2017年10月より運用開始されたIT重説

従来、アパートを借りる際など不動産取引契約の前には、必ず宅地建物取引士と対面して重要事項説明(重説)を受ける必要があった。重説とは、家賃や設備など契約にかかわる重要事項を説明するものだ。しかし、遠方への転勤や進学といった場合は、現地の物件探しに丸一日かけ、さらに別の日に重要事項説明を受けるのは予算的にもスケジュール的にも難しいはずだ。そのため、じっくり検討することなく、物件を内見したその日に、一気に重要事項説明と契約を行うという強行軍も多々ある。

このような背景から2017年10月より「賃貸借契約における借り主への重説」に限ってインターネットを活用したテレビ電話などによる重説、通称「IT重説」の運用が開始された。これで遠方からわざわざ不動産会社へ行かなくても、自宅などで重要事項説明を受けることができるようになったのだ。とはいえ、まだまだ一般的な方法とはなっていない。そこにはどのような課題があるのか。それらを探るため2019年10月から3ヶ月間(予定)、国土交通省と登録事業者(不動産事業者)による社会実験が実施される。その内容を解説しよう。

説明を受けた人の97.4%が取引士の説明内容を理解

実はIT重説が運用開始される前にも、2015年8月31日から2017年1月31日まで社会実験は行われていた。その概要は以下のようなものだ。

●対象とする取引
・賃貸取引:トラブルが発生した場合、売買より損害の程度が小さいと考えられるため
・法人間取引:トラブルの可能性が相対的に少ないと考えられるため

●活用するツール
テレビ会議やテレビ電話など、動画と音声を同時に、かつ双方向でやり取りできるシステムを利用。ただし、重要事項説明書(書面)は事前に宅地建物取引士が記名押印して送付する

●登録事業者
国土交通省のホームページ上で募集し、必要な審査をクリアした不動産事業者(当初246社、のちに303社)

登録事業者は303社だったが、実際にIT重説を行ったのは53社だった。その実施件数は1,071件。そのうち法人間売買取引はわずか2件だったため、十分な検証ができないことから法人間取引での運用開始は見送られている。

この社会実験では、IT重説を受けた人と宅地建物取引士の両方に対して実施状況やトラブルの発生状況などに関するアンケート調査を行った。その結果、説明を受けた人の97.4%が取引士の説明内容を「すべて理解できた」または「ほぼ理解できた」と回答している。また、IT重説実施後6ヶ月経過した時点でのアンケートで「入居後に重要事項説明の内容との齟齬」を聞いたところ、全員が「無し」と回答した。このような結果から、賃貸借契約における借り主へのIT重説が開始されることになったのだ。

IT重説のイメージ。インターネット接続ができる端末を利用して、契約者と宅地建物取引士の双方の顔が見える状況で重要事項説明を行う(出典:国土交通省資料)IT重説のイメージ。インターネット接続ができる端末を利用して、契約者と宅地建物取引士の双方の顔が見える状況で重要事項説明を行う(出典:国土交通省資料)

IT重説のおもなメリット

従来のIT重説で説明を受ける側のメリットとしては、以下のようなことがある。

・遠方への移動時間や費用の負担が軽減される
従来は転勤先や進学先へ物件探しに出向き、一度戻って検討、その後再度現地に行って重要事項説明を受けるというケースも珍しくなかった。それがIT重説によって移動時間や交通費などの負担が軽減される。

・日程調整が容易になる
IT重説は、パソコンやスマートフォン、タブレット端末などインターネットにつながる機器があれば、いつでもどこでも実施できる。そのため日程調整が容易になる。

・来店が困難な場合でも実施可能
病気や怪我などで契約者が来店できない場合でも、重要事項説明を行うことができる。

・契約者がリラックスした環境で実施できる
不動産取引に不慣れで、店舗での説明だと緊張して十分理解できない契約者もいる。そのような人でも自宅などリラックスできる場所で重説を受けることができる。

また、説明を行う側にとっても、重説の様子を録画することによるトラブル防止や、インフルエンザなど感染症の流行時にリスクを回避できるなど、IT重説によるメリットは多い。

今回は「重要事項説明書等の電子書面交付」が試される

だが、開始された重説のIT化は道半ばだ。たとえば、重要事項説明書(書面)の事前送付は依然として必要とされている。前回(2015年)の実験では、改ざんやなりすましなどの可能性から電子交付が見送られており、その安全性を確認できなかったからだ。しかし、運用開始後も特にトラブルが発生することはなく、また書面の電子交付の安全性を守る電子署名サービスのレベルも向上している。そこで2019年10月からの社会実験では、賃貸借契約における借り主への重説に限って「重要事項説明書等の電子書面交付」が試されることになった。

書面を交付する方法には次の2つがある。

1.電子メールで送信
実験登録事業者が電子署名サービス(有料)を利用して、ファイルの改ざん等を防止してからメールによって交付する方法。

2.サーバからのダウンロード
実験登録事業者がクラウド電子署名サービス(有料)を利用してファイルに改ざん防止措置を施し、説明を受ける側はそれをダウンロードして受け取る方法。

電子署名サービスを提供する事業者は下記国土交通省の資料などで確認できる。
http://www.mlit.go.jp/common/001299415.pdf

懸念点の対策も見えてくることに期待

この重要事項説明書等の電子書面交付によって次のようなことが期待されている。

・契約者はいつでもどこでも説明書を手軽に読むことができる。
紙の書類ではないので紛失のリスクが減り、普段持ち歩くスマートフォン等で読むことができるので、疑問点などをしっかり整理したうえで重説を受けることができる。

・紙の書類を送付する手間やコストの軽減
紙の書類の場合は印刷や送付に手間やコストがかかる。電子書面交付はそれらの軽減につながる。

このようにメリットの多いIT重説とその電子書面交付だが、懸念点も少なからずある。たとえば、パソコンやスマートフォンなどIT機器の操作が苦手な人や、所有していない人もいる。また、不動産事業者からは、自社のシステムと電子署名サービスが連動しないので手間が増える、という声もあるようだ。今回の実験では、これらの懸念点の対策も見えてくることに期待したい。

IT重説が一般化することによって、不動産取引の手続き方法がさらに容易になることに期待したいIT重説が一般化することによって、不動産取引の手続き方法がさらに容易になることに期待したい

2019年 09月12日 11時05分