「IT重説」解禁の対象は賃貸取引

今までは、「対面」で行われていた重要事項説明今までは、「対面」で行われていた重要事項説明

2017年10月をめどに「IT重説」(ITを活用した重要事項説明)の本格運用がスタートすることになった。1971年の宅地建物取引業法改正以降、宅地建物取引主任者(現、宅地建物取引士)による「対面」での重要事項説明が義務とされてきたが、これからはオンラインシステムを用いた「非対面」での説明を認めるものだ。

ただし、今秋に解禁されるのは賃貸借契約における借主への重要事項説明に限られる。社会実験や検証の対象となっていた「法人間売買取引」での導入は見送られたほか、個人が契約当事者となる売買取引は今後の検討課題として残された。

IT重説が解禁されるからといってそれをやらなければならないわけではないが、IT重説を「できる」宅地建物取引業者と、「できない」宅地建物取引業者では、自ずと顧客からの評価にも差が生まれるだろう。他社との差別化を図るためにも、とくに小規模な宅地建物取引業者ほど積極的に取り組みたいものである。

また、これから部屋を借りようとする人も、大きく変わる重要事項説明のやり方について、おおまかな内容は知っておきたいところだ。そこで「IT重説」がどのようなものなのか、社会実験の結果や導入に向けた最近の動きを中心にみていくことにしたい。まずは、これまでの経緯を簡単に振り返っておこう。

2013年12月20日 「IT利活用の裾野拡大のための規制制度改革集中アクションプラン」策定
2014年4月24日 「ITを活用した重要事項説明等のあり方に係る検討会」開始(計6回)
2015年1月30日 「ITを活用した重要事項説明等のあり方に係る検討会」最終とりまとめ公表
2015年5月14日 IT重説社会実験ガイドライン公表
2015年7月31日 社会実験登録事業者の決定
2015年8月31日 社会実験を開始
2016年3月18日 「IT重説社会実験に関する検証検討会」開始
2016年5月25日 追加登録事業者の決定
2017年1月31日 社会実験を終了
2017年3月22日 「IT重説社会実験に関する検証検討会」とりまとめ公表

社会実験の結果は「支障なし」

IT重説の社会実験で使用されたロゴマークIT重説の社会実験で使用されたロゴマーク

2015年1月の「ITを活用した重要事項説明等のあり方に係る検討会」最終とりまとめにより、賃貸取引(個人・法人)および法人間売買取引を対象に社会実験をすることが決められた。準備期間を経て2015年8月31日から2017年1月31日まで1年5ケ月にわたり行われた社会実験には、実施主体として303社(当初246社、追加57社)の宅地建物取引業者が登録している。

だが、国土交通省が公表した資料によれば、社会実験期間中にIT重説を実際に行ったのは53社にとどまった。IT重説の実施件数は全体で1,071件にのぼったが、このうち1社が619件だったほか、件数の多い上位3社で全体の8割以上を占めている。IT重説を実施した宅地建物取引士は151人だったものの、最も多くIT重説を実施した宅地建物取引士は1人で114回になるなど、登録事業者の中でもかなり温度差のある結果となったようだ。また、1,071件のうち賃貸取引が1,069件を占め、法人間売買取引はわずか2件の実施にとどまった。

社会実験ではあまり裾野が広がらなかったものの、IT重説実施直後のアンケート調査では、宅地建物取引士の説明内容について「すべて理解できた」が52.4%、「ほぼ理解できた」が45.0%にのぼり、説明をめぐる問題やトラブルはほとんどなかったようである。IT重説を実施した宅地建物取引士へのアンケートでも、説明にあたり特段の支障はないことが示されている。

ちなみに、説明の相手方が利用した端末で最も多いのはスマートフォンの61.8%だったが、PCでなくても利用環境面での支障はとくに生じていないようだ。

以前に対面で重要事項説明を受けた経験がある人に対する設問では、「理解のしやすさは同程度」とする回答が60.2%にのぼったが、「対面のほうがわかりやすい」との回答も27.9%あった。説明をする宅地建物取引士が不慣れだったことも考えられるが、今後、本格運用するうえでの工夫や改善も必要だろう。

また、IT重説実施6ケ月後のアンケート調査でも、説明の相手方、登録事業者、貸主、管理会社とも、IT重説に係るトラブルや苦情は発生していないことが確認されている。その結果として「賃貸取引については、一定の条件の下であれば、ITを活用して重要事項の説明をしても支障がない」と結論づけられ、これを解禁して本格運用することが決められた。

「IT重説」解禁に向けてセミナーも盛況

社会実験の登録事業者は、実験期間終了後の2017年2月1日から10月に予定される解禁までの間、暫定措置として社会実験と同様の方式によるIT重説の実施が認められる。その一方で、登録事業者ではない宅地建物取引業者が解禁前にIT重説を行えば、業法違反になるため注意しなければならない。

IT重説の解禁、本格運用に向けて国土交通省は、遵守すべき事項、留意すべき事項、具体的な手順などをまとめた「IT重説実施マニュアル(仮称)」を作成することになっている。また、宅地建物取引業者などを対象にした説明会も開催される予定だ。

しかし、大半の宅地建物取引業者にとって「IT重説が解禁される」と聞いても、いったい何をどうすればよいのか分からない状況だろう。「テレビ会議システムなどを使ってオンラインで説明する」ということは何となく理解できても、そのような機器を使い慣れていなければ実行に移すまでのハードルも高く感じられる。

