『筥崎荘々(はこざきそうそう) Guest house mini + 衣食住店』

入り口には箱崎のまちをイメージしてデザインされたのれんがかかるレトロビル入り口には箱崎のまちをイメージしてデザインされたのれんがかかるレトロビル

福岡市東区の箱崎は、古くは漁村・農村であった。1911(明治44)年、九州帝国大学が設置されたことで多くの学生が住む下宿街となり、学生向けの大衆食堂なども多くなったようだ。博多へのアクセスもよいことから、昭和のはじめにはアパートブームもあり、人口増加の時期もあった。しかし現在は、少子高齢化や九州大学の移転に伴い空きアパートなどが目立つようになりつつある。今後は、移転した九州大学のキャンパス跡地の再生計画がはじまり、新たなまちづくり進行中のまちである。

そんな、箱崎にあるレトロビルの1・2階にDIYでリノベーションされたゲストハウス兼衣食住店がある。箱崎の旧表記と英語の「so so(まあまあ)」をかけあわせたというネーミングの「筥崎荘々(はこざきそうそう) Guest house mini + 衣食住店」だ。

古いビルのリノベーションや空き家の再生では、北九州や福岡はオピニオンの存在もあり活発な場所だが、この「筥崎荘々」を手がけた人物は特に不動産業や建設業出身というわけではないという。

クラウドファンディングも活用してつくりあげたという、少し変わったコンセプトの交流型の宿と店。
手がけた本人も変わったプロフィールの「筥崎荘々」店主 原田謙剛さんに取材してきた。

「ロンドンのクラブシーン、案内します」ロンドンでのゲストハウス経験

原田さんは、もともとクラブミュージックのDJ。その他にも音楽イベントや企画を行うという仕事を手がけている。

「音楽が大好きで、高校生ぐらいから北九州を中心にクラブでDJやイベント企画を行っていました。音楽で食べていこうと思い、東京に出て活動していましたが、その当時の東京のミュージックシーンはロンドンの真似事も多くて……それなら本場に行ってやってみたい、と2002年にロンドンに渡英しました」

ロンドンでは最初、語学学校に通いながらホームステイしていたというが、その後ルームシェアでルームメイトと暮らし始める。
「ロンドンの北、ウッド・グリーンというところだったのですが、4階建ての1室の中の3部屋を3人でシェアしていました。あるとき1人が出てしまい、その空いた1部屋のフラットメイト(ルームメイト)を募集したですが、どうせ空いているなら…と、一時的に旅行者に貸そうと近所のスーパーに宿として貼りだしたのが“貸す”ことをした始まりでした。意外に、そういったところで安全な安宿を探している人もいて、また、日本人がやっているという安堵からか問い合わせも多かったです。旅をしている人に音楽やイベントの紹介をするのが楽しく、泊まった人たちは楽しい経験だったと喜んでくれました。

そのあと、僕もさまざまな場所に移り住んだのですが、そういったニーズがあるならと、2005年に東ロンドンのベスナル・グリーン駅にほど近いデザイナーズアパートで、友人とゲストハウスの運営をはじめました。それがリージェンシー運河沿いのスピタルロンドンハウスです。“ロンドンのクラブシーン、案内します”と発信し、ちょうどSNSのはしりのミクシィなどもあり、宿泊した人の口コミなどで拡散してロンドンの音楽に興味のある人が泊まってくれました」という。

左上)ベスナル・グリーン駅。庶民的なお店が多く、ロンドンの下町といったエリア</br>右上)スピタルロンドンハウスではゲスト同士の交流も </br>左下)原田さん自らロンドンのクラブシーンをゲストたちに案内することも多かった 右下)ゲストハウスの食事左上)ベスナル・グリーン駅。庶民的なお店が多く、ロンドンの下町といったエリア
右上)スピタルロンドンハウスではゲスト同士の交流も 
左下)原田さん自らロンドンのクラブシーンをゲストたちに案内することも多かった 右下)ゲストハウスの食事

小倉のSPITAL ・箱崎にスピタルハコザキ…そして筥崎荘々

SPITAL代表の原田 謙剛さんSPITAL代表の原田 謙剛さん

ロンドンでゲストハウスを運営していた原田さん。その後、どうして福岡に帰ろうと思ったのだろうか。

「もともと30歳になったら“起業して福岡に帰ろう”と思っていました。ちゃんと地盤をつくりたいな、と。まずは、2006年に帰国してサラリーマンをやったことがなかったので、約3年弱ほど会社に勤めました。会社では、学ぶことも多く、刺激を受ける人も多かった。よい経験をしました。でも初志貫徹、と2009年に独立することにしたんです」

