「旅館と地域」の調和を考えた新ルール策定

前回の記事「京都市で民泊専用窓口『民泊110番』が開設。市民の不安が浮き彫りに?」では、京都市における民泊の現状と課題について紹介した。そんな中、京都の宿泊業界の新しい動きとして、改めて市から「本市のルール」として指導要綱が策定された。

平成28年11月17日に新たに制定されたのは「京都市旅館業施設における安心安全及び地域の生活環境との調和の確保に関する指導要綱」という名前の指導要綱。長い名前とは裏腹に、内容は全条文18条しかない。シンプルでまとまったものだ。

指導内容のポイントは下記の通り。
●施設使用に係る制約の不存在
●計画の公開
●連絡先の周知
●施設の明示等
●迷惑行為の防止
●迷惑行為への対処
●助言等の実施
●連絡を求める文書等のはりつけ

これらの指導内容はどのような背景があって策定されたのか、簡単にみていきたい。

2015年12月から実施された実態調査によって、京都市内における民泊の市場規模や住民の不安が明るみになる中、苦情や通報の窓口として開設されたのが「民泊110番」だ2015年12月から実施された実態調査によって、京都市内における民泊の市場規模や住民の不安が明るみになる中、苦情や通報の窓口として開設されたのが「民泊110番」だ

住民の権利を守るため、当然に必要なルール

●施設使用に係る制約の不存在
申請対象となる施設は「旅館業を禁止する」等の決め事がないことを申請者が提出しなけらばいけないというルール。
「違法民泊」は賃借人が貸主の許可を取らずに行われていたり、もしくは分譲マンションオーナーが管理規約を無視して行っている場合が多い。賃貸マンション/アパート等の賃貸借契約は使用目的を住居と定めている場合がほとんどで、そこでは違法である場合はもちろん合法であっても宿泊業を行うことは許されていない。分譲マンションも同様で、管理規約や使用細則に「不特定多数が出入りする事務所等を開業することを禁じる」といった内容の規約があることが多く、いくら持ち主であってもそのルールに反して宿泊業を営むことはできない。

今までの旅館業法の許可取得の流れでは建物の要件を確認することは行われても権利関係等をチェックすることは行われなかったため、分譲マンションオーナーが自分の住戸で民泊事業を行い「自分の部屋を好きに使って何が悪い」などと開き直る例もあった。住民の権利を守るための極めて妥当なルールだと言える。

●計画の公開
申請前に自治会等に計画を公開し、必要に応じて説明会を開催するというルール。
分譲マンションなどではお馴染みのルール。建物に「お知らせ看板」が設置されていても気づかない人は多い。周辺への告知のために標識を設置するのであるから、さらに一歩進んだ自治会等への計画の公開は、これも住民にとってより良くなった点といえよう。

●連絡先の周知
営業開始までに自治会等に、要望や迷惑行為への対処を求めるための電話番号等の連絡先を周知するというルール。
住民サイドからすれば「要望を聞き入れること」「迷惑行為への対処をすること」まで記載して欲しいところであろうが、事業者側にとってはすべての要望を聞くことができない事情もある。両者が対話を持つため、連絡先を周知することは最低限必要なことだと言える。今まで徹底されていなかったのが不思議なくらいだ。

具体的な迷惑行為への対処も

住宅街のアスファルトや集合住宅の廊下でキャリーバッグを引く音は、静かな早朝、深夜帯は特に周辺に響く住宅街のアスファルトや集合住宅の廊下でキャリーバッグを引く音は、静かな早朝、深夜帯は特に周辺に響く

●迷惑行為の防止/迷惑行為への対処
付近住民の迷惑、具体的には「早朝、夜間にカバンを引く音」「大声、大きな物音などの迷惑な騒音」「たばこの吸い殻、ごみのポイ捨て、きまりに反したごみ出し」が無いように利用者に周知し、利用者がそれらの行為をした時は中止させる等の必要な措置をとる、というルール。
事業者からすれば「カバンを引く音は仕方が無い」と考えるかもしれないが、住民側からすれば他人の事業のために静寂が奪われるのはたまらない。ここは商業地と住宅地で扱いを変える、例えば商業地は周知はしても「必要な措置」までは免除し、住宅地はチェックイン/チェックアウトの時間を制限するなどのきめ細かい対応が必要に思われる。

