年間1万4,000件前後もある「敷金が返ってこない」といったトラブル

全国消費生活情報ネットワーク・システムに寄せられた原状回復に関する相談件数の推移。「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が公表された2011年から2012年にかけて若干減少しているものの、その後は1万4000件前後で推移している(出典:国民生活センター)全国消費生活情報ネットワーク・システムに寄せられた原状回復に関する相談件数の推移。「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が公表された2011年から2012年にかけて若干減少しているものの、その後は1万4000件前後で推移している(出典:国民生活センター)

賃貸アパートやマンションを退去する際のトラブルが後を絶たない。国民生活センターと全国の消費生活センターをネットワークで結ぶ「全国消費生活情報ネットワーク・システム」のデータによると、このトラブルに関する相談件数は、2011年度から2012年度にかけて一旦減少したものの、その後は1万4,000件前後で推移している。
その内容の多くが、退去時の原状回復費用として高額な料金を請求され、敷金が返金されないといったものだ。具体例としては次のようなものがある。

・退去したアパートの修繕費の請求書が半年後に実家に届いた。退去時の立会いで「請求なし」といわれていたのに納得できない。

・2年半入居したアパートを、2か月前に退去したが敷金が返金されなかった。返還を求めているが管理会社は請求額を変えない。

・1か月前に借家を退去したときに大家から敷金が全額返金された。一昨日、大家がクリーニング代を請求してきたが支払う必要はあるのか。

このような背景から、国土交通省は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を公表している。
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf

これは原状回復にかかる契約関係や費用負担などのルールのあり方を明確にしたものだ。

同ガイドラインを参考に退去時のトラブルを回避する方法を考えてみよう。

民法の改正によって「敷金」と「原状回復」の定義が明確に

トラブルを回避するためには、まず敷金と原状回復の定義を明確にしておく必要があるだろう。

敷金とは、一般的に入居する際、家賃の1〜2カ月分を貸主に預けるものだ。家賃の滞納や部屋の修繕時に使用される。地域によって保証金と呼ぶこともあるが、内容は同じだ。
しかし、この内容を定める根拠は、今までどこにもなかった。そのため借主と貸主の認識の違いが生じ、トラブルにつながるという部分も多々あった。
そこで昨年(2015年)3月、120年ぶりの民法改正が閣議決定された。「貸主は賃貸借契約の終了時に借主へ敷金を返金しなければならない」という義務が初めて規定される予定だ。つまり「敷金は退去時に全額原状回復に利用するものだ」といった貸主の言い分は通用しなくなる。

また、原状回復に関しても同様で、今までどこからどこまでを回復の範囲にするのかを明確に定義するものがなかった。それが民法の改正によって、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損(以下「損耗等」を復旧すること」と定義される予定だ。つまり、畳や壁紙の黄ばみなど経年劣化による汚れなどは原状回復の範囲には入らない。

これらの定義は、そもそも前述のガイドラインにあったものだ。ガイドラインは法律ではないので、守る義務はなかった。しかし、今後は法律として全国統一の守るべきルールとなる。借主側としてはうれしい改正だ。なお、この改正の施行は、2018年までを目指している。

入居時および退去時にはチェックリストの作成を

部屋を故意に汚したり壊したりしていなければ敷金は返ってくる。しかし、どこまでが故意であるかの線引きがなければ、退去時に水掛け論になりかねない。そこで同ガイドラインでは、入居時および退去時に下図のようなチェックリストを作成し、各部位ごとに傷み具合の状況などを当事者同士の立ち会いのもとで確認することを勧めている。このようなリストの作成と同時に、証拠となる写真も撮っておきたい。
この雛形のような細かい内容のチェックリストの作成は、非常に手間がかかる。しかし、後々のトラブル回避には非常に有効な資料となるので、積極的に作成するべきだろう。

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の「入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト」(一部抜粋)。<br />浴室のタオル掛けやトイレのペーパーホルダーなど60以上のチェック項目がある「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の「入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト」(一部抜粋)。
浴室のタオル掛けやトイレのペーパーホルダーなど60以上のチェック項目がある

どちらが原状回復費を負担するかの目安となる修繕分担表

また、原状回復に関しても、どこまでが経年劣化かの線引きを当事者同士で共通認識とする必要がある。原状回復の費用は、入居時には発生しないものの、いずれ賃主、借主のどちらかが負担しなければならない。その条件によっては、入居するか否かの重要な判断材料となり得る。
そのため同ガイドラインでは、下図のような貸主・借主の修繕分担表などの作成を勧めている。こちらも「日照によるフローリングの色落ちは貸主の負担」、「貸主の不注意によって雨が吹き込んだことによるフローリングの色落ちは借主の負担」といったように非常に細かい内容だ。素人では作成が困難なので、ぜひこの雛形を活用したい。

前述のように民法はすぐには改正されない。それまでの間は、このガイドラインが借主の味方となってくれるだろう。

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の「賃貸人・賃借人の修繕分担表」(一部抜粋)。<br />かなり細かい内容なので、非常に参考になる「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の「賃貸人・賃借人の修繕分担表」(一部抜粋)。
かなり細かい内容なので、非常に参考になる

2016年 02月22日 11時06分