つようになった。狩猟愛好家にとって自然豊かな北海道というフィールドは憧れ。足寄町から約100kmの北見市出身の芙沙子さんには「いつかは北海道へ戻りたい」という思いもあり、移住を検討していた。

2016年6月、東京都内であった北海道の移住イベントで、足寄町の移住サポートセンター職員と出会い、体験ツアーに参加することになった。十勝の雄大な自然に心奪われたが、特に印象に残ったのは、夜にスナックで行われた懇親会で地元の住民と歓談したこと。人の魅力に引き込まれ、「足寄には外の人を受け入れてくれる雰囲気がある」と心地よさを感じるようになった。

移住のハードルの1つになるのが仕事探しだが、芙沙⼦さんは2016年秋ごろ、移住サポートセンター職員の採⽤が内定。その後、雅真さんが地域おこし協⼒隊になることや、新しい住まいとなる⼀軒家も決まったこの時点ではゲストハウスを経営する構想はなかったが、暮らしの基盤が整ったことで2017年3月に移住、狩猟を楽しみながら一軒家での暮らしを始めた。

日本家屋の賃貸でコストとリスクを抑制

ただ、芙沙子さんは2年、雅真さんは3年の期限付き雇用という身。定住に向けての仕事を検討していく中で、「仕事は自分たちでつくればいい」「横浜でできなかったことをしよう」と話し合った。ちょうど、民泊という新しい宿泊スタイルが話題になっていたころだった。手に職があったわけではなかったため、「空き部屋を貸すくらいならできる」と宿づくりにたどり着いた。

2018年2月ごろから本格的に物件探しを始め、町内全域で複数の物件を見て回った。土地と家にほとんど値がつかないような手ごろさがあっても改修で200~300万円が必要となる物件や、断熱性能が低く冬の宿泊客対応に不安が残る物件もあった。儀間さん夫妻には事業の経験はなかったため、高いリスクや大きな借金を背負うのは避けることを重視。初期費用をできるだけかけないことを心掛けた結果、宮大工が手掛けた、傷みの少ない築36年の日本家屋を賃借することにした。共有スペースを通過せずに洗面所を使えるなど宿泊者の動線も不自由なく、調度品や部材も重厚なものが使われていた。

2018年6月にDIYに挑戦。地元の建設会社や町民のボランティア、商工会青年部の力を借りて、ダイニングの畳敷きのスペースはフローリングを張って洋風に模様替えするなどの簡単なリノベーションをした。移住直後にあちこちに顔を出し、開業時に多くの協力を得られたことも奏功したという。水道管と給湯ボイラーの補修、屋根のペンキ塗り替えは所有者の負担で施工会社が施工し、翌7月にオープンにこぎ着けた。

床を張り替える作業をする雅真さん床を張り替える作業をする雅真さん

仕事と生活を自分たちでつくり上げるスタイルを

大自然の中での狩猟を楽しむ雅真さん大自然の中での狩猟を楽しむ雅真さん

「1つの仕事だけで生活を成り立たせるのではなく、いくつかを組み合わせて収入を保てればいい」。狩猟も収益事業の1つとして確立させたい雅真さんにとって、ゲストハウスという仕事のスタイルは狩猟を絡ませる上で大きな可能性があった。もともと住んでいた一軒家から引っ越し、家主滞在型の民泊施設としたことで、背伸びをせずにその利点を最大限生かすことができた。

「住まいと別の物件を借りていると家賃やローンが発生するので、住んでいる所で仕事をする形はリスクが小さいです。厳しい冬の管理も、自分たちが住みながらできます。それに、宿泊の仕事で時間を取られるのは、掃除とチェックインで2時間くらいしかありません。なるべく、コスト面と作業の面で手がかからないようにしたかったので、狩猟などほかのことと組み合わせやすいのは大きなメリットです」と言う。日の出に合わせて早朝出発する狩猟なら、宿泊を伴いやすく、オペレーションもしやすい。

徐々に「ハンターの宿」として知られるようになり、2018年夏には第1号として大阪から、食育に興味のある家族連れが訪れ、シカを仕留めることに成功。解体して調理して好評を得た。これまでに宿泊を伴って10組ほどを狩猟の現場に案内し、海外の観光客からも関心が寄せられている。

地域を発信し、「外」と「内」をつなぐ存在に

足寄町は、北見方面や釧路方面に向かう人が多く行き交う、交通の結節点だが、雅真さんは「これまで、外と中の人をつなぐ役割がいなかった」と指摘する。町内に飲食店は多くあるが、地元の食材が食べられるところは多くないという。そのためゲストハウスの庭でのバーベキューや、スーパーや農家の紹介に力を入れている。「肉の販売を含め、ゲストハウスで地元感のあるものを提供していけるように模索しています」と話す。「ぎまんち」は和洋合わせて2部屋(2組)のみの受け入れとなるため、ゲストの好みに応じてきめ細かく対応できることもアドバンテージになっている。

芙沙子さんも、町内の食材は多くが町外に出てしまうため「まちの食材を食べてもらいたい」という思いが強い。「例えばカフェなどで、まちの人と宿泊者が交流できる仕組みをつくりたい。ゲストハウスを通じて、足寄を知ってもらえたら」と次の展開を模索している。

重厚な雰囲気が特徴の洋室(左上)、和室(右上)、共同スペース(左下)、小上がり重厚な雰囲気が特徴の洋室(左上)、和室(右上)、共同スペース(左下)、小上がり

2019年 11月13日 11時05分