●連絡を求める文書等のはりつけ
これまでのポイントが「許可を得ようとしている」「許可を得ている」人に対する内容であったのに対し、こちらは無許可営業を行っている施設に対する対処。これにより京都市は「無許可営業やその疑いのある施設について、ほかに適切な連絡の方法がないときは、連絡を求める文書等を施設へはり付ける」ことができるようになる。
旅館業を運営していることを明示している施設は、指導要綱の内容がどうであれ困りごとや迷惑行為があれば運営者がわかるので苦情を伝えることができる。しかし無許可で営業を行っている施設については誰に言えばいいのかわからない。そのような施設に対してこの「文書等を施設にはり付ける」は効果が見込める。市役所から「無許可営業の疑い」を疑われるような張り紙のある施設に宿泊したい人はいない。予約時に「無許可の疑い」を知らなかった人であっても、そのような張り紙を見ればそのことをWeb上で口コミすることもある。そのような容態は周辺住民にも広く知れ渡ることになる。「文書等をはり付ける」ことは一種の無許可の施設への「営業妨害」でもあり、無許可営業を減らす効果があろう。

「利用者との面接」は必須に

以上、主だった指導内容をかいつまみその内容をみた。旅館業の許可を得ようとする宿泊施設に対しこのようなルールを課したということは、今後さらに増加するであろう宿泊施設と地域住民との共存を図るために大切なことであり、「民泊110番」の設置など今まで民泊に対し厳しく対処してきたことから考えれば、京都市の今回の施策はバランスの良い施策であるといえる。

しかし今回の指導要綱に盛り込まれた内容には、一点気になる部分がある。以下当該部分を抜粋掲載する。

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(面接等の実施)
第8条 営業者は,利用者が許可施設の利用を開始するときは,許可施設の玄関帳場その他これに類する設備において利用者と面接し,法第6条に規定する宿泊者名簿の記載(以下「面接等」という。)を行わなければならない。
『京都市旅館業施設における安心安全及び地域の生活環境との調和の確保に関する指導要綱』
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ポイントは「玄関帳場その他これに類する設備において利用者と面接」という部分。これにより、事業者は宿泊者と相対で会う必要が出てくる。これは小規模事業者にとっては大変不利な条件となる。

例えば大阪市の指導要綱(「大阪市旅館業規制指導要綱」)では以下のような記載がある。

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(玄関帳場等を有しない施設の構造設備の基準)
第4条 玄関帳場等を有しない施設において簡易宿所営業を営む者等は、次に掲げる事項に適合した設備を有しなければならない。
(1) 条例第5条第6号ただし書アに規定する管理事務室については、大阪市域内において宿泊施設の周囲 1,100 メートルの区域内とすること
(2) 条例第5条第6号ただし書イに規定するビデオカメラその他の機器については、現に宿泊者が施設に出入りしている姿を確認できるものであること
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「総客室の延べ面積が33平方メートル未満」という縛りはあるが、「1,100m内に管理事務室を設ける」「宿泊者の出入りを確認するためのビデオカメラその他の機器を設置する」等の要件を満たせば「宿泊者等との面談に適する玄関帳場等」は不要としている。

望まれる「時代にあった運用」

「無人チェックイン」に対する漠然とした不安はあるだろう。しかし、予約や決済等が全てWebサイトで完結でき、ビデオカメラ等を利用すれば「顔を合わせての会話」も可能なのに「帳場」にこだわるというのも時代遅れだ。人による監視は不当な利用の抑止力になるであろうが、本人確認等は人が直接会ったから確実だというものでもない。
一概に「帳場」が時代遅れだとは言わないが、もし「無人」=「質の低下」と考えての対応であればいささか残念だ。「面接」「(紙への)記載」のような時代に逆行した規制をするのではなく、サービスの質を低下させずテクノロジーによる効率化を図ろうとする事業者が現れるようなルール作りを考えて欲しい。現実に「Airbnb」は一昔では全く想像しがたいことを実現している。

現在の旅館業法が施行されたのは昭和23年7月15日。68年前、戦後すぐの法律だ。インターネットなど無いのはもちろんのこと、建物の構造、社会の衛生環境、旅行/宿泊に対する意識等、全く今とは違う状況下でできた法律である。せめて指導要綱のような現場の事情を反映できる部分においては、先進的な取組を後押しするような内容にして欲しかったものである。

■参考資料
『宿泊サービスの提供に係る本市のルールの明確化に向けた取組について』(京都市)
http://www.city.kyoto.lg.jp/hokenfukushi/page/0000193288.html

『大阪市旅館業規制指導要綱」の一部改正について』(大阪市)
http://www.city.osaka.lg.jp/templates/kisoku_kohyo/kenko/0000385071.html

玄関帳場の設置という玄関帳場の設置という"アナログ"な手段に頼らなくとも、サービスの質を低下させずテクノロジーによる効率化が図れるような柔軟なルール作りが欲しい

2017年 02月02日 11時06分