不動産業向けのIT支援をする民間会社はいくつかあるが、そのうち「株式会社いい生活」では今春から全国各地で「IT重説活用セミナー」を開催している。IT重説を積極的に考える宅地建物取引業者でいつも満員のようだが、某日、東京で開催されたセミナーを聴かせていただいた。

セミナーでは担当の鬼頭史到氏からIT重説のポイントや社会実験の実施状況などについてひととおりの説明があった後、実際に社会実験へ参加した宅地建物取引業者の事例紹介があった。登録事業者になってからしばらくはIT重説の実施に踏み切れなかったものの、いざやってみると思いのほかハードルは高くないことが分かったそうだ。とくに2件目以降のIT重説はスムーズに運用できたという。些細なミスも含めた失敗談も紹介され、セミナーの参加者にとって「同業者」の事例は大いに参考になっただろう。

お客様が来店せずに済むため都合のよい空き時間を使って重説ができること、キャンセルの防止にも役立つこと、交通費や移動時間などが節約できること、悪天候などでも交通遅延を心配しなくてもよいこと、録画機能によってエビデンスを残せることなどメリットも多いようだ。借主への評判もよく、IT重説の実施希望者も多いそうである。

また、法人向けのオフィス賃貸仲介では、相手先が社印を持ち出せないケースもあるため、訪問や来店を伴わないIT重説が大きなメリットになるようだ。

IT機器の取り扱いに慣れていない場合には、その操作に不安を感じるかもしれない。だが、セミナーで実演されたデモをみる限り、とくに難しい点はなさそうである。新しい重要事項説明の方法に対して、やらず嫌いで先延ばしにしたり、分からないままで従来の方法に固執したりすることなく、とにかく一度やってみることが大事なのだろう。

株式会社いい生活が実施した「IT重説活用セミナー」の様子。参加者はみな真剣に説明を聴いていた株式会社いい生活が実施した「IT重説活用セミナー」の様子。参加者はみな真剣に説明を聴いていた

重要事項説明書の事前交付で、借主の理解度が高まるメリットも

2013年に策定された「IT利活用の裾野拡大のための規制制度改革集中アクションプラン」では、契約に際して交付する書面の電磁的方法による交付の可能性についても検討するものとされていたが、今回の重要事項説明に関する措置では見送られた。

重要事項説明書などを「書面で交付すること」という宅地建物取引業法の原則は維持されるため、IT重説をする前に、宅地建物取引士が記名押印した重要事項説明書および添付書類を、説明を受けようとする相手方にあらかじめ送付することが求められている。実際に運用するうえでは、重要事項説明書と同時に契約書を送り、説明終了後に借主が署名・押印して返送するパターンが多くなるだろう。

IT重説を受けた人に対するアンケート調査では、事前に重要事項説明書をすべて読んだ人が54.6%にのぼり、一部だけ読んだ人を合わせれば全体の86.8%が事前に重要事項説明書に目を通している。これまでは、借主が来店していきなり重要事項説明を行い、そのまま即契約というケースも多かっただろうが、IT重説の手続きにより契約前に借主が理解を深めることのできるメリットもありそうだ。

事前の同意書取得、録画・録音の要否など本格運用時の詳細は今後、国土交通省の「IT重説実施マニュアル」などによって明らかにされるだろうが、いずれにしても説明の途中で機器の故障や動作不良、あるいは説明の相手から「宅地建物取引士証がよく見えない」などの事象があればIT重説を中断または中止しなければならない。

また、IT重説に使うテレビ会議システムやSkypeなどのツールは、説明を受ける者が宅地建物取引業者側の環境に合わせなければならないが、アプリのインストールや指定されたURLへのアクセスだけで済むことが多く、顧客側の大きな負担にはならないだろう。

いずれは「全面解禁」が時代の流れ

前述したとおり、社会実験が実施された1,071件のうち賃貸取引が1,069件を占め、法人間売買取引はわずか2件である。しかも、この2件はいずれも売主・買主の双方が宅地建物取引業者であり、2017年4月に施行された改正宅地建物取引業法によって重要事項説明が不要となった「業者間取引」である。したがって、実質的には社会実験の成果がゼロであり、法人間売買取引については本格運用への移行の可否を判断できないとされた。

そのため、法人間売買取引については社会実験を継続実施するものとされ、2017年5月31日に改めて参加事業者の登録申請受付が始まったところである。この社会実験は2017年8月頃に始まる予定だ。また、契約当事者に個人を含む売買取引については、賃貸取引の本格運用の実施状況、法人間売買取引の社会実験の検証結果を踏まえ改めて検討することとされており、こちらの社会実験が行われるのは数年後になりそうだ。

今回のIT重説解禁の流れは、経済界からのいわば「外圧」によって推し進められた側面も大きい。ただし、当初は全面的な規制撤廃が求められていたのに対して不動産業界内の反発などもあり、とりあえずは賃貸取引と法人間売買に限りIT重説を解禁する方向で準備が進められたのである。不動産業界内の温度差も大きく、10月に本格運用が始まってもあまり関心を示さない宅地建物取引業者も少なからずあるだろう。

だが、不動産に限らずあらゆる場面でIT化を避けることはできないのが時代の流れだ。10年後、20年後を考えれば、売買取引についても重説だけでなく契約や決済、司法書士への登記申請依頼などもオンラインによる電子署名での手続きが可能になるだろう。物件紹介や現地見学(内見)についても、ITやAI(人工知能)、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)などの技術進歩や汎用化により、現在とは大きく異なるシステムが主流になるはずだ。

そのような時代に向けた次の改革ステップは、ぜひとも不動産業界内部から率先して推し進めていって欲しいものである。

2017年 07月03日 11時03分