受け入れ体制の整備が急務に

スキーなどアウトドアスポーツの本場として、自然豊かな観光地として、海外でも人気が高まる北海道。外国人観光客が増加の一途をたどる道内でいま、急務になっているのが、医療機関の受け入れ体制の整備だ。国も最近になって対策に本腰を入れ始めたが、道庁は「北海道における外国人患者受け入れに関する対応指針」をまとめ、事例集をホームページに公開するなど、矢継ぎ早に策を打ち出している。受け入れ時の不安を和らげようと、医療分野にとどまらない関係団体との情報共有を進めている。

北海道庁によると、2017年度に北海道を訪れた外国人観光客は前年度より21.3%増え、過去最多を更新。在留外国人も年々増え、2018年6月末の時点で約33,000人に及んでいるが、多くの課題が横たわっている。

総務省の北海道管区行政評価局による「北海道における外国人観光客の受入環境に関する実態調査」(2017年)によると、道央地区では、観光庁が指定した「緊急時対応可能医療機関」や厚生労働省による「拠点病院」が未整備な上、領事館や大使館に連絡して通訳ボランティアを派遣するなど意思疎通に苦慮している現状がある。拠点病院での旅行保険の未加入者は85~95.6%に達しており、他都府県より高く、未払いリスクが大きいという。

北海道を訪れる外国人の推移。過去最多を更新している(北海道観光局のホームページより)北海道を訪れる外国人の推移。過去最多を更新している(北海道観光局のホームページより)

医療分野を超えた各団体との連携を

「対応指針」で支援された、半数以上が外国人患者を受け入れた実績がある一方で、実績なしも3割ほどを占める「対応指針」で支援された、半数以上が外国人患者を受け入れた実績がある一方で、実績なしも3割ほどを占める

道庁は2~3年前から、トラブルやケガ・事故が増えていることを受けて、検討を重ねてきた。2017年に保健所単位で検討会議や市町村の連絡会議を開いたほか、通訳体制や未払いの実態、保険会社とのやり取りなどをまとめた「外国人患者対応(トラブル)事例集」を医療機関向けに作成。

2018年には国のモデル事業として、全道レベルでの「意見交換会」を札幌市で3回開催。道の観光部局や救急医療を所管する危機対策課、医師会・歯科医師会、薬剤師会などが事例を共有した。

2018年6月に国がまとめた「訪日外国人に対する適切な医療等の確保に向けた総合対策」では、都道府県の病院を所管する部署と観光部門が連携することが重要だと指摘された。道庁医務薬務課の担当者も「外国人患者の受け入れ体制を整備するにあたっては、医療関係団体だけでは、なかなかスムーズに進みません。救急・消防や、観光関係の団体、宿泊・交通関係者など、さまざまな分野の関係団体が情報を共有する必要があります」と同調する。

札幌市での意見交換会で出された意見を踏まえて、道庁は2019年4月、「北海道における外国人患者受け入れに関する対応指針」をまとめた。国でも同様なマニュアルはあるものの、100ページ以上に及ぶため、国の指針を参考にしつつ、ご当地版として、地域の実情に即して受け入れのポイントを約30ページ(資料含む)に凝縮した。

意思疎通への不安や未払い対策の参考に

観光庁が作成している、外国人観光客に保険加入を促すパンフレット観光庁が作成している、外国人観光客に保険加入を促すパンフレット

2018年の実態調査で、医療機関が最も困っていることに挙げられたのが、「言語やコミュニケーション」だった。外国人患者を受け入れた実績があるのは回答した医療機関の62%に達しているものの、2017年度の年間受け入れは10人未満が55%、10~49人が32%、100人以上は3%と、患者数全体に占める外国人の割合は少ない。

指針では、対面通訳は患者から期待が寄せられる一方、高度な通訳技術や専門性を有する医療通訳者を日常的に確保するハードルが高いため、「通訳者を常時配置することは現実的ではないと考えられる」と考察している。通訳の種類は「対面」「電話」「映像」「翻訳デバイス」などさまざまで、利用頻度やコストなどに照らして各院の事情に合わせて検討することが重要だとしている。

問題は言葉の壁だけに限らない。外国人が日本の医療制度を正確に理解していないこともハードルになるため、指針では、未払いにもつながりかねない制度の違いにもページを割いている。

「処方箋を知らない外国人は一定数いらっしゃいます。医療機関で処方箋をもらって、院外薬局で薬をもらう、という日本の制度が分からない人が多いですね」と医務薬務課の担当者。対応方針では、処方箋に基づいて医薬品を買うことを想定し、「日頃から地域における医療機関と薬局(ドラッグストア)間の連携が重要です」と触れている。

海外では、公的医療保障制度がなく多くが民間保険に加入していたり、処方箋など医薬品の入手方法が国ごとに違っていたりすることや、自由に医療機関を選べない場合もある。保険未加入で医療費が全額自己負担になるケースでは、事前に治療内容や医療費の概算額などについて同意を得ることも求められる。「宗教、生活習慣、国民性に根差した相違があり、受診方法、医療費、使用する医薬品等について、トラブルが生じるリスクがあります。事前に日本の医療制度について説明することが重要」としている。

道内の取り組み事例も紹介

道内事例として、スキーヤーの訪日客が多いことで全国的に知られる倶知安・ニセコ周辺の取り組みも紹介されている。倶知安厚生病院では、スキー場での外傷や骨折などを負った外国人患者に対応するため、冬期間に通訳カウンターを設置。4人で対面対応し、不在時はタブレットを置いている。また同地域では医療・観光・宿泊の関係者による意見交換会が開かれ、外国人患者の受診時に、宿泊施設からパスポートのコピーの提供を受けて本人確認をし、効率化と円滑化を図ることになった。

外部との連携で体制を拡充する取り組みも。小樽商科大学の学生は、倶知安・ニセコ地域の英語版「医療マップ」を作成。病院と薬局、スキー場の位置情報のほか、診療時間と科目、受診の流れや薬の入手方法、症状のアイコンなどを丁寧に紹介している。製鉄記念室蘭病院(室蘭市)では、室蘭工業大学の外国人留学生が患者に対し、付き添いや買い物代行といった支援を行う動きもある。

倶知安・ニセコ地域の医療機関などをまとめたマップ(©小樽商科大学 佐々木香織ゼミ2018年度)倶知安・ニセコ地域の医療機関などをまとめたマップ(©小樽商科大学 佐々木香織ゼミ2018年度)

地域の実情に合わせた検討を

多言語表記された、北海道大学病院のフロアマップ多言語表記された、北海道大学病院のフロアマップ

対応方針では、地域の拠点となる医療機関に対し、受け入れ体制の整備方針を策定することを勧めている。

その例として、①通訳体制②院内文書の多言語化③自由診療の患者への医療費設定④医療費概算の提示方法⑤宗教・習慣への配慮⑥マニュアル整備⑦掲示の多言語化や食事対応など院内環境の整備⑧他機関との連携⑨ホームページなどでの情報提供⑩担当部署の明確化⑪職員研修―を挙げている。

医務薬務課の担当者は、「広い北海道では、外国人患者が多かったり少なかったりと、地域によって事情が違います。この対応方針があるから受け入れが万全になるというものではなく、地域によっては参考になるものもあれば、ならないものもあります。今後はそれぞれの地域の実情に合わせて活用していただければ」と話す。

2019年 11月28日 11時05分