その年に、クラブ企画やイベントの仕事を行いながら、小倉に自身のSPITALの事務所を兼ねるお店と小さな貸スペースのSPITALをオープンさせた。古い長屋の一角を改装した2階建ての各階わすか4坪のスペースである。
「SPITALのコンセプトはmusic cafe+小さな貸スペース。何かを発信したり、新しいつながりを求めている人たちの始まりの場になればいいな、と思ってはじめた場所です。企画展を開催しながら、日替わりで14人が店主をつとめています」

さらに2015年には箱崎に古家を改修した、カフェ + 多目的貸スペースのスピタルハコザキをオープン。昭和28(1953)年建造の民家を少しずつ改築しながらカフェと多目的スペースとして活用。別邸に滞在もできるように徐々に手を入れているところのようだ。
そして2018年、同じく箱崎で新たなチャレンジを始める。
「ロンドンでの経験からゲストハウスをもう一度やりたいな、と思ったんです。箱崎は九大のキャンパス移転でまちに空いている物件も多かったんです。クラウドファンディングなども活用し、レトロビルの1階と2階を改装して、ギャラリーや多目的スペースを併設した9人までが宿泊できる交流型宿のオープンを目指しました」
それが、『筥崎荘々 Guest house mini + 衣食住店』である。

完成形にこだわらない空間

『筥崎荘々』の2階には「コーヒーやカレーなどを出すカフェとして使っていますが、イベントなどフリーに使えるようにしているんです」という、清潔でシンプルな白の空間が広がる。ピアノやアンプ・スピーカーなど音楽のためのもの、その他、年季の入った棚などが置いてあった。

「置いてある棚などは、箱崎で集めた古い家具。一部大学で使われていたものもあるようで、処分するなら…と譲ってもらったものもあります。やりたいことは多いけど、そんなにお金があるわけではないので、こだわった古いものを活かすセルフリノベーションで場所をつくっています。みんなで壁を塗ったり、キッチンをつくったり……。場所をきれいに整えるというよりも、自由な発想の使い方ができる部分をのこしておきたい」という。

フリースペースの同じ階にあるゲストハウス空間も未だ手を入れつつ変えている途中である。2段ベッドやランドリースペースなど必要なものは揃っており、宿泊所として使える場所となっている。
「これから徐々にまた、みんなの手もかりつつ変えていこうと思っています」と、こちらも緩やかに使いながら、心地よい空間にするためのセルフリノベーションが進行中だ。

左上)ゲストハウスの多目的スペース。箱崎のマップが壁に書かれている 右上)コンパクトに2段ベッドが備え付けられた宿泊スペース 左下)のれんのある1階から階段をあがると左にゲストハウスの扉、右にカフェの扉がある 右下)カフェスペース奥は、レトロビルの中の壁をくり貫いたキッチンと和室スペースがある左上)ゲストハウスの多目的スペース。箱崎のマップが壁に書かれている 右上)コンパクトに2段ベッドが備え付けられた宿泊スペース 左下)のれんのある1階から階段をあがると左にゲストハウスの扉、右にカフェの扉がある 右下)カフェスペース奥は、レトロビルの中の壁をくり貫いたキッチンと和室スペースがある

自由に集まり、発信できる「人とのつながりが生み出せる」場所を

「僕にとって、あまり場所や空間を完成させることは興味がないんです。どちらかというと、いろんな人の自由な発想をさまたげない場所であり、そういう使い方ができる余裕を残した空間であってほしい。好きなもの、楽しいもの、みんなが集まれるもののきっかけを作りたいと思っています」という。

一見、無頓着に計画なく自由に場所作りをすすめているようだが、実はそうではないようだ。
原田さんが手がけるそれぞれの場所には、コンセプトやネーミング、デザインなどがしっかりと練られている。たとえば、「筥崎荘々(はこざきそうそう) Guest house mini + 衣食住店」という名前には、原田さんの思う「非日常ではなく、日常の素敵さを通して、楽しさを広げる場所であってほしい」という想いが込められている。ネーミングやデザインで「どんな人に届けたいか、どういった場所でありたいか」がちゃんとわかるようになっているのだ。

だから、まるでマーケティングをしたようにそれぞれの場所で、コミュニティが育っている。一緒になにかを楽しむ空間、情報を交換する空間、それらは原田さんがずっと続けてきた音楽の楽しみ方や感性とつながるのかもしれない。
原田さんが、箱崎で手がける場所は、まちの新たな活気につながるきっかけとなっていきそうだ。

■取材協力:『筥崎荘々 Guest house mini + 衣食住店』
http://www.hakozakiso-so.store/

シンプルな空間はふだんはカフェとして、またマルチに使えるイベントスペースとして活用シンプルな空間はふだんはカフェとして、またマルチに使えるイベントスペースとして活用

2019年 10月16日 11